6 / 19
ヒカリと共に
しおりを挟む
「……違う。少な過ぎる!一日五千でも少ないと思ったのに!」
「え?」
キティさんは声も野太くてもうキティ要素はゼロだ。
「でも使うところがないので……」
「まあドレスやアクセサリーはツケで買えるが……友達と街へ出て急に新しい馬車が欲しくなったりしたらどうするんだ?」
「……?」
急に?馬車が??欲しくなる???
「それに気に入ったブティックでもあれば店ごと買っておきたいだろう?その時に手付金もないようだと困るじゃないか。呼ばれていつでも行けるほど私も暇じゃないんだから」
「あの……そんな心配はありませんから」
「なんだと?」
「ご飯が食べられて……あ、毎日三食じゃなくてもいいです。お布団があって勉強に必要なテキストやノートがあれば何もいりません」
「ヒカリ……」
キティさんは驚愕の目で僕を見ている。
変なこと言ったかな。
「……すまなかった」
「何がですか?」
「出会い頭に冷たい態度をとった」
「え?別に冷たくなかったですよ」
あれで冷たかったら病院の先生や看護師たちは業務用クーラーだ。……退屈だろうって乙女ゲームやラノベをくれた優しい人たちもいたけどそんな人はすぐ辞めちゃうんだ……。
「悪かった。以前来た者があまりに贅沢でつい警戒した。油断したら公爵家を食い潰すくらいに散財したんだ」
公爵家を食い潰す?!
「あ、あの……」
「なんだ?」
「僕、すごく沢山ご飯を食べるんですけど……すごく美味しいから……ごめんなさい。食い潰さないようにこれからは少しにします……」
大丈夫、我慢できる。だって前世ではお粥やスープしか食べてなかったんだから。
……あの美味しいご飯を食べられなくなるのはちょっと……いやすごく悲しいけど……。
勝手に涙がぽろぽと溢れる。それをみてギョッとしたキティさんが慌てて僕にハンカチを渡してくれた。
「食べていい!食べていいんだ!食い潰すというのはそういう意味じゃない!よく食べるのはいいことだぞ!今度美味い肉を沢山持ってくるから泣き止んでくれ!」
……お肉?
僕の涙はすっと止まる。
熊……いやキティさんが持ってきてくれるお肉ならさぞや美味しいに違いない(偏見)
それにキティさんは見た目は怖いけどすごく優しい人なんだな。
困った顔で焦る彼が気の毒で、僕は急いで涙を拭いて頷いた。
ーーーーーーーーーー
応接室にはキティとハンナ、それにヘンリー医師が集まり、簡単なつまみと共に酒を嗜んでいる。
晩御飯も済み、疲れたのかヒカリは早々に寝てしまった。
毎日大変な量の勉強や礼儀作法を教え込まれているので無理もない。だが彼は一度たりとも弱音を吐いたことは無かった。
「おい、あれはなんだ」
キティが酒を一口飲んでからうめくように言った。
「なんだとは?」
「あの新しく来た子だよ。ヒカリのことだ。今までの女の子たちと全然違うじゃないか」
「……そうだな」
ヘンリーはポツリと呟く。
「正直もう期待はしてなかったもんな。それくらい今までの子は酷かった。わがまま放題だったり、権力をかさにきて横暴だったり」
「そうでしたわね。でもアメジスト様がもう未来を変える気を失ってしまった今となっては……」
「そうだ。やってくる異邦人達にかけるしかなかったのだ。
「あの子は本当にいい子よ。前世はとても酷い目にあってたようだけど。明るくて素直で可愛いの」
「……彼は酷い目に遭ったなんて思ってないだろ。不当な扱いを当然だと思って生きてきたんだ。だから簡単に自分の命を投げ出しそうで怖い」
「それはないと思うの」
ハンナが甘いフルーツの入ったワインを一口飲んだ。
「だってアメジスト様のこととても大切に思ってくれてるのよ。そのアメジスト様の中に入ってるんだから滅多なことはしないわ」
アメジスト本人でさえ大切に扱えない体と命を、ヒカリはとても大事にしてくれる。
「ここに戻ってくるたびに、ジス様は自分の意識を取り戻す。そしてその度にあの池に身を投げるのよ。どんなに気を付けて側にいても止められない。もうこれ以上ジス様のあんな姿は見たくないわ」
時間が巻き戻るたびに泣き叫び殺してくれと懇願するアメジスト。
たぶん今も彼女は深い深い場所でヒカリと共にいる。
そして何度も繰り返される断罪劇に怯えてもうやめてくれと泣いているのだ。
「ヒカリなら変えてくれそうな気がする」
ヘンリーの言葉に二人は示し合わせたように頷いた。そしてグラスを掲げ、「光が共に在らんことを」と声を上げて神に祈り、手にした酒を一気に煽った。
「え?」
キティさんは声も野太くてもうキティ要素はゼロだ。
「でも使うところがないので……」
「まあドレスやアクセサリーはツケで買えるが……友達と街へ出て急に新しい馬車が欲しくなったりしたらどうするんだ?」
「……?」
急に?馬車が??欲しくなる???
「それに気に入ったブティックでもあれば店ごと買っておきたいだろう?その時に手付金もないようだと困るじゃないか。呼ばれていつでも行けるほど私も暇じゃないんだから」
「あの……そんな心配はありませんから」
「なんだと?」
「ご飯が食べられて……あ、毎日三食じゃなくてもいいです。お布団があって勉強に必要なテキストやノートがあれば何もいりません」
「ヒカリ……」
キティさんは驚愕の目で僕を見ている。
変なこと言ったかな。
「……すまなかった」
「何がですか?」
「出会い頭に冷たい態度をとった」
「え?別に冷たくなかったですよ」
あれで冷たかったら病院の先生や看護師たちは業務用クーラーだ。……退屈だろうって乙女ゲームやラノベをくれた優しい人たちもいたけどそんな人はすぐ辞めちゃうんだ……。
「悪かった。以前来た者があまりに贅沢でつい警戒した。油断したら公爵家を食い潰すくらいに散財したんだ」
公爵家を食い潰す?!
「あ、あの……」
「なんだ?」
「僕、すごく沢山ご飯を食べるんですけど……すごく美味しいから……ごめんなさい。食い潰さないようにこれからは少しにします……」
大丈夫、我慢できる。だって前世ではお粥やスープしか食べてなかったんだから。
……あの美味しいご飯を食べられなくなるのはちょっと……いやすごく悲しいけど……。
勝手に涙がぽろぽと溢れる。それをみてギョッとしたキティさんが慌てて僕にハンカチを渡してくれた。
「食べていい!食べていいんだ!食い潰すというのはそういう意味じゃない!よく食べるのはいいことだぞ!今度美味い肉を沢山持ってくるから泣き止んでくれ!」
……お肉?
僕の涙はすっと止まる。
熊……いやキティさんが持ってきてくれるお肉ならさぞや美味しいに違いない(偏見)
それにキティさんは見た目は怖いけどすごく優しい人なんだな。
困った顔で焦る彼が気の毒で、僕は急いで涙を拭いて頷いた。
ーーーーーーーーーー
応接室にはキティとハンナ、それにヘンリー医師が集まり、簡単なつまみと共に酒を嗜んでいる。
晩御飯も済み、疲れたのかヒカリは早々に寝てしまった。
毎日大変な量の勉強や礼儀作法を教え込まれているので無理もない。だが彼は一度たりとも弱音を吐いたことは無かった。
「おい、あれはなんだ」
キティが酒を一口飲んでからうめくように言った。
「なんだとは?」
「あの新しく来た子だよ。ヒカリのことだ。今までの女の子たちと全然違うじゃないか」
「……そうだな」
ヘンリーはポツリと呟く。
「正直もう期待はしてなかったもんな。それくらい今までの子は酷かった。わがまま放題だったり、権力をかさにきて横暴だったり」
「そうでしたわね。でもアメジスト様がもう未来を変える気を失ってしまった今となっては……」
「そうだ。やってくる異邦人達にかけるしかなかったのだ。
「あの子は本当にいい子よ。前世はとても酷い目にあってたようだけど。明るくて素直で可愛いの」
「……彼は酷い目に遭ったなんて思ってないだろ。不当な扱いを当然だと思って生きてきたんだ。だから簡単に自分の命を投げ出しそうで怖い」
「それはないと思うの」
ハンナが甘いフルーツの入ったワインを一口飲んだ。
「だってアメジスト様のこととても大切に思ってくれてるのよ。そのアメジスト様の中に入ってるんだから滅多なことはしないわ」
アメジスト本人でさえ大切に扱えない体と命を、ヒカリはとても大事にしてくれる。
「ここに戻ってくるたびに、ジス様は自分の意識を取り戻す。そしてその度にあの池に身を投げるのよ。どんなに気を付けて側にいても止められない。もうこれ以上ジス様のあんな姿は見たくないわ」
時間が巻き戻るたびに泣き叫び殺してくれと懇願するアメジスト。
たぶん今も彼女は深い深い場所でヒカリと共にいる。
そして何度も繰り返される断罪劇に怯えてもうやめてくれと泣いているのだ。
「ヒカリなら変えてくれそうな気がする」
ヘンリーの言葉に二人は示し合わせたように頷いた。そしてグラスを掲げ、「光が共に在らんことを」と声を上げて神に祈り、手にした酒を一気に煽った。
74
お気に入りに追加
76
あなたにおすすめの小説
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
不遇聖女様(男)は、国を捨てて闇落ちする覚悟を決めました!
ミクリ21
BL
聖女様(男)は、理不尽な不遇を受けていました。
その不遇は、聖女になった7歳から始まり、現在の15歳まで続きました。
しかし、聖女ラウロはとうとう国を捨てるようです。
何故なら、この世界の成人年齢は15歳だから。
聖女ラウロは、これからは闇落ちをして自由に生きるのだ!!(闇落ちは自称)
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
前世である母国の召喚に巻き込まれた俺
るい
BL
国の為に戦い、親友と言える者の前で死んだ前世の記憶があった俺は今世で今日も可愛い女の子を口説いていた。しかし何故か気が付けば、前世の母国にその女の子と召喚される。久しぶりの母国に驚くもどうやら俺はお呼びでない者のようで扱いに困った国の者は騎士の方へ面倒を投げた。俺は思った。そう、前世の職場に俺は舞い戻っている。
結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、転生特典(執事)と旅に出たい
オオトリ
BL
とある教会で、今日一組の若い男女が結婚式を挙げようとしていた。
今、まさに新郎新婦が手を取り合おうとしたその時―――
「ちょっと待ったー!」
乱入者の声が響き渡った。
これは、とある事情で異世界転生した主人公が、結婚式当日に「ちょっと待った」されたので、
白米を求めて 俺TUEEEEせずに、執事TUEEEEな旅に出たい
そんなお話
※主人公は当初女性と婚約しています(タイトルの通り)
※主人公ではない部分で、男女の恋愛がお話に絡んでくることがあります
※BLは読むことも初心者の作者の初作品なので、タグ付けなど必要があれば教えてください
※完結しておりますが、今後番外編及び小話、続編をいずれ追加して参りたいと思っています
※小説家になろうさんでも同時公開中
三度目の人生は冷酷な獣人王子と結婚することになりましたが、なぜか溺愛されています
倉本縞
BL
エルガー王国の王子アンスフェルムは、これまで二回、獣人族の王子ラーディンに殺されかかっていた。そのたびに時をさかのぼって生き延びたが、三回目を最後に、その魔術も使えなくなってしまう。
今度こそ、ラーディンに殺されない平穏な人生を歩みたい。
そう思ったアンスフェルムは、いっそラーディンの伴侶になろうと、ラーディンの婚約者候補に名乗りを上げる。
ラーディンは野蛮で冷酷な獣人の王子と噂されていたが、婚約者候補となったアンスフェルムを大事にし、不器用な優しさを示してくれる。その姿に、アンスフェルムも徐々に警戒心を解いてゆく。
エルガー王国がラーディンたち獣人族を裏切る未来を知っているアンスフェルムは、なんとかそれを防ごうと努力するが……。
婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ
秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」
ワタクシ、フラれてしまいました。
でも、これで良かったのです。
どのみち、結婚は無理でしたもの。
だってー。
実はワタクシ…男なんだわ。
だからオレは逃げ出した。
貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。
なのにー。
「ずっと、君の事が好きだったんだ」
数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?
この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。
幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。
転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!
煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。
最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。
俺の死亡フラグは完全に回避された!
・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」
と言いやがる!一体誰だ!?
その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・
ラブコメが描きたかったので書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる