運命の番と別れる方法

ivy

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8話

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オーナーや店長の優しさに暖かい気持ちで帰り着いた家には思った通り浩太は居なくて三葉は少しホッとしながら寝支度を整えた。

浩太のことを好きかと言われるともう気持ちはないように思う。
それでも付き合い始めた時はそれなりに優しかったし愛されてると思っていた。
それを思い出すと切ない気持ちになるのは仕方ない。
けれど人は変わる。
浩太も、そして三葉も。
このまま浩太と別れるのが一番いいと思うがそれにはヒート期に入院する為のお金が必要だ。

大学を辞めて働くことも考えたが大学は出た方がいいと返済金の少ない奨学金を借りる為に方々に手を回して保証人になってくれた園長の事を考えると頑張らなければと思う。

番契約さえ解消出来れば・・・。

そう考えていた時、携帯に伊織から着信があった。

「ごめんね、遅い時間に」
「いえ、大丈夫です。何かありました?」
「番解消の薬の件なんだけど、少し見込みのありそうな組み合わせが見つかったんだ。もし良ければ二人のデータが欲しいんだけど近々こっちに来られる?」
「二人?俺と浩太ですか?」
「そう。実際に臨床実験が可能が遺伝子検査したいんだ」

それは何よりの吉報だ。
ただ、一つ問題がある。

「まだ浩太には番の解消に承諾を貰ってないんです」
「そっか。反対する可能性もあるんだよな」
「新しい恋人もいるし大丈夫かなとは思うんですが・・すいません伊織さん。浩太を説得するんで少し時間を貰えますか?」
「わかった。来られそうになったら連絡してくれる?」
「はい」

「あ、それとねもう一件。オメガ園の事なんだけど」
またオメガ園?
「たまに行くって言ってたからちょっと気になって。この間オメガ園から大量の精神安定剤の発注があったんだ。しかもかなり強力な奴。何に使うか言わないから断ったんだけど最近いい噂聞かないから三葉くんも気を付けて」
「ありがとうございます」

三葉は電話を切って考えこむ。
オメガ園で何が起こってるんだろう。
今の話をオーナーにも伝えておいた方がいいかもしれない。そう思い名刺を取りに立ち上がった時、玄関が開いて浩太が顔を出した。

「浩太?どうしたの?」
「どうしたも何もうちに帰ってきちゃいけねーのかよ」

どかっとソファに体を投げ出した浩太は疲れているようで悪態にも覇気がない。

だが折角会えたのだ。番解消の話をするのは今しかない。浩太にとっても心置きなく理佐と付き合えるんだから悪い話じゃないだろう。

「浩太、話があるんだけど」
「なんだよ」

胡乱な目で見上げられると先日受けた暴力を思い出し少し怖くなる。体格的に劣るだけではなく精神的にもΩにとってαは絶対の存在だ。番であれば尚更逆らうことも難しい。

「その、番解消の件なんだけど」
「あ?」
「番の解消を研究してる人がいて治験をしないかって。俺たちこのままいてもいい事ないし、もう解消したいと思ってるんだけど。どうかな?」
暴れませんようにとビクビクしながらそう伝えると突然腕を引かれ三葉は浩太に向かい合わせで抱きつく形に膝に乗せられた。

「寂しかったのか?」
「え?」
「そんな信憑性の無い話持ち出してまで気を引こうとしてんの?」
「何言って・・」
「理佐に妬いた?馬鹿だな。お前は俺の運命の番だぞ。離れられるわけないだろ」
「いや、でも・・」

それ以上言えないようにキスで口を塞がれる。
流石に嫌悪は感じないが以前のようなときめきも喜びもない。
抗うように身を捩る態度が気に入らないのか浩太はますます強く三葉を抱きしめた。

「この前は殴ったりして悪かったよ。お前が他の男と仲良くしてるの見てカッとしたんだ。もう二度と浮気しないし暴力も振るわない。お前だけだ」

何かあったんだろうか。
浩太のそんな言葉に嬉しさより訝しさが湧き上がる時点で自分はもう彼に気持ちはないのだと自覚させられる。
そしてそんな睦言よりも番を解消出来そうにない状況に肩を落とした。

「三葉・・」
「んっ!」

シャツの裾から差し込まれた手に乳首を嬲られ驚いて声が出る。それを喘ぎ声と受け取ったのかキスは更に深くなり浩太を跨ぐ形で大きく開かれた丸く柔らかい尻を揉みしだかれた。

浩太の言葉を信じてはいない。まだ体も治り切っていない状態で抱かれるのも正直避けたい。
けれど正式な番である浩太に求められて拒否する事は三葉には出来ないのだ。

出会った頃に戻ったように優しく三葉をソファに押し倒す浩太。どうせならこの前のヒートの時に抱いて欲しかったと恨み言を言いたい気持ちをグッと堪えて三葉は浩太の赤茶けて傷んだ髪に指を絡めた。







翌日、早速店長を通じてオーナーに連絡を取り伊織から聞いた精神安定剤の話を伝えたところ、詳しく聞きたいと言われ閉店後に会うことになった。伊織に連絡を取ると来てくれると言うのでより詳しい話が聞けそうだ。

「久しぶりだなあ!ここのコーヒーが恋しかったんだ。あ、初めましてサイエンスラボの九条伊織です」

相変わらずほんわりとした空気感で登場した伊織に和んだのは三葉だけではなかったようで初めましてと言う桜宮も少し素で微笑んで名刺を差し出している。

「あっ?!え?!桜宮さん?あのオメガ園の創始者の?!」
「表には出していないのによくご存知ですね。設立はうちの祖父です」
「うちのラボはメインの顧客がオメガ園ですから。そうでしたか。それなら余計に今回の件は心配ですね」
「そうなんです。今日は少しその話もしたくて。お呼び立てしてすみません」

そうだったのか・・。
だからオーナーはこんなに俺たちの事を考えてくれるんだ。
三葉はこんなαの一族がいる事に心から感謝した。

挨拶を終えた三人は店長が用意してくれた食事を取りながらそれぞれが知っている限りの現状を話す。
やはり内部で何かが起こっていると思わざるを得ない。

「ここからは仮定の話なんだが」

桜宮がコーヒーカップをコトリとソーサーに置いた。

「オメガ園は子供達を人身売買してるんじゃないかと思ってる」
「えっ?!」
人身売買・・そんな・・。

「確かに昔もαとマッチングさせる制度はあったんですけど。勿論、結婚を希望するΩのみ、相手は園長が吟味してきちんと番にして籍を入れる事が条件でした」
だから幸せになったΩも多くいたと思う。
勿論そこに金銭は発生しない。

「恐らくその制度を悪用して誰彼構わず金さえ積めばΩを引き取れるようにしてるんだと思う」
「そんな・・酷い」

そんな風に引き取った相手がΩを大事にするとは思えない。

「まさか精神安定剤をその為に使うつもりだったんじゃ・・。うちが断ったから別のラボに注文した可能性がある。そんな依頼を受けるような所ロクな会社じゃないからそれを使われたΩの体も心配だ」

伊織の表情に怒りが見て取れる。
思った以上に大変な事態に三葉は言葉を失った。

「今警察に相談してるから間もなく報告があるだろう。その時はまた報告する」
「分かりました」

オメガ園には小さい子も沢山いる。
そんな子たちが被害に遭わないように一刻も早く解決して欲しいと三葉は心から願った。
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