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★本編★
聖女の誕生②
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「アリス……」
ルドルフの声が聞こえる。
「駄目だアリス。ルルテラの治癒能力が高過ぎてお前の傷が治ってしまう」
「え……」
僕を守ろうとしてるんだろうか。前生とは違い最終覚醒をした僕の魔力を吸って、大きく育った彼女は生まれる前から絶大な力を持ってしまったようだ。
「俺の魔力も跳ね返される。そもそも治癒を防ぐ魔力なんて使えない」
「そんな……」
口を開けると先ほど咬まされたものが、するりと出て行った。あればルドルフの指だったのか。口に残る鉄錆の味にまた助けられていた事を知る。
僕も自分に出来る精一杯の事をしよう。
「ルドルフ様、僕の力でルルテラを抑え込みます」
「出来るか?」
「はい、やってみます」
僕は魔力を溜められるだけ溜めてお腹にいるルルテラの周りに結界を張ろうとした。けれど思ったより反発が強くなかなか思うようにいかない。
「ルルテラ、怖がらなくて大丈夫だよ」
そう話しながらお腹を撫でる。
「早く出ておいで。会いたいよ」
僕の声が聞こえたのか少し反発が弱まる。
どうにか結界を張り「今です」とノエルに合図をした。
しかし刃先が入るとルルテラは怯えて力を使おうとする。今にも破られそうな結界を僕は必死で守った。
お陰で痛みをあまり感じる事なく処置が進むのはとてもありがたいのだが。
お腹の次は子宮にナイフが入った。
ルルテラが驚き結界が壊れそうになる。
「早くして!」
ルルテラ!大丈夫だから、落ち着いて。
魔力を使い過ぎて意識が朦朧とするのを必死に堪え、一心に祈る。
ああ、今回の死因は魔力の枯渇かな。やっぱり僕が死ぬのは決定事項なんだ。でもルドルフとノエルがいるからきっと大丈夫。でも最後にルルテラの顔を見たかった。一度だけでも抱っこしたかった。
遠くにノエルの声が聞こえる。でもなにを言っているのか分からない。
そのうち僕の意識は薄れ深い深い眠りの渦に引き込まれた。
目が覚めた時、僕はふわふわと雲の中を揺蕩うように揺れていた。
……ここどこ?
白い天井、見慣れたシャンデリア。でもいつも以上に天井が近い。
見下ろすと僕が眠っている。
え?なんで?僕浮いてるの?
「やはり助ける事はできなかった」
悲痛なルドルフの声。その隣には呆然と立ち尽くすノエル。そして八雲の姿があった。
(八雲先生?!どうしてここに!)
懐かしさに近づこうとするが見えない膜でもあるかのように三人の側に行く事は出来ない。
「けれどルルテラは無事産まれました。きっとアリスの蘇生も上手くいきます。陛下始めましょう」
八雲がそう言うとルドルフは手に魔力を溜め始める。
(よかった!ルルテラは生まれたんだ)
「陛下、タイミングを合わせましょう。アリスに触れる直前に私の魔力を流します」
八雲もその手に魔力を込めた。
(ルルテラ産まれたんでしょ?もういいよ!またルドルフが死んじゃう!)
けれど僕の声は誰にも届かない。
ルドルフは僕に向かって魔力を放出し始めた。
魔力はどんどん大きくなっていく。このままじゃ……
「本当に弾かれないな。俺だけでは何回やってもアリスに魔力を移せなかったのに」
「本人の意思によるところもありますがやはり親和性の高い魔力を介在させると拒絶は出来ないようですね。私も陛下に聞くまで半信半疑でしたけど」
「それだけではない。この魔力の大きさ、さすが大魔術師メーニヒスの息子だな」
「……母は途中で尽きてしまったようですが」
「そうだな。一度目の生の時だ。そのお陰でこの方法を知った。感謝してる」
「何故その後お試しにならなかったんですか?」
「それだけの力を持った者と今までは出会えなかった」
「……最後だからこその出会いですかね、皮肉なもんです」
「最後?」
茫然としていたノエルがようやく口を開いた。
「ああ、言った通り俺は何度も死に戻って来た。今回が十回目だ」
「そして陛下の旅は十回で終わりなんですよ」
「どう言うことですか?」
「どんなに強い魔術師にも限界があると言うことだ」
「そんな……」
「初めてこいつを手放したお陰でやっと生き返らせることが出来たのは本当に皮肉だがな」
(最後?どう言うこと?また死に戻って次は別の僕と幸せになるって言ってたじゃないか!!)
