6 / 8
突然のプロポーズ
しおりを挟む
春が過ぎ夏が始まる頃俺の書く小説はいよいよ佳境を迎えていた。
国王と隣国の皇太子の間で揺れる青年。
彼はどちらの手を取るのか。
「ユビイ様お茶をお持ちしました」
「ありがとうサイモン」
随分根を詰めて作業していたのでこの辺りで少し休憩しよう。
俺はペンを置いて思い切り伸びをする。
ここでの生活はとても穏やかだ。
俺はお茶と共に出された好物のカヌレに舌鼓を打つ。うちのシェフ最高。
「少し暑いですね。窓を開けましょう」
「ありがとう」
初夏の日差しが眩しい。庭では先日から来てくれている庭師がせっせと花を植えているのが見える。
暑いのに大変だな。
セインによると腕利きらしいからそこそこお年寄りかもしれない。熱中症が心配だ。
「サイモン彼に中に入って貰って一緒にお茶にしたらどうかな」
そう提案するが「滅相も御座いません」とすげなく断られた。
「ユビイ様の美しさは誰も彼も惑わしてしまいます。例え庭師とてそれは例外ではありません!ましてや一緒にお茶を飲むなど言語道断。危険なので人目に触れないで頂きたい」
そうらしいですよ。庭師さんごめんなさいね。
俺は帽子を被った頭しか見えない遠くの庭師に心の中で謝る。
サイモンのちょっとおかしいくらい過保護な所にも随分慣れて来たから困るな。
「ちゃんとこまめに休憩させてあげてね」
「勿論です。気を付けますのでご安心を」
「うん分かった」
俺は素直に返事をして目の前の紅茶を飲んだ。
もう妃殿下候補ではないけれど小説を書いている事はまだルーとセインしか知らない。
俺が城を出た時、丁度執筆者を探そうと皆躍起になる現象が勃発してかなり気を遣ったのだ。
そんな事もありずっと仮面作家でいようと思っている。
正体がバレて続きをせっつかれるのも嫌だし話の流れに口を出されるのも嫌だ。万人が納得する結末なんて無いんだから。
そんなわけでサイモンが近くにいる間は書けないんだが何かにつけて部屋にいるので困ってる。距離感もバグり気味だしなあ~。
本当に職務に忠実だ。
このままダラダラとお茶を飲んでいても仕方ないので気分転換でもするか。
「サイモンちょっと庭に散歩に出るよ。それなら良いだろ?庭師と花の話をしたいんだ」
今が咲頃の花があるならルーに頼んでミアに届けられるだろうか。
そして元気でいると伝えてもらえは彼女も安心するだろう。あの子は侍女の中でもとびきり口が硬いからアリーにバレる事は無いはず。
だがサイモンは首を横に振る。
「庭師には話しかけないで下さい」
「話だけでもダメなのか?」
「彼は昔戦争に巻き込まれて顔に酷い傷があるそうです。それに生まれつき口もきけないので人が近くに居ると緊張するとセイン様より聞いております」
「そうだったんだ・・」
気の毒だな。
「美女と野獣という言葉もありますし優しいユビイ様が絆されてどうにかなってしまったらと思うと私は気が気ではなく・・」
おい。そっちが本音だろ。
お年寄り相手に何言ってんだ。
見てろよサイモンが知らないうちに仲良くなってやるから。
・・けれど来てくれなくなっても困るので脅かさないようゆっくりと仲良くしていつかミアに花を届けよう。
仕事をするからとサイモンを部屋から追い出し今月分の小説を書き上げた。
そんな俺の元にルーがやってきたのはもう日も沈みかけた頃だった。
「いつもごめんな。はい今月分」
「確かに預かった」
「どうした?元気ない感じだけど体調でも悪いのか?」
何となく浮かない顔をしているのは気のせいだろうか。
「問題ない。それより話がある二人きりで」
そう言いながら後ろに控えるサイモンの方を見る。サイモンは気付かないのかそっぽを向いてる。・・・いや、あいつわざとだ。
「サイモン」
「・・はい」
塩をかけられたナメクジのようにしんなりしながら彼が出て行くのを見送ってルーが口を開いた。
「ユビイ。突然で驚くかと思うが俺と一緒になる気はないか」
「えっ?一緒にって?」
「結婚しよう」
「結婚?!」
「そうだ」
俺がルーと?何で?
「いつまでもここに隠れるように暮らすわけにもいかないだろ」
「まあ確かに。セインにも迷惑だし早く自分で家探さないとな」
「いやセインはそんな事気にしない。でもそもそもお前は自分で家なんか探せない」
「どういう意味?そんな馬鹿だと言いたい訳か?」
あ?喧嘩売ってんのか?町一番のヤンチャだった俺に?
「そうじゃない。今まで黙ってたけどお前は王室の尋人だ。国中に御触れが出てる」
「え?アリーの仕業か?」
「そうだ。お前の身分はまだ王弟殿下の許嫁だ」
「なんで・・」
あの美人と結婚したんじゃ無かったのか?
「だからお前が自由になるには他の相手ときちんと婚姻関係を結ぶしかない。俺なら子爵とはいえ貴族ではあるし証明書があればもう殿下も手は出せない」
「いやちょっと訳がわからない。なんでアリーは俺を探してんの?」
「俺もよく分からない。でもユビイの言ってた新しい妃殿下候補はまだ城にいて一人でよくブラブラしてる」
「ブラブラ・・」
何やってんだ。俺なんて毎日妃殿下教育で死にそうになってたのに。
「ユビイは殿下の元に戻るか俺と結婚するか選んでくれたら良い」
「なんで二択だよ。このまま一人で小説書いて生きていきたいよ。そもそもルーは別に俺の事好きな訳じゃないだろ」
俺がそう言うとルーは顔を赤くして黙り込んだ。
「何だよ」
「何でもない」
「どうしたんだよ。どうせ見た目だけなら好みとか思ってんだろ」
「そんな・・いや見た目も確かに好きだけど。それよりその・・」
「はっきり言え!」
「何でもないです」
何なんだ全く頼りない。
俺にとっての隣国の皇太子か?と思ったのに。
ん?待てよ。ルーが小説の中の隣国の皇太子としてもしプロポーズがもっと本気のものだったら俺は揺れたか?
いや微塵も揺れない自信がある。
アリー以外の誰から言い寄られても結婚なんて嫌だ。それくらいなら一人でいる。
でもアリーが迎えに来たら?
事情があっての婚約破棄だったとしたら?
ああ・・俺はまだアリーの事が凄く好きなんだな。
だから許せないんだ。
妃殿下教育が無駄になるとかこの先どうしようとかそんな事よりもあいつに俺より大事な相手が出来たことが許せなかった。
だって大好きだったから。
だからこそもうあいつの元には戻れない。
国王と隣国の皇太子の間で揺れる青年。
彼はどちらの手を取るのか。
「ユビイ様お茶をお持ちしました」
「ありがとうサイモン」
随分根を詰めて作業していたのでこの辺りで少し休憩しよう。
俺はペンを置いて思い切り伸びをする。
ここでの生活はとても穏やかだ。
俺はお茶と共に出された好物のカヌレに舌鼓を打つ。うちのシェフ最高。
「少し暑いですね。窓を開けましょう」
「ありがとう」
初夏の日差しが眩しい。庭では先日から来てくれている庭師がせっせと花を植えているのが見える。
暑いのに大変だな。
セインによると腕利きらしいからそこそこお年寄りかもしれない。熱中症が心配だ。
「サイモン彼に中に入って貰って一緒にお茶にしたらどうかな」
そう提案するが「滅相も御座いません」とすげなく断られた。
「ユビイ様の美しさは誰も彼も惑わしてしまいます。例え庭師とてそれは例外ではありません!ましてや一緒にお茶を飲むなど言語道断。危険なので人目に触れないで頂きたい」
そうらしいですよ。庭師さんごめんなさいね。
俺は帽子を被った頭しか見えない遠くの庭師に心の中で謝る。
サイモンのちょっとおかしいくらい過保護な所にも随分慣れて来たから困るな。
「ちゃんとこまめに休憩させてあげてね」
「勿論です。気を付けますのでご安心を」
「うん分かった」
俺は素直に返事をして目の前の紅茶を飲んだ。
もう妃殿下候補ではないけれど小説を書いている事はまだルーとセインしか知らない。
俺が城を出た時、丁度執筆者を探そうと皆躍起になる現象が勃発してかなり気を遣ったのだ。
そんな事もありずっと仮面作家でいようと思っている。
正体がバレて続きをせっつかれるのも嫌だし話の流れに口を出されるのも嫌だ。万人が納得する結末なんて無いんだから。
そんなわけでサイモンが近くにいる間は書けないんだが何かにつけて部屋にいるので困ってる。距離感もバグり気味だしなあ~。
本当に職務に忠実だ。
このままダラダラとお茶を飲んでいても仕方ないので気分転換でもするか。
「サイモンちょっと庭に散歩に出るよ。それなら良いだろ?庭師と花の話をしたいんだ」
今が咲頃の花があるならルーに頼んでミアに届けられるだろうか。
そして元気でいると伝えてもらえは彼女も安心するだろう。あの子は侍女の中でもとびきり口が硬いからアリーにバレる事は無いはず。
だがサイモンは首を横に振る。
「庭師には話しかけないで下さい」
「話だけでもダメなのか?」
「彼は昔戦争に巻き込まれて顔に酷い傷があるそうです。それに生まれつき口もきけないので人が近くに居ると緊張するとセイン様より聞いております」
「そうだったんだ・・」
気の毒だな。
「美女と野獣という言葉もありますし優しいユビイ様が絆されてどうにかなってしまったらと思うと私は気が気ではなく・・」
おい。そっちが本音だろ。
お年寄り相手に何言ってんだ。
見てろよサイモンが知らないうちに仲良くなってやるから。
・・けれど来てくれなくなっても困るので脅かさないようゆっくりと仲良くしていつかミアに花を届けよう。
仕事をするからとサイモンを部屋から追い出し今月分の小説を書き上げた。
そんな俺の元にルーがやってきたのはもう日も沈みかけた頃だった。
「いつもごめんな。はい今月分」
「確かに預かった」
「どうした?元気ない感じだけど体調でも悪いのか?」
何となく浮かない顔をしているのは気のせいだろうか。
「問題ない。それより話がある二人きりで」
そう言いながら後ろに控えるサイモンの方を見る。サイモンは気付かないのかそっぽを向いてる。・・・いや、あいつわざとだ。
「サイモン」
「・・はい」
塩をかけられたナメクジのようにしんなりしながら彼が出て行くのを見送ってルーが口を開いた。
「ユビイ。突然で驚くかと思うが俺と一緒になる気はないか」
「えっ?一緒にって?」
「結婚しよう」
「結婚?!」
「そうだ」
俺がルーと?何で?
「いつまでもここに隠れるように暮らすわけにもいかないだろ」
「まあ確かに。セインにも迷惑だし早く自分で家探さないとな」
「いやセインはそんな事気にしない。でもそもそもお前は自分で家なんか探せない」
「どういう意味?そんな馬鹿だと言いたい訳か?」
あ?喧嘩売ってんのか?町一番のヤンチャだった俺に?
「そうじゃない。今まで黙ってたけどお前は王室の尋人だ。国中に御触れが出てる」
「え?アリーの仕業か?」
「そうだ。お前の身分はまだ王弟殿下の許嫁だ」
「なんで・・」
あの美人と結婚したんじゃ無かったのか?
「だからお前が自由になるには他の相手ときちんと婚姻関係を結ぶしかない。俺なら子爵とはいえ貴族ではあるし証明書があればもう殿下も手は出せない」
「いやちょっと訳がわからない。なんでアリーは俺を探してんの?」
「俺もよく分からない。でもユビイの言ってた新しい妃殿下候補はまだ城にいて一人でよくブラブラしてる」
「ブラブラ・・」
何やってんだ。俺なんて毎日妃殿下教育で死にそうになってたのに。
「ユビイは殿下の元に戻るか俺と結婚するか選んでくれたら良い」
「なんで二択だよ。このまま一人で小説書いて生きていきたいよ。そもそもルーは別に俺の事好きな訳じゃないだろ」
俺がそう言うとルーは顔を赤くして黙り込んだ。
「何だよ」
「何でもない」
「どうしたんだよ。どうせ見た目だけなら好みとか思ってんだろ」
「そんな・・いや見た目も確かに好きだけど。それよりその・・」
「はっきり言え!」
「何でもないです」
何なんだ全く頼りない。
俺にとっての隣国の皇太子か?と思ったのに。
ん?待てよ。ルーが小説の中の隣国の皇太子としてもしプロポーズがもっと本気のものだったら俺は揺れたか?
いや微塵も揺れない自信がある。
アリー以外の誰から言い寄られても結婚なんて嫌だ。それくらいなら一人でいる。
でもアリーが迎えに来たら?
事情があっての婚約破棄だったとしたら?
ああ・・俺はまだアリーの事が凄く好きなんだな。
だから許せないんだ。
妃殿下教育が無駄になるとかこの先どうしようとかそんな事よりもあいつに俺より大事な相手が出来たことが許せなかった。
だって大好きだったから。
だからこそもうあいつの元には戻れない。
57
お気に入りに追加
689
あなたにおすすめの小説
転生したけどやり直す前に終わった【加筆版】
リトルグラス
BL
人生を無気力に無意味に生きた、負け組男がナーロッパ的世界観に転生した。
転生モノ小説を読みながら「俺だってやり直せるなら、今度こそ頑張るのにな」と、思いながら最期を迎えた前世を思い出し「今度は人生を成功させる」と転生した男、アイザックは子供時代から努力を重ねた。
しかし、アイザックは成人の直前で家族を処刑され、平民落ちにされ、すべてを失った状態で追放された。
ろくなチートもなく、あるのは子供時代の努力の結果だけ。ともに追放された子ども達を抱えてアイザックは南の港町を目指す──
***
第11回BL小説大賞にエントリーするために修正と加筆を加え、作者のつぶやきは削除しました。(23'10'20)
**
参加型ゲームの配信でキャリーをされた話
ほしふり
BL
新感覚ゲーム発売後、しばらくの時間がたった。
五感を使うフルダイブは発売当時から業界を賑わせていたが、そこから次々と多種多様のプラットフォームが開発されていった。
ユーザー数の増加に比例して盛り上がり続けて今に至る。
そして…ゲームの賑わいにより、多くの配信者もネット上に存在した。
3Dのバーチャルアバターで冒険をしたり、内輪のコミュニティを楽しんだり、時にはバーチャル空間のサーバーで番組をはじめたり、発達と進歩が目に見えて繁栄していた。
そんな華やかな世界の片隅で、俺も個人のバーチャル配信者としてゲーム実況に勤しんでいた。
ギャルゲー主人公に狙われてます
白兪
BL
前世の記憶がある秋人は、ここが前世に遊んでいたギャルゲームの世界だと気づく。
自分の役割は主人公の親友ポジ
ゲームファンの自分には特等席だと大喜びするが、、、
【完結】だから俺は主人公じゃない!
美兎
BL
ある日通り魔に殺された岬りおが、次に目を覚ましたら別の世界の人間になっていた。
しかもそれは腐男子な自分が好きなキャラクターがいるゲームの世界!?
でも自分は名前も聞いた事もないモブキャラ。
そんなモブな自分に話しかけてきてくれた相手とは……。
主人公がいるはずなのに、攻略対象がことごとく自分に言い寄ってきて大混乱!
だから、…俺は主人公じゃないんだってば!
ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
【完結】役立たずの僕は王子に婚約破棄され…にゃ。でも猫好きの王子が溺愛してくれたのにゃ
鏑木 うりこ
BL
僕は王宮で能無しの役立たずと全員から疎まれていた。そしてとうとう大失敗をやらかす。
「カイ!お前とは婚約破棄だ!二度と顔を出すんじゃない!」
ビクビクと小さくなる僕に手を差し伸べてくれたのは隣の隣の国の王子様だった。
「では、私がいただいても?」
僕はどうしたら良いんだろう?え?僕は一体?!
役立たずの僕がとても可愛がられています!
BLですが、R指定がありません!
色々緩いです。
1万字程度の短編です。若干のざまぁ要素がありますが、令嬢ものではございせん。
本編は完結済みです。
小話も完結致しました。
土日のお供になれば嬉しいです(*'▽'*)
小話の方もこれで完結となります。お読みいただき誠にありがとうございました!
アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会で小話を書いています。
お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354
【完結】異世界転生して美形になれたんだから全力で好きな事するけど
福の島
BL
もうバンドマンは嫌だ…顔だけで選ぶのやめよう…友達に諭されて戻れるうちに戻った寺内陸はその日のうちに車にひかれて死んだ。
生まれ変わったのは多分どこかの悪役令息
悪役になったのはちょっとガッカリだけど、金も権力もあって、その上、顔…髪…身長…せっかく美形に産まれたなら俺は全力で好きな事をしたい!!!!
とりあえず目指すはクソ婚約者との婚約破棄!!そしてとっとと学園卒業して冒険者になる!!!
平民だけど色々強いクーデレ✖️メンタル強のこの世で1番の美人
強い主人公が友達とかと頑張るお話です
短編なのでパッパと進みます
勢いで書いてるので誤字脱字等ありましたら申し訳ないです…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる