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★本編★
約束
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王宮を出てからいくつもの季節が巡り、気付いたら僕は十六になっていた。
教会で奉仕をしながら引き続き八雲に魔術を教わり、国内で最年少の魔術師としてそこそこ名前も知られるようになった。
リカルドは司祭の道を選んでナツの側で修行中だしノエルはソードマスターの腕を買われ魔獣や盗賊の討伐に駆り出されている。
ルドルフとは城を出て以来会っていない。彼の事だから何かにつけ僕を呼び出すのではと思っていたが杞憂だった。外せないネックレスは相変わらずこの胸にあるけれど。
「アリス、もう大丈夫なようだから食事にしようか」
「はい八雲先生」
教会で掃除や洗濯をして治癒を求めて来る人を癒し食事に感謝して一日が終わる。前生では経験出来なかった事ばかりだ。
「お疲れ!先生!アリス!メシ出来てるぞ」
「ありがとう。美味しそうだ」
いつも元気なリカルドに促され食事の席に着いた。女神フローレンスに祈りを捧げて早速頂く。
「わあ!このスープ美味しいね」
「だろ?野菜の屑を捨てずに煮込んでブイヨンにしたんだ。二人のおかげで街の人から沢山差し入れを貰えるから助かるよ」
教会での治癒はお金は取らない。その代わり皆が畑で採れた野菜や肉、魚、卵なんかを持って来てくれる。どれも気持ちが込もっていて余計美味しく感じられた。
「兄さんはすっかりこの教会の人だね。いつか公爵邸に戻って爵位を継ぐ物だと思ってたけど」
「あーそうだな。考えた事もあったけどな」
結局公爵一家に下された処罰は爵位剥奪の上身分を平民とする事だった。処刑は免れたものの、あのプライドの高い一家にとってそれが良かったのかは分からない。ただ父親はショックで酒浸りになりバクロが働いて一家を支えているとの噂は聞いた。どちらにしても彼等は二度と公爵邸には戻れないのだ。
「屋敷はお前さえよけりゃ売っ払って教会の補修にでも当てりゃいいかなあって思ってる」
「僕は構わないよ。長男の兄さんが決めたらいい。もし手放すならまだ屋敷を守ってくれている使用人達の事は考えなきゃね」
主の居ない屋敷を守るのは並大抵のことではないだろう。今はベスが侍女頭となり努めてくれているけれど。
「ベスももう歳だからな。まあベスにも相談してみるわ」
「うん」
僕だけじゃなく周りも歳を重ねどんどん変わって行く。
状況も、そして人の気持ちも……
ノエルの僕に対する態度もこの一年程で少しずつ変わっていった。
ただ守り支えるのではなく共に生きたいと願うように。
けれど彼は僕に何も望まない。
応えられないのが分かっているからだろうか。
けれど僕は十も年上の彼が見せる子供のような笑顔に、いつの間にかそわそわと落ち着かない気持ちを覚えるようになっていた。
そしてそんなことあってはならないとその度に自分を戒める。
「あ、ノエルおかえり!」
「戻りました」
その声にドキリとしてスプーンを落としそうになり慌てた。
「どうだった?東の森に隠れてた野盗」
「全て潰して王宮騎士団に引き渡しました」
「さすがソードマスターだな!!今日はリカルド様特製の野菜スープが絶品だぞ!早く食べろ」
「ありがとうございます。アリス様、今日はどうでしたか?」
皿を受け取りながら慣例のように僕に問う。
「いつも通りだよ。ノエルこそ最近討伐依頼が多いね。怪我しないように気をつけてね」
「はい」
ニコッと笑ってスープを口に運ぶ姿に僕は敢えて視線を外し食事に集中した。
皿を洗う僕の横にノエルが来た。
そして僕の洗いかけの食器を取り上げ自分の分と一緒に洗おうとする。
「何してんの。いいから僕が洗うよ」
「大丈夫です。アリス様は休んで下さい」
「そんな甘やかさないでいいから」
「貴方の手が荒れるのを見るのは嫌です」
何を言ってるんだ。本当にこの人は。
「ところでアリス様。街の夏祭りの事ですが」
「夏祭りがどうかした?」
「今年は皆ではなく二人で行きませんか」
「え?」
僕に背中を向けたまま少し早口でそう言うノエルの耳は筆で刷いたように淡く染まっていた。
「……いいよ」
どうせ今年で最後だ。来年になれば僕は城に戻る。そしてルドルフと結婚するんだ。
「花火見ましょうね」
「うん」
「お店も回って。あ、リカルドに夕食は要らないと伝えないと」
「そうだね」
半年も先なのに明日の事のように計画を立てる。この話をする為にどれほど勇気を塗り絞っただろう。
「楽しみだね」
五年前と同じセリフを同じ人に言う。
「私もです。アリス様」
同じセリフが返ってくる。
けれど昔とは違うことに僕は知らないふりをした。
教会で奉仕をしながら引き続き八雲に魔術を教わり、国内で最年少の魔術師としてそこそこ名前も知られるようになった。
リカルドは司祭の道を選んでナツの側で修行中だしノエルはソードマスターの腕を買われ魔獣や盗賊の討伐に駆り出されている。
ルドルフとは城を出て以来会っていない。彼の事だから何かにつけ僕を呼び出すのではと思っていたが杞憂だった。外せないネックレスは相変わらずこの胸にあるけれど。
「アリス、もう大丈夫なようだから食事にしようか」
「はい八雲先生」
教会で掃除や洗濯をして治癒を求めて来る人を癒し食事に感謝して一日が終わる。前生では経験出来なかった事ばかりだ。
「お疲れ!先生!アリス!メシ出来てるぞ」
「ありがとう。美味しそうだ」
いつも元気なリカルドに促され食事の席に着いた。女神フローレンスに祈りを捧げて早速頂く。
「わあ!このスープ美味しいね」
「だろ?野菜の屑を捨てずに煮込んでブイヨンにしたんだ。二人のおかげで街の人から沢山差し入れを貰えるから助かるよ」
教会での治癒はお金は取らない。その代わり皆が畑で採れた野菜や肉、魚、卵なんかを持って来てくれる。どれも気持ちが込もっていて余計美味しく感じられた。
「兄さんはすっかりこの教会の人だね。いつか公爵邸に戻って爵位を継ぐ物だと思ってたけど」
「あーそうだな。考えた事もあったけどな」
結局公爵一家に下された処罰は爵位剥奪の上身分を平民とする事だった。処刑は免れたものの、あのプライドの高い一家にとってそれが良かったのかは分からない。ただ父親はショックで酒浸りになりバクロが働いて一家を支えているとの噂は聞いた。どちらにしても彼等は二度と公爵邸には戻れないのだ。
「屋敷はお前さえよけりゃ売っ払って教会の補修にでも当てりゃいいかなあって思ってる」
「僕は構わないよ。長男の兄さんが決めたらいい。もし手放すならまだ屋敷を守ってくれている使用人達の事は考えなきゃね」
主の居ない屋敷を守るのは並大抵のことではないだろう。今はベスが侍女頭となり努めてくれているけれど。
「ベスももう歳だからな。まあベスにも相談してみるわ」
「うん」
僕だけじゃなく周りも歳を重ねどんどん変わって行く。
状況も、そして人の気持ちも……
ノエルの僕に対する態度もこの一年程で少しずつ変わっていった。
ただ守り支えるのではなく共に生きたいと願うように。
けれど彼は僕に何も望まない。
応えられないのが分かっているからだろうか。
けれど僕は十も年上の彼が見せる子供のような笑顔に、いつの間にかそわそわと落ち着かない気持ちを覚えるようになっていた。
そしてそんなことあってはならないとその度に自分を戒める。
「あ、ノエルおかえり!」
「戻りました」
その声にドキリとしてスプーンを落としそうになり慌てた。
「どうだった?東の森に隠れてた野盗」
「全て潰して王宮騎士団に引き渡しました」
「さすがソードマスターだな!!今日はリカルド様特製の野菜スープが絶品だぞ!早く食べろ」
「ありがとうございます。アリス様、今日はどうでしたか?」
皿を受け取りながら慣例のように僕に問う。
「いつも通りだよ。ノエルこそ最近討伐依頼が多いね。怪我しないように気をつけてね」
「はい」
ニコッと笑ってスープを口に運ぶ姿に僕は敢えて視線を外し食事に集中した。
皿を洗う僕の横にノエルが来た。
そして僕の洗いかけの食器を取り上げ自分の分と一緒に洗おうとする。
「何してんの。いいから僕が洗うよ」
「大丈夫です。アリス様は休んで下さい」
「そんな甘やかさないでいいから」
「貴方の手が荒れるのを見るのは嫌です」
何を言ってるんだ。本当にこの人は。
「ところでアリス様。街の夏祭りの事ですが」
「夏祭りがどうかした?」
「今年は皆ではなく二人で行きませんか」
「え?」
僕に背中を向けたまま少し早口でそう言うノエルの耳は筆で刷いたように淡く染まっていた。
「……いいよ」
どうせ今年で最後だ。来年になれば僕は城に戻る。そしてルドルフと結婚するんだ。
「花火見ましょうね」
「うん」
「お店も回って。あ、リカルドに夕食は要らないと伝えないと」
「そうだね」
半年も先なのに明日の事のように計画を立てる。この話をする為にどれほど勇気を塗り絞っただろう。
「楽しみだね」
五年前と同じセリフを同じ人に言う。
「私もです。アリス様」
同じセリフが返ってくる。
けれど昔とは違うことに僕は知らないふりをした。
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