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第8章―吹雪の中の追跡―
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しおりを挟む「俺が思うにお前が疑問視しても今さら何もかわらねーよ。第一あいつが囚人に渡した紙に書かれていた文字は、100%あいつの文字だった。それにオーチスが囚人に脱獄の話を持ちかけていた所をチェスターが目撃してる」
「チェスターだと?」
「ああ、そうだ。何だよ、おまえ知らねーのか?」
「ケイバー、誰だそいつ?」
「半年前ここに入って来た若い看守だよ。ついでに、へっぴり腰で気弱な顔している奴だ。いつもオドオドしていてオマケに冴えないツラしてるから、他の看守の奴らにたまにだけどイジメられてるんだよ。クロビスは、あーいった奴は嫌いだからな。そのうち目つけられるかも」
ケイバーは彼にそう話すと、後ろで可笑しそうにケラケラしながら笑った。
「まあ、ここに入って来たのが間違いだったかもな」
「へぇー、そうかい。つまり今回の出所はチェスターってことか……?」
「ああ、あいつがクロビスに話したんだよ。オーチスが囚人と脱獄の話をしてたことをクロビスに話したら、奴の逆鱗にまんまと触れたけどな。オマケにヤツにビビった挙げ句に目の前で漏らしやがった。そんで死にたくと喚いて無様な姿をさらしてたぜ?」
ケイバーはそう話すと、再び思い出し笑いをした。ハルバートは、その話に黙って沈黙した。
「まあ、チェスター以外にもジュノーも目撃してるんだ。動かぬ証拠がいくつもあるのに、いまさらそれを覆すことは無理だろうけど?」
「なるほど、そうか…――」
「ああ、それに今さら手遅れだろ。今ごろ奴は……」
不意にその事を話すと、彼は反応した。
「今頃なんだよ?」
「いや、べつに……」
ケイバーは急に口を閉ざすと、白々しい態度をとって惚けた。
「チッ、いきなり黙りかよ! いつもはおしゃべりの癖に都合が悪いと黙り込む癖やめろ!」
ハルバートは不機嫌な顔で彼にそう話した。吹雪は弱まることはなく、さらに強く吹き荒れた。彼らは視界が悪い中で懸命に捜索を続けた。
「ハルバート隊長ーっ!」
「なんだニコラス!?」
「ヴァンレーテの森を抜ければ、もうすぐダモクレスの岬につきます!」
「おおっ、そうか! よし、じゃあお前とダニエルは東の方角を頼む! お前とユングは西の方角を頼んだ!」
ハルバートは直ぐ様、部下達に指示を出した。彼らは上空で右翼と左翼に広がると両翼を前方に張り出したV字の陣形をとった。そして、吹雪の中で大きな声を上げた。
「このまま鶴翼の陣形を維持しろ! ダモクレスの岬まであと少しだ! 逃げたのは一人だがお前達、気を抜かずに捜索にあたれ! どんな小さなものでも見落とさずに見つけ出せ、わかったな!」
「了解っ!」
部下達はハルバートの命令に一斉に返事をすると吹雪の中、目を凝らして捜索し続けた。彼は自分の竜に話しかけると、右足で軽く蹴って合図を送った。竜は上空から少し低空飛行すると、地上を見下ろしながら捜索をした。
「さてと……ダモクレスの岬には、一体何があるんだ? 鬼が出るか蛇が出るか楽しみだぜ」
彼は不意に呟くと、ニヤリと口元が笑った。
「楽しそうだなハルバート」
「ああ、そうだとも。でなきゃ、こんな事してらんねーぜ。それにだ。ちょっとばっかし、個人的に興味があるんだ」
「興味?」
「ああ。オーチスがなんで囚人を逃がしたのか、俺にはサッパリわからなねぇ。だから囚人を捕まえて、逃がした理由が知りたいんだ」
彼はそう話すと瞳の奥を怪しく光らせた。その言葉にケイバーは、呆れた表情で言い返した。
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