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22話
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しばらくして報じられたオメガ園の人身売買のニュースは世の中に大きな衝撃を与えた。
公開されたリストにあったのはあまりに影響力の強い著名人ばかりだった事もあり捜査は難航したと聞く。けれど桜宮は自身の持つすべての権力を使いもみ消されないよう細心の注意を払って証拠を固め事を運んだ。
及び腰になる大手テレビ局にさっさと見切りを付けてフリーのジャーナリストと手を組みネットニュースで全貌を暴いていく。どれだけ妨害の手が強くとも世論を黙らせる事は出来ない。浩太の持っていたリストの力もありそのうち少しずつ該当者が自白を始めその自宅からは買われたオメガの子供達が助け出された。
「仁さん本当にすごい!お疲れ様!」
騒ぎから数ヶ月が経ち落ち着いたタイミングで健斗が遊びに来た。
そう言われて桜宮は「自分に出来る事をしただけだ」と笑う。
「はーかっこいい。俺もそんな事言いたい」
海がそう言うと健斗がやきもち?と彼を揶揄う。
様々を乗り越えて二人はようやく付き合い出した。今回の事で健斗の中にあったアルファ信仰は消え失せたらしい。
「ところで三葉たちはどうなの?そろそろ番になる頃じゃないの?」
突然お鉢を回された三葉は飲んでいた紅茶に咽せて咳き込んだ。その背中をさすって桜宮が幸せそうに微笑む。
「急いでないんだ。時間はまだ沢山あるから」
「この前手を繋いでデートしたんですよね」
「そうだな。ドキドキしたな」
顔を見合わせて笑い合う二人に健斗と海も幸せのお裾分けを貰った気持ちになった。
「ところであの後浩太からの連絡はないの?」
健斗の言葉にそうだったと三葉は思い出す。
「聞いてもらおもうと思ってたんだ。浩太には会ってないけどこの前理佐がここに尋ねて来たよ」
「え?理佐が?なんで?」
「それがさ・・」
事は半月前に遡る。
休日の昼下がり。
最近外出が多かった三葉と桜宮は、たまにはのんびり映画でも見ようと何がいいか相談していた。
桜宮はヒューマンドラマやノンフィクションを好み三葉はミステリーやアクションものに造詣が深い。それではとお互いが一番おすすめの作品を順に見ようとテレビをつけたその時だ。
インターフォンからコンシェルジュの控えめな呼びかけが聞こえた。
「俺出ます」
完全にこちらに越してきてマンションのコンシェルジュとも顔馴染みになってる三葉が対応に立ち上がる。
「何かありましたか?」
「申し訳ございません桜宮様。こちらの女性が桜宮様とお約束してると仰せですがお部屋番号もご存知無かったので念の為・・」
「女性?」
誰だ?と思った瞬間、画面のコンシェルジュを押し除けて理佐が顔を見せた。
「三葉!こんなとこに隠れて何してんのよ!用事があんのよさっさと開けなさい!」
すごい剣幕で喚き立てコンシェルジュが「通報が必要なら」と言いかけたのを怒鳴りつけている。
え?今頃何の用・・。
ここの場所誰に聞いたの・・。
困惑する三葉に桜宮は「迷惑だから取り敢えず上がってもらったら?」と言うのでその旨をコンシェルジュに伝えた。その途端「だから客だって言ったでしょ!」とコンシェルジュに悪態をついて画面から消えていく。
程なくして厄災をもたらす予感しかしない相手が乱暴にドアを叩いた。
「玄関開けて待ってなさいよ!気が利かないわね」
そう言いながら薄汚れたハイヒールを散らかして部屋にズカズカと入ってくる。そのだらしない靴の脱ぎ方に以前浩太と暮らしていた部屋を思い出した。
だが久しぶりに見る理佐はやつれ果てて当時の若々しい美しさは何一つ残っていない。
「で?何のよう?」
「いやあんたなんでこんな立派なとこに住んでんの・・外から見た時もおかしいと思ったけどなんなの」
廊下を抜け30畳あるリビングに辿り着いた理佐の声は微かに震えている。
「どうでもいいだろ。さっさと用件言って帰れよ」
「そんな態度とっていいの?」
今し方震えていた事など忘れたかのように理佐は突然尊大な態度で100万は優に超えるイタリア製のソファにどかりと腰を下ろした。
桜宮の姿が見えないがあまりの喧しさに自室に引っ込んだのかもしれない。迷惑をかけたくないのでさっさと追い払おうと三葉は心に決める。
「喜びなさいよ。あんたに浩太の面倒を見させてあげるわ」
「・・は?」
意味が分からない。
「でも本妻は私だから。ヒートの時は返してもらうわ。それ以外は一緒に暮らしていいわよ。あんただってヒートの時はつらい思いしてるんでしょ。だから貸してあげる」
「・・浩太はどうしてんの?」
三葉がそう問いかけると理佐は忌々しそうに舌打ちした。
「あいつヤバい事して勝手に大怪我して帰って来て今は車椅子よ。脊椎損傷でもう歩けないんだからほんと嫌になる。番じゃ無かったらさっさと捨ててやんのに腹立つ」
浩太はこんなとこでも罰を受けてるんだな。
黙ったままの三葉に焦れて理佐が言葉を重ねた。
「あんたに会いたいって毎日うるさいの。よかったわね。いつから一緒に暮らす?早く自分の家に戻ってよ。すぐ連れて行くから」
理佐の勢いに何から話そうか迷っていると背後のドアが開く気配がした。
「その話は了承しかねるな」
桜宮はそう言うと理佐の向かいの椅子に長い足を組んで座る。先ほどまでゆったりした部屋着だったのに上から下までかっちりと装って普段三葉の前ではほとんど見せないアルファのオーラを放っている。その姿に三葉まで圧倒され見惚れた。
「あっだ・・誰?」
理佐も頬を染め魂を奪われたように口をパクパクさせる。
「三葉。ここにおいで」
桜宮が三葉に向かって手を差し伸べた。
抗えるわけがない。
その手に自身の右手を添えた途端、グッと引かれて膝の上に横坐りする形になった。
「見ての通り三葉は今私の恋人だよ。近いうちに番になり正式に結婚して桜宮財閥の跡取りを産んでくれる大切な人だ」
「さっ桜宮財閥?!三葉が?!だってこいつはもう番がいるのに!」
「ご心配なく。番契約ならとっくに解除してある」
「そんなの嘘に決まってる!」
「嘘かどうか私の膝にいる三葉を見ればわかるだろ」
そう言うと桜宮は三葉の顎を掬いそっと頬に口付けた。恥ずかしさに三葉の首筋は赤く染まった。
しばらく何事か考えていた理佐はふと表情を緩め桜宮に話しかけた。
「桜宮さんごめんなさい。私も切羽詰まってこんな事を・・。実は三葉さんの前の番に無理やり首を噛まれて番にされてしまったの。もし解除出来るなら私のことも助けて欲しい」
上目遣いで唇を舐めながらのセリフは以前の理佐なら有効だったかもしれない。いや、どちらにしても桜宮には利かないだろうが。
「貴方にそんな事をする義理も得も無いのですが」
「あっ、じゃあ解除してくれたら私が番になってあげる!」
眉間に皺を寄せ黙る桜宮に交渉の余地ありと思ったのか理佐は滔々と話し続ける。
「三葉なんて所詮男オメガなんだしそれなら女性の方が妊娠も簡単でしょ。私が正式な妻になって三葉を愛人として囲えばいいのよ」
そう言うなり理佐は桜宮ににじり寄り髪に触れようと手を伸ばした。すかさずそれを桜宮が弾き落とす。
「あ・・」
「悪かったね。虫は苦手なんだ」
「虫?!」
「鏡で自分を見てごらん」
「いっ今は生活が大変でおしゃれも出来なくて・・。でも!」
「それは関係ない。どんなに着飾っても卑しい性根は顔に出るからね。それよりさっさと帰ってくれないか?二度と会う事はない。君の番にもそう言っておいてくれ」
「待って!付き合ったら絶対私を好きになるから!少しでいいから試して・・」
必死に縋ろうとする理佐をどこから現れたのかボディガードが引き摺るように部屋から連れ出す。最後まで抵抗していた理佐は大声で三葉を罵倒しながら消えていった。
一瞬で部屋が静寂に包まれる。
桜宮の膝にいた三葉は慌てて降りようとしたところを後ろから抱き込まれた。
「あー緊張した」
「えっ?!」
「えってなに」
「だってtheアルファ!って感じで板についてましたよ!」
「何でだよ。仕事でもないのにこんな態度取ったの初めてだよ」
確かに桜宮は誰に対しても気さくだ。
それにしても・・
「アルファでも緊張するんですね」
「そりゃそうだろ。人間だし」
「でも・・」
「ん?」
「かっこよかったです」
「・・・!!」
三葉が小声で囁くなり桜宮は顔を覆って意味不明な唸り声を出した。体調が悪くなったのかと三葉は慌てて声をかけるも平気だと呻く
。結局今もって理由は不明のままだ。
「そんなことがあったのか。でも結局イチャイチャしたって話だよね」
「どうしてそうなる?」
健斗の解釈に釈然としない三葉はそう聞くが緩い苦笑いで誤魔化されてしまった。
「それから理佐は来てないの?」
「そうなんだ。もう二度と話したくないからありがたいけど」
健斗がふっと桜宮を見遣る。
不自然に逸らされた視線を見るに何らかの対応がなされた事は間違いない。
「必死か」
独り言のように呟く健斗だが彼もまた家族の幸せが何より嬉しいのだから文句はない。
この初々しい二人はきっとこのままめでたしめでたしのその先まで一途に思い合い添い遂げるのだろう。
自分も負けてはいられない。
健斗は海の腕を掴んで立ち上がった。
「僕たちもこれからデートだから帰るよ」
「うん、また来てね」
二人を見送りがてら外食をしようと桜宮が言うのでそのまま外に出る。空には夕焼け雲が美しく浮かんでいた。
「手繋いでいいか?」
「はい」
まだ慣れず遠慮がちに指を絡める桜宮の手を三葉がぎゅっと握る。
「恋人繋ぎです!」
「恋人繋ぎ?」
「はい」
三葉はうっすら赤くなった桜宮の耳が夕焼けみたいだなと思いその空の色までも愛しく思える事に心から感謝した。
本編完
ーーーーーーーーー
ご覧いただきありがとうございます
次は二人の結婚に向けた番外編です
オメガ園や黒幕の話やら浩太やら諸々のその後の話も。
公開されたリストにあったのはあまりに影響力の強い著名人ばかりだった事もあり捜査は難航したと聞く。けれど桜宮は自身の持つすべての権力を使いもみ消されないよう細心の注意を払って証拠を固め事を運んだ。
及び腰になる大手テレビ局にさっさと見切りを付けてフリーのジャーナリストと手を組みネットニュースで全貌を暴いていく。どれだけ妨害の手が強くとも世論を黙らせる事は出来ない。浩太の持っていたリストの力もありそのうち少しずつ該当者が自白を始めその自宅からは買われたオメガの子供達が助け出された。
「仁さん本当にすごい!お疲れ様!」
騒ぎから数ヶ月が経ち落ち着いたタイミングで健斗が遊びに来た。
そう言われて桜宮は「自分に出来る事をしただけだ」と笑う。
「はーかっこいい。俺もそんな事言いたい」
海がそう言うと健斗がやきもち?と彼を揶揄う。
様々を乗り越えて二人はようやく付き合い出した。今回の事で健斗の中にあったアルファ信仰は消え失せたらしい。
「ところで三葉たちはどうなの?そろそろ番になる頃じゃないの?」
突然お鉢を回された三葉は飲んでいた紅茶に咽せて咳き込んだ。その背中をさすって桜宮が幸せそうに微笑む。
「急いでないんだ。時間はまだ沢山あるから」
「この前手を繋いでデートしたんですよね」
「そうだな。ドキドキしたな」
顔を見合わせて笑い合う二人に健斗と海も幸せのお裾分けを貰った気持ちになった。
「ところであの後浩太からの連絡はないの?」
健斗の言葉にそうだったと三葉は思い出す。
「聞いてもらおもうと思ってたんだ。浩太には会ってないけどこの前理佐がここに尋ねて来たよ」
「え?理佐が?なんで?」
「それがさ・・」
事は半月前に遡る。
休日の昼下がり。
最近外出が多かった三葉と桜宮は、たまにはのんびり映画でも見ようと何がいいか相談していた。