全力で見えない膜を叩くがびくともしない。
「そろそろ意識が戻ると思います」
八雲が言う
「ああ。やっとだ。どうせなら最後に見るのはアリスの笑顔がいいな」
「怒られると思いますけど」
ノエルの声は震えていた。
「ノエル、長いこと悪かったな」
「なにがですか」
「お前らの気持ちを知ってたのに我慢させたことかな」
「……陛下、私は」
「もういい。俺が死んだらアリスと結婚してこの帝国の王になれ」
「荷が重過ぎます」
ノエルがそう言うとルドルフは唇の端で笑った。
「能ある鷹はと言うが、そろそろその実力を表に出してアリスとルルテラを助けてくれ」
「陛下!」
ルドルフの額には玉のような汗が吹き出し滴り落ちていく。明らかにキャパオーバーの状態なのに更に力を込めていた。
「八雲、そろそろお前の魔力を止めろ。もう大丈夫だ」
「いえ、まだ……」
「目が覚めた時お前の死体が転がってたらそれこそアリスに怒られる」
八雲は頷き黙って手を下ろす。
眠っている僕の頬に赤みがさしてきた。
蘇生が始まったんだ。
体全体がベッドにいる僕の所まで引っ張られる。そして重なった。
とても不思議な感触だ。
自然に瞼が開き目の前のルドルフと目が合った。もう彼の意識は殆どなかったが彼は薄く笑い、小さく息を吐いて「アリス、笑え」と呟く。
僕は涙を堪え彼に向かって精一杯にっこりと微笑んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
本編こちらで終了となります。
次回から分岐ルートでノエル編とルドルフ編に分かれますのでお好きな方をご覧下さい!
どっちが好き!なんてご感想頂けるとすごく嬉しいです!
ここまでご覧いただき本当にありがとうございました。
宜しければ続きもお楽しみ下さい♪
ルドルフの声が聞こえる。
「駄目だアリス。ルルテラの治癒能力が高過ぎてお前の傷が治ってしまう」
「え……」
僕を守ろうとしてるんだろうか。前生とは違い最終覚醒をした僕の魔力を吸って、大きく育った彼女は生まれる前から絶大な力を持ってしまったようだ。
「俺の魔力も跳ね返される。そもそも治癒を防ぐ魔力なんて使えない」
「そんな……」
口を開けると先ほど咬まされたものが、するりと出て行った。あればルドルフの指だったのか。口に残る鉄錆の味にまた助けられていた事を知る。
僕も自分に出来る精一杯の事をしよう。
「ルドルフ様、僕の力でルルテラを抑え込みます」
「出来るか?」
「はい、やってみます」
僕は魔力を溜められるだけ溜めてお腹にいるルルテラの周りに結界を張ろうとした。けれど思ったより反発が強くなかなか思うようにいかない。
「ルルテラ、怖がらなくて大丈夫だよ」
そう話しながらお腹を撫でる。
「早く出ておいで。会いたいよ」
僕の声が聞こえたのか少し反発が弱まる。
どうにか結界を張り「今です」とノエルに合図をした。
しかし刃先が入るとルルテラは怯えて力を使おうとする。今にも破られそうな結界を僕は必死で守った。
お陰で痛みをあまり感じる事なく処置が進むのはとてもありがたいのだが。
お腹の次は子宮にナイフが入った。
ルルテラが驚き結界が壊れそうになる。
「早くして!」
ルルテラ!大丈夫だから、落ち着いて。
魔力を使い過ぎて意識が朦朧とするのを必死に堪え、一心に祈る。
ああ、今回の死因は魔力の枯渇かな。やっぱり僕が死ぬのは決定事項なんだ。でもルドルフとノエルがいるからきっと大丈夫。でも最後にルルテラの顔を見たかった。一度だけでも抱っこしたかった。
遠くにノエルの声が聞こえる。でもなにを言っているのか分からない。
そのうち僕の意識は薄れ深い深い眠りの渦に引き込まれた。
目が覚めた時、僕はふわふわと雲の中を揺蕩うように揺れていた。
……ここどこ?
