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最終章 狼の子
第503話 やりすぎ注意
しおりを挟む研究室として使われていたレストポイントでしっかりと休憩を取った後、ファラの先導で俺達はダンジョンの中を移動していた。
ファラによると道中の魔物はかなり削っているらしいけど、完全にいないと言う訳ではなく......一度だけアンデッドとの遭遇があった。
まぁ、ナレアさんに一瞬で串刺しにされて魔力の霧に還っていったけど。
「一瞬で片付いたから相手の強さは全く分からなかったな。」
「......すまぬのじゃ。ちょっと臭いのキツさに思わずのう......。」
一瞬で襲い掛かって......来ては無かったけど、少し離れた位置にいた恐らくゾンビ的な魔物を消し飛ばしたナレアさんが申し訳なさそうに謝る。
「......まぁ、ナレアの敵ではないと分かっただけでもいいか。」
「いや、本当に申し訳ないのじゃ。次魔物が出てきたらレギ殿達に譲るのじゃ。強さを計るのは必要じゃからな。」
「......まぁ、臭いがキツかったのは確かだからな。」
「そうだよねぇ。あの距離でかなりの匂いがしていたし......ナレアちゃんの攻撃は仕方ないよ。寧ろあの魔物がまた現れたらナレアちゃんに遠距離で倒してもらいたいなぁ。」
平謝り状態のナレアさんにレギさんが苦笑しながら応じ、リィリさんはナレアさんにお願いするように言う。
まぁ、確かに匂いが相当きつかったしな......あれ?
強化ってそういうこと?
『いえ、ケイ様。魔物自体の強さが上がっていると言う意味です。』
......なるほど。
俺は前を歩くファラに向かって軽く頷くと少し天井を仰ぎ見る。
前を歩くファラはこちらを見ていた様子はなかったのだけど......なんで俺のアホな思考に気付いたのだろうか?
「ケイは口にはあまり出さぬが、結構アホなことを考えている事が多いからのう。」
「そういう時の雰囲気ってすぐ分かるよね。」
俺の隣を歩くナレアさんと後ろを歩くリィリさんが俺の疑問に答えてくれる。
......なるほど。
まぁ......よく分からないけど、出会う人出会う人皆が俺の心をほぼ正確に読んでくるのでそういう物なのだろう。
もはや驚きはない......。
でもそんな正確に読めるのであれば、放っておいて欲しいなぁって気持ちも伝わるのではないでしょうか?
「それは無理じゃ。」
「放置する方が可哀想だよね?」
ツッコミ待ちと言う訳では無いのですが......というか、口に出してない事に突っ込まれると非常に恐ろしいのですが。
そんなことを考えつつ肩を落とすとファラのすぐ後ろを歩くレギさんがため息をつく。
「あまり気を抜くなよ?ファラの部下が掃除をしてくれているとは言え、ここはダンジョンだ......言った傍から客のお出ましだ。」
そう言ってレギさんが槍を構えると、前方から鎧を着た魔物が姿を現す。
「......テラーナイトか。久しぶりだな。」
その魔物を見てレギさんがぼそりと呟く。
テラーナイト......リィリさんが居たダンジョンのボスだったけど......あの時とは違い持っている武器は両手持ちのハンマーのような武器だ。
重量感がたっぷりだけど......それを振り回すにはこの通路では狭すぎないかな?
まぁ、武器はともかく、テラーナイトは鎧を着ているし......レギさんの手にしている武器も斧ではない。
以前のように腕を叩き斬るみたいなことは出来ないだろう。
「レギ殿、任せて良いかの?」
「あぁ、流石に二人並んで戦える程広くは無いからな。任せてくれ。」
そう言ってレギさんが一歩前に足を踏み出すと、テラーナイトはその鈍重そうな見た目からは想像できない程素早く手にした武器を突き出してきた。
槍の様に先が尖った武器ではないけど、風を巻きながら突き出される勢いと質量は、正面から受ければ無事では済まないだろう。
とはいえ......いくら素早く突き出そうが、何のひねりも無く真正面から突き出された攻撃が、既に身構えている相手に当たるはずもなく、レギさんは軽い様子で相手の攻撃を躱す。
本来であればそこでレギさんがカウンターを放つのだろうけど、テラーナイトは自分の武器の重さに負けたのか体が流れ距離が詰まり、逆にレギさんの攻撃を封じることに成功している。
「ちっ!」
詰まり過ぎた距離を嫌ったレギさんが、相手が体勢を戻す前に押し出す様な蹴りを舌打ちと共に放ち、相手との距離を離そうとして......吹っ飛ばされたテラーナイトが轟音と共に壁にめり込み、次の瞬間魔力へと還る。
「......。」
蹴りを放った体勢のまま、レギさんが固まっている。
何となく今のレギさんの気持ちが俺には分かる気がするな......強化魔法を覚えたての頃......ビッグボアを体当たりで跳ね飛ばして殺してしまった時、多分俺はあんな顔をしていたと思う。
「ふむ......レギ殿。相手の強さは計れたかの?」
若干ナレアさんがにやにやした感じでレギさんに問いかけると、ゆっくりと足を下ろしたレギさんが俺達の方に向き直る。
「......すまねぇ。全然わからなかった。」
ですよね......。
牽制の一撃どころか、距離を開けるために放った蹴りで倒した訳ですし。
「少しは強化魔法に慣れてきたつもりだったんだが......普通より強い相手と聞いて少し強めに強化し過ぎたようだ。相手の強さを計るなら普段通りの強化で戦うべきだったな。」
「どのぐらい強化すればいいのかっていう調整は難しいですからね。特に魔物相手はどのくらい強化するべきか僕も未だに分かりませんし......戦いながら調整出来る様になれば徐々に強くして行ったり出来るのですが。」
「今の所、戦闘前の決め打ちしか出来ねぇからな......まだまだ練習が必要だな。」
「レギにぃ......魔法が使えるのは凄いけど......本当に気を付けてね?今のは魔物が相手だったから良かったけど、人間相手に今みたいな蹴りを入れたら大惨事だよ?」
「あ、あぁ。そうだな。確かにその通りだ。」
若干顔色を変えながらレギさんがリィリさんの言葉に頷く。
俺達はあまり人相手に戦う機会が無いからな......殆ど檻関係としか戦ったことない気がする。
普段の移動は人目を避けていることもあって、盗賊やらなにやらと遭遇したことも無いしね。
治安の悪い地方だと結構そういった輩に襲われることはあるらしい。
それにしても......クルストさん、顔が変形するくらいで済んで良かったな。
下手したら頭が弾けていたかもしれない......。
まぁ......もしかしたらクルストさんとの殴り合いをしていた時、強化魔法は使っていなかったかもしれないけどね。
「しかし......そろそろボスのいる場所じゃろ?妾が言うのもなんじゃが、魔物の強さは計れなかったのう。」
「面目ねぇ......。」
「まぁ......金輪際このようなダンジョンは発生させるつもりはありませんし......いいのではないですかね?」
俺がそう言うとナレアさんが俺の方を見ながら笑う。
「それもそうじゃな。キオルの奴がケイの魔晶石を使ってまた同じことをやろうとしたら......その時はファラの配下に喉笛を嚙み千切って貰えば良いしのう。」
『厳命しておきます。』
ナレアさんが軽く恐ろしい事を言っているけど、真面目に返事をするファラはもっと恐ろしい。
キオルの生殺与奪は完全に握られているな。
良からぬことを考えたら食い千切られるのか......まぁ、ナレアさんが責任をもって監視すると言った以上容赦は出来ないのだろうけどね。
『ケイ様、ボスの居場所を感知出来ました。このまま進むと道中に魔物はいないようですが......。』
「シャルの感知出来る範囲内にボスがいるそうですが、道中に他の魔物は居ないみたいです。どうしますか?」
つい今しがた敵の強さを図る必要はないと言ったばかりだけど......当然、調べられるなら調べておいた方が良い筈だ。
「ふむ......多少の寄り道で戦えるのなら寄り道するのもありかもしれぬが......その辺はどうじゃ?」
『......私の感知出来る範囲内に他の魔物はいません。』
「シャルが感知出来る範囲には居ないみたいですね。少し探さないといけないと思います。」
『良ければ配下の者に探させますか?そう時間はかからないと思いますが。』
「ふむ......ボスを倒してしまえば調べられぬからのう。少し寄り道させて貰ってもいいかの?」
「えぇ、構いませんよ。」
ここで得た情報は、俺達の為と言うよりもルーシエルさんや魔道国、そして冒険者や他の国の人達の為にもなるだろうし、断る理由はない。
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