桜宮はヒューマンドラマやノンフィクションを好み三葉はミステリーやアクションものに造詣が深い。それではとお互いが一番おすすめの作品を順に見ようとテレビをつけたその時だ。
インターフォンからコンシェルジュの控えめな呼びかけが聞こえた。
「俺出ます」
完全にこちらに越してきてマンションのコンシェルジュとも顔馴染みになってる三葉が対応に立ち上がる。
「何かありましたか?」
「申し訳ございません桜宮様。こちらの女性が桜宮様とお約束してると仰せですがお部屋番号もご存知無かったので念の為・・」
「女性?」
誰だ?と思った瞬間、画面のコンシェルジュを押し除けて理佐が顔を見せた。
「三葉!こんなとこに隠れて何してんのよ!用事があんのよさっさと開けなさい!」
すごい剣幕で喚き立てコンシェルジュが「通報が必要なら」と言いかけたのを怒鳴りつけている。
え?今頃何の用・・。
ここの場所誰に聞いたの・・。
困惑する三葉に桜宮は「迷惑だから取り敢えず上がってもらったら?」と言うのでその旨をコンシェルジュに伝えた。その途端「だから客だって言ったでしょ!」とコンシェルジュに悪態をついて画面から消えていく。
程なくして厄災をもたらす予感しかしない相手が乱暴にドアを叩いた。
「玄関開けて待ってなさいよ!気が利かないわね」
そう言いながら薄汚れたハイヒールを散らかして部屋にズカズカと入ってくる。そのだらしない靴の脱ぎ方に以前浩太と暮らしていた部屋を思い出した。
だが久しぶりに見る理佐はやつれ果てて当時の若々しい美しさは何一つ残っていない。
「で?何のよう?」
「いやあんたなんでこんな立派なとこに住んでんの・・外から見た時もおかしいと思ったけどなんなの」
廊下を抜け30畳あるリビングに辿り着いた理佐の声は微かに震えている。
「どうでもいいだろ。さっさと用件言って帰れよ」
「そんな態度とっていいの?」
今し方震えていた事など忘れたかのように理佐は突然尊大な態度で100万は優に超えるイタリア製のソファにどかりと腰を下ろした。
桜宮の姿が見えないがあまりの喧しさに自室に引っ込んだのかもしれない。迷惑をかけたくないのでさっさと追い払おうと三葉は心に決める。
「喜びなさいよ。あんたに浩太の面倒を見させてあげるわ」
「・・は?」
意味が分からない。
「でも本妻は私だから。ヒートの時は返してもらうわ。それ以外は一緒に暮らしていいわよ。あんただってヒートの時はつらい思いしてるんでしょ。だから貸してあげる」
「・・浩太はどうしてんの?」
三葉がそう問いかけると理佐は忌々しそうに舌打ちした。
「あいつヤバい事して勝手に大怪我して帰って来て今は車椅子よ。脊椎損傷でもう歩けないんだからほんと嫌になる。番じゃ無かったらさっさと捨ててやんのに腹立つ」
浩太はこんなとこでも罰を受けてるんだな。
黙ったままの三葉に焦れて理佐が言葉を重ねた。
「あんたに会いたいって毎日うるさいの。よかったわね。いつから一緒に暮らす?早く自分の家に戻ってよ。すぐ連れて行くから」
理佐の勢いに何から話そうか迷っていると背後のドアが開く気配がした。
「その話は了承しかねるな」
桜宮はそう言うと理佐の向かいの椅子に長い足を組んで座る。先ほどまでゆったりした部屋着だったのに上から下までかっちりと装って普段三葉の前ではほとんど見せないアルファのオーラを放っている。その姿に三葉まで圧倒され見惚れた。
「あっだ・・誰?」
理佐も頬を染め魂を奪われたように口をパクパクさせる。
「三葉。ここにおいで」
桜宮が三葉に向かって手を差し伸べた。
抗えるわけがない。
その手に自身の右手を添えた途端、グッと引かれて膝の上に横坐りする形になった。
「見ての通り三葉は今私の恋人だよ。近いうちに番になり正式に結婚して桜宮財閥の跡取りを産んでくれる大切な人だ」
「さっ桜宮財閥?!三葉が?!だってこいつはもう番がいるのに!」
「ご心配なく。番契約ならとっくに解除してある」
「そんなの嘘に決まってる!」
「嘘かどうか私の膝にいる三葉を見ればわかるだろ」
