516 / 528
最終章 狼の子
第515話 ねーねーねー
しおりを挟むこれはどうしたものか......。
「わー、ナレアちゃーん。わー、やるぅー。」
「......。」
リィリさんが大興奮中だ。
そしてナレアさんは顔を真っ赤にして俯いてしまっている。
いや......まぁ、ナレアさんがそうなるのも、リィリさんが大興奮しているのも理由は分かっているけどさ。
因みにレギさんは気まずそうに顎を撫でていて......俺はそんなレギさんの傍で回復魔法を自分にかけていた。
ナレアさんを助けるべきだとは思うけど......。
「ねーねー、ナレアちゃーん?ねーねー、ねーってばー?」
いや......アレは無理だ。
どう考えても俺も的になる。
俺は今怪我が......ね?
俺はリィリさんから視線を逸らし、レギさんの方を見る。
そんな俺の視線に気づいたレギさんが咳払いを一つした後口を開く。
「あーその、さっきの様子を見るにナレアからはしっかりと絞られたようだな。」
「......え?」
絞られたって......何を?
っていうかレギさんがそういうアレな感じなことを言うとは......。
そんな俺の考えが伝わったのかレギさんが顔を顰める。
「いや、何考えているんだ。さっきの戦いっぷりをしっかりと説教されただろって話だ。」
「あ、あーあー、そうですよね?そりゃそうですよ。勿論分かっていましたよ?当然ですとも、えぇ、しっかり怒られましたよ?」
俺は捲し立てる様にレギさんに応える。
そりゃそうだ!
一体何の話だと思ったのか!
ははっ!
いや、分かっていましたよ!?
「リィリ達だけじゃなく、お前も随分と色ボケているみたいだな。」
「いやいや、レギさん、そういうアレではないですよ?いや、ほんと......それよりアレですよ......その、なんですか?」
「分かったから少し落ち着け。」
「いやいやいや、落ち着いていますよ、えぇ、落ち着いていますとも。えっと......つまり、心配かけて申し訳なかったなぁと、そういうことです。」
「あぁ、そうだな。途中の一撃と、最後に関しては肝を冷やしたな。」
「すみません。思い返してみれば......もう少し冷静に、色々やれたと思います。」
俺は頭を掻きながらレギさんに言うと、レギさんは苦笑しながら口を開く。
「ケイは手ごわい相手との実戦の経験が少ないからな。こればっかりは模擬戦ではな......。」
「経験の無さが思いっきり露呈した感じでした。」
「今まで格下とばかり戦っていたからなぁ。まぁ、そうそうケイと同格の相手何かいてたまるかって気もするが。」
「まぁ、そうですね......でも、次があればもう少し冷静に対応したいと思います。」
「そんな機会がどれだけあるかってところだけどな。」
「それもそうですね。」
確かに先程のボス並みの強さを持った奴がゴロゴロいたら大変なことになるよね。
「まぁ、神獣様達の眷属に本気で相手してもらうとかはいい経験になるかもな。」
「本気って、殺すつもりでってことですよね?シャルと同格の相手とか出てきたらひとたまりもないと思うのですが。」
「いい経験になると思うがな。」
「......レギさんもやりますか?」
「......まぁ、必要......かもしれんなぁ。」
非常に苦々しい表情で、とても苦し気にレギさんが言う。
殺す気でかかってくる眷属との戦い......うん、正直、今倒したボスと戦う方が遥かにマシだな。
「それは置いておくとして......ケイ、いいのか?」
「何がですか?」
「お前が必死に目を逸らしている事柄についてだ。」
「......。」
まさかレギさんから指摘されるとはな......。
いや、気づいていますよ?
少し離れた位置で、顔を真っ赤にしながらも俺の事を睨みつけているナレアさんの事は......。
いや、無理ですよ......僕にナレアさんを助ける力はありません......不甲斐ない俺を許して......くれないだろうなぁ......。
後で相当な目に合う覚悟が必要だけど......いや、ここでリィリさんの攻撃を受けた方が被害は少ないか......?
リィリさんによる弄りとナレアさんによる八つ当たり......うん、そうだな......今行くべきだろう。
俺は先程ボスに挑んだ時以上の緊張感をもって、ナレアさん達に近づいていった。
「まぁ、何にせよ。無事ボス討伐が終わったのう。」
「......ソウデスネ。」
「お疲れ様!ケイ君!」
「ハイ。ツカレマシタ。」
一先ず落ち着いたリィリさんとナレアさんが声を掛けてくるけど、精魂尽き果てた俺は機械的な返事しか返せない。
因みに、被害が少なくなるはずだと言う打算的な考えを秒でナレアさんに見破られ、それはもう責め立てられたのは言うまでもないだろう。
「ふむ......傷は癒したようじゃが、かなり疲れておるのう。」
「まぁ、しょうがないんじゃないかな?あんなに大怪我したケイ君を見たのは初めてだし......。」
「今日の所はレストポイント......というか、キオルの実験室に戻って休んだ方が良さそうじゃな。」
「......ソウデスネ。」
何やら予定が決まった気がするけど......休むと言うのに文句はない。
確かに物凄く疲れているし、主に精神的に。
リィリさんとナレアさんが先だって歩き始め、俺とレギさんはそれに続く。
シャル達は最後尾だ。
「......大丈夫か?ケイ。」
「......ハイ、ダイジョウブデス。」
隣を歩くレギさんが恐る恐ると言った感じで気遣ってくれるけど......すり減った俺の精神ではまだ虚ろな返事しか出来ない。
さながらゾンビの様に歩いていると、前を歩く二人の話が聞こえてくる。
「それにしても流石ケイ君だねー、お祭りには十分間に合うね!」
「そうじゃな。まぁ、元々そんなにかかるとは思っておらなんだが......一回の戦闘で終わらせるとはのう。」
「......そう言えば、ケイ君ってボスと戦う時は一回勝負だと思ってるんじゃないかな?」
「む?どういう事じゃ?」
「ほら、普通のダンジョン攻略って、事前にボスの情報とかも集めてから攻略するけどさ......ケイ君って普通のダンジョン攻略の経験がこの前の一回しかないし......ボスの攻略班じゃなかったからさ。」
「......その辺の教育はレギ殿の管轄じゃが......。」
俺がゆっくりとレギさんの方に顔を向けると、レギさんから視線を逸らされた。
いや、別に責めていませんよ?
その事に思い至らなかった僕が悪いのですから。
「そう言えば、ルルに攻略完了を伝える前に研究室を撤去せねばのう。」
「あー、確かに。ダンジョンの中にあんな部屋があったら不自然だもんね。」
ナレアさん達は既に次の会話に移ったようだし、ダンジョンの攻略についてはまたその内レギさんに聞いておこう。
俺の気力がある時に。
「面倒じゃのう。」
「でも、わざわざ私達がかたづけなくてもいいんじゃない?クルスト君に言っておけばいいでしょ?」
「ふむ。それもそうじゃな。妾達が骨を折る必要もないか。ボスを処理しただけでも十分後片付けを手伝っておるしのう。」
「余計な事しなかったらこのダンジョンも攻略記念祭出来たのになぁ。」
「すまぬのう。流石にこのダンジョンは表立って攻略したと発表するのは拙いからのう。」
「ナレアちゃんのせいじゃないけどさー、勿体ないよねー。」
冒険者ギルドにも知らせずにいきなり攻略しちゃっているからな......関係各所的にはかなり頭が痛いことだろうな。
というか、多分その辺の調整をするのは事情をある程度把握しているルーシエルさんだよな。
......ルーシエルさんもとんだ災難だな。
しかも、多分ナレアさんは事情を一から十まで説明はしないのだろうし。
いや、まぁ、個人的な事情でダンジョンを攻略した俺が言うのもなんだけどさ。
うーん、大丈夫なぁ?
いや、でもルーシエルさんの立場上、知らない方が良い事もあるってナレアさんの判断だしな......。
神獣様関係以外......檻の実験によっておかしなことになったって所は伝えているのだから大丈夫なのかな?
俺はルーシエルさんの心労に思いを馳せ......何か心を軽くしてあげられるようなことはないだろうかと思案しながら、ナレアさん達の後ろに続いた。
1
お気に入りに追加
1,734
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。


無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

修学旅行に行くはずが異世界に着いた。〜三種のお買い物スキルで仲間と共に〜
長船凪
ファンタジー
修学旅行へ行く為に荷物を持って、バスの来る学校のグラウンドへ向かう途中、三人の高校生はコンビニに寄った。
コンビニから出た先は、見知らぬ場所、森の中だった。
ここから生き残る為、サバイバルと旅が始まる。
実際の所、そこは異世界だった。
勇者召喚の余波を受けて、異世界へ転移してしまった彼等は、お買い物スキルを得た。
奏が食品。コウタが金物。紗耶香が化粧品。という、三人種類の違うショップスキルを得た。
特殊なお買い物スキルを使い商品を仕入れ、料理を作り、現地の人達と交流し、商人や狩りなどをしながら、少しずつ、異世界に順応しつつ生きていく、三人の物語。
実は時間差クラス転移で、他のクラスメイトも勇者召喚により、異世界に転移していた。
主人公 高校2年 高遠 奏 呼び名 カナデっち。奏。
クラスメイトのギャル 水木 紗耶香 呼び名 サヤ。 紗耶香ちゃん。水木さん。
主人公の幼馴染 片桐 浩太 呼び名 コウタ コータ君
(なろうでも別名義で公開)
タイトル微妙に変更しました。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます
無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。
【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話
yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。
知らない生物、知らない植物、知らない言語。
何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。
臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。
いや、変わらなければならない。
ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。
彼女は後にこう呼ばれることになる。
「ドラゴンの魔女」と。
※この物語はフィクションです。
実在の人物・団体とは一切関係ありません。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる