可愛いだけが取り柄の俺がヤクザの若頭と番になる話

ivy

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家族

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 病院から戻り、寝床を整えて甲斐甲斐しく俺の世話を焼く賢士は、何かを考えているのか始終無言だった。

「どうかした?」
「あ、いや。子供の事を考えていた」

 そんな難しい顔で?

「名前?まだ早いよ。ゆっくり考えて……」
「いやこの子の人生をどう導くか悩んでたんだ」

 は?

 は????

「それは本人に任せたらいいんじゃないかな」
「そんな適当でいいのか?」

 適当っていうか、今から悩むことではないと思うけど。

「今は元気に産まれてくる事だけを考えておけば良いんじゃない?」
「間に合うか?」

 ……。

「じゃあさ、とりあえず名前考えようか!」

 俺は仕方なく、まだ先でいいと思っていた名付けを提案する。

「名前、そうだな。両親からの最初の贈り物だと言うしな」

 賢士は嬉しそうに頷く。
 そして早速何やら電話したり名付けに関する本を発注したりと忙しそうだ。

 俺はベッドに横になりながら不思議な気持ちでそんな彼を見る。

 俺が生まれる時も両親はこんなふうに喜んだのだだろうか……そんな事を考えながら。






 いつの間に眠ったのか、目が覚めた時にはすっかり夜も更けていた。
 隣にはたくさんのメモ用紙と共に眠る賢士。

 書き殴った漢字にはそれぞれ画数が細かに表示されていて、✖️やら○やらが散乱している。

 小さな笑いが込み上げた。

 賢士はきっとこんな風に周りから愛されて誕生し、育てられたんだろう。
 そういえば賢士の両親には会ったことが無い。それどころか話も聞いたことが無い気がする。
 忘れてるだけだろうか?

 そんな事を考えながら彼を眺めていると、気配を感じたのかうっすらと切れ長の二重が開いた。

「賢士」
「……なんだ」

 深く眠っていたのか、覚醒し切れない掠れた返答だが、構わず俺は喋り続ける。

「賢士の両親ってどんな人?」

「両親……普通だ」
「普通?」
「ああ、父は会社員で母は専業主婦」
「優しい?」
「ああ、とても」
「兄弟は?」
「弟が二人と妹が一人」

 それは楽しそうだ。

「いつか会いたいな」
「ああ、今度会いに行こう」
「うん」

 それだけ答えるとすうっと寝息を立てて意識を手放してしまったようだ。
 俺は複雑な思いで賢士の髪を撫でた。


 普通の家族が分からない俺にちゃんと家庭が築けるかな。

 勿論、とても楽しみだし早く会いたいって思ってるけど。







 生まれてきた子供を見て可愛いと思えなかったらどうしよう。
 そしてそんな俺に賢士は愛想をつかすだろう。


 また一人になるかもしれない。






 それに気付いたらなんだか途方もなく怖くなって、眠る賢士にぎゅっと抱きついたが、いつまでも眠気はやって来なかった。
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