【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy

文字の大きさ
上 下
58 / 62
★ルート分岐(ノエルエンド編)★

必要な時間 ③

しおりを挟む

「ノエル?」

 僕は黙って覆い被さっているノエルを見上げた。

「今夜はアリス様の隣で眠ってもいいですか」

 え?

 ええ????
 それってつまりそう言う事??
 じわじわと顔に熱が散る。そりゃまあノエルからしたら我慢にも限界があるよな。

 でも……


 今の自分の気持ちをうまく言葉に出来ないまま、もどかしく唇を噛む僕を見て、ノエルはすっと体を引いた。

「申し訳ありません。酔いすぎました。戻ります」

 酔いすぎた?そんなわけない。
 だって僕に体重をかけないようにちゃんと体を支えてくれていたじゃないか。
 ノエルの事を思っているはずなのにこんな悲しい顔をさせるのは本意じゃない。

「待って!」

 ノエルの腕をギュッと掴む。

「あの、いきなりは難しくて……えっと順を追ってもいい?」
「順、ですか?」

 きょとんとしたノエルの顔。けれど先程よりずっとちゃんと僕を見てくれている。

「うん、まず二人きりの時は敬語禁止」
「えっ?!それは」
「それから二人きりの時は僕の事をアリスって呼んで」
「いえ!無理です!!そんな事出来るわけがない!アリス様とお呼びするだけでも恐れ多いのに!」
「あーじゃあ無理だね。これ以上進むのは」
「アリス様……」

 なんとも情けない顔で僕を見るノエル。
 頭に垂れた耳が見えそうだ。

「様はいらない。アリスって呼んで」
「ア‥…アリス」
「なに?ノエル」

 とびきりの笑顔でノエルに微笑みかける。
 途端にノエルの顔が見た事ないくらい真っ赤になった。

「アリス、一緒に寝よう。言ってみて?」
「!!!!」

 ノエルは立ち上がり突然ドアまで走った。そして僕の方を少し振り向いてボソボソと何か呟く。

「なに?」
「きょ、今日はここまでです!」

 そう言うなりドアを勢いよく閉めて出て行ってしまった。廊下に響く靴音があまりに早くて笑ってしまう。

「ごめんねノエル」

 一緒になりたくない訳じゃない。ノエルは三年も待ってくれた。
 でもまだもう一歩。
 僕には勇気が足りない。

「だから距離を詰める作戦は良いと思ったんだけどな」

 当のノエルがあれでは時間がかかりそうだけど。
 きっとお互いに時間が必要なんだろう。今までと同じではない、もう少しだけ踏み込んだ時間が。
 でもそれが何とも僕達らしい気がして心がほっこりと暖かくなった。










 翌日。
 朝食の後、アーロンと一緒に本日の予定について確認しに来たノエルは昨日の事など無かったかのように綺麗に澄ました顔をしていた。

 ちょっと憎たらしい。


「陛下、午後の会食はどうされますか?」
「そうだね、アイク公爵と二人は嫌だからアーロンとノエル、二人も同席してくれる?」
『『承知しました』』

 あの狸公爵は人目のつかない所で何かにつけて僕と親しくなろうとする。けれど帝国随一の資産家だし元は隣国の王族であった事から無碍にする事も出来ない。
 僕と結婚して帝国を我が物にせんとする思惑が見え隠れ……いや、見え見えだ。

「では、お支度が整いましたらお呼び下さい」
「わかったよアーロン」

 二人が部屋を出てからメイドに頼んで服を用意して貰った。隙を見せないよう、首まできっちり襟の詰まったドレススーツに少し伸びた髪はきっちりの結い上げる。

「陛下とても素敵です!」
「本当にお子様がいらっしゃるなんて信じられないくらいのシルエットですし、羨ましいですわ」

 メイド達の賞賛の声が照れ臭い。

「ありがとう。じゃあ行って来ます」
「行ってらっしゃいませー」

 手間取って遅くなってしまった。
 華やかな見送りを受けながら僕は会食堂に急いだ。




「陛下!いや本日も素晴らしくお美しい!」

 薄っぺらい賛辞が空回る大広間。
 僕は黙って微笑み軽く頷いた。
 アーロンとノエルはニコリともせず護衛のように立ち尽くしている。

 この気まずい場面で良くあんな愛想が振り撒けるものだ。

「本日は旧サウザナ王国の特産品の葡萄をお持ちしましたよ。とても甘いので是非お召し上がり下さい」

 そう言って僕の手を取り甲に口付ける。

「アイク公爵、お心遣い感謝します」

 背筋をぞわぞわさせながらそう答えた僕の目の前に剣の柄に手をかけるノエルが見えた。


 やめて、本当に。


「それでは食事に致しましょう」

 いつまでも離してくれない手を軽く振り払って、各々の席に着くよう促す。早く終わらせよう。僕の頭の中はその事で一杯だった。

「本日の純白の御衣装はまた素晴らしいですなあ。私も本日は白い上着なので並んで座っていると婚儀のようではありませんか?」


 意気揚々とそんな事を言う狸に、向かいでアーロンが盛大に咽せている。

「面白い冗談ですね。そもそも私と公爵では年が離れ過ぎていて親子だと思われますよ」

 僕が楽しそうにそう言うと公爵はグッと黙り込んでしまった。

 知ってるんだぞ。そろそろ五十になるって。正妻の他に愛人が五人だったか?子供だって沢山いるんでしょ。何で今更、僕とどうこうなろうとか変な事考えるの。アルファでも無いのに。


「アリス様、そろそろ次の御予定が」

 そのタイミングで突然ノエルが口を挟んだ。
 僕のスケジュールを管理しているのはアーロンのはずだけど。

「お前!騎士の分際で陛下を名前呼びするなど失礼極まりないな!アリス様、あいつの処分を私にお任せ下さい!」

 ……お前こそ、どさくさに紛れて何名前呼びしてるんだ?


「アイク公爵、本日はここまでにしましょう」
「でも!」
「本日で最後になさるおつもりですか?」
「いえ!そんな……次にお会い出来るのを楽しみにしております……」


 背中を丸めてトボトボと部屋を後にする彼を見ながらアーロンが小言を言い出した。

「ほらね?だから早くご結婚をと申し上げているのに」

 その視線の先には気まずそうなノエルがいる。

「分かってるよ。ちゃんと考える」

 僕はノエルにも聞こえる様にそう答えた。






しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...