そう言うと桜宮は三葉の顎を掬いそっと頬に口付けた。恥ずかしさに三葉の首筋は赤く染まった。
しばらく何事か考えていた理佐はふと表情を緩め桜宮に話しかけた。
「桜宮さんごめんなさい。私も切羽詰まってこんな事を・・。実は三葉さんの前の番に無理やり首を噛まれて番にされてしまったの。もし解除出来るなら私のことも助けて欲しい」
上目遣いで唇を舐めながらのセリフは以前の理佐なら有効だったかもしれない。いや、どちらにしても桜宮には利かないだろうが。
「貴方にそんな事をする義理も得も無いのですが」
「あっ、じゃあ解除してくれたら私が番になってあげる!」
眉間に皺を寄せ黙る桜宮に交渉の余地ありと思ったのか理佐は滔々と話し続ける。
「三葉なんて所詮男オメガなんだしそれなら女性の方が妊娠も簡単でしょ。私が正式な妻になって三葉を愛人として囲えばいいのよ」
そう言うなり理佐は桜宮ににじり寄り髪に触れようと手を伸ばした。すかさずそれを桜宮が弾き落とす。
「あ・・」
「悪かったね。虫は苦手なんだ」
「虫?!」
「鏡で自分を見てごらん」
「いっ今は生活が大変でおしゃれも出来なくて・・。でも!」
「それは関係ない。どんなに着飾っても卑しい性根は顔に出るからね。それよりさっさと帰ってくれないか?二度と会う事はない。君の番にもそう言っておいてくれ」
「待って!付き合ったら絶対私を好きになるから!少しでいいから試して・・」
必死に縋ろうとする理佐をどこから現れたのかボディガードが引き摺るように部屋から連れ出す。最後まで抵抗していた理佐は大声で三葉を罵倒しながら消えていった。
一瞬で部屋が静寂に包まれる。
桜宮の膝にいた三葉は慌てて降りようとしたところを後ろから抱き込まれた。
「あー緊張した」
「えっ?!」
「えってなに」
「だってtheアルファ!って感じで板についてましたよ!」
「何でだよ。仕事でもないのにこんな態度取ったの初めてだよ」
確かに桜宮は誰に対しても気さくだ。
それにしても・・
「アルファでも緊張するんですね」
「そりゃそうだろ。人間だし」
「でも・・」
「ん?」
「かっこよかったです」
「・・・!!」
三葉が小声で囁くなり桜宮は顔を覆って意味不明な唸り声を出した。体調が悪くなったのかと三葉は慌てて声をかけるも平気だと呻く
。結局今もって理由は不明のままだ。
「そんなことがあったのか。でも結局イチャイチャしたって話だよね」
「どうしてそうなる?」
健斗の解釈に釈然としない三葉はそう聞くが緩い苦笑いで誤魔化されてしまった。
「それから理佐は来てないの?」
「そうなんだ。もう二度と話したくないからありがたいけど」
健斗がふっと桜宮を見遣る。
不自然に逸らされた視線を見るに何らかの対応がなされた事は間違いない。
「必死か」
独り言のように呟く健斗だが彼もまた家族の幸せが何より嬉しいのだから文句はない。
この初々しい二人はきっとこのままめでたしめでたしのその先まで一途に思い合い添い遂げるのだろう。
自分も負けてはいられない。
健斗は海の腕を掴んで立ち上がった。
「僕たちもこれからデートだから帰るよ」
「うん、また来てね」
二人を見送りがてら外食をしようと桜宮が言うのでそのまま外に出る。空には夕焼け雲が美しく浮かんでいた。
「手繋いでいいか?」
「はい」
まだ慣れず遠慮がちに指を絡める桜宮の手を三葉がぎゅっと握る。
「恋人繋ぎです!」
「恋人繋ぎ?」
「はい」
三葉はうっすら赤くなった桜宮の耳が夕焼けみたいだなと思いその空の色までも愛しく思える事に心から感謝した。
本編完
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ご覧いただきありがとうございます
次は二人の結婚に向けた番外編です
オメガ園や黒幕の話やら浩太やら諸々のその後の話も。
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