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最終章 狼の子
第520話 最終日の過ごし方
しおりを挟む魔道国王都で開催されているダンジョン攻略記念祭。
本祭は三日間行われ、その後五日程はお祭り騒ぎは続くらしいけど公的な催しは三日目で終わるらしい。
まぁ、王都の祭りは終わっても今度は南の方でまた祭りがあるらしいけど......マルコスさん以外の攻略者の方々は本祭終了と同時に今度は南の祭りに行かなくてはいけないらしい。
俺の時は一か所で済んで本当に良かったと思う。
それはともかく、本日でダンジョン攻略記念祭は一旦終了......というか、残る催し物はルーシエルさんによる閉会の挨拶となる。
本来は冒険者ギルドのギルド長が行うそれをルーシエルさんが取り行っているのは、王都での開催という事ともう一つ、最近の魔物による襲撃のせいだ。
その不安を払しょくするために相当な規模で行われた祭りは、ルーシエルさんの挨拶によって一先ずの終わりを迎える。
因みに、お披露目会や各種公的な催し物、そしてルーシエルさんの挨拶には、俺がナレアさんに伝え、アースさんと共同開発した拡声の魔道具が使われている。
今までは頑張って大きなお声で喋っていたらしいけど......いくら何でもこの群衆の数では、静かにしていたとしても殆どの人には何を言っているか分からなかっただろうね。
拡声の魔道具を見せた時ルーシエルさんは、ダンディな雰囲気を一切無くして喜んでいたからなぁ。
今まで相当しんどかったのだろうなぁ。
そんなことを考えながらルーシエルさんの挨拶を聞いていると、そろそろ終わりそうな感じがしてきた。
「......この先、如何な苦難があろうとも、我々ならば......魔道国ならば乗り越えられる!そしてまた、喜びに満ちた諸君の顔を私に見せて欲しい!これからも、共にあろう!」
壇上でルーシエルさんが手を上げると、歓声があがる。
実に簡潔で分かりやすいスピーチだったな。
長すぎて何が言いたいのかよく分からないお偉方の話とは全然違う。
「何やらケイは満足気じゃが......ルルの奴、閉会の挨拶じゃというのに自分の言いたい事だけ言って引っ込みおったぞ?祭りの終了宣言はどうしたのじゃ?」
「......言われてみればそのことについては何も言っていませんでしたね。」
心配事の払拭、国民への感謝、これからの展望。
ルーシエルさんの話はそれらを簡潔に話して終わりだった。
「......まぁ、皆さん満足そうにしているみたいですし、いいのではないですか?」
俺は歓声を上げながら楽しそうにしている周りの人達を見ながら言う。
......ノリとテンションだけって感じもするけど、満足そうなのは確かだ。
「......ルルは扇動の才能があるのう。まぁ、求心力と言う意味では王として良い能力じゃがな。妾はあまりそう言うのは得意では無かったからのう。」
「ナレアさんなら如才なくやれそうですけど......。」
「ほほ、すこしばかり人間味が薄かったからのう。受け入れられてはおったと思うが、ルルの様に人心を引き込む様な王ではなかったのじゃ。」
ルーシエルさんはナレアさんの事を偉大で、自分はその偉大な王が成し遂げた事を壊さない様に次代につなぐだけの存在と言っていたけど......今の魔道国を見ればルーシエルさんが、ただそれだけの王ではないことは良く分かる。
「まぁ、あの髭は妙に自信なさげにするが......それもあやつの処世術の一つよ。話半分程度に考えておいた方が良いのじゃ。」
「そういう物ですか......?」
あの感じ......本人は本気でそう思ってそうだったけど......まぁ、上手く回っているのならそれでいいのだろうか?
っと......今はそれはどうでもいいか。
祭りの最終日の夜、俺はレギさんに頼んで別行動をさせてもらっている。
まぁ、レギさんもリィリさんと二人で過ごしている事だろうしね。
......まさか下水道には行っていないよね?
いやいや、ないない。
いくらレギさんがアレでも、それは流石に無い......はず。
「どうしたのじゃ?ケイ。何か心配事ごとかの?」
俺の表情に気付いたナレアさんが小首を傾げながら聞いてくる。
「あぁ、いや......レギさん達はどうしているかなぁと思いまして。」
「ふむ......二人で仲良く過ごしておるじゃろうが......あぁ、そういうことかの?」
「あはは。」
ナレアさんに考えている事が伝わったようだ。
「いくらレギ殿でも今日はリィリと二人で祭りを回っておるじゃろ。」
「そうですよね......いくらレギさんでもお祭りの最終日ですしね。」
リィリさんがあれだけ楽しみにしていたお祭りだ。
初日に限界を超える程リィリさんに付き合ったりしたわけだし、今日も恐らく似たような感じだろう。
「あ、ナレアさん。この後、少し行きたい所があるのですが......いいですか?」
View of レギ
ダンジョン攻略記念祭の最終日の夜。
俺とリィリは王都の南東にある森に来ていた。
何故わざわざ森なんかに来ているかと言うと......。
「あまり奥まで行かなくていいんだよな?」
「うん、少し入ったところに群生地があるみたいだよ......依頼書には北側から街道を逸れて森に入ればすぐに分かるって書いてあったし、もうそろそろじゃないかな?」
「薄っすらと光っているんだろ?遠目からでも分かる感じなのか?」
「うーん、行けば分かるってくらいだからそうじゃないかな?」
「紫に光るものを探せばいいんだよな?」
「そうだよ。でも、光る花かーどんな感じだろうねー?」
俺達はギルドで光る花の採取依頼を受けてここに来ている。
何故かケイやナレアの呆れ顔が脳裏に浮かぶ。
いや、何故かではないな......明らかに後ろめたい思いがあるからだ。
だが、ケイ達に一つ言い訳をさせてもらえるのであれば......この依頼を受けたのは俺ではなくてリィリだ。
「光る植物ってのは見たことねぇな。魔道国特有の植物なんだろうが、群生しているってことは珍しい物ではないようだな。」
「あ、でも花の色によって珍しさが違うみたいだよ。紫は結構珍しいんだって。」
「それ、今夜だけで見つかるのか?」
「どうだろうねぇ。」
「期限は明日の朝までだろ?かなり難易度が高くないか?」
「そうだねぇ......でもまぁ、紫が見つからなかったら他の色でも大丈夫ってことだったし。紫なら報酬が良いけどね。」
そう言ってリィリが笑う。
森は暗いが......強化魔法のお陰で視界ははっきりしている。
しかし......何故あんなに祭りを楽しみにしていたリィリがギルドで仕事を受けたのだろうか?
「なぁ、リィリ。なんで祭りの最終日に仕事なんて受けたんだ?」
「ん?レギにぃ依頼受けたくなかった?」
「いや、そんなことはねぇが......。」
まぁ、仕事をやりたくなかったと言えば嘘になるが......リィリに付き合うのも別に......二日目に休めたので苦では無い。
「初日にたっぷり堪能したし、二日目もみんなで色々回ったからねー。私は十分楽しんだよ、だから今度はレギにぃのやりたいことに付き合おうかなって。」
「......そうだったのか。すまねぇな、気を使わせて。」
......祭りで遊ぶよりも仕事の方が俺のやりたい事って思われているわけだ。
いや、まぁ......その通りなんだが。
「あはは、いいんだよ。偶には二人でこういう依頼をのんびりとやるのも楽しいからね。」
「......そうだな。」
俺が苦笑するとリィリが柔らかく笑う。
......まぁ、本来、夜の森に行く依頼はのんびりやる様な物じゃないんだがな。
のんびりやれる理由としては、俺達が人並外れた強さを持っている事も一つだが......そもそも危険となりそうな生物が全く近寄ってこないからだ。
言うまでも無く、俺達がこの森に来ると同時に姿を現したグルフのお陰だ。
そんな森に生きる全ての生き物に恐れられているグルフは、リィリの隣を歩きながら千切れんばかりに尻尾を振っている。
そこに威厳の様な物は全く感じられない。
まぁ、楽をさせてもらっているのに文句は無いが......。
そんなことを考えながら暫く森を歩いていると、ぼんやりと地面が光っている一角を発見した。
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