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★本編★
森の散歩
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昨夜の事は本当に夢の話だったのかルドルフに聞けないまま夜が明けてしまった。
忘れろと言ったきり自分はさっさと布団に潜って寝てしまった彼は、日が昇る前に寝たふりをしている僕を置いて出て行った。
「おはようございます皇后様」
「アーロンまたそんな呼び方。アリスって呼んでよ」
「そんなわけにはいきません。名実共に皇后になられたんですから。取り敢えず医師を呼んでおりますので診てもらって下さい」
え?それってつまり。いや、名はともかく実の方はまだなんですけど。
そんな戸惑いなどお構いなしに宮廷医が僕を診察しようとグイグイ来る。
「皇后様痛いところはありませんか?大丈夫、最初は皆そうですからね。お子を授かる大事なところが傷ついてないか診せて下さい」
「ぎゃー!!やだっ!!」
剥がされそうになる上掛けを手繰り寄せ必死に抵抗するが助けてくれるはずのアーロンも今は敵だ。
激しい攻防戦を繰り広げ、最終的にこんなに元気なら大丈夫だろうという結論に達したようで医者は部屋を出て行った。
「ではお食事を用意しましょうか?」
「いや、まだいらない」
「そうですか。ではゆっくりお休み下さい」
ちょっとにやにや顔のアーロンが出ていくと部屋はすっかり静かになった。一人きりの空間で思い出すのはやはり昨日のルドルフの言葉だ。
「僕と同じやり直しをしてると考える方が自然だよな。そう思うとあんなに僕への対応が変わった理由も説明がつく。ルドルフも後悔してるんだろうか」
その後悔は僕のこと?それともルルテラのこと?
ひとまず何も知らないふりをして過ごそう。もし何かを企んでいたらルルテラと会うのを邪魔されるかもしれない。
そんな事を考えているうちにいつの間にかまたトロトロと眠りの中に落ちてしまった。
「アリス様、お食事ですよ!」
「?!」
思いがけず深く眠っていたようでアーロンの声に飛び起きた。動悸が激しい。心臓が止まったらどうしてくれるんだ。
「もう夕方ですよ。食欲がないなら果物だけでもどうですか?」
「うん。頂きます」
喉が渇いていたからか、皿いっぱいに盛られた宝石のような果実はとても美味しかった。あっという間に平らげアーロンを安堵させる。
「皇后様、体調がよろしければですが、明日は城の裏手にある森に行ってみませんか?」
「え?いいの?行きたい」
「では今夜は早めにお休みになって下さい」
「分かった」
婚約式で滞在していた時に聞いたその森は、前生だと僕が十七の時には既に焼け野原だったから今生でも見る事が出来ないと思ってた。
動物がいっぱいいるって言ってたな。餌になるもの持っていこう。そんな事を考えると少し気が紛れた。
ルドルフは今日もここに来るのかな?
そんな事を思いながら僕はまたいつの間にかぐっすりと眠ってしまっていた。
翌日、僕を迎えにきたアーロンは手に野菜やナッツを沢山入れたバスケットを持っていた。その横には見慣れないメイドが立っていて僕を見るなり深々とお辞儀をする。
「皇后様、本日から皇后様の身の回りの世話をするメイドです」
「アデリンと申します。皇后様にご挨拶申し上げます」
「これから宜しくね」
「誠心誠意お仕え致します」
金髪に青い目のお人形さんみたいに可愛い子だ。メイドにしておくには勿体無い綺麗な所作の彼女は恐らくどこかの貴族の娘だろう。
「では参りましょうか。護衛のノエル様が庭でお待ちですよ」
ドクンと心臓が音を立てた。
その音は庭に出て彼の姿を見るともっと大きくなる。
「おはようございます。皇后陛下」
長い銀の髪を高い位置で無造作に縛り、白い騎士服に腰には陛下から賜った神剣を差している。皇室騎士団に入ったノエルはソードマスターの名を持つことから騎士団内でも一目置かれていると聞いた。
「おはようノエル」
僕変な顔してないかな。髪ちゃんと梳かしたっけ。そんな気恥ずかしさを感じるほど今日も彼の美貌は完璧だった。
「では行きましょうか!」
アーロンの掛け声を合図に皆で森に向かう。僕は先を歩くノエルの後ろ姿をこっそり盗み見しながら秋の気配を見せる木々の間を歩いた。
「あっ!うさぎ!」
森に入ると早速親子の兎がこちらの様子を伺っている。アーロンはバスケットから色鮮やかな野菜のスティックを取り出して動物の気を引いた。
バスケットには人間用にクッキーやお茶の道具も入っていてアデリンがせっせと支度をしている。その時、手を滑らせて落としそうになったカップを横にいたノエルが受け止めた。
アデリンがお礼でも言ったのだろうか。それを聞いてノエルが頷いて微笑む。二人は知り合いのようで気やすく言葉を交わしていた。
……気にする権利はない。
僕は本当に嫌な奴だな。
そう思いながらもお似合いの二人から目が離せなくて僕の心は鉛を飲んだように重くなっていく。
「皇后様どうされました?」
「……何でもないよ!僕も兎にご飯あげたい」
