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★本編★
束の間の逃走
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「アリスの目は覚めたか!?」
ドアを開けるなり怒鳴るように大声を出す公爵。本当に相変わらず身勝手な人だ。
「アリスの容体は更に悪くなってます」
「どうしてです?先生がずっと治癒魔法を掛け続けているんでしょう?」
「私の魔法にも限界があります。アリスの手に触れてみてください」
ノエルがそう言った途端、思わず声を出しそうになるくらい左手がキンと冷たくなった。こんな魔法もあるのか。
父はその手に触れた途端ビクッと体を強張らせた。
「かなり体温が下がっています。もう一刻も猶予はありません。教会には治癒魔術師が何人もいますのでアリスの外出許可を下さい」
「しかし約束が……」
「公爵様!そんなこと言っている間にアリス様に万が一の事があったらどうされるのですか!」
ノエルに畳み掛けるようにそう言われても父は返事を渋っているようだ。愛されていない事をひしひしと感じる。
その時乱暴にドアが開きリカルドの聞き慣れた足音と声がした。
「親父このままでいいのかよ」
「リカルド!お前には関係ない!部屋を出て行きなさい!」
「アリスが死んでもいいのか?こいつが死んだら計画は全部白紙だぜ」
「……分かっている。でも……いや仕方ないな。ではお前が一緒に着いて行け。目が覚めたらすぐ連絡をしろ。絶対逃すんじゃないぞ」
「おう。ノエル、先生。そんな訳だから支度してくれ。俺一人じゃアリスを連れて行けないからな」
「「承知しました」」
その声がした途端、誰かが僕の掛け毛布を剥ぎ力強く抱き上げて部屋を出る気配がした。
この匂いはノエルだ。
甘いけどまだ青い果物のような爽やかな香り。
どこで誰が見ているか分からないのでまだ目は開けられない。
僕はなるべく自然に見えるように全身の力を抜いてノエルに身を任せた。
「ようこそ!司教のナツと申します。ひとまずベッドへどうぞ」
八雲が寝泊まりしている教会の責任者は朗らかで人の良さそうな壮年の男性だった。
八雲に似た黒い髪に黒い目の人だ。
「お世話になります」
ぴょこっと頭を下げるとダメダメと慌てて抑えられる。
「長く眠っていたんだから頭を動かさない方が良いですよ。動作もゆっくりを心がけて無理をしないように」
「はい。ありがとうございます」
「元気になったら是非礼拝堂も覗いて下さい。ステンドグラスが自慢なんです。ではごゆっくり」
それだけ言うとわははと笑ってのんびり部屋を出ていった。
リカルドを囲み不穏な雰囲気を漂わせている八雲とノエルを置いて。
「リカルド様お話があります」
口火を切ったのはノエルだ。
「先程公爵に仰った計画とは何ですか?もしやアリス様に危害を加えるような物ではないでしょうね?」
言葉こそ丁寧だが国でも有数のソードマスターだ。目が怖い。
「当たり前だろ!俺を疑ってんのか?計画ってのはお前らも知っての通りアリスを魔術師にして働かせるって奴だ。それ以外はない。ノエルお前はうちの騎士のくせに俺を信用してないのか」
「申し訳ございません。今までの行いが行いでしたので。もしやどこかで借金でも拵えてそれを盾に公爵によからぬ企みを命令されたのかと」
「ふざけんなよ。そんな訳ないだろ」
歯に絹着せぬ・・と言うより雇い主である公爵家の嫡男に対して明らかに喧嘩を売る姿勢に僕の方が慌ててしまった。
「たっ体調があんまり良くないなあ。ちょっと寝たいからみんな帰っていいよ!」
「私は護衛として残ります!」
「は?!俺だって戦えるし!」
「魔術師である私が適任かと」
「あー!もう護衛はいいからみんな出て行ってー!」
