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どこに?
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事務所にたどり着いて二時間。
片っ端から防犯カメラの映像を見つつ情報屋と連絡を取り続ける賢士の側に百合がノートパソコンを持ってやって来た。
「警察の動きが変なのよ」
そう言って手元のパソコンを見せる
地図の上の赤い点滅は警察車両を表しているが数が尋常じゃない。
「確かにこんなに1箇所に集まるなんておかしいな」
「大きな事件があったなんてニュース流れてないわよね」
首を傾げる二人に向かって浩二が手ががりを見つけたと大声で叫んだ。
「どこだ?!」
慌てて駆け寄る賢士に浩二はカメラの映像を見せる。
「車を乗り換えてる。見つからないはずだ。随分と慎重だな」
防犯カメラにはぐったりしている夏姫を抱き抱え部下らしき男の誘導に従い別の車の後部座席に収まる男が映っていた。
間違いない。
さっき部屋の前で夏姫と言い争っていた奴だ。
「横浜方面に向かってる。車を特定出来たから跡を追えるぞ」
浩二のその言葉にハッとした賢士は追跡を伊豆方面に指定した。
「確かそこにあいつの家の別荘がある」
先ほども確認したが乗り換える前の車を探していたので見つからなかったのだろう。
キーボードを叩き始めた浩二の背中をチラリと見遣ると賢士は車のキーを掴んで事務所を飛び出した。
雨のようなシャワーが体を包む。
手を火傷した時、賢士と水のシャワーを浴びたのがもう何年も前の事みたいだ。
身体中を激しく兄にスポンジで擦られて肌がヒリヒリする。
そんな事したってキスマークが取れるわけでもないのにバカみたいだな。
俺はちょっとだけ口の端を上げて笑う真似をした。
少しだけ気分がマシになる。
負けたくない。
あんなやつに。
いっぱいキスされて身体中を舐められて。
思い出しただけで鳥肌が立つ。
それでもそれ以上の陵辱を受けなかったのは全身のキスマークが不愉快だからという理由だった。
また賢士に守られた。
俺のこと探してるかな。
早く諦めて欲しい。
だって絶対に警察に捕まって欲しくない。
地下室の作りが同じだから自宅だと思ってたけどここはそっくりに作った別荘だと言われた。
だから見つからないって。
もし見つかっても警察が張り込んでるからあいつは終わりだと。
賢士・・。
もう二度と会えないけど俺のこと覚えててくれるかなあ。
子供ができたらどうするんだって
好き嫌いした時に言われた言葉を思い出した。
あのまま暮らしていたら。
いつかはそんな日も来たのかな。
「おい!夏姫、いつまでシャワー浴びてるんだ。飯だぞ」
ハッと我に返り水を止めると投げつけられたバスタオルでゆるゆると水滴を拭い用意されたバスローブを纏う。
これから先の人生は地獄でしかない。
もうなんの希望もなくただここで兄が飽きるまで慰み者になるだけだ。
賢士との思い出があって良かった。
辛い時は賢士と過ごした日を声を笑顔を飴玉を舐めるように口の中で転がして生きていこう。
だって生きてさえいればいつか一目でも会える時が来るかもしれない。
たとえその時、側に綺麗な奥さんと可愛い子供が寄り添っていたとしても。
髪を乾かしてリビングに行くとテーブルの上に豪華な料理が並べられている。
別荘と言っていたがシェフも連れて来ているようだ。
早く食べろと急かされるけど俺が食べたいのは賢士の作った味噌汁と卵焼きだ。
黙って俯いていると忌々しそうに舌打ちをした兄は一人で食事を始めた。
食事が済んだらまた地下室に閉じ込められるのかなとぼんやりしていると何やら外で人の怒鳴り声や何かが壊れる音が聞こえて来る。
ハッと顔を上げた兄が俺の顔を見てニヤリと笑いやっと来たかと呟いた。
やっと来た?
誰が?
まさか・・
慌てて椅子を蹴って立ち上がり窓辺に駆け寄る。
兄の部下らしき人が怒鳴りながら誰かを家に近づけさせないようにしていた。
あの中に賢士が?
