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最終章 狼の子

第491話 今日の今日

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「レギさんはギルドに行っていたのですよね?随分早い帰りですけど、いい仕事無かったのですか?」

リィリさんと入れ替わる形でテーブルに着いたレギさんに問いかける。

「あ、あぁ。いや、ギルドは行ったが軽い配達の仕事を一件やったくらいだな。」

リィリさんの後ろ姿を若干落ち着かない様子で見送っていたレギさんだったが、こちらを向いて話を始める。
何かリィリさんに用事でもあったのだろうか?

「なるほど。今日はもうそれで終わりですか?」

「そうだな。後は少し南の状況も仕入れてきた。」

「魔物の襲撃ですか?どうなりました?