【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy

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★本編★

出会い

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楽な服に着替えてベッドに横になった僕の側には、今までずっと部屋の外で警護していたノエルがいる。

「陛下に許可を頂きました。苦い顔をされていましたが身重の皇后様の要望であれば致し方ないと」

そう、ノエルはやっと普通の護衛騎士らしく部屋の中で僕を守れるようになったのだ。

「陛下はしばらく帰れないの?」
「はい。相手の出方次第では戦争も辞さないと息巻いて隣国に出向かれたので」

先程のナイフの件はルドルフにまだ話していない。それどころではない事態が発生したのだ。いや、ナイフも大ごとなんだけど。

「本当にカデナ国の王もどうかしてしまったんでしょうかね。大陸でも飛び抜けて貧しく領土も小さいのに従属の条件にあんなとんでもない事を言い出すなんて」
「そうだよね。自国の皇女を陛下の側室に……だっけ?」
「違いますよ!我が国の皇后に、ですよ!」
「え?僕がいるのに?」
「代わりに我がクラウド国の皇后であるアリス様をカデナ国の皇后に迎えたいと」
「え???」

代わりってなに?バカじゃない?

「アリス皇后様がお産みになるお子様はカデナで育てたいそうです」

え?もう一回言うけど本当にバカじゃない?

「陛下は大変お怒りでしたが向こうも全く引かないのでカデナの他の皇族とも話し合いが必要になり急遽陛下が出立されたのです」

「しばらく帰れそうにないね」
「それもありノエル様がお部屋の中で皇后様を守る事を許可されたんですよ」
「カデナが何か企んでるかもしれないって事だよね」
「左様です。ノエル様は全面的に信頼しておりますが念の為、他にも宮廷騎士を皇后様の護衛に付けますので外出はしばらく控えて頂けますとありがたいです」
「分かったよ」

じゃああのナイフはカデナの仕業?でも僕を自国に連れて帰りたいなら殺しちゃダメだよね。

「皇后様、しばらくご不便をおかけしますが堪えて下さい。私もお側におりますので」
「うん。こちらこそごめんね」

……実はアーロンにも先程のナイフの話はしていない。言ってしまったらたちまちルドルフに伝わり苛立った彼は和平交渉をぶち壊して戻って来てしまうだろうから。

「なるべく戦争にならないといいね」

ノエルの顔が心持ち暗い。
ソードマスターの彼は護衛騎士になる前に幾つか戦争を経験している。その悲惨さは身をもって知っているだろう。

「……大丈夫です。今の陛下ならそうはならないと信じてます。それにもし戦争が起こっても皇后様にはかすり傷一つ付けさせません」
「うん。お願いします」

本当なら一緒に戦うと言いたいけれど。
僕は自分の中のかけがえの無い宝物を両手でそっと抱きしめた。







それからニ週間経ってもルドルフは戻って来なかった。彼が変わったと言うのは本当だったようだ。戦争にならないようにカデナの要望を撤回させようと粘り強く交渉しているらしい。

僕の周りでもあれから不穏な事は起きず平和に時間が流れている。部屋とせいぜい中庭くらいしか行けない日々が続いているが致し方ない。
そんな中でたまに遊びに来てくれるリカルドとナツの存在はとても貴重だった。

「あれ?お前また痩せたんじゃね?」
「そう?前よりすごくたくさん食べてるんだけどな」

リカルドは言い方は乱暴だけどいつも僕の事を心配をしてくれる。

「そうですね。痩せられましたし魔力も少し弱まっているようですがこれも子供の影響でしょうかね?」
「やはり司祭様ですね」
「まあ私自身、魔力はないんですが魔力の大きさくらいなら」

ナツの言う通り、さすが女神様と言うだけの事はあり、ルルテラは僕の魔力をどんどん吸って大きくなっている。お陰で体力を奪われる為、いくら食べても太らない。

「陛下はまだ戻らないのかよ」
「そうなんだよ」
「ご心配でしょうね」
「まあノエルもいるしな!頑張れよ」
「はい」

ぞんざいな態度にノエルも苦笑いだ。これがいずれナツの後を継いでこの町の司祭になるのだから先が思いやられる。


「せっかくなので今夜は皆様でお食事をなさるのはどうでしょう」
「お!いいのか?たまには美味いもん食いたかったんだよなあ」
「リカルド!ひもじい思いさせてるみたいじゃないですか。おやめなさい」
「だってさ、ナツさん。ご飯はほとんど野菜じゃん」

そんな二人のやり取りに和やかな雰囲気が流れる。皆で一緒に暮らしてたあの頃が昨日のことのように思い出された。
けれどそんな風に思うたびに思い出すのは八雲の事だ。

「八雲にも会いたい」
「そうだよな。また戻って来るって言ってたけど何の連絡もないんだよな」

リカルドもしんみりする。
何かに巻き込まれたりしてないだろうか。元気でいれば良いんだけど。
でももっと一緒にいて色々と教えて貰いたかった。

「またひょこっと帰って来るよ」
「そうだね。その時は僕も会いたがってるって言っておいて」
「分かった」

その後僕たちは夕食を共にし、昔話に花を咲かせた。





「気をつけてね」

食事も終わりアーロン、ノエルと共にリカルドとナツを裏庭まで見送った。僕はここから先には行けないので手塩にかけて育てた薔薇のアーチの下で別れを惜しむ。

「近いうちにまた来るからあんまり思い詰めんなよ」
「うん、ありがとう。待ってる」

手を振る二人が見えなくなるまで僕たちは彼らを見送った。

「では戻りましょうか皇后様」

そう言ってアーロンが振り向いた途端にノエルがぴくりと体を揺らした。

「お二人は先に戻って下さい」
「え?でも」
「早く!!」

アーロンが僕の手を引き走り出すと、ノエルは反対方向に駆け出した。
舌を噛まないように口を噤んで屋敷の入り口を目指していると突然アーロンがうっと呻いて倒れるように転んだ。

「アーロン?!」

しゃがんで様子を見ると首筋に細い矢のような物が刺さり、意識を失っている。毒?いや、匂いがしない。睡眠薬か。

「アーロン!目を覚まして!」

必死に助け起こそうとするが小柄な僕ではアーロンは運べない。何とかしようと長い腕を引っ張っていると後ろから誰かが僕を乱暴に抱きしめた。

「だれ?!やめて!」

振り向こうとするが強い力で抱きすくめられ、もがいてもびくともしない。

「静かに。アリス」

耳元で囁かれ全身に鳥肌が走る。

「やめろ!」
「噂に違わず美しいね」
「誰だよ!」

顔を見てやろうと振り向くが強く拘束されていて敵わない。一瞬だけ金糸の煌めきを感じだが髪の色だろうか。

「僕は君の夫になる男だよ」
「は?!」

何馬鹿な事をと思うが、ふと先程のアーロンの言葉を思い出した。

ーカデナの王が皇后陛下を自国の皇后にとー

「貴方はもしやカデナの王族?」

僕がそう口にした途端、クスッと笑った男は拘束を解き、初めて顔を見せた。

「初めまして。カデナの時期国王ドナテラと申します」

優雅にお辞儀をした男は金の髪に白い肌。そしてどこかで見た事のある不遜な金色の目をしていた。

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