白い天井、見慣れたシャンデリア。でもいつも以上に天井が近い。
見下ろすと僕が眠っている。
え?なんで?僕浮いてるの?
「やはり助ける事はできなかった」
悲痛なルドルフの声。その隣には呆然と立ち尽くすノエル。そして八雲の姿があった。
(八雲先生?!どうしてここに!)
懐かしさに近づこうとするが見えない膜でもあるかのように三人の側に行く事は出来ない。
「けれどルルテラは無事産まれました。きっとアリスの蘇生も上手くいきます。陛下始めましょう」
八雲がそう言うとルドルフは手に魔力を溜め始める。
(よかった!ルルテラは生まれたんだ)
「陛下、タイミングを合わせましょう。アリスに触れる直前に私の魔力を流します」
八雲もその手に魔力を込めた。
(ルルテラ産まれたんでしょ?もういいよ!またルドルフが死んじゃう!)
けれど僕の声は誰にも届かない。
ルドルフは僕に向かって魔力を放出し始めた。
魔力はどんどん大きくなっていく。このままじゃ……
「本当に弾かれないな。俺だけでは何回やってもアリスに魔力を移せなかったのに」
「本人の意思によるところもありますがやはり親和性の高い魔力を介在させると拒絶は出来ないようですね。私も陛下に聞くまで半信半疑でしたけど」
「それだけではない。この魔力の大きさ、さすが大魔術師メーニヒスの息子だな」
「……母は途中で尽きてしまったようですが」
「そうだな。一度目の生の時だ。そのお陰でこの方法を知った。感謝してる」
「何故その後お試しにならなかったんですか?」
「それだけの力を持った者と今までは出会えなかった」
「……最後だからこその出会いですかね、皮肉なもんです」
「最後?」
茫然としていたノエルがようやく口を開いた。
「ああ、言った通り俺は何度も死に戻って来た。今回が十回目だ」
「そして陛下の旅は十回で終わりなんですよ」
「どう言うことですか?」
「どんなに強い魔術師にも限界があると言うことだ」
「そんな……」
「初めてこいつを手放したお陰でやっと生き返らせることが出来たのは本当に皮肉だがな」
(最後?どう言うこと?また死に戻って次は別の僕と幸せになるって言ってたじゃないか!!)
全力で見えない膜を叩くがびくともしない。
「そろそろ意識が戻ると思います」
八雲が言う
「ああ。やっとだ。どうせなら最後に見るのはアリスの笑顔がいいな」
「怒られると思いますけど」
ノエルの声は震えていた。
「ノエル、長いこと悪かったな」
「なにがですか」
「お前らの気持ちを知ってたのに我慢させたことかな」
「……陛下、私は」
「もういい。俺が死んだらアリスと結婚してこの帝国の王になれ」
「荷が重過ぎます」
ノエルがそう言うとルドルフは唇の端で笑った。
「能ある鷹はと言うが、そろそろその実力を表に出してアリスとルルテラを助けてくれ」
「陛下!」
ルドルフの額には玉のような汗が吹き出し滴り落ちていく。明らかにキャパオーバーの状態なのに更に力を込めていた。
「八雲、そろそろお前の魔力を止めろ。もう大丈夫だ」
「いえ、まだ……」
「目が覚めた時お前の死体が転がってたらそれこそアリスに怒られる」
八雲は頷き黙って手を下ろす。
眠っている僕の頬に赤みがさしてきた。
蘇生が始まったんだ。
体全体がベッドにいる僕の所まで引っ張られる。そして重なった。
とても不思議な感触だ。
自然に瞼が開き目の前のルドルフと目が合った。もう彼の意識は殆どなかったが彼は薄く笑い、小さく息を吐いて「アリス、笑え」と呟く。
僕は涙を堪え彼に向かって精一杯にっこりと微笑んだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
本編こちらで終了となります。
次回から分岐ルートでノエル編とルドルフ編に分かれますのでお好きな方をご覧下さい!
どっちが好き!なんてご感想頂けるとすごく嬉しいです!
ここまでご覧いただき本当にありがとうございました。
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