上 下
524 / 528
最終章 狼の子

第523話 光の洞窟

しおりを挟む


「ふむ、向かう方向から妖猫の神域にでも行くのかと思ったのじゃが......こんなところがあったとはのう。」

「はい。ルーシエルさんに教えて貰いまして。」

「ほほ、そうじゃったのか。ルルの奴、中々洒落たことをやっておるのう。」

俺はナレアさんを誘って北側の大河近くにある洞窟に来ていた。

「ルーシエルさんに物凄くお勧めされていたのですが......これは凄いですね。」

「うむ......見事なものじゃ......。」

この洞窟は観光名所らしく、ルーシエルさんが是非一度行ってみるといいと教えてくれたのだ。
洞窟の中は魔道具によってライトアップされており、通路は軽く整備されていて歩きやすい。
街灯に使われている魔道具とは違い、青みの強い光を発する魔道具によって照らされた洞窟は、非常に神秘的な様子を見せている。
また、所々にある水たまりの底にも魔道具が沈められていて、水たまりに落ちないようにする対策も兼ねているのだろうけど、目を奪われる美しさだ。
因みに今は王都でダンジョン攻略記念祭が行われていることもあり、こちら洞窟は閉じているらしいのだが、特別に中に入ることを許可してもらったのだ。
まさかコネなんてものを使う日がくるとは思わなかったけど......折角のルーシエルさんの好意なので、有難く頼らせてもらうことにした。
お陰で今この洞窟には俺とナレアさんの二人しかいない......悪いとは思ったけど、シャルとマナスは入り口でお留守番だ。

「少し暖かいですね。」

「そうじゃな。その辺の水たまりも......ぬるま湯のようじゃな。」

「温泉があるのでしょうか?」

「温泉と言うと......偶にケイが作る奴かの?」

「僕が作っているのは温泉もどきですけどね。お湯を溜めているだけなので。温泉は天然ものというか、自然から湧き出たものといいますか。」

「確か龍王国の山間にお湯が沸き出るところがあるとヘネイから聞いたことがあるが......確か触れるのも危険な程の熱湯と聞くのう。」

「源泉はそういった物が多いみたいですね。ある程度冷まして浸かる感じだったと思います。普通にお湯を沸かしたものと違い、地中の色々な成分を含んだお湯で色々と効能があったりしますね。」

「ほう?どのような物があるのじゃ?」

「えっと......肌が綺麗になったりとか......腰痛に効いたりとか病気に効くとか聞いたことがありますね。」

まぁ、実感したことはないのだけど......よく言われている効能だよね?

「む?なにやら聞き覚えがある気がするのう。」

「そう言えば以前にお話ししたかもしれませんね。」

そんな話をしながらゆっくりと洞窟の奥へと進んでいく。
途中で魔道具による光の色が変わり、緑になったり赤になったりとただ歩いているだけなのに飽きさせない仕掛けがされている。
しかし、こういうのを見ると本当に魔道国って言うのは生活に余裕があるのだと感じるね。
今までこんな風に観光に力を入れている場所は無かったよね......。

「ただの洞窟じゃというのに......これは美しいのじゃ。ルルの奴も中々やるのう。」

「僕のいた世界にもこういった物がありましたよ。観光資源とか言ったかな?」

「ほう。祭りと違って短期間に爆発的な効果が望めるものではないが......長期的に使うことが出来るのはよいのう。かかる費用も多少の人件費と照明代くらいじゃし......面白いものじゃな。」

「ルーシエルさんの肝いりなんですかねぇ?」

「さてのう......それはそうと、この光景を前にする話としては少々無粋じゃったかな?」

「あはは、確かにそうかもしれませんね。今は頭を空っぽにして楽しみましょう。」

俺はそう言ってナレアさんの手を握る。

「......そうじゃな。」

そんな感じで暫く無言で歩いていると、少し下り坂になって来た。
道の端の方は水が奥に向かって流れているようで、今歩いている場所も少しだけ地面が濡れているようだ。

「ナレアさん、地面が濡れていて滑りやすくなっているようなので気を付けて下さい。」

「うむ......。」

俺達の歩く音と天井から落ちてくる水滴の音だけが響く中、足元に気を付けながら坂を下っていく。
少し湿度が高くなって来た気がするな。

「おや?あそこで光っているのはなんじゃろう?」

そう言ってナレアさんが天井を見上げている。
視線の先を追いかけると......確かに小さな光が見える。

「あー、あれですか。近くで見てみます?」

「見てみたいが......あそこまでは届かぬのう。ケイに肩車をしてもらっても無理じゃろ?」

ぽかんとしたような表情をしながらナレアさんは天井を見上げているけど......。

「ふふっ。」

ナレアさんの様子を見ながら少し笑ってしまう。

「む?なんじゃ?」

「いや......すみません。肩車は面白い案ですが......飛んでみるのはどうですか?」

「......。」

ナレアさんは何も言わずに宙に浮いた。
......ナレアさんの頬が若干赤くなっていたのは周囲の灯りが赤だったせいだけではないだろう。



その後俺達はたまに会話をしつつも周囲に広がる光景に目を奪われながら歩き続けた。
そして今、洞窟の最奥に俺達は辿り着いた。

「「......。」」

最奥にあったのは地底湖......と言うには少し小さい気もする。
少なくとも仙狐様の神域に行った時に見た巨大な地底湖......まぁ、幻だったけど......あれとは比べるべくも無く小さい。
しかし......この光景は......。

「これは......予想以上じゃ。」

「......上手く......言葉が出ません。」

ここに来るまでの道中楽しませてくれた色とりどりな魔道具の灯りではなく、青い単色の光に照らされた小さな湖。
さざ波一つ立っていない静謐な湖面は凍りついているようにも見えるけど......この場の暖かさでは湖の表面すら凍らせることは出来ないだろう。
俺達以外の生命を一切感じられない空間は、清廉さ......そしてどこか力強さのようなものを感じる。
呆けたように湖を眺めていると、ナレアさんと繋いだままだった手を強めに握られた。

「......このような場所が魔道国にあったとはのう。魔道国の事は全て知っておったつもりでおったが......少し恥ずかしいのう。」

「......知らないことがまだまだたくさんあるって言うのは嬉しいですね。」

「......うむ。有り体に言って......最高じゃ。」

そう言ってナレアさんが快活に笑う。
この場を満たす青い光がナレアさんの銀色の髪と相まって、その快活な笑顔とは裏腹に幻想的な雰囲気を醸し出す。

「......ナレアさんは、本当に綺麗ですね。」

「うむ......本当に綺麗......じゃ......?」

ナレアさんが一瞬硬直した後、ゆっくりとこちらを向く。

「......なんじゃと?」

「......?」

「何故そこで首を傾げるのじゃ!今何と言ったか尋ねておる......いや、待つのじゃ!言わんでよ......。」

「ナレアさんは本当に綺麗だって言いました。」

「っ!?」

今度は青い灯りの中だと言うのに、ナレアさんの顔が真っ赤に染まったのがはっきりと分かる。
そんなナレアさんが大きく息を吸い込むのを感じた。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...