20 / 41
檻の中
しおりを挟む
地下にあるその部屋は俺が飛び出した時のままだった。
開きっぱなしの本。
お茶を飲んでいたコップ。
ベッドに置かれたぬいぐるみ。
まるで賢士との楽しかった毎日が夢だったみたいに。
動かせなかった体はそのうち少しずつ感覚を取り戻したけどそのかわり腕と足をロープできつく縛られた。
「どうしてこんなことするの・・」
震えながら俺は尋ねる。
昔から兄の放つαのオーラが怖くて仕方なかった。
「お前が出て行ったから連れ戻しただけだよ。お前の家はここだろ?夏姫」
「ずっと出て行けって言ってたじゃないか」
「それは親達だろ?もういないから安心していいよ」
「もういない?」
「俺にこの家を譲って引っ越したよ。ここには俺と夏姫だけだ。」
そんな・・
俺は兄をキッと睨んで出来るだけ大きな声を出した
「俺が今一緒に暮らしてる人が絶対助けにに来てくれる!すごく強いんだからな!」
知らないけど多分強い。
そんな俺の様子を見て兄はくっと笑った。
「知ってるよ。調べた。鷹翼組の若頭だろ?」
「そうだ!お前なんかすぐやられちゃうから!」
組の名前までは知らなかったけど!
「馬鹿だなあ夏姫は」
そう言うと俺の頬に指を這わせる。
気持ち悪くて鳥肌が立った。
「そんなことしたら鷹翅組は終わりだ」
「何でだよ!」
「本当に馬鹿。でもそれが可愛いんだよな」
頬を滑る指は唇に移動して柔らかいそこをなぞるように撫でる。
俺はその不快な感触に声も出せない。
「うちが政財界に通じてるのは知ってるだろ?いわゆる名家だ。そこの息子を暴力団が誘拐して自宅に監禁した。俺はその弟を救っただけだ。」
「なに・・言ってんの?」
「だからもしここに来たらすぐ逮捕出来る様に警察が屋敷の周りを固めてる。」
そんな・・俺のせいで賢士が?
「ヤクザだもんな。叩けばいくらでも余罪が出て来て当分、いや一生塀の中かもな。だからお前はここで大人しく俺と暮らすんだ。」
「頭おかしい・・」
そう言いながらも俺の中には絶望しかなかった。
あんなに待っていた賢士の助けが今は怖い。
「賢士に・・連絡させて欲しい」
言わなきゃ。絶対来ちゃダメだって。
「いいけど。俺に何してくれる?」
蛇みたいな目をして俺にそう言う兄は下卑た微笑みを口元に貼り付けていた。
俺は何を望まれているか理解して更に地獄の底に突き落とされたような気分になる。
でも・・。
優しくして貰った。
あんなに幸せだったこと今までなかった。
普通の人みたいに普通に扱って貰って普通の生活をさせてくれた。
俺なんて手がかかるだけで素直じゃないし言うこと聞かないし。
それなのに好きでも何でもないのに
あんなに可愛がってくれた。
俺がいなくなったら百合さんと復縁して幸せになれるんだ。
そう思うと胸が割れそうだけど俺に出来る事は他にない。
「何でもするから・・電話させて」
俺がそう言うと兄は目を細め嬉しそうに口の端を吊り上げた。
その頃賢士は情報屋を使い片っ端から目撃者を探していた。
その報告を待つ間浩二が調べた夏姫の実家に向かう。
百合も一緒だ。
「すごい家ね」
百合が感息する。
こんな所で生まれてもΩというだけで夏姫は幸せになれなかった。
「兄さんとやらが1人で住んでるの?」
「そうらしい」
夏姫の両親は現在海外に拠点を移し事業を起こしているらしい。
ここに住むのは夏姫の兄1人と聞いている。
賢士と百合は人目につかないようにそっと門の隙間から中に入り勝手口の鍵を壊して家の中に忍び込んだ。
家具には布がかけられ空気も埃っぽい。
本当に人が住んでいるんだろうか。
生活の気配が全くない。
「賢士!地下室がある」
百合の言葉にすぐさまそちらに向かい床板に嵌め込まれた取手を上げて下の様子を伺った。
気配を悟られない様に目線で会話し、賢士1人で階段を降りる。
壁は煉瓦のような物で出来ており暗くじめじめとした通路が一番奥のドアまで続いている。
手にした小型のライトで足元だけを照らしドアの前まで来ると賢士は深呼吸して体制を整え渾身の力を込めて足でそのドアを蹴破った。
「夏姫!!!」
しかし飛び込んだ部屋には誰もいない。
それどころか何一つない空っぽの部屋で石の床が広がるばかりだ。
「夏姫・・どこにいるんだ・・」
滅多に見せない焦りの表情を浮かべ賢士は上階に向かい駆け上がった。
開きっぱなしの本。
お茶を飲んでいたコップ。
ベッドに置かれたぬいぐるみ。
まるで賢士との楽しかった毎日が夢だったみたいに。
動かせなかった体はそのうち少しずつ感覚を取り戻したけどそのかわり腕と足をロープできつく縛られた。
「どうしてこんなことするの・・」
震えながら俺は尋ねる。
昔から兄の放つαのオーラが怖くて仕方なかった。
「お前が出て行ったから連れ戻しただけだよ。お前の家はここだろ?夏姫」
「ずっと出て行けって言ってたじゃないか」
「それは親達だろ?もういないから安心していいよ」
「もういない?」
「俺にこの家を譲って引っ越したよ。ここには俺と夏姫だけだ。」
そんな・・
俺は兄をキッと睨んで出来るだけ大きな声を出した
