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最終章 狼の子
第514話 反省
しおりを挟む「......すみません。」
「最初の言葉がそれなのは殊勝な心掛けじゃ。」
俺の胸に手を当てて......恐らく回復魔法を使ってくれていたナレアさんと目が合い開口一番、謝罪が飛び出した。
ボスを倒せた事を確認して、皆の足音を聞きながら意識が遠のいていったのだけど......気絶していたのは数分といったところだろうか?
それは、まぁ......いいとして。
問題は俺の事をじっとのぞき込んでいるナレアさんだ。
なんというか......その、目に貯めている......というか......下を向いているから......涙がこぼれて来ている。
「あの......ナレアさん。」
「......なんじゃ?」
「......心配かけてすみません。」
俺がそう言うと、涙の量が一気に増え......ナレアさんは俺のお腹に顔を埋めてしまった。
「あっ、な、ナレアさん!?」
「あーケイ君がナレアちゃんを泣かしたー。」
「ちょ!リィリさん!?」
「ひどいんだー。」
リィリさんは物凄くニヤニヤしながら俺達を見た後、それ以上何も言わずに手をパタパタと振りながら俺達から離れていく。
レギさんも苦笑しながらリィリさんに付いて離れて行ってしまった。
俺は二人に向かって手を伸ばそうと思ったのだが、覆いかぶさるようにお腹に顔を埋めているナレアさんにより手も封じられていたのでそれは叶わない。
ふと気が付くと、顔の横に子犬サイズになったシャルがいてジッと俺の顔を覗き込んでいる。
「えっと......シャル?」
『......。』
俺の問いかけに応えず、しばし無言を貫いたシャルは俺の頬を軽く舐めた後、リィリさん達と同じように俺から離れていく。
不安げな様子を見せていたグルフや、マナスとファラもシャルと一緒に離れて行って......この場に残っているのは身動きの取れない俺と、その上に覆いかぶさっているナレアさんだけだ。
......これ以上ないくらいナレアさんを不安がらせてしまったのは間違いない。
俺は少しだけ身をよじり、ナレアさんが覆いかぶさっている側とは反対側の手を自由にするとナレアさんの頭を撫でる。
「......本当にすみませんでした。相手のしぶとさに、いい方法が思い浮かばなくて......。」
俺はゆっくりと手を動かしながらナレアさんに謝る。
あれだけ水を警戒している以上、遠距離から上手く電撃を当てる方法を思いつけなかった俺は、相手の至近距離......というよりも体内からぶっ放すくらいしか思いつけなかった。
最初の電撃で仕留めることが出来ていればとか、もう少し電撃の練習をしていたらとか......空間魔法をもう少し自在に使える様になっていればとか、色々と思う所はあったけど、そんなものは全部後の祭りって感じだ。
少なくとも、今の俺にはあんな風に自爆じみたやり方でしかボスを倒すことは出来なかったわけで......現在のこの状況は一から十まで全て俺のせいだ。
「......でも、やって良かったとも思っています。あのボスの弱点が電撃だけとは限りませんが......少なくとも僕の持っている攻撃手段の中で一番有効だったのは電撃でしたし、もし電撃以外が効かないとしたら僕達以外にあのボスを倒すのは相当難しいはずです。」
ボス自身の強さもそうだけど、何より厄介なのはダメージを与える手段が限られていて、しかもそれが簡単には使うことが出来ない物って所だ。
偶々俺が電撃を使えたから勝つことが出来たものの、下手したら倒せずに撤退していた可能性だって零ではない。
その場合......放置する訳にはいかないダンジョンと言う場所を攻略するために、どれだけの犠牲が出る事か......いや、俺も諦めるつもりはないけど、俺達だけの問題にしておけるはずもないからな......。
「......多少の無茶で、このボスを倒すことできて本当に良かったと、そう思います。」
俺の言葉を聞き、ナレアさんがゆっくりと体を起こす。
しかし俯いていて、髪が完全に顔を覆っているのでその表情は全く分からない。
ただ、ナレアさんが埋もれていた部分が暖かかったり冷たかったりしているので......涙を流していたのは間違いないだろう。
......涎とかの可能性もあるけど。
そんな考えが伝わってしまったわけでは無いと思うけど......ナレアさんが自分の顔にかかった髪をゆっくりと掻き揚げたかと思うと、次の瞬間......物凄い勢いでナレアさんの両手が俺のお腹に叩きつけられた。
「ごぶぇ!?」
完全に油断して緩んでいた腹筋に突き刺さった一撃は、ナレアさんの回復魔法である程度癒えたとは言え、まだまだ重症な俺の意識を刈り取るには十分な一撃で......。
目の前が暗くなっていくのを感じ......次の瞬間頬を叩かれその衝撃で意識が戻る。
「っ!?」
ナレアさんが頬を叩いたままの体勢で......射殺さんばかりに俺を睨んでいる。
「えっと......物凄く怒っています?」
「......。」
いや、聞くまでもないのだろうけど......。
「......多少の無茶じゃと?」
「......多少では......なかったかもしれません?」
「瀕死じゃった!治療が遅かったら死んでおった!」
そ......そんな状態だったの?
「そんな姿を見せておきながら多少の無茶で倒せて良かったじゃと!?ふざけるのも大概にするのじゃ!」
再び俺の腹目掛けて手を振り下ろすナレアさん。
先程の様に油断はしていないけど......それでも結構な衝撃が襲い掛かってくる。
でも、ナレアさんの怒りは正当なものだし、俺が悪いのは間違いないので甘んじて受ける。
ナレアさんを一人にしないと言っておきながら、あんな行動を取った俺は断罪されてしかるべきだろう。
「それとも、どうせ死んでも生き返ることが出来るとか考えておったか!?」
「いえ、それは......。」
流石にそれはない。
でもそう思われても仕方ないだろう。
「......いや、言い過ぎたのじゃ。」
「いえ......悪いのは僕ですから。すみません。」
一瞬にしてバツが悪そうな表情に変わったナレアさんに俺は上半身を起こしながら謝る。
視野狭窄というか......考え無しだったと思う。
戦闘が終わり、ナレアさんに怒られ、冷静になってみれば......別にあのまま強引にボスを倒す必要は無かった気がする。
確かに、ボスの学習能力や電撃以外の攻撃手段が殆ど意味を成さないことを考えれば、なるべく早く、そして対抗手段を持つ俺達が倒す必要があるように思う。
しかし、それは何が何でも今日、今この時である必要は無かったはずだ。
確かに魔道国としても早期解決が望ましいだろうけど、今日明日に差し迫った危険と言う訳ではない。
一度引いて、じっくり作戦を考えてから再度挑むというやり方でも問題なかったはずだ。
それにも関わらず、強引な方法で決着をつけようとしたのは......慢心があったからじゃないか?
相手に一撃入れられたことと言い、最後の一撃と言い......物凄く反省が多い一戦だった。
そんな風に考えているとナレアさんが俺の顔をじっと見ているのに気付く。
「......ナレアさん?」
「......心配したのじゃ。」
「......はい。」
「......怪我をしたら説教と言ったはずじゃ。」
「......そうでしたね。」
「......最後の自爆以外にも怪我を負っておったの?」
「......すみません。」
喋りながら少しずつナレアさんが身を乗り出してくる。
「ケイは戦闘が始まったら少し入れ込み過ぎるきらいがある。今までは相手の強さを圧倒しておったから問題なかったが......今回の相手は今までとは比べ物にならぬ相手じゃった。慎重さだけではなく、もっと柔軟性を心掛けるのじゃ。」
「......すみません。」
もうナレアさんは目と鼻の先くらいまでに近づいてきた。
ナレアさんの吐息を間近に感じる。
それでもゆっくりとナレアさんの顔が近づいて来て......俺は目を瞑り。
「......あいたっ!」
ナレアさんに拳骨を頂いた。
......今俺は物凄く情けない顔になっている自信がある。
「何を盛っておるのじゃ。いやらしいのぅ。」
......この一言で俺は顔が真っ赤になっている自信がある。
若干肩を落として俯く俺を見てナレアさんがため息をつく。
しかしその後クスリと小さく笑ったような音が聞こえ......顔を上げたところ......先程と同じくらいナレアさんの顔が近くにあって......唇に柔らかい物が触れた。
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