仕方なさそうにゾロゾロと出て行く三人。ドアの閉まる音を聞いて僕はため息をつきベッドに倒れこんだ。
ドアを開けるなり怒鳴るように大声を出す公爵。本当に相変わらず身勝手な人だ。
「アリスの容体は更に悪くなってます」
「どうしてです?先生がずっと治癒魔法を掛け続けているんでしょう?」
「私の魔法にも限界があります。アリスの手に触れてみてください」
ノエルがそう言った途端、思わず声を出しそうになるくらい左手がキンと冷たくなった。こんな魔法もあるのか。
父はその手に触れた途端ビクッと体を強張らせた。
「かなり体温が下がっています。もう一刻も猶予はありません。教会には治癒魔術師が何人もいますのでアリスの外出許可を下さい」
「しかし約束が……」
「公爵様!そんなこと言っている間にアリス様に万が一の事があったらどうされるのですか!」
ノエルに畳み掛けるようにそう言われても父は返事を渋っているようだ。愛されていない事をひしひしと感じる。
その時乱暴にドアが開きリカルドの聞き慣れた足音と声がした。
「親父このままでいいのかよ」
「リカルド!お前には関係ない!部屋を出て行きなさい!」
「アリスが死んでもいいのか?こいつが死んだら計画は全部白紙だぜ」
「……分かっている。でも……いや仕方ないな。ではお前が一緒に着いて行け。目が覚めたらすぐ連絡をしろ。絶対逃すんじゃないぞ」
「おう。ノエル、先生。そんな訳だから支度してくれ。俺一人じゃアリスを連れて行けないからな」
「「承知しました」」
その声がした途端、誰かが僕の掛け毛布を剥ぎ力強く抱き上げて部屋を出る気配がした。
この匂いはノエルだ。
甘いけどまだ青い果物のような爽やかな香り。
どこで誰が見ているか分からないのでまだ目は開けられない。
僕はなるべく自然に見えるように全身の力を抜いてノエルに身を任せた。
「ようこそ!司教のナツと申します。ひとまずベッドへどうぞ」
八雲が寝泊まりしている教会の責任者は朗らかで人の良さそうな壮年の男性だった。
八雲に似た黒い髪に黒い目の人だ。
「お世話になります」
ぴょこっと頭を下げるとダメダメと慌てて抑えられる。
「長く眠っていたんだから頭を動かさない方が良いですよ。動作もゆっくりを心がけて無理をしないように」
「はい。ありがとうございます」
「元気になったら是非礼拝堂も覗いて下さい。ステンドグラスが自慢なんです。ではごゆっくり」
それだけ言うとわははと笑ってのんびり部屋を出ていった。
リカルドを囲み不穏な雰囲気を漂わせている八雲とノエルを置いて。
「リカルド様お話があります」
口火を切ったのはノエルだ。
「先程公爵に仰った計画とは何ですか?もしやアリス様に危害を加えるような物ではないでしょうね?」
言葉こそ丁寧だが国でも有数のソードマスターだ。目が怖い。
「当たり前だろ!俺を疑ってんのか?計画ってのはお前らも知っての通りアリスを魔術師にして働かせるって奴だ。それ以外はない。ノエルお前はうちの騎士のくせに俺を信用してないのか」
「申し訳ございません。今までの行いが行いでしたので。もしやどこかで借金でも拵えてそれを盾に公爵によからぬ企みを命令されたのかと」
「ふざけんなよ。そんな訳ないだろ」
歯に絹着せぬ・・と言うより雇い主である公爵家の嫡男に対して明らかに喧嘩を売る姿勢に僕の方が慌ててしまった。
「たっ体調があんまり良くないなあ。ちょっと寝たいからみんな帰っていいよ!」
「私は護衛として残ります!」
「は?!俺だって戦えるし!」
「魔術師である私が適任かと」
「あー!もう護衛はいいからみんな出て行ってー!」
仕方なさそうにゾロゾロと出て行く三人。ドアの閉まる音を聞いて僕はため息をつきベッドに倒れこんだ。
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