【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy

文字の大きさ
上 下
11 / 62
★本編★

未来のために

しおりを挟む
 結局あれから一睡も出来ず朝日の差し込む部屋で僕はこれからのことを考えていた。

 鏡に映る自分は多分十歳くらい。閉じ込められた離れでメイドが毎日こっそりと食べ物を運んでくれていた時期だ。甘そうな薄いキャラメル色の髪が肩まで伸びピンクがかった赤い瞳は不安げに揺れている。
 この頃は毎日生きることに罪悪感を持って暮らしていた。母が死んでしまった後も自分を屋敷に置いてくれていた父をがっかりさせてしまったから。魔力さえあればこんな自分でも役に立てる。そう思っていたのに。

 でも……


 僕は幼い頃から嵌められていたチョーカーにそっと手を伸ばした。

 真っ白の肌に映える水牛の皮に青い石が嵌め込まれたそれは五歳の頃、僕がオメガだと医者に診断された時に養母がくれた最初で最後のプレゼントだった。
 オメガにとっては当たり前に皆付けている望まない番契約から自分の身を守るもの。当時は養母からの贈り物を心の底から喜んだ。
 けれど……

 この石には魔力を抑え込む力があったのだ。僕は魔力が無いわけじゃなかった。この石によってそう見せかけられていただけ。
 絶対に外すなと言われていた言葉を正直に守り続けたのが馬鹿みたいだ。

 僕は首から忌まわしい枷を外し古ぼけた机の上にコトリと置く。そして両掌を握りしめて目を閉じた。
 ぼんやりとした熱が腹に広がる。そこに力を込めて全身に巡るよう精神を統一した。
 うっすらと握った拳から蒼い光が揺らぐ。
 それは微かでまだ形をなさないもの。
 ルドルフと結婚してから少しずつ訓練し、大魔法使いと呼ばれるようになるのは3年も経ってからだった。
 けれど今ならもっと早く能力の全てを解放できる自信がある。
 早く。もっと早く。
 この敵だらけの場所で二度とあいつらにいいようにされない為に。


 しばらく集中して訓練していたが意識が遠のきそうになり今日はここまでと目を開けた。
 荒い息を整え全身に吹き出した汗を拭う。
 それから疑われないようチョーカーを元通りに装着して身を清めるべく井戸に向かった。


 自分の住む離れの裏にある井戸は水に少し濁りがあり公爵家の者は誰も使わない。
 僕は上着を脱ぎ捨てると桶に水を汲み体を洗った。そろそろ雪が降りそうなこれからの時期は文字通り凍えそうな日も多いが今日はその冷たさが熱を持った体に気持ちよかった。
 出来れば全裸になり全身洗ってしまいたいのだがそれを我慢して上半身を丁寧に擦った。

 そうせざるを得ない理由は魔術師のダン。
 あいつが父に僕を生かすよう勧めたのは僕のことが気に入っていたからだ。あいつは幼い少年を好む悪癖を持っている。過去の僕は度々部屋に来ては体を撫で回すあいつが恐ろしくてされるがままになっていた。見張ってくれる仲の良いメイドがいなければとっくに醜悪なあの年寄りの慰み者になっていたに違いない。
 この井戸の周りにも遠見の魔法がかけてあるので僕が水浴びをする様子をどこかでニヤニヤしながら見ているはずだ。

「今に見てろよ」

 僕は森に向かってそう呟くと上着を掴んでその場を後にした。
しおりを挟む
感想 113

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

悪役令息の死ぬ前に

やぬい
BL
「あんたら全員最高の馬鹿だ」  ある日、高貴な血筋に生まれた公爵令息であるラインハルト・ニーチェ・デ・サヴォイアが突如として婚約者によって破棄されるという衝撃的な出来事が起こった。  彼が愛し、心から信じていた相手の裏切りに、しかもその新たな相手が自分の義弟だということに彼の心は深く傷ついた。  さらに冤罪をかけられたラインハルトは公爵家の自室に幽閉され、数日後、シーツで作った縄で首を吊っているのを発見された。  青年たちは、ラインハルトの遺体を抱きしめる男からその話を聞いた。その青年たちこそ、マークの元婚約者と義弟とその友人である。 「真実も分からないクセに分かった風になっているガキがいたからラインは死んだんだ」  男によって過去に戻された青年たちは「真実」を見つけられるのか。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

処理中です...