【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy

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★本編★

公爵邸の悲劇

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「それではさようなら陛下」
「アリス皇后……他に言いようはないのか」

 城を出る日。爽やかな朝日とそよ風に見送られ馬車に乗る僕と苦虫を噛み潰した様な顔でこちらを見ているルドルフ。
 そしてハラハラしているアーロン。

「十七になったら戻って来ます」
「そんな先じゃなくていいんだぞ」
「十七です」
「……そうか」

 出来るだけ過去の通りに進めないとルルテラと出会える確率が下がる気がする。ここまででもかなり以前とは違って来ているのにこれ以上乖離させるわけにはいかない。

「では六年後に」
「ああ、元気でな」
「はい。陛下もお元気で」
「まて、これを」

 そう言うとルドルフは翠の石がついたネックレスを僕の首にかける。中に水を閉じ込めた今まで見た事もない宝石だった。

「お前の身を守るものだ。片時も離すな」
「ありがとうございます」

 程なくして馬車が動き出す。
 そしてそれが見えなくなるまでルドルフはずっと立ち尽くし僕達を見送っていた。







 馬車に揺られながらリカルドがだるそうに話しかけて来る。

「アリスは教会に向かうのか?」
「そう思ってるけど。兄さんはどうする?」
「俺は公爵家に戻るかな。お前も荷物を置きっぱなしじゃないのか?」
「ああそっか。じゃあ先に寄って貰おう。ノエルは?」
「私も共に参ります。ついでに公爵家の騎士を辞めようと思います」
「じゃあその後は一緒に教会でお世話になろうか。
「はい、どこにでも。アリス様の行かれるところに付き従います」
「あ……ありがとう」

 こんな綺麗な顔でそんなこと言われるとなんか照れるな。気恥ずかしい気持ちで窓の外ばかり見ていたらあっという間に公爵邸に着いた。

「なんか……騒がしくない?」

 財政難になってから使用人の数も減り、どことなく陰鬱だった屋敷がいつになく活気付いている。

「アリス!よく帰ったな!」
「嫌だわあなた。アリスは皇后になる身なんだからきちんと挨拶しないと」
「そうだったな。アリス皇后陛下、お戻り下さり光栄です」

 ドアを開けるなり満面の笑みで公爵夫妻が駆け寄り、そう挨拶する。その後ろでは楽団が音楽を奏で、着飾った貴族達がフロアを埋めていた。

「公爵お久しぶりです。お二人は処分が決まるまで謹慎を命じられたのでは?」

 僕の言葉に苛立ったように小さく舌打ちし、皆に聞こえるような大声でわざとらしい声を出す。

「アリスや、そんな意地の悪い事を言うなんて寂しくて拗ねているんだろう?いつも通りお父様と呼んでいいんだよ。ここにいる時は私たちも変わらず愛しいアリスと呼ぶから昔みたいに仲良く暮らそう」
「そ、そうね!皇后になるからって他人行儀になっちゃアリスが可哀想ね!まだ子供なんだから」

 周りの貴族達はその言葉に感銘を受け、頷いたり微笑んだりしてるしアリス様はお幸せねなんて声まで聞こえる。なんだこの身の毛もよだつ猿芝居は。

「親父、今日は俺とアリスの荷物を取りに戻っただけだ」

 ああリカルドも一連の流れからこの家を出た方が良いと判断したんだな。正解だ。
 しかしその声を聴こえていないものとした公爵はくるりと後ろを振り返り貴族に向かって声高に説明を始める。

「皆様!この子がこの度皇后となる予定の公爵家次男アリスです!体も心も弱く酷い人見知りもあり今まで皆様にはご紹介出来ずにおりました。申し訳ございません。改めてご紹介致しますので皇室と縁続きになる我が家共々末長く宜しくお願い致します!」

 貴族達から歓声や拍手が巻き起こり公爵は振り返ってニヤリと笑う。

 僕を含めリカルドとノエルも余りの出来事に言葉が出ない。


「さあ、アリス。皆様にご挨拶を」

 そう言って差し出される公爵の手を逃れキッと睨み上げた。

「公爵、少し話が必要なようですね」
「後でいいだろう。とにかくこちらへ来い」

 声を顰め僕の腕を掴んで皆の前に連れて行こうとした瞬間、火花が散り公爵が弾き飛ばされた。

「な?!」

 広間が静まり返る。
 僕は何もしてないので可能性とすればこのネックレスか。僕に触れると弾かれるなんてルドルフ抜け目ないな。

「アリス!!」

 恐ろしい形相で僕を怒鳴りつけると周りの貴族のヒソヒソ声が聞こえる。慌てて取り繕うがもう後の祭りだ。

「ノエル!さっさと手を貸せ!」

 相当酷く体をぶつけたのか痛みで立ち上がる事も出来ない公爵はノエルに向かって喚き立てる。けれどノエルはそれには応えず胸に手を当て丁寧に腰を折り今日限りで護衛騎士を辞める事をあっさり伝えた。
 広間は更に大騒ぎだし遠くから黙って事の成り行きを見ていたエレノアが絶叫しながらノエルに駆け寄り拒絶され泣き喚く地獄絵図。

「もう荷物はいいや。お前もそうしろ」
「うん。そうだね兄さん。教会に帰ろう」


 結局ノエルにしがみついて泣き喚くエレノアを無理矢理剥がし三人で馬車まで走る羽目になった。


 それにしてもこのネックレス凄い。誰が触っても弾き飛ばすんだろうか。まあそれなら安心して町でも一人歩きが出来るな。
 呑気にそんな事を考えていた僕はルドルフの魔法を甘く見ていた。それどころの効果ではない事をこの後思い知らされる事になるのだから。

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