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寂しい日々

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「ちょっと出て来る」

そう言って賢士は行ってしまった。
自分の家なんだから入って貰えばいいのに。
俺がいると出来ない話をするんだろうか。

モヤモヤしたままクッションを抱えソファに転がった。
1人でいると空気がひんやりとして実家にいた時に暮らしていた地下の部屋を思い出す。

なんだか暗い気持ちになりかけた時ドアが開く音がして賢士が帰って来た。

「おかえり!」
「ああ」

いつも通り愛想のない返事をして俺の横に座る。
腕を当たり前のように俺の肩に回しぐいっと引き寄せるので自然と賢士の膝に手を着いて上半身が乗るような形になった。

いや本当に猫じゃん・・。

「ねえ、さっきの人誰?」
「恋人だ」
「あーなるほど。こいび・・えっ?!」

驚きすぎて思わず膝から飛び退いた。

「正確に言うと恋人だ。結婚する予定だったが組長がお前と番になれと言うので別れた」

「え・・・」

組長の言う事はそれ程までに絶対なんだ・・。
結婚まで考えた相手と別れられるくらいに。
だから好きでもない俺と番にもなれるんだ。

そこまで考えた途端に胸がぎゅうっと引き絞られるように痛くなった。

何を浮かれてたんだろう。
当たり前じゃないか。
顔しか取り柄のない何も出来ない俺が賢士みたいな人に本気で好かれるわけない。

番になれば賢士は組長に義理立て出来るし
俺は不自由なく暮らせる。

それでいいんだろう。
番になるのに愛は必要はないんだから。


「夏姫?」

大人しくなった俺を訝しんで賢士が顔を覗き込む。

「体調が悪いのか?」
「ううん!全然平気。お腹すいてぼーっとしちゃった」

「なんだそれ。遅いけど晩飯にするか」

賢士は笑って立ち上がりキッチンに向かう。

俺はその大きくてしなやかに伸びた背中を抱きしめて俺だけを見てと縋りつきたい衝動を涙と一緒に堪えていた。













それからしばらく以前にも増して激務のようで賢士が家にいる時間は更に少なくなった。

けれどたまに賢士ではない色っぽい匂いをさせて帰って来ることがあるので仕事ばかりではなさそうだ。

百合さん・・かな。

俺には何を言う権利もないので気付かないふりでやり過ごす。
でも心は少しずつ削られて最後には無くなってしまいそうになる。

「夏姫」
「なに?」
「仕事が落ち着いてきたから来週から旅行に行くぞ」
「旅行・・」

「行きたいところあるか?」

以前なら大喜びで計画を立てただろうが今の俺は賢士の側にいればいるほど苦しさが増していく。

黙ってる俺を気遣うように賢士が後ろから抱き込んで髪に頬を寄せる。

「悪かったよ。ずっとほったらかしで」
「「仕事」だろ?仕方ない」

仕事のところを殊更強調したのを気付いたか気付いてないのかその言葉に返事はない。

「夏姫。そろそろ発情期だよな」
「え?そうだけどなんでわかんの?」
「匂い」

そう言うと唇で耳を甘噛みされ舐められて吸われる。
以前にされた大人のキスみたいで身体の力が抜けていく。

「ヒートが来ても抑制剤は飲むなよ」

耳元で響く重く低い声にぞくんと腰が震えた。

「まっまだ無理!俺がちゃんとお前を好きになってから番うって約束だろ!?」

震える声に説得力が無かったのか賢士は喉の奥で笑った。

「そもそも普段散々ペット扱いしといてそんな時だけおかしい・・んっ!」


きゃんきゃん吠える俺を無視して太ももに大きな手を這わせた賢士は部屋着にしているゆったりとしたハーフパンツの裾から指を入れて肌を舐めるように腰の辺りをゆるく撫で回した。
そして俺がびっくりして動けないのを了承と取ったのかその手はそのまま前に周り足の付け根の際どい窪みをぐっと押す。

「ぎひゃああ!」

もう無理!
無理です!!

「その声どこから出るんだ」

涙目で振り返る俺に不満気な賢士の顔が見えた。
恥ずかしいやら気持ちいいやら悔しいやらで情緒がまるでお祭りの縁日みたいに大賑わいだ。

「まだ!まだ駄目!」

ハーフパンツの裾を押さえて後ずさる俺が面白かったのか賢士はひとしきり笑い転げ旅行先を考えておけと言い残してバスルームに消えて行った。


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