「俺が今一緒に暮らしてる人が絶対助けにに来てくれる!すごく強いんだからな!」
知らないけど多分強い。
そんな俺の様子を見て兄はくっと笑った。
「知ってるよ。調べた。鷹翼組の若頭だろ?」
「そうだ!お前なんかすぐやられちゃうから!」
組の名前までは知らなかったけど!
「馬鹿だなあ夏姫は」
そう言うと俺の頬に指を這わせる。
気持ち悪くて鳥肌が立った。
「そんなことしたら鷹翅組は終わりだ」
「何でだよ!」
「本当に馬鹿。でもそれが可愛いんだよな」
頬を滑る指は唇に移動して柔らかいそこをなぞるように撫でる。
俺はその不快な感触に声も出せない。
「うちが政財界に通じてるのは知ってるだろ?いわゆる名家だ。そこの息子を暴力団が誘拐して自宅に監禁した。俺はその弟を救っただけだ。」
「なに・・言ってんの?」
「だからもしここに来たらすぐ逮捕出来る様に警察が屋敷の周りを固めてる。」
そんな・・俺のせいで賢士が?
「ヤクザだもんな。叩けばいくらでも余罪が出て来て当分、いや一生塀の中かもな。だからお前はここで大人しく俺と暮らすんだ。」
「頭おかしい・・」
そう言いながらも俺の中には絶望しかなかった。
あんなに待っていた賢士の助けが今は怖い。
「賢士に・・連絡させて欲しい」
言わなきゃ。絶対来ちゃダメだって。
「いいけど。俺に何してくれる?」
蛇みたいな目をして俺にそう言う兄は下卑た微笑みを口元に貼り付けていた。
俺は何を望まれているか理解して更に地獄の底に突き落とされたような気分になる。
でも・・。
優しくして貰った。
あんなに幸せだったこと今までなかった。
普通の人みたいに普通に扱って貰って普通の生活をさせてくれた。
俺なんて手がかかるだけで素直じゃないし言うこと聞かないし。
それなのに好きでも何でもないのに
あんなに可愛がってくれた。
俺がいなくなったら百合さんと復縁して幸せになれるんだ。
そう思うと胸が割れそうだけど俺に出来る事は他にない。
「何でもするから・・電話させて」
俺がそう言うと兄は目を細め嬉しそうに口の端を吊り上げた。
その頃賢士は情報屋を使い片っ端から目撃者を探していた。
その報告を待つ間浩二が調べた夏姫の実家に向かう。
百合も一緒だ。
「すごい家ね」
百合が感息する。
こんな所で生まれてもΩというだけで夏姫は幸せになれなかった。
「兄さんとやらが1人で住んでるの?」
「そうらしい」
夏姫の両親は現在海外に拠点を移し事業を起こしているらしい。
ここに住むのは夏姫の兄1人と聞いている。
賢士と百合は人目につかないようにそっと門の隙間から中に入り勝手口の鍵を壊して家の中に忍び込んだ。
家具には布がかけられ空気も埃っぽい。
本当に人が住んでいるんだろうか。
生活の気配が全くない。
「賢士!地下室がある」
百合の言葉にすぐさまそちらに向かい床板に嵌め込まれた取手を上げて下の様子を伺った。
気配を悟られない様に目線で会話し、賢士1人で階段を降りる。
壁は煉瓦のような物で出来ており暗くじめじめとした通路が一番奥のドアまで続いている。
手にした小型のライトで足元だけを照らしドアの前まで来ると賢士は深呼吸して体制を整え渾身の力を込めて足でそのドアを蹴破った。
「夏姫!!!」
しかし飛び込んだ部屋には誰もいない。
それどころか何一つない空っぽの部屋で石の床が広がるばかりだ。
「夏姫・・どこにいるんだ・・」
滅多に見せない焦りの表情を浮かべ賢士は上階に向かい駆け上がった。
4
お気に入りに追加
883
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!

平凡顔のΩですが、何かご用でしょうか。
無糸
BL
Ωなのに顔は平凡、しかも表情の変化が乏しい俺。
そんな俺に番などできるわけ無いとそうそう諦めていたのだが、なんと超絶美系でお優しい旦那様と結婚できる事になった。
でも愛しては貰えて無いようなので、俺はこの気持ちを心に閉じ込めて置こうと思います。
___________________
異世界オメガバース、受け視点では異世界感ほとんど出ません(多分)
些細なお気持ちでも嬉しいので、感想沢山お待ちしてます。
現在体調不良により休止中 2021/9月20日
最新話更新 2022/12月27日
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜
ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。
そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。
幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。
もう二度と同じ轍は踏まない。
そう決心したアリスの戦いが始まる。

孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。

白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる