【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy

文字の大きさ
上 下
41 / 62
★本編★

アデリン

しおりを挟む
 兎に餌をやっていると次々に他の動物が寄ってきた。
 リスにモルモット、それにキツネまで。

「本当にいいところだね」
「城の使用人達が餌をやっているうちにどんどん増えてきたんですよ」
「ずっと来たかったから嬉しいよ」
「良かったです。実は皇后様がいらっしゃらない間、陛下が大変荒れた時期がありまして」
「え?」
「この森を燃やそうとされたのを阻止したんです」


 やはり森が焼け野原になる可能性はあったんだ。

「けれど皇后様が戻った時悲しまれるとお伝えしたところ思い止まられたんです」

 ……本当に良かった。
 なにを考えてるんだ全く。

「皇后様、貴方が陛下の唯一の歯止めです。どうぞ末永く共にいらして下さい」
「……そうだね。あ!鹿も来たよ」

 出来ない約束の気まずさに僕はわざと話題を変える。
 しばらく経ったところでアデリンが僕たちを呼ぶ声がした。

「お茶の支度が出来たようです。戻りましょう」
「うん……ねえアデリンは凄く綺麗で上品だね」
「はい、男爵家のご令嬢ですから」
「やっぱり!」
「それに陛下がわざわざご自身で選ばれたノエル様の婚約者でもありますので」
「えっ」

 ノエルの婚約者?

「お聞きになっておられませんでしたか?」
「聞いてなかった。僕に言うの恥ずかしかったのかな?」

 ははと笑う僕に多分そうですよとアーロンは答える。
 分かっていた事だ。これでいいんだ。



「本日は皇后様のお好きな桃のタルトです」

 アデリンはそう言って微笑みながら僕に椅子を引いてくれた。

 この人ならきっとノエルと幸せになれる。

「ありがとう」





 けれど大好きなタルトはいつもより酸っぱくて上手く喉を通らなかった。








「まだ起きてたのか」

 ルドルフが久しぶりに僕の寝室に顔を出した。

「はい。考え事をしていたらこんな時間になってしまいました」
「なにを考えていた?」

 ルドルフがギシリとベッドを軋ませ上掛けの上に腰掛ける。僕は僅かに体を引いた。

「なにも」
「嘘をつくな。ノエルの事だろう」

 僕の沈黙を肯定と受け取ったのかルドルフは言葉を続けた。

「アデリンにも会ったか?いい女だろう?人畜無害でお前に危害を加えなさそうだ」
「はあ」
「ノエルを生かしておいてやるから二度とあいつに触れるな」

 恐らく花火の夜の事を言っているんだろう。

「分かってます」

 僕のためにノエルを生かしてるんじゃない。僕を殺すために必要だから、それだけだ。

「大人しくしてたら森もそのままにしておいてやる」

 ……ああ、焼き払おうとしたのはあの時か。

「大丈夫です。どこにも行きません。ずっと陛下の側にいます」

 ……ルルテラを身籠るまでは。

 ルドルフの指が髪に触れる。サラサラとした感触を楽しんでいると思ったらグイと引き寄せられた。

 この人の体が暖かくて心臓の音がするなんて不思議だな。人間みたいだ。

 そんな事をぼんやり考えながら僕はされるがままになっていた。







 翌日からアーロンの代わりにメイド達が僕の身の回りの世話をしてくれることになった。アデリンを筆頭に全部で三名。
 アーロンは元々の職であるルドルフ付きの宰相に戻る。心細かったけどわがままは言えない。

「皇后様、何かあればすぐ飛んできますのでいつでもお呼び下さいね」

 そう言って名残惜しげに去っていくアーロン。彼にこれ以上心配をかけるわけにはいかない。しっかりしよう。

「あっ!」

 そう決めた矢先、何かに躓いて派手に転んでしまった。もう少しで大きなテーブルに頭をぶつけるところだった。

「皇后様大丈夫ですか?」

 アデリンが手を貸してくれる。恥ずかしい思いをしながらお礼を言って立ち上がった。
 おかしいな?躓くような物なんて無いんだけど。

「皇后様お茶を淹れましたのでどうぞ」
「ありがとう」

 ソファに座りいい香りのお茶を一口飲んだ。何だろう。酸味?炭酸みたいにピリピリする。

「アデリンこのお茶は?」
「今日買ってきた物なんですよ。如何です?」
「うん、まあ。変わってて面白いね」

 痺れる舌を誤魔化そうとクッキーを手に取った。けれど上手く指が動かない。

「??」
「あらもう効いてきたんですね」

 アデリンが僕を見下ろしてにっこり笑う。

「な……?」
「毒です。死んだ後は体内から消えるんですって。だから毒殺されたとバレないの」

 何言ってるんだ?どうして?

「転んで頭を打って死んでくれたらその方が良かったけど。せっかく足を引っ掛けたのにタイミングが早すぎたわ。私ノエル様と結婚するんです。でもノエル様は二人きりになってもあなたの話しかしないの。このままじゃいつまでも彼は私のものにならない」

 言ってやりたい事は沢山あるのに舌がもつれて言葉が出て来ない。

「早く居なくなって。私達の幸せの為に」

 ああ目も霞んできた。こんな所で死ぬわけにいかないのに。
 ……薄れていく意識の中で遠く叫び声が聞こえた。アデリンの声?

「アリス様!!!」

 強く揺さぶられて目を開けるとノエルが真っ青な顔で僕を抱えている。

「アリス様!すぐ医者と治癒が使える魔術師が来ますから目を閉じないで!」

 治癒?そんなの僕だって使える……そんな事をぼんやり思い、ふと自分に治癒を使う事を思いついた。
 お腹に力を溜めてから震える手で自分の喉から胃にかけてゆっくり撫でる。
 そのうち体が暖かくなり少し意識がはっきりしてきた。

「ノエル……」
「アリス様!」

 ノエルが僕を思い切り抱きしめた。爽やかな体臭が鼻をくすぐり何故だか泣きたくなった。

「アデリンが……」
「はい、捕縛してます。兵士に引き渡して裁判にかけますから」
「でもノエルの……」
「とっくに断ってます。あなたじゃ無いなら誰もいりません。もう二度と私の前からいなくならないで下さい」
「ノエル……」

 止まらない涙は毒の後遺症に違いない。
 


治癒は聞き始めていたが僕は医者が来るまでずっとノエルの腕の中で動けないでいた。




しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...