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最終章 狼の子
第521話 眷属でも腰に来る
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ギルドで花の採取の依頼を受け、夜の森へと入っていった俺達は薄っすらと光る一角を発見する。
そして木を避けてそちらに近づいた俺達の視界に広がったのは......。
「「......。」」
仄かに光る色とりどりの花。
その幻想的な光景を前に、俺とリィリは思わず息を飲み立ち尽くしてしまう。
発光していると言うには弱弱しく......しかし群生している事で確かな光を感じることが出来る。
柔らかい光は目に優しいというか......ずっと見つめていても眩しさを感じる事は無い。
そんな光景にリィリと二人で見惚れていたのだが......そういう、情緒とかを俺以上に気にしない奴が一人......というか一匹。
群生地に徐に踏み込み、興味深げに光る花の匂いを嗅ぎ......一通り堪能したのかそのでかい尻をどっかりと花の上に降ろしてしまう。
「......あはは、グルフちゃん花の上に座っちゃダメだよ!」
リィリがグルフを注意しながら光る花の群生地に足を踏み入れる。
グルフは慌てた様子で立ち上がり、自分が座っていた辺りを窺うように鼻を近づける。
「んー、茎は折れていないみたいだし......大丈夫かな......気を付けてね?グルフちゃん。」
リィリが屈みこんで花を調べた後、同じく頭を下げて花を見ていたグルフの頭を軽く触りながら言う。
グルフは尻尾を垂らしてシュンとしてしまったが......リィリがそのまま頭を撫で続けていると、次第に元気を取り戻し尻尾を振り出す。
俺はそんな二人に近づきながら、ざっと花に視線を向ける。
「パッと見た感じ......紫の花は見当たらねぇな。」
「光が弱いし、色が混ざっている感じだから、じっくり探さないと目当ての色を見つけるのは難しそうだねー。」
「そのようだな......しかし昼間の方が探しやすいんじゃねぇか?」
まぁ、明日の朝までに欲しいってことだからどうあがいても昼に探すことは出来ねぇが。
「なんかこの花はねー、昼間だと真っ白なんだって。だから夜にならないと何色になるか分からないんだよ。」
「本当に不思議な花だな。」
「そうだねー。でもこの光景は凄いよ。ナレアちゃん達も連れてきてあげれば良かったかな?」
「日を改めて来たらいいんじゃねぇか?花が光るのは今日だけってわけじゃねぇんだろ?」
「うん。光るのはこの時期だけみたいだけど、今日だけってわけじゃないよ。レギにぃの言う通り今度皆で来よう!」
「あぁ、それがいい。それはともかく......花を探さないとな。結構骨だぞ......。」
一輪ずつなら何色かは分かると思うんだが......こうも花が密集していると色が混ざってさっぱり分らんな。
この花は白......いや、赤か?
これは......想像していたよりも相当厄介だ。
一輪ずつ何かで覆うようにしながら調べないと全然分らんな......。
近い色が固まって生えている場所は分かりやすい......いや、全部が全部同じ色と言う訳ではない。
赤や青に囲まれて紫があったら確実に見落とすな。
「グルフ......紫に光る花......分からないか?」
「くぅーん。」
俺は傍らで俺達の作業を見ながら尻尾を振っているグルフに問いかけてみる。
いや......いくらグルフが賢くてもそれは分からんよな。
俺はグルフに笑いかけた後作業に戻る。
「ファラちゃんがいたら見つけてくれたかなー?」
「まぁ、ファラなら見つけてくれただろうが......あまり頼るのもな。」
「そうだねー。私達で受けた仕事なんだから自分達でやらないとね。」
今グルフに頼ったことを責められているのか......?
い、いや、アレは気を紛らわすための雑談みたいなものだからな......本気じゃないぞ?
