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第2章―温かい手のひら―
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しおりを挟む「きみ、ケガはなかったか……?」
「あっ……」
「どうした?」
私は突然、抱きしめられた彼の腕の中で恐怖に怯えた。そして、持っていた林檎を再び地面に落とすと、彼はそれを拾って私に話しかけた。
「……この林檎を?」
「……」
「やめなさい。こんな物を食べたら、お腹を壊すだろ」
「で、でも……」
「食べないと死んじゃうの……! お腹が空いて我慢できないの……! お願い、持ってる林檎を私にちょうだい…――!」
すがる目で彼に頼み込んだ。もうそこには本来の人間らしさなんてなかった。もう生きることに精一杯で、私は空腹に耐えきれずにいた。すると彼は林檎をどこかに投げ捨てた。
「……いけない。それをしてしまったら、きみは人ではなくなってしまうよ。私が代わりに新しい林檎を買ってあげよう」
「…っ…ひっく…うっうっ………」
「きみはどうして裸足なんだ? その片足の靴はどうした? 両親はどうしたんだい?」
「うっ…うっ…ぐすっ……」
私はその人の腕の中で泣いてしまった。優しい声で話しかけてくるその声に心が震えると瞳から涙が溢れて止まらなかった。
「いないの! 私一人ぼっちなの……! 私にはお父さんもお母さんもいないの! 私ずっと一人ぼっちなの! もう一人ぼっちは嫌っ!!」
「お願い、誰でもいいから私を愛して…――! 私を一人にしないで、置いていかないで! 良い子にするから捨てないでぇっ!!」
今まで溜まっていた気持ちが一気に爆発すると感情を剥き出したまま、見知らぬ人の前で泣いてすがった。 そこに救いを求めるかのように私はその人の腕の中で大声を出して泣いた。すると、彼は何も言わずに私の頭を優しく撫でて抱き締めてくれた。その暖かい腕の中で私は涙を流した。
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