運命の番と別れる方法

ivy

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3話

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バイトを終えた三葉は疲れた体を引き摺るようにしてやっと辿り着いた自宅の窓を見上げ、ため息をついていた。

今日はバイト仲間が急なヒートで休まざるを得なくなりその分残業を引き受けた。

それはいい。お互い様だし自分が役に立てるならと思うくらいに三葉は今のバイト先と共に働く仲間が好きだった。

問題は自分の部屋の明かりの中、カーテンも引かず寄り添う二人の影が見えた事だ。

あの長い髪は多分いつものΩの女・・確か理佐と言ったか。
実家に帰ってやって欲しいと思うものの、β夫婦の間に生まれたαの浩太は親と折り合いが悪く一緒に暮らすようになってから一度も帰ったことはない。

この状況でワンルームに帰るのはかなり勇気がいるが、明日は朝イチで授業があるし風呂に入って疲れをとりたかったので仕方なく登りなれた階段に足をかけた。

そして鈴の代わりにわざと大きな足音を立ててドアまでたどり着く。


「ただいま!」
声も大きめだ。

それが功を奏したのか部屋のドアを開けた時はソファにふんぞり返って座る浩太の膝に理佐が座っているだけの状態だった。

まあ、刺すような理佐からの視線は痛かったけど。

「遅かったな」

そう言った浩太に残業だからと返すとそれを遮るように理佐が甘えた声でお出かけしようと囁いている。

「どこに行きたい?」
「えっとね、行きたいホテルがあるの!山の上に建ってる大きいとこ!」

二人が散らかした部屋を片付けていた三葉の手が止まった。

「ああ、あそこね。前行ったけどいいとこだったよ」
「ほんと?行きたーい!」

そこは付き合い始めて間もない頃、三葉の誕生日に浩太が予約してくれた思い出のホテルだった。

そんな幸せな頃もあったのに。


「三葉」

固まったままの三葉に声をかけた浩太は悪びれる様子もなく「金くんない?」と笑う。

「そんな・・沢山持ってないよ」

「あるだけでいいから出せよ。この前給料日だっただろ?」

部屋に置いた三葉の鞄を勝手に漁り財布からあるだけの紙幣を抜き出す。

三葉はぼんやりそれを眺めながらもうすぐ家賃の引き落としなのにと思っていた。






バース性は生まれた時に決まっている。
そしてそれは検査ですぐ判明し、それぞれのバース性に合った環境で育てられる。

人口の10%しかいないαは人の上に立つ者として高度な教育を。
その他大勢のβはそれを支え社会を回す為に幅広く汎用性の高い知識を。
αより更に少ないΩはαと番になり、αの子供を産む為の存在として。

けれどβである浩太の両親は浩太に過度な教育や極端なα崇拝の思想を与えなかった。
その代わり普通の親として大きな愛情を持って彼を育てた。
αやΩなど関係なく人として正しくあれと。

けれど成長の過程で浩太は周りのβやΩから歪められてしまった。

そしてαを敬わない両親に反発するようになった。

三葉と出会った時はまだそれでも「普通」の感覚を持っていたが大学という外部から切り離された社会の中で成功が約束されたαのおこぼれに預かろうとする者たちの手で彼はどんどん変わっていった。


耳にいいことだけをを囁く者のみをそばに置き従わない者に制裁を与える。
まるで裸の王様だと三葉は思う。

何の責任もない者たちにいいように担がれて
彼には一体何が残るのだろうと。


けれどその事に浩太自身が気付かなければ何の意味もない。
三葉が何を言ってももう浩太には響かないのだ。



二人が出ていった後の静かな部屋で三葉は毛布にくるまって床に横になった。
ベッドは彼らの様々な体液で汚れていて眠る事も出来ない。
けれど後始末をする元気は今の三葉には無かった。


何故あの幸せなままで浩太といられなかったんだろう。
番である自分が至らなかったからなのだろうか。
また彼と笑い合って過ごせる日は来るんだろうか。
今頃浩太は理佐とあの豪華なホテルで抱き合っているんだろう。

いつかの自分たちのように。





フローリングの床は冷たく硬い。




それでもあの二人の声を聞かなくていいだけ幸せだと思いながら三葉は眠りについた。














「三葉、週末一緒に家に帰らない?」

講義の後、健斗がそう言って俺を見上げた。

「そうだなあ。しばらく帰ってないもんな」
「でしょ?気分転換にもなるし母さんに会いに行こ!」

家にいても嫌な気持ちになるだけだ。
三葉は健斗に笑顔で頷いた。




家と言っても普通の家庭ではない。

三葉は出生時バース検査でΩと診断された事が理由で親に捨てられた子供だ。

αとαが番になると生まれる子供は殆どがβだ。
稀にαが生まれるがかなり確率が低くΩは生まれない。

けれどΩがαと番って産む子供は殆どがαだ。
そして稀にΩが生まれる。

そんな理由からαはΩの愛人を囲いαの子供を産ませ、そんな中で望まれず生まれたΩの子供を施設に預けるという名目で捨てるのだ。


オメガ園と呼ばれるその施設で三葉と健斗は育った。
その施設は虐待によって死に至らしめられるΩの子供を救済する為に作られた場所で預けられた時点で親との縁は完全に切れお互いに消息を掴む事は出来なくなる。

そんな場所だが職員は皆本当の家族のように親身に子供達の世話を焼いてくれるし施設長は皆からお母さんと呼ばれとても慕われていた。


三葉は健斗とお土産は何にしようと話し合い結局お菓子と母さんには小さな花束を買おうと決めた。

また貯金を崩さないといけないが母さんにはちゃんと自立して生活出来ている所を見せて安心させたい。

暗い事ばかりだった生活に少しだけ楽しみが出来て三葉は何とか今週を乗り切ろうと自分を奮い立たせた。

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