必死に伸びをして庭を見渡す。
けれどその人の姿はなかった。
どうか逃げてくれますように。
そう祈った時
叩きつける勢いで開けられたドアから現れたのは誰よりも会いたくて誰よりも見たくなかった人の顔だった。
「賢士・・」
どうすれば良いのか分からず立ち尽くす俺の耳元で兄は「じっとしてろ。あいつが捕まっても良いのか?」と囁く。
賢士を見ると兄の部下複数人に身体を羽交締めにされている。
「嫌だ・・言うこと聞くから賢士を逃して!」
震える身体をなんとか支えて兄に詰め寄る俺を見て賢士は夏姫!と叫んだ。
「迎えに来た!帰るぞ!」
途端に我慢してた涙が頬を伝う。
この言葉をどれだけ聞きたかったか。
自分には帰る場所がある。
そしてそれは賢士の所だ。
でも・・・。
賢士に向かって口を開きかけた時、ドアの後ろから制服を着た沢山の警察官が賢士に向かって走ってくるのが見えた。
「賢士!!早く逃げて!!」
力の限り叫び賢士に駆け寄ろうとする俺は兄に後ろから乱暴に体を抱き込まれた。
その力は強く暴れても僅かも緩むことが無い。
「残念だったな。こいつは生まれた時から一生俺のもんだと決まってるんだよ」
くすくす笑いながら賢士に向かってそう言う兄への嫌悪感で俺の心は真っ黒に塗りつぶされていく。
拘束された身体と相まって不甲斐ない自分に
絶望し抗う力も抜けそうになったその時
突然体が自由になり床に投げ出された。
「何するんだ!」
焦ったような声が響き渡り見上げると警察官に拘束され暴れる兄の姿が見えた。
え?なんで?
そう思った直後、身体がふわっと掬い上げられて馴染みのある爽やかな匂いが俺の体を包み込む。
「賢士?」
信じられない気持ちでその名前を呟くと
その匂いの持ち主はにっこりと微笑んで俺の大好きな笑顔を見せた。
片っ端から防犯カメラの映像を見つつ情報屋と連絡を取り続ける賢士の側に百合がノートパソコンを持ってやって来た。
「警察の動きが変なのよ」
そう言って手元のパソコンを見せる
地図の上の赤い点滅は警察車両を表しているが数が尋常じゃない。
「確かにこんなに1箇所に集まるなんておかしいな」
「大きな事件があったなんてニュース流れてないわよね」
首を傾げる二人に向かって浩二が手ががりを見つけたと大声で叫んだ。
「どこだ?!」
慌てて駆け寄る賢士に浩二はカメラの映像を見せる。
「車を乗り換えてる。見つからないはずだ。随分と慎重だな」
防犯カメラにはぐったりしている夏姫を抱き抱え部下らしき男の誘導に従い別の車の後部座席に収まる男が映っていた。
間違いない。
さっき部屋の前で夏姫と言い争っていた奴だ。
「横浜方面に向かってる。車を特定出来たから跡を追えるぞ」
浩二のその言葉にハッとした賢士は追跡を伊豆方面に指定した。
「確かそこにあいつの家の別荘がある」
先ほども確認したが乗り換える前の車を探していたので見つからなかったのだろう。
キーボードを叩き始めた浩二の背中をチラリと見遣ると賢士は車のキーを掴んで事務所を飛び出した。
雨のようなシャワーが体を包む。
手を火傷した時、賢士と水のシャワーを浴びたのがもう何年も前の事みたいだ。
身体中を激しく兄にスポンジで擦られて肌がヒリヒリする。
そんな事したってキスマークが取れるわけでもないのにバカみたいだな。
俺はちょっとだけ口の端を上げて笑う真似をした。
少しだけ気分がマシになる。
負けたくない。
あんなやつに。
いっぱいキスされて身体中を舐められて。
思い出しただけで鳥肌が立つ。
それでもそれ以上の陵辱を受けなかったのは全身のキスマークが不愉快だからという理由だった。
また賢士に守られた。
俺のこと探してるかな。
早く諦めて欲しい。
だって絶対に警察に捕まって欲しくない。
地下室の作りが同じだから自宅だと思ってたけどここはそっくりに作った別荘だと言われた。
だから見つからないって。
もし見つかっても警察が張り込んでるからあいつは終わりだと。
賢士・・。
もう二度と会えないけど俺のこと覚えててくれるかなあ。
子供ができたらどうするんだって
好き嫌いした時に言われた言葉を思い出した。
あのまま暮らしていたら。
いつかはそんな日も来たのかな。
「おい!夏姫、いつまでシャワー浴びてるんだ。飯だぞ」
ハッと我に返り水を止めると投げつけられたバスタオルでゆるゆると水滴を拭い用意されたバスローブを纏う。
これから先の人生は地獄でしかない。
もうなんの希望もなくただここで兄が飽きるまで慰み者になるだけだ。
賢士との思い出があって良かった。
辛い時は賢士と過ごした日を声を笑顔を飴玉を舐めるように口の中で転がして生きていこう。
だって生きてさえいればいつか一目でも会える時が来るかもしれない。
たとえその時、側に綺麗な奥さんと可愛い子供が寄り添っていたとしても。
髪を乾かしてリビングに行くとテーブルの上に豪華な料理が並べられている。
別荘と言っていたがシェフも連れて来ているようだ。
早く食べろと急かされるけど俺が食べたいのは賢士の作った味噌汁と卵焼きだ。
黙って俯いていると忌々しそうに舌打ちをした兄は一人で食事を始めた。
食事が済んだらまた地下室に閉じ込められるのかなとぼんやりしていると何やら外で人の怒鳴り声や何かが壊れる音が聞こえて来る。
ハッと顔を上げた兄が俺の顔を見てニヤリと笑いやっと来たかと呟いた。
やっと来た?
誰が?
まさか・・
慌てて椅子を蹴って立ち上がり窓辺に駆け寄る。
兄の部下らしき人が怒鳴りながら誰かを家に近づけさせないようにしていた。
あの中に賢士が?
必死に伸びをして庭を見渡す。
けれどその人の姿はなかった。
どうか逃げてくれますように。
そう祈った時
叩きつける勢いで開けられたドアから現れたのは誰よりも会いたくて誰よりも見たくなかった人の顔だった。
「賢士・・」
どうすれば良いのか分からず立ち尽くす俺の耳元で兄は「じっとしてろ。あいつが捕まっても良いのか?」と囁く。
賢士を見ると兄の部下複数人に身体を羽交締めにされている。
「嫌だ・・言うこと聞くから賢士を逃して!」
震える身体をなんとか支えて兄に詰め寄る俺を見て賢士は夏姫!と叫んだ。
「迎えに来た!帰るぞ!」
途端に我慢してた涙が頬を伝う。
この言葉をどれだけ聞きたかったか。
自分には帰る場所がある。
そしてそれは賢士の所だ。
でも・・・。
賢士に向かって口を開きかけた時、ドアの後ろから制服を着た沢山の警察官が賢士に向かって走ってくるのが見えた。
「賢士!!早く逃げて!!」
力の限り叫び賢士に駆け寄ろうとする俺は兄に後ろから乱暴に体を抱き込まれた。
その力は強く暴れても僅かも緩むことが無い。
「残念だったな。こいつは生まれた時から一生俺のもんだと決まってるんだよ」
くすくす笑いながら賢士に向かってそう言う兄への嫌悪感で俺の心は真っ黒に塗りつぶされていく。
拘束された身体と相まって不甲斐ない自分に
絶望し抗う力も抜けそうになったその時
突然体が自由になり床に投げ出された。
「何するんだ!」
焦ったような声が響き渡り見上げると警察官に拘束され暴れる兄の姿が見えた。
え?なんで?
そう思った直後、身体がふわっと掬い上げられて馴染みのある爽やかな匂いが俺の体を包み込む。
「賢士?」
信じられない気持ちでその名前を呟くと
その匂いの持ち主はにっこりと微笑んで俺の大好きな笑顔を見せた。
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