何やらニヤニヤしながらこちらを見ているリィリに背を向けながら、俺は作業に没頭する。
これは......緑、こっちは、黄色か。
本当にいろんな色がある。
「......腰が痛くなるな。」
暫く作業に没頭していた俺は腰を伸ばしリィリに話しかける。
「そうだねー、体勢がちょっとつらいね。でも、本当に色々な色があって綺麗だねぇ。」
「あぁ。ところでこの花は何か薬効でもあるのか?」
「ん?そういうのはないみたいだよ?」
「そうなのか?植物採取依頼に出されるくらいだから薬の材料になるのかと思っていたが。」
「あはは、そういうのじゃないよ。まぁ、何のために使われるかまでは依頼書には書いてなかったけど......なんとなく分かるかなぁ。」
「何に使うんだ?」
俺が問いかけるとリィリが顔を上げて笑みを浮かべている。
「まー、色々だよ!」
そう言って笑うリィリは......どうやら教えてくれる気は無さそうだな。
「有名な演目にあるんだよね......『小さな花の約束』だったかな?」
「なるほど、舞台で使われた花ってことか。」
「そんな感じだねー。」
舞台で使われた花ということなら......何かしら意味のある花なんだろうな。
「もしお祭りで公演されてたら、今頃この依頼が山のようにギルドに届いているんじゃないかな?」
「そりゃ恐ろしい話だな。もしかしてご所望は全部紫に光る花になるのか?」
「まぁ、そうなるだろうねぇ。」
「......公演されなくて何よりだ。」
それなりの数の花を調べたと思うが、多いのは赤と青。
次いで黄色と緑だろうか?
偶に違う色の光も見るが......紫は未だ発見出来ていない。
「......ところで紫の花って実在するんだよな?劇で創作された架空のものじゃないよな?」
「......た、多分?」
「おいおい......。」
実在していないかもしれないのか?
「......赤と青の花を花束にすれば紫に見えるんじゃないか?」
「うーん、光が重なっている所は紫......いや......紫っていうより薄い赤と言うか......ちょっと違う気がするなぁ。」
「ナレアがいれば実在するかどうか教えてくれたかもな。」
「あはは、確かにそうだねー。でもまぁ、ここには頼りになるナレアちゃんもファラちゃんもいないからねぇ。地道にがんばろー。」
「......そうだな。ところで、この群生地に無かったらどうするんだ?」
俺は辺りを見渡す。
流石に千本も無いだろうが......それでも数えるのがうんざりするくらいはあるし、まだ二人で四分の一も調べられてないんじゃないか?
「ここに無かったら赤い花でいいんだってさー。」
「赤ならすぐに見つかるか......なら、気合入れて紫の花を探すとするか。」
依頼主が希望している物を届けられないのは冒険者の名折れだからな。
「折角なら紫の花を見つけてあげたいよねー。」
「あぁ。」
その後また俺達は無言で花を一つ一つ調べて行く。
青青赤青赤赤赤黄赤青赤薄青赤青緑赤......。
見落としがあると洒落にならんからな、一つ一つ丁寧に調べていたが......流石に集中が切れて来たな。
「リィリ、一休みしないか?」
俺は持って来ていた縄を使い、調べた区画とこれから調べる区画を分ける。
「あーそうだねー。流石にちょっと疲れたかな?」
そう言ってリィリが腰を伸ばし、首をほぐす様に回す。
俺は背嚢から魔道具を取り出す。
ナレア特製の保温用水筒だ。
「暖かいスープがあるぞ?」
「あー欲しい欲しい!私はパンを持って来てるから半分ずつ分けよう?」
「あぁ、構わないぜ?じゃぁ、食事休憩にするか。」
「うん。グルフちゃんもお肉持ってきたから、一緒に食べよう。」
リィリが声を掛けると、少し離れた位置でゴロゴロしていたグルフが飛び上がり近づいてくる。
俺は器に入れたスープをリィリに渡す。
「んー、いい香りだねぇ。」
「干し肉があるが......入れるか?」
「んー、このスープはこの味が一番いいと思うな。干し肉を淹れたら少ししょっぱくなっちゃうし、私はこのままでいいよ。」
「そうか、なら俺もそうするか。」
俺は取り出していた干し肉をしまって腰を下ろす。
「いただきまーす。」
「頂きます。」
スープにパンと言う簡素な食事ではあるが......火も起こさずに暖かいスープが飲めるのは凄いな。
「このスープ美味しいねぇ。」
「暖かいまま保存できるのがいいよな。確かケイの発想を元にナレアが魔道具を作ったって話だったが......あの二人が一緒に居ると色々とおかしなことになるな。」
「あはは、でもそれが楽しいんだよね?」
「あぁ、こんなにも知らない世界があったのかって驚きばかりでな。」
俺がスープを飲みながら笑うと、リィリは傍らで肉を齧っているグルフを見ながら微笑んだ。
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