「どうぞ。人参が大人気で取り合いですよ」
「本当?」
わざと大袈裟にはしゃぎ僕は彼らに背を向けた。
忘れろと言ったきり自分はさっさと布団に潜って寝てしまった彼は、日が昇る前に寝たふりをしている僕を置いて出て行った。
「おはようございます皇后様」
「アーロンまたそんな呼び方。アリスって呼んでよ」
「そんなわけにはいきません。名実共に皇后になられたんですから。取り敢えず医師を呼んでおりますので診てもらって下さい」
え?それってつまり。いや、名はともかく実の方はまだなんですけど。
そんな戸惑いなどお構いなしに宮廷医が僕を診察しようとグイグイ来る。
「皇后様痛いところはありませんか?大丈夫、最初は皆そうですからね。お子を授かる大事なところが傷ついてないか診せて下さい」
「ぎゃー!!やだっ!!」
剥がされそうになる上掛けを手繰り寄せ必死に抵抗するが助けてくれるはずのアーロンも今は敵だ。
激しい攻防戦を繰り広げ、最終的にこんなに元気なら大丈夫だろうという結論に達したようで医者は部屋を出て行った。
「ではお食事を用意しましょうか?」
「いや、まだいらない」
「そうですか。ではゆっくりお休み下さい」
ちょっとにやにや顔のアーロンが出ていくと部屋はすっかり静かになった。一人きりの空間で思い出すのはやはり昨日のルドルフの言葉だ。
「僕と同じやり直しをしてると考える方が自然だよな。そう思うとあんなに僕への対応が変わった理由も説明がつく。ルドルフも後悔してるんだろうか」
その後悔は僕のこと?それともルルテラのこと?
ひとまず何も知らないふりをして過ごそう。もし何かを企んでいたらルルテラと会うのを邪魔されるかもしれない。
そんな事を考えているうちにいつの間にかまたトロトロと眠りの中に落ちてしまった。
「アリス様、お食事ですよ!」
「?!」
思いがけず深く眠っていたようでアーロンの声に飛び起きた。動悸が激しい。心臓が止まったらどうしてくれるんだ。
「もう夕方ですよ。食欲がないなら果物だけでもどうですか?」
「うん。頂きます」
喉が渇いていたからか、皿いっぱいに盛られた宝石のような果実はとても美味しかった。あっという間に平らげアーロンを安堵させる。
「皇后様、体調がよろしければですが、明日は城の裏手にある森に行ってみませんか?」
「え?いいの?行きたい」
「では今夜は早めにお休みになって下さい」
「分かった」
婚約式で滞在していた時に聞いたその森は、前生だと僕が十七の時には既に焼け野原だったから今生でも見る事が出来ないと思ってた。
動物がいっぱいいるって言ってたな。餌になるもの持っていこう。そんな事を考えると少し気が紛れた。
ルドルフは今日もここに来るのかな?
そんな事を思いながら僕はまたいつの間にかぐっすりと眠ってしまっていた。
翌日、僕を迎えにきたアーロンは手に野菜やナッツを沢山入れたバスケットを持っていた。その横には見慣れないメイドが立っていて僕を見るなり深々とお辞儀をする。
「皇后様、本日から皇后様の身の回りの世話をするメイドです」
「アデリンと申します。皇后様にご挨拶申し上げます」
「これから宜しくね」
「誠心誠意お仕え致します」
金髪に青い目のお人形さんみたいに可愛い子だ。メイドにしておくには勿体無い綺麗な所作の彼女は恐らくどこかの貴族の娘だろう。
「では参りましょうか。護衛のノエル様が庭でお待ちですよ」
ドクンと心臓が音を立てた。
その音は庭に出て彼の姿を見るともっと大きくなる。
「おはようございます。皇后陛下」
長い銀の髪を高い位置で無造作に縛り、白い騎士服に腰には陛下から賜った神剣を差している。皇室騎士団に入ったノエルはソードマスターの名を持つことから騎士団内でも一目置かれていると聞いた。
「おはようノエル」
僕変な顔してないかな。髪ちゃんと梳かしたっけ。そんな気恥ずかしさを感じるほど今日も彼の美貌は完璧だった。
「では行きましょうか!」
アーロンの掛け声を合図に皆で森に向かう。僕は先を歩くノエルの後ろ姿をこっそり盗み見しながら秋の気配を見せる木々の間を歩いた。
「あっ!うさぎ!」
森に入ると早速親子の兎がこちらの様子を伺っている。アーロンはバスケットから色鮮やかな野菜のスティックを取り出して動物の気を引いた。
バスケットには人間用にクッキーやお茶の道具も入っていてアデリンがせっせと支度をしている。その時、手を滑らせて落としそうになったカップを横にいたノエルが受け止めた。
アデリンがお礼でも言ったのだろうか。それを聞いてノエルが頷いて微笑む。二人は知り合いのようで気やすく言葉を交わしていた。
……気にする権利はない。
僕は本当に嫌な奴だな。
そう思いながらもお似合いの二人から目が離せなくて僕の心は鉛を飲んだように重くなっていく。
「皇后様どうされました?」
「……何でもないよ!僕も兎にご飯あげたい」
「どうぞ。人参が大人気で取り合いですよ」
「本当?」
わざと大袈裟にはしゃぎ僕は彼らに背を向けた。
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