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最終章 狼の子
第502話 いつものミーティング
しおりを挟む「っはー、やっぱりきついな......。」
レギさんとリィリさん、更にグルフが接続した空間を通り抜けた後、ナレアさんに手を引かれ俺はダンジョンにあるキオルの研究室に再び足を踏み入れていた。
「大丈夫?ケイ君。」
「あ、ありがとうございます。リィリさん。」
リィリさんが冷たいお茶を渡してくれたのでお礼を言いながら受け取った......つもりだったけど、予想以上に握力が無かったみたいでコップを落としてしまう。
「大丈夫かの?」
俺が落としたコップをナレアさんが拾ってくれながら心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
「すみません、ありがとうございます。あの日以来初めて見えない位置への接続をやってみましたが......やっぱり相当しんどいですね......。」
「話には聞いていたけどこんなに疲れるんだねぇ......。」
「連続して使うと立つ事すら出来なくなるからのう。今日はまだマシな方じゃ。」
「そうなんだ......ケイ君、ありがとうね?この前は今の魔法沢山使ってくれたんでしょ?」
「あー、えぇ、あの時は三回か四回くらいですかね?リィリさんのせいではないので気にしないで下さい。それにしても、使いこなせるようになるにはもっと時間が必要ですね。」
俺は息を整えながらリィリさんに返事をする。
この疲労は魔道具を使っているからなのか、それともまだ自力では不可能な距離に対して魔法を行使しているからなのかは分からないけど......そのうち妖猫様に相談してみるかな?
「とりあえず、ケイよ。こちらの椅子に座って休んでおくのじゃ。レギ殿、リィリ、妾達は少し向こうの方を片付けて寝床を作るのじゃ。」
「あ、僕もやりますよ。」
「ケイは休んでおれ。妾達をここに連れてくるのは大仕事じゃったからのう。」
ナレアさんはそう言うと、非常にごちゃごちゃしている部屋の一角を片付けに向かい、リィリさん達はそれに続く。
まぁ、確かに疲労は感じるけど......流石にまだ一回目だしそんなにきつくない......でもまぁ、コップを受け取れない程度には疲労しているみたいだし、甘えさせてもらうか。
俺は握力を確かめるように握りしめる。
うん......もう問題ないかもしれない。
俺が軽く深呼吸をしながら部屋の様子を見ていると、ファラが部屋に入ってくるのが見えた。
『ケイ様、お待ちしておりました。』
「久しぶりだね、ファラ。長い間調査と情報網の構築ありがとうね。」
『いえ、私から志願してやらせていただいている事ですので。ところでケイ様シャルから聞いたのですが......このダンジョンのボスと御一人で戦われるとか?』
挨拶も早々に早速本題と言った感じでファラが切り出してくる。
「うん。母さんの魔力を奪われているのがちょっと許せなくてね。どうしても俺の手でぶっ飛ばしたいんだ。」
『なるほど......分かりました。ケイ様であれば問題ないと思いますが、相手の強さは相当なものです。十分お気を付けください。』
「うん、了解だよ、ファラ。絶対に油断はしないよ。」
というか、ファラよりも強いって言われているような相手に油断なんて絶対にしないけどね。
細心の注意と全力をもって戦う所存である。
「む?ファラが来ておったのか。」
暫くファラと喋っていると、ある程度片付けを済ませたナレアさん達がこちらに戻って来た。
「ファラちゃん久しぶりー。」
『ご無沙汰しております、ナレア様、リィリ様、レギ様。』
「おう、ファラ。早速で悪いが地図を見せてもらっていいか?」
『承知いたしました、レギ様。こちらに用意してあります。』
そう言ってファラは丸められた紙を引っ張り出してきた。
『以前お話しした通り、こちらのダンジョンは小規模なものになります。但しその難易度は普通のダンジョンとは比べ物になりません。』
「ん?ボスだけじゃなくってダンジョン自体の難易度が高いの?」
『はい。とは言え、罠等があったり地形が複雑という事ではありません。ただ純粋に徘徊している魔物が強力な物になっています。』
「ふむ?ボスだけではなく徘徊しておる魔物まで強力になっておるのか......。」
「そんなことってあるの?」
ナレアさんの呟きにリィリさんが疑問符を浮かべながら尋ねる。
「確か、ダンジョンを放置するとそのようなことが起こると聞いたことがある。じゃが、このダンジョンは若いダンジョンと聞いておるがのう......。」
そう言ってナレアさんは思案顔になるが......。
「それもきっと母さんの魔力が原因なのでしょうね。」
それくらいしか普通のダンジョンとの違いは思いつかないしね。
「御母堂の魔力と言うか......恐らくダンジョンに存在する魔神の魔力量が原因じゃろうな。勿論御母堂の魔力を取り込んだことによる総魔力量の増加が原因であると思うのじゃが。」
「ダンジョンの総魔力量ですか......。」
「うむ。以前キオルと話しておった時にダンジョンや魔力の性質の話を聞いての。普通のダンジョンであれば定期的に冒険者が魔物を狩って数が増えすぎないようにするじゃろ?恐らくあの行為はただ発生した魔物を減らす以外にも魔力を散らす効果もあったのじゃろうな。」
ナレアさんの推測を聞いて若干複雑な気分になる。
「キオルの実験の結果、色々なことが判明しますね......。」
非常に業腹ではある。
「そうじゃな。実験とはそういう物ではあるが......ダンジョンの研究はあまり進んでおらぬからのう。危険と利益の天秤が中々のう......。」
既に魔晶石という利益が確定しているからこそ大規模な投資をしにくいってことだろうか?
でもその仕組みが分かればもっと利益を出す方法が見つかるかも知れないよね?
「ダンジョンの事を調べたら魔晶石がもっと沢山採れるようになるんじゃない?」
俺と同じような疑問を持ったのか、リィリさんがナレアさんに尋ねる。
「それなりに研究しておった場所はあったのじゃがな。しかし、魔晶石以外の資源は皆無じゃし......その魔晶石も、ある程度時間を置いたダンジョンからであれば安定して採取出来ると判明してからはのう......っと今はそれは関係ないのう、ボスの位置を教えてくれるかの?」
完全に脱線していた話をナレアさんが元に戻し、問われたファラが地図にある一角を尻尾で示した
『ボスがいるのはこの広間になります。御覧の通りあまり広い部屋ではありませんが......因みにこちらが現在いるレストポイントになります。』
そう言って少し離れた位置にある部屋をファラが指す。
「少し距離があるようじゃが、まぁこの程度であれば問題ないのう。」
「そうだな。道中は俺達が戦うからケイは下がっているといい。ボスに集中するんだ。」
「分かりました、ありがとうございます。」
少し申し訳なくはあるけど、レギさんの申し出に頷く。
『それと、このダンジョンにいる通常の魔物はアンデッドですが、ボスだけは獣型になっております。』
「獣型......?相手の名前は分からないの?」
『申し訳ございません。私の知らない魔物となっております......恐らく、特殊な進化をした魔物だと思いますが......。』
少し歯に物が挟まったような言い方になるファラ。
「何か思い当たることがるの?」
『中途半端な言い方をして申し訳ありません......あくまで見た目の印象ですが......ボスは四足歩行獣で体の大きさはグルフと同じ程度......そして、姿は......その、狼に近い感じではないかと。』
「......へぇ。」
物凄く言いにくそうに所感を告げてくるファラに、思わず剣呑な雰囲気で相槌を打ってしまった。
これは良くない。
「ごめん、ファラ。」
『いえ、大丈夫です。心中お察し致します。』
ファラは一生懸命調べてくれたことを報告してくれていると言うのに、非常に申し訳ない態度をとってしまった。
これも魔神のせい......という事にしておこう。
まぁ、余計な進化の仕方をしたのが悪い。
「......まぁ、恐らくその進化の仕方は御母堂の魔力が関係しておるのじゃろうな。普通であればアンデッド系の上位種に進化する筈じゃからな。」
「......そうですね。」
「ファラの知らない未知の魔物だ。どんなことをやってくるか分からないからな。相手の挙動に注意しておけよ?」
「分かりました。」
頭に登っていた血がレギさんの一言でスッと冷えていくのを感じる。
確かにそうだ......相手は未知の魔物で何をしてくるか分からない......スラッジリザードの時みたいに何かを吐いてきたりする可能性だってある......ボスを目の前にして目つぶしをされたりしたらかなり危険だ。
細心の注意を払った上で、消し飛ばしてやろう。
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