【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy

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★本編★

舞踏会

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 天井には磨き上げられたシャンデリア
 テーブルの上には瑞々しい果物やお菓子それに様々な料理が並ぶ。
 ドレス姿の女性はそれぞれが花のように会場のあちこちで咲き誇っていた。

 そんな中、僕は来賓に向かって挨拶をする為に広間の中央階段に立った。マナー講師の書いた原稿の丸覚えだが隣に立つ父は満足そうだ。
 集まった人々からも称賛の声と美しいという囁きや感嘆の溜息が聞こえる。概ね成功だ。ここで好印象を与えておけば今後役に立つと踏んでいる。味方は一人でも多い方がいいから。


「アリス様お手をどうぞ」

 スピーチを終え階段を一緒に降りる相手はパートナーのノエル。僕の衣装に合わせた白いシャツにフロックコート。銀の髪と淡いブルーの瞳がキラキラと目を奪う。

「ありがとう」

 そう言うとノエルは嬉しそうに笑った。





 ……前回、僕を刺した後ノエルはどうなったんだろう。
 ルドルフに殺されたのか。それとも……
 あの時の涙に濡れ悔しそうに歪む彼の顔が脳裏に浮かぶ。

 僕の中身は見た目通りの十一歳の子供ではない。
 ノエルの優しさの意味も多分まだ本人でさえ気付いていない僕への気持ちも十分理解している。だからこそ彼にこれ以上近づいてはいけない。今の距離を守らなくては。

 だって

 僕は彼の弱みになるだろう。
 そして同じく彼も僕の。


 僕はこちらを見つめ続けるその優しい目からそっと視線を逸らした。






 広間に降りると沢山の人から好奇心いっぱいの顔で当たり障りのない質問を受けた。全て講師から事前に練習させられた内容だったのでそつなくこなす。貴族って暇なんだなと思いながら。

 しばらくすると父に呼ばれ一人の男を紹介された。好色そうに脂ぎって太った中年男。よりによってこんな相手を選ぶとは……

「噂を聞いて一度お会いしたいと思っておりました。これほど美しい少年にはお目にかかった事がない」

 鼻息荒く頬を紅潮させる男に「はあ」と気のない返事を返す。男の不躾でいやらしい視線が薄い胸や細い足に絡みつき僕は殺意を抱いた。
 父は僕のそんな失礼な態度にも特に苛立ちを見せない。こちらの方が立場は上だと男に知らしめているのだろう。価値を上げて更に高値を付けるつもりだ。
 案の定僕の興味のなさそうなため息に男は慌てて機嫌を取ろうと胸に付けていた宝石を差し出した。反射的に叩き落としてしまったが父はニヤリと笑いそれを拾って僕に消えろと合図する。
 報酬の交渉でも始まるんだろうか。
 僕は言われた通り足早にその場を離れた。

「アリス様」
「ノエル!」
「大丈夫ですか?」
「ああ。でも出来るだけ父さんから離れたい。あの人はまだヒートも来てない僕を本気で誰かに売ろうとしてるみたいだ」
「……お守りします。必ず」


 ノエルは周りから隠すようにマントを広げ僕を広間の隅に誘導する。

 そんな僕たちを呼ぶ声がして振り返ると見知った顔がいて肩の力が抜けた。

「ノエル遅くなってすまない」
「八雲先生!お越し頂き嬉しいです!」
「俺もいるだろ。挨拶しろ」
「はいはい。リカルドお兄様ご機嫌麗しく」
「ほんと目上への敬意ゼロだよなあ」

 そう言って笑いながら僕の額を小突くリカルド。最初の頃は父のスパイかもと疑っていたが毎日一緒に過ごすうちに幾分か疑いは和らいだ。まだ完全ではないけれど。

「アリス様ダンスが始まります。私と踊って頂けますか?」

 ノエルがそう言うと八雲も次は僕で!と手を上げる。その様子がおかしくて思わず笑ってしまった。

「アリス様行きましょう」
「はい」

 広間の中央に移動しようとノエルと一歩を踏み出した時バクロとエレノアが見えた。バルコニーにあるカーテンに隠れるようにこちらを見て笑っている。
 また碌でもない悪巧みをしているな。
 そう思いながらノエルと共に広間の真ん中に進み出た。
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