【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy

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★本編★

過去の思い出

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「わあ!アリスは王にすごいお土産をもらって来たねえ」

 教会に着くなり出迎えてくれた八雲がそう言って笑った。

「どう言う意味?」
「アリスのネックレスはとても強い防御魔法がかかってる。自分の望まない相手に触れられた時だけ発動する奴だ。そして宝石の中の水はルドルフ王の目になっていてどんなに離れていてもアリスと同じものを見られる」
「ええっ?じゃあさっきの騒ぎも……」
「何か面白い事があったのかい?まあ彼は全部お見通しだね」
「あー」

 先程の光景を見て舌打ちしているルドルフが目に浮かぶ。せめて処刑だけは免れるようにアーロンに手紙を書かなくては。

「お前いま公爵の命乞いをしようと思ってるだろ」
「えっ、何でわかったの」

 リカルドは妙なところで鋭い。

「そりゃお前の顔見てたら分かるわ。何でだ?憎く無いのかよ」
「憎いけど死んで欲しい訳じゃない。きちんと心から反省して欲しいんだ。ましてや僕が原因で死ぬなんてもう嫌だよ」
「あいつらが心から反省なんてする訳ないだろ」
「そうかもしれないけど……」

 ルドルフは害をなす人間や死んだ方が都合のいい相手を容赦なく殺す。その背景にどんな事情があっても相手の真意がどうでも関係ない。それが彼の解決方法だ。


 そんなふうに殺された僕は多分自分を重ねてしまうんだ。





「それなら手紙より直接ネックレスに話しかけた方が早いんじゃないかな」

 そう言ってネックレスを見遣る八雲。

「えっ声も伝わってるの?映像だけじゃなく?」
「そうみたいだね」
「げっ、どんだけ付き纏……」

 リカルドが失礼な事を言いかけて慌てて口を噤む。賢明な判断だ。

「えっと……陛下聞こえてます?」
「……」
「公爵家に罰を与えるなら処刑以外にして下さい」
「……」

 返事が無いけどちゃんと届いてるのかな?まあ取り敢えずよしとしよう。

「それよりこんな物ずっと着けてるの嫌だな。部屋にいる間は外してていいかな」
「一人じゃなければいいんじゃ無い?もうすぐノエルも来るだろうし」
「そうだね」

 ネックレスに手をかけようと首元を触る。だがその手は空を切るばかりで一向に触れる事が出来ない。

「おいアリス、ネックレスが半透明になってるぞ」
「え?」

 リカルドの言葉に慌てて鏡を見ると、さっきまで存在感を示していた物がうっすらと透けて見える。まるで投影された映像が映し出されているようで掴めないし外す事も出来ない。

「あはは王に先手を打たれたね」

 八雲がおかしそうに笑った。
 何だよやっぱり聞こえてるんじゃないかルドルフめ。





 しばらくしてノエルが馬車の片付けを終えて戻ってきた。司祭のナツとも挨拶を交わしそれぞれが部屋に戻る。

 あーやっぱりこの部屋は落ち着く。

 僕のわずかな私物もそのまま置いてくれていたようでナツの気遣いに胸が暖かくなった。
 僕はその中の一つである小さな木箱を手にする。
 母と一緒に作った宝箱で人生で一番大事な物を入れようと決めていた。でも結婚指輪もルドルフから贈られた宝石も入れる気になれなかった。
 結局この箱に初めて入れたのはルルテラの臍の緒だ。

「ルルテラ」

 まだ空っぽの箱に呼びかける。
 早く会いたい。僕の大事な娘。

 前世と同じ事を繰り返すのは憂鬱だけどそれで君と会えるなら平気だ。

 僕はベッドに寝転がり昔の事を思い出していた。







「お前はお飾りの皇后だ。大人しくしていれば何不自由ない生活を保証してやる」

 結婚式の日、初めて会ったルドルフは酷く冷たい人だった。
 僕は理由も意味もわからず怯えて頷く事しか出来なかった。

 式を終えて最初の夜もルドルフは僕の元に来なかった。少しホッとしたけどもし気に入られなくて実家に戻されたらと思うとそっちの方が怖かった。
 閉じ込められ食事も貰えず鞭で気を失うほど打たれたのも一度や二度じゃない。エレノアの嘘やアリアドネの策略で僕はいつも父に怒られていたから。

 二度とあんな目には会いたくない。僕の中に有ったのはひたすらその願いだけだった。だから一生懸命好かれるように仕事を手伝ったり夜を共にしたいと伝えてみたが彼の態度が変わることはなかった。

「皇后陛下、本日から後宮に人が来ますので少し騒がしいと思います。お部屋からお出にならない方が良いかと」

 結婚後一年もしないうちにアーロンが言いにくそうにそう伝えてくれた日。
 意味を理解して僕は情けなさに朝まで泣いた。
 一番最初はロザリア。その後は確かクラリス。常に五、六人の愛妾が後宮で暮らしており何かにつけて嫌がらせを受けたがお飾りの僕にどうして執拗な嫌がらせをしたのか今でも分からない。
 実際、ルドルフは僕の子供はいらないと言い放っていたしヒートは常に薬で抑えられ体を重ねる事も全く無かったのだから。



 ……そんな時にあの事件が起きた。



 僕はいつにない酷いヒートに苦しんでいた。薬も効かないし眠る事も食べる事も出来ない。しかもそれに引っ張られルドルフがラット現象というアルファのヒートになってしまったのだ。
 こうなると鎮められるのはオメガだけだ。
 恐らくルドルフにして見ればとても不本意だったであろう一夜を初めて共に過ごした。
  


 たった一晩。
 その時にルルテラを身籠ったんだ。





 てっきり産むなと言われると思っていたのに予想外に出産は許可された。僕は嬉しくて嬉しくて毎日子供のことを考えていた。ひとりぼっちのこの城で僕の側に居てくれる存在が出来るんだから。

 その時はまさかルドルフが生まれた子の魔力を奪おうと計画しているなんて夢にも思わなかった。




 今度は絶対にルルテラを守る。僕は改めてその誓いを胸に刻んだ。


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