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ただいま

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「ばかっ!もう知らない!どっか行って!」
俺はそう叫ぶと賢士を腰掛けていたベッドから蹴り落とした。

「悪かったって。潜入捜査だから誰にも言えなかったんだよ」

「謝るんならもっと真剣に謝って!何でニヤニヤしてるんだよ!」

顔を真っ赤にしている俺を見て賢士はずっと笑ってる。
悔しい!

「だってあんな可愛いの反則だろ」
「可愛くないっっ!!!」

かわい子ぶって可愛いと言われるのは良いけどあんなの素の俺じゃないか。
そんなこと言われたらまるで猫かぶってない俺を可愛いって言われたみたいで焦る。

だって本当の俺はガサツだし素直じゃないし言うこと聞かないし打算的だし・・。

「可愛いよ」

心の声が聞こえたかのように賢士がもう一度俺に向かってそう囁く。

「お前の全部が可愛い。あざといとこも貪欲なとこもそれらが全部透けて見えてるところも」

悪口か?と言いかけたところで

「お前の全部が好きだ」

そう言われ抱きしめられる。

そんなこと言ったって・・賢士には百合さんがいるじゃないか・・。

けれど手は勝手に賢士の背中に回り強く抱き返してしまう。

俺も賢士の全部が好きだ・・

心の中でそう呟いた時そっとドアが開いた。

「お邪魔だった?」

百合さん!!

俺は慌てて賢士から離れようともがくが賢士の腕はより強く俺を抱きしめる。

「邪魔だな」

氷のように冷たい声が頭上から落ちてドアで佇む綺麗な人にぶつけられた。

なんて事言うんだ。
仮にも元婚約者に・・。

焦るばかりでなす術もなく賢士の腕の中に収まってアワアワしていると百合さんの綺麗な目がスッと細められた。

「あんたに言ってんじゃないわよ。そこの可愛い子に聞いてんのよ」

ドスの効いた本職の凄みで吐き出される言葉は見た目の美しさと不釣り合いで俺は思わず震える。

「貴方が夏姫ね。ほんとに可愛い~!お姉さん何でも買ってあげるからうちにいらっしゃいよ」

何やら嬉しそうにそう言う百合さんに賢士が舌打ちで答える。
どうなってんの?この二人・・。

「婚約してたんじゃなかったの?」

恐る恐る聞く俺に二人は声を揃えて捜査のためだと言う。
と、言うことは百合さんも警察の人なのか。
それならこの迫力もわかる気がする。

「じゃあ・・賢士は百合さんと付き合ってるんじゃないの?」

更に恐る恐る聞く俺に賢士は顔を歪めて当たり前だと言った。

そっか・・
そうなんだ。
じゃあ今まで俺に言った番や子供の話は本気だったんだ。

安心感にほわりとすると同時に胸いっぱいに不思議な暖かさが広がる。
それは自分にとって初めての感覚だった。

「夏姫ちゃん大丈夫?お目々がうるうるしてるわよ?疲れちゃった?」

女王然とした美貌にそぐわない甘い声で心配してくれる百合さんに俺はなんだか気恥ずかしく慌てて布団に潜り込む。

「夏姫、あいつには近づくなよ。ものすごい年下が好きな変態だぞ。」

「賢士、ちょっと外に出なさいよ」

いがみ合う二人にハラハラしながらも色々な問題が解決した俺の心はとても軽かった。

「夏姫ちゃんの可愛さに免じて事後処理は私がしておくわ。さっさと連れて帰って休ませてあげなさいよこの役ただずが」

百合さんはそれだけ言うと俺に投げキスを寄越して病室から颯爽と去って行く。


見送る賢士はなんとも言えない顔をして俺の方を振り向いた。

「ムカつく奴だがこのまま帰れるのはありがたい。着替え出来るか?」

「着替えられる。帰る」

そう答えてベッドから体を起こし差し出された賢士の腕に捕まり立ち上がった。







着替えた後念のために医師の診察を受け問題なしと診断されたので賢士の家に連れて帰ってもらった。
ほんの数日二日ほど居なかっただけなのに涙が出るほど家が懐かしかった。

ソファに腰掛けた賢士の膝の上に乗せられ薄い毛布で包まれた上から抱きしめられて耳元で改めてお帰りと囁かれる。

もうここは俺の家なんだ。
ここに帰ってきてもいいんだ。
そう思ったらこの部屋も賢士の事もたまらなく愛しくて胸が痛くなった。


「ただいま」


初めてそう言った言葉の意味を知らないはずの賢士が嬉しそうに笑ってくれた。

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