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最終章 狼の子
第494話 比翼連理
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ケイ達が部屋から出て行き、俺はリィリと二人部屋に残された。
珍しく俺達の間に若干気まずい空気が漂っているが......このまま黙っているのもな......。
というか、やや強引にナレアに話を振られた以上......俺から話さなくてはならないだろう。
「えっと......レギにぃ?ナレアちゃんの言ってた話って......?」
そう考えていたにも拘らず、リィリに先を越されてしまった。
本当に俺は情けないな。
気合を入れ直し、俺はリィリを正面から見据える。
「あぁ、本当はケツを叩かれる前に話すべきだったんだがな。尻込みしていたのがあっさりバレたらしい。」
そう言って俺が苦笑すると、リィリも同じようにぎこちない笑みを浮かべる。
「あはは、まぁ、ナレアちゃんだからね。ケイ君の事は勿論、私達の事も物凄くよく見てくれるから。」
「それに関しちゃリィリも似たようなもんだと思うがな。俺と......ケイは、少しそういうのは苦手だ。」
「ケイ君はレギにぃよりかなりマシだけどねー。レギにぃはちょっと目が見えて無いのかなって不安になる時があるよ。」
......ケイの方がマシなのか。
まぁ、確かにケイの方が俺より何倍も気が利くか......。
「......すまねぇな。」
「まぁ、もうずっと昔からだからね。レギにぃのそれはもう死ぬまで治らないと思うんだ。」
「面目ねぇ......。」
「あはは、気にしなくていいよ。レギにぃの足りないところは私が補えばいいんだし、今までも、これからも変わらないよ。」
「......そうか。苦労を掛けるな。」
情けないばかりだと思うが......こればっかりは中々な......。
「......私は今すっごく楽しいんだ。」
リィリが穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「ヘイルにぃやエリアねぇ......四人で冒険者をやっていた時と同じくらい......うん......あの頃以上に私は今が楽しいと思う。こんなこと言ったら怒られちゃうかな?」
「......あの二人がそんなことで怒る訳ないだろ。まぁ、羨ましがりはするだろうがな。」
俺はかつての仲間を思い出す。
アイツらと過ごした日々は輝かしいものではあったし、今と昔......比べられるようなものではないと思うが、リィリの言う事も分かる気はする。
「まぁ......あの頃の冒険と今の冒険は少し毛色が違うしな。」
「普通は一年足らずで東方に行ったり魔道国に来たりなんて不可能だよねー。」
「内容も無茶苦茶だ。遠くに住んでいる親戚を訪ねる程度の気軽さで神様方に会いに行くんだからな。」
俺達は自分達の状況に若干呆れながらも笑いながら話す。
ただの下級冒険者だった俺が、何をどう間違えたら神様に会ったりダンジョンの真実を知ったりするのかね。
「神様って言っても、気さくな方達ばっかりだよねー。妖猫様にはまだ会ってないけど。」
「ケイ達は随分とのんびりとした雰囲気と言っていたな。その内俺達も紹介するとは言っていたが......それは本当に必要なのかと思わなくもないな。」
ケイは神獣の関係者だしナレアは加護を貰う為に会うのは分かるが......俺やリィリは......会う必要はないよな?
「ケイ君からしたら......親戚......とは違うかもしれないけど、お母さんの知り合いに仲間を紹介したいだけなんだと思うけどね。」
「こっちは全力で緊張する相手なんだがな。」
「ナレアちゃんにとってはルーシエルさんがそうであるように、ケイ君にとっては神獣様達が親類なんだろうねぇ。」
「大物過ぎるだろ。」
俺の言葉にリィリが笑う。
「......楽しいよね?」
「あぁ、楽しい。」
リィリの問いかけに笑い返す。
あぁ、そうだ。
俺は今が本当に楽しい。
そしてそれが壊れるかもしれないと思った......俺の力では何もかもが足りないと思った。
だからこそ俺はケイに願ったんだ。
「リィリ。俺はケイの眷属になった。」
「......え?」
俺の言葉を聞いたリィリが一瞬固まり、目を丸くする。
「昨日ケイの眷属になった。」
「......な、なんで?」
リィリが何故か随分と動揺しているな。
唐突過ぎただろうか?
「なんで眷族になっちゃったの?」
「俺はお前たちに比べて弱いからな。力が欲しかったんだ。」
「......レギにぃはそんな理由で眷属にならないよね?」
若干怒ったような目をしたリィリがもう一度聞いてくる。
「いや......概ね間違っちゃいねぇが......まぁ、他にも理由はあったがな。」
「......他の理由って?」
「まぁ、色々だな。」
咄嗟に口にしてから気づいたが......ここで口籠るのは、なんかナレアに怒られる気がしてきたな。
「いや......まぁ......あれだ。」
「......?」
先程まで怒っていた様子だったリィリが疑問符を浮かべている。
そうなって当然だとは思うが......。
俺は咳払いをするとゆっくりと息を吸う。
「リィリを助けるのに力不足だったからな。ケイに頼み込んで眷属にしてもらったんだ。」
「......そんな理由で......。」
「勿論それだけじゃないが......俺にとっては何よりも大事な理由だ。」
「......。」
リィリが俯く。
「私のせいで......?」
「いや待て、眷属になったことをそんな風に言ってくれるなよ?悪い事みたいな言い方じゃねぇか。」
「あ......あはは......そうだね。ケイ君達に聞かれたら怒られちゃう。」
そう言って笑うリィリだが、随分と浮かない顔だな。
「でもさ......レギにぃ、本当に良かったの?」
「ん?何がだ?」
「だって......眷属になるってことは......。」
「特に問題はないと思うが......。」
「人じゃなくなっちゃうんだよ?それに寿命だって......。」
「人じゃないって言ってもな......大して変わらんだろ?それに寿命だって減る訳じゃない、寧ろ長くなって不満だなんて言うかよ。」
「それは......そうかもしれないけどさ......。」
俗な言い方をすれば、魔力はとんでもなく増えるし寿命も延びる。
例え自ら望んで眷属になっていなかったとしても、文句なんかないよな?
「それに、俺にとって都合が良いことだらけだ。」
「都合がいい?」
「これからもリィリと一緒に居るのに、寿命は長い方がいいだろ?」
「......ん?」
「リィリは......多分これから長い時を生きることになるだろ?眷属になってどのくらい寿命が延びるかはわからねぇが、都合がいいだろ?」
「い、いや、それはそうだけどー。」
リィリが若干視線を逸らしながら返事をするが、俺はそのまま言葉を続けた。
「俺は......俺に出来る限り、お前の傍に居る。」
「っ!?」
リィリが目を丸くして固まる。
......そこまで驚く様な事を言っただろうか?
「ケイにも言ったが、眷属になった理由としては不純だろうな。しかしまぁ、シャルにぶっ飛ばされなかったからとりあえず大丈夫そうだ。」
「あ、あはは、そうだねー。シャルちゃんが怒らなかったなら大丈夫だねー。」
ぎこちない笑みを浮かべたリィリが視線を逸らしながら言う。
「あぁ、眷属になった理由が原因で死ななくて良かったぜ。魔力が増えて多少魔法が使えるようになったからと言って、シャルと敵対したらどう考えても死ぬぜ。」
「よ、よかったねー。」
「あぁ、全くだ......ところでリィリ。」
俺は今日の昼に買って来た物を懐から取り出し机の上に置く。
「俺は、誰からも呆れられるような気の利かない男だ。最近は分不相応な名声を得ちまっているが、本来の俺はうだつの上がらない下級冒険者。ただの街の便利屋だ。」
「......。」
リィリは何も言わずに俺の言葉を聞いてくれている。
「だが......そんな俺ではあるが......もう二度とお前の手を離さない。だから、リィリ。お前が受け入れてくれるなら......これはその証だ。受け取ってくれないか?」
「っ......。」
息を呑んだリィリに箱を差し出すと、恐る恐ると言った感じでリィリが受け取りゆっくりと箱を開ける。
「これ、は。」
「こういう時はそれを渡すものだって、昔ヘイルから聞いていたからな。」
箱に収められた指輪を見て、リィリが一条の涙を流す。
「でも......私はアンデッドだよ?」
少し俯いたリィリが小さく震えながら言うが......。
「はっ!そうやって涙を流すアンデッドなんていねぇよ。お前は間違いなく人で、俺にとって誰よりも大切な人だ。」
「っ!?」
リィリが涙を流しながら顔を上げる。
「いつか来る別れの時まで、俺と一緒に居てくれ。リィリ。」
「う、うんっ......はい!」
こぼれる涙を拭わず、リィリは笑顔で頷いた。
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