512 / 528
最終章 狼の子
第511話 キレた?
しおりを挟むView of ナレア
ケイが背中から貫かれた瞬間、妾はリィリの手を離し飛び出そうとした。
しかし、その動きは妾の前に飛び出てきたシャルによって阻害されてしまった。
「シャル!何をしておる!」
『ナレア、落ち着きなさい。それに後ろの二人も。』
シャルの冷静な声を聞いて冷たい水を掛けられたような気分になった妾が後ろを見ると、慌てた様子のリィリとレギ殿が飛び出す寸前で止められたと言った姿を見せていた。
『ケイ様は無事です。それに見なさい。』
シャルに言われ視線を戻すと、ケイは既に相手の攻撃圏内から離脱し両手をだらんと下げた状態で相手と対峙している。
身体を左右に揺らしながら立っているその姿は、相当な怪我をしているのではと不安になる。
しかし、服は赤く染まっているものの、既に血は止まっているようで恐らく治癒も済んでおるように見える。
「......ケイ君、本当に大丈夫かな?剣も落としちゃってるみたいなんだけど。」
リィリの言う様に、ケイは剣を持っておらず......ボスと今ケイが立っている丁度中間あたりの地面に、元の長さに戻った短剣が刺さっている。
それに戦闘中にあんな風に棒立ちになっているケイは初めて見る。
傷に関しては癒しておるようじゃし問題無さそうじゃが......放心しておるのか......?
「シャルよ。確かに危急と言う感じではないが......拙いことに変わりないと思うのじゃが?危険じゃと思ったら割り込むと話しておったじゃろ?」
『問題ありません。あのくらいの傷......いえ、ケイ様に傷をつけた事は万死に......いや万回切り刻んだとしても許されざる所業......やはり、私が八つ裂きにするべきでは......。』
一瞬で憎悪が沸騰したのじゃ。
妾達に落ち着けと言ったのはそなたであろうに。
「シャル。落ち着くのじゃ。ケイの傷......いや、状態は問題ないと捉えて良いのじゃな?」
『......えぇ、ケイ様であれば一瞬で治せる傷。精神状態も......実に落ち着いていらっしゃる。寧ろ今までの方が落ち着いていなかった。本来であれば、ケイ様があのような攻撃を受ける筈が......!おのれ......あのような出来損ないにケイ様が......き、傷を......!』
「だから落ち着くのじゃ。」
妾はため息をつきながら一歩後ろに下がる。
まぁ、結果的にはシャルのお陰でこちらは落ち着くことが出来たのじゃが......最初は冷静だったくせに後からふつふつと湧いてくる怒りにシャルは囚われておるようじゃな。
「ケイは大丈夫なのか?」
武器を構えいつでも飛び出せると言った体勢のままレギ殿が問いかけてくる。
「......うむ。傷はもう完治しておるようじゃし、精神的にも問題ないそうじゃ。」
「その割にはシャルから物凄い殺気が発せられているようだが......。」
「そこは......ケイがあんな目に遭ってしまってはのう。仕方なかろう。」
しかし、そんなシャルの事を呆れることは出来ないのう。
最初に飛び出そうとしたのは妾じゃし......その後もシャルの怒りを目の当たりにしたおかげで、逆に冷静になった訳じゃからのう。
「でもなんか......ちょっとケイ君、いつもと雰囲気が違うよ?」
「......うむ。そうじゃな。」
妾達のいる位置からではケイの後ろ姿しか見ることが出来ない。
ケイよ......今どんな顔をしておるのじゃ?
View of ケイ
油断を突かれ、背中から触手に貫かれた俺は急ぎその場から離脱してすぐに回復魔法を掛ける。
幸い内臓にダメージは無かったようで出血のわりに簡単に治療することが出来た。
俺は相手と距離を取りながら途中で短剣を地面に突き刺しておく。
それにしても......怪我をしたせいか、血を流したせいか分からないけど、妙に頭の中がすっきりしている気がする。
後方の......この部屋の入口辺りから叫び声が聞こえて来た。
......すみません、心配させてしまって。
でも大丈夫です。
一撃喰らって気付いた事がある。
完全に不意を撃たれて後ろから攻撃を受けたにも関わらず結構痛いくらいで済んだ。
俺なら敵の背後から不意をついて攻撃出来るなら頭か首を狙う。
若しくは急所を狙えなくても一撃で行動不能に出来るようなダメージを狙うだろう。
だがそんな決定的なチャンスを作りながら俺を仕留めそこなった時点で、相手の遠隔攻撃はそこまでの脅威ではないという事を証明したようなものだ。
それともう一つ。
体を弛緩させながら相手の事を見つめる。
俺は無駄に緊張し過ぎていたようだ。
慎重にやろう、相手をじっくり観察しよう。
そんなことばかり考えていて......安全を求めていたつもりだったけど......意識しすぎて逆に視野を狭くし、動きを硬くしていたようだ。
「ふぅ......。」
俺は体をゆっくりと揺らしながら頭の中を空っぽにしていく。
戦闘中に頭を回転させるのは当然の事ではあるが......今回はもっとシンプルでいい。
相手の姿に引っ張られ過ぎたな。
そもそも俺はこいつの存在がむかつくから、処理をしに来たんだ。
頭の中に置くのはそれだけでいい。
ボスは慎重な足取りでゆっくりと俺に近づいてくる。
なるほど......このへっぴり腰がさっきまでの俺の動きという事だね。
......こいつ自身はそんなつもりはないのかもしれないけど......本当にこいつは俺を煽ってくるな......。
イラっとしながらも、俺は無造作にボスとの距離を詰めていく。
徐に近づいてくる俺に対し、警戒しているような素振りを見せるボス。
動作の一つ一つが腹立たしいな......。
俺は地面に刺した短剣と並んだ瞬間、一気に加速してボスとの距離を詰める!
迎撃のために袈裟斬りに振るわれた剣の腹を手の甲で叩きながら剣筋を逸らす。
同時に相手の膝目掛けて踵を叩きつけた!
相手に関節があろうがなかろうが......硬かろうが柔らかろうが関係ない。
なんであれ、蹴り砕くつもりで足を振り降ろす。
ほぼ癖で相手の膝を狙ったが、そもそもこいつに関節とか言う概念はないだろう。
なにせ触手は軟体だったりするわけで、この膝は関節の様に動かしているに過ぎない。
ボスの身体は硬質化していた物の、強化した俺の一撃を受けることは出来ずガラス細工の様に砕け散ってしまう。
一瞬、バランスを崩したボスだったが、次の瞬間には砕けた足は再生して体勢を立て直す。
しかし、その頃には俺の追撃は当たる直前だ。
ボスの膝を踏み砕いた俺はその足を軸に半回転、右肘を相手の胴体部分に叩きつける。
今度の一撃で相手の身体は砕けることなく、後方へと吹き飛んで行く。
まぁ、そういう風に手加減をしたからではあるけど。
こんなところで真っ二つになられても困るからね。
だが、相手もただと吹き飛ばされるだけではなく俺に向かって手を振り、自分の身体を球体にして飛ばしてくる。
いくらなんでも同じ手は通じないよ......?
俺は飛んでくる玉を迎撃することなく、一気に加速して吹き飛んで行く相手に追いつくと今度は右方向に相手を蹴り飛ばす。
相手は飛ばされまいとしているらしく、触手を地面に突き立て減速しているのが見えたので俺は水弾を生み出しボスを中心に水をばら撒く。
その水弾を吸収しようと地面に突き立てていた触手まで振り回し水弾を迎撃していくボスだったが、突然真後ろから現れた石柱に再び跳ね飛ばされ俺の方へと戻ってくる。
突然の背後からの衝撃に、つんのめるようにしながらボスが戻って来たが、その背中に大量の触手を生み出し俺目掛けて叩きつけてくる。
触手による攻撃も最初の頃よりかなり多彩になってきているな......単純に振り回して殴打するだけではなく、先を尖らせ槍の様にして刺突してきたり、数本の触手を纏めて太くしてから叩きつけてきたりと本当に戦闘中に学習していっているのが分かる。
まぁ、マナスだったら自分の身体をもっと自在に変化させて、こちらを圧倒してくるけどね。
1
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる