60 / 62
★ルート分岐(ルドルフエンド編)★
もう一つの ①
しおりを挟む
目の前でルドルフの目が閉じようとしている。
間も無く消えてしまう魂に僕の心は激しく掻き乱された。
どうして?
憎いんじゃないのか?
どんな理由があったとしてもルルテラを手にかけた相手なんだぞ。
でも……
このまま死なせるわけにはいかない。
「八雲先生!」
僕はルドルフを抱きしめ叫んだ。
「ルドルフ様を助けて!」
「……やってみる。ノエル!魔術師を集めて!」
「はい!」
「ルドルフ様!目を開けて!眠っちゃダメです!」
僕は意識を失いかけているルドルフに必死で呼びかけた。貴方は死んでいい人じゃない。
最初こそ誤解があったが、彼は僕のために全てを犠牲にして何度も生き続けた。
そしてやっと僕は生き返る事が出来たのに貴方が死んでどうするんだ!
胸の中にいつもあった小さな棘。
ノエルに淡い恋をしながらもいつも貴方が気になっていた。僕を揶揄ったり、甘い言葉を紡いだり。その度に無性に心が細波を立て、落ち着かなくなった。それは憎しみや同情などではなく……僕は……
「アリス様!国中の魔術師が間も無く到着します!」
「すぐこの部屋に通して!」
目を覚ましてルドルフ!
僕の為に死ぬなんて許さない。
……魔術師達が到着してはや一時間。八雲を筆頭にこれだけの魔力を浴びながらもルドルフが目を覚ますことは無かった。
「魂にかなりの傷がついてます」
高位魔術師の男が痛ましそうにそう言った。
「なんとかして下さい!この国の王です」
「分かってます。分かってますが魔力を上手く吸収して貰えない。もっと親和性の高い魔力が必要です」
親和性。またそれか。
僕の魔力ならどうだろう。ほんの僅かしか残っていないし既に少しずつ消えかけているけれど。
親和性の問題なら少ししか無くても効果はあるんじゃないだろうか。
「ルドルフ様」
僕は暖かい光を手のひらに溜めて直接彼の唇に当てた。
「このまま飲み込んで」
通常なら危険な魔力の渡し方だがほんの少量しか無いから大丈夫だろう。
後は上手く体の中に入ってくれればいいけれど。
ノエルやアーロン、それに魔術師達が見守る中、僕は懸命に彼に命のかけらを注いだ。
「どうして目を覚さないんだよ」
涙が溢れてルドルフの顔に落ちる。それは次々と彼の頬を濡らし、唇や顎に流れた。
「あっ」
その時、微かに感じたルドルフの吐息。それは何かを伝えようとしている。
「ルドルフ様!」
何も考えられなかった。ただそうしなければならないような気がして、微かに動く唇に僕の唇を重ねた。
「……アリス?」
「ルドルフ様……」
しばらくするとまつ毛が震えうっすらと目が開いた。
ああ、神様!!ありがとうございます!!
彼を抱きしめ泣く僕にルドルフはいつもの憎たらしい微笑みを見せた。
「何してるんだお前は。こんな事されたら勘違いするだろうが」
「勘違い?」
「お前が俺を好きだって思ってもいいのか。早く離れろ」
「勘違いじゃないよ」
そう、多分もっと前から貴方を許していた。
「……これは夢か?いや、もう死んだはずだ。じゃあ天国か」
そんな事を言うルドルフに僕は笑ってしまう。
「天国なら好きな事していいよな」
「え?」
そう言うなり死にかけた人間とは思えない力で僕を引き寄せ頬を掴んで口付けをした。
「……んっ!」
それはあまりに激しく長く、今まで経験した事のないもので、それまで蓋をしていた彼への気持ちが溢れて止まらなくなる。
「ルドルフ様!本当にバカなんだから!」
「今俺に馬鹿と言ったのか?」
「言ったよ!バカ!なんで僕の為に死んだりするんだ!もっと国王としての自覚を持って!」
泣きながら怒る僕を見て笑うルドルフ。
「俺にとっては国より民より自分自身よりもお前が大事だったんだ」
「……もう罪悪感なんて感じなくていいんだよ」
「罪悪感?俺がそんな物の為に動いてると思ったのか?」
「違うの?」
「お前を愛してるからだ」
……愛というのはこんなに激しい物だったのか。
ルドルフはそれを僕に教えてくれた。
「あ?なんだ俺は生きてるのか?」
「今更だよ」
「なんだ夢じゃなかったのか。それにしてはお前が俺の為に泣くなんて信じられないんだが」
「愛してるからだよ」
「なに?」
「僕もルドルフ様を愛してる。多分」
「多分てなんだ」
そう言いながらもルドルフの目にはうっすらと涙の膜が見える。
そしてそれを隠すように顔を背けて肩を震わせた。
「ルルテラの父親になって下さい」
「……お前よりは愛せない」
「分かってる。その分僕がルルテラを愛するからいいんだ」
「お前には敵わないな」
そう言って笑うルドルフの顔は今まで見たどんな表情より自然だった。
そんな憎まれ口を叩くルドルフだが、ルルテラが成長するにつれて僕さえ呆れるほどの親バカぶりを発揮するのはまた別の話だ。
間も無く消えてしまう魂に僕の心は激しく掻き乱された。
どうして?
憎いんじゃないのか?
どんな理由があったとしてもルルテラを手にかけた相手なんだぞ。
でも……
このまま死なせるわけにはいかない。
「八雲先生!」
僕はルドルフを抱きしめ叫んだ。
「ルドルフ様を助けて!」
「……やってみる。ノエル!魔術師を集めて!」
「はい!」
「ルドルフ様!目を開けて!眠っちゃダメです!」
僕は意識を失いかけているルドルフに必死で呼びかけた。貴方は死んでいい人じゃない。
最初こそ誤解があったが、彼は僕のために全てを犠牲にして何度も生き続けた。
そしてやっと僕は生き返る事が出来たのに貴方が死んでどうするんだ!
胸の中にいつもあった小さな棘。
ノエルに淡い恋をしながらもいつも貴方が気になっていた。僕を揶揄ったり、甘い言葉を紡いだり。その度に無性に心が細波を立て、落ち着かなくなった。それは憎しみや同情などではなく……僕は……
「アリス様!国中の魔術師が間も無く到着します!」
「すぐこの部屋に通して!」
目を覚ましてルドルフ!
僕の為に死ぬなんて許さない。
……魔術師達が到着してはや一時間。八雲を筆頭にこれだけの魔力を浴びながらもルドルフが目を覚ますことは無かった。
「魂にかなりの傷がついてます」
高位魔術師の男が痛ましそうにそう言った。
「なんとかして下さい!この国の王です」
「分かってます。分かってますが魔力を上手く吸収して貰えない。もっと親和性の高い魔力が必要です」
親和性。またそれか。
僕の魔力ならどうだろう。ほんの僅かしか残っていないし既に少しずつ消えかけているけれど。
親和性の問題なら少ししか無くても効果はあるんじゃないだろうか。
「ルドルフ様」
僕は暖かい光を手のひらに溜めて直接彼の唇に当てた。
「このまま飲み込んで」
通常なら危険な魔力の渡し方だがほんの少量しか無いから大丈夫だろう。
後は上手く体の中に入ってくれればいいけれど。
ノエルやアーロン、それに魔術師達が見守る中、僕は懸命に彼に命のかけらを注いだ。
「どうして目を覚さないんだよ」
涙が溢れてルドルフの顔に落ちる。それは次々と彼の頬を濡らし、唇や顎に流れた。
「あっ」
その時、微かに感じたルドルフの吐息。それは何かを伝えようとしている。
「ルドルフ様!」
何も考えられなかった。ただそうしなければならないような気がして、微かに動く唇に僕の唇を重ねた。
「……アリス?」
「ルドルフ様……」
しばらくするとまつ毛が震えうっすらと目が開いた。
ああ、神様!!ありがとうございます!!
彼を抱きしめ泣く僕にルドルフはいつもの憎たらしい微笑みを見せた。
「何してるんだお前は。こんな事されたら勘違いするだろうが」
「勘違い?」
「お前が俺を好きだって思ってもいいのか。早く離れろ」
「勘違いじゃないよ」
そう、多分もっと前から貴方を許していた。
「……これは夢か?いや、もう死んだはずだ。じゃあ天国か」
そんな事を言うルドルフに僕は笑ってしまう。
「天国なら好きな事していいよな」
「え?」
そう言うなり死にかけた人間とは思えない力で僕を引き寄せ頬を掴んで口付けをした。
「……んっ!」
それはあまりに激しく長く、今まで経験した事のないもので、それまで蓋をしていた彼への気持ちが溢れて止まらなくなる。
「ルドルフ様!本当にバカなんだから!」
「今俺に馬鹿と言ったのか?」
「言ったよ!バカ!なんで僕の為に死んだりするんだ!もっと国王としての自覚を持って!」
泣きながら怒る僕を見て笑うルドルフ。
「俺にとっては国より民より自分自身よりもお前が大事だったんだ」
「……もう罪悪感なんて感じなくていいんだよ」
「罪悪感?俺がそんな物の為に動いてると思ったのか?」
「違うの?」
「お前を愛してるからだ」
……愛というのはこんなに激しい物だったのか。
ルドルフはそれを僕に教えてくれた。
「あ?なんだ俺は生きてるのか?」
「今更だよ」
「なんだ夢じゃなかったのか。それにしてはお前が俺の為に泣くなんて信じられないんだが」
「愛してるからだよ」
「なに?」
「僕もルドルフ様を愛してる。多分」
「多分てなんだ」
そう言いながらもルドルフの目にはうっすらと涙の膜が見える。
そしてそれを隠すように顔を背けて肩を震わせた。
「ルルテラの父親になって下さい」
「……お前よりは愛せない」
「分かってる。その分僕がルルテラを愛するからいいんだ」
「お前には敵わないな」
そう言って笑うルドルフの顔は今まで見たどんな表情より自然だった。
そんな憎まれ口を叩くルドルフだが、ルルテラが成長するにつれて僕さえ呆れるほどの親バカぶりを発揮するのはまた別の話だ。
75
お気に入りに追加
1,624
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!


初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

誰よりも愛してるあなたのために
R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。
ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。
前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。
だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。
「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」
それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!
すれ違いBLです。
初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。
(誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

悪役令息の死ぬ前に
やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」
ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。
彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。
さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。
青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。
「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」
男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
トップアイドルα様は平凡βを運命にする
新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。
ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。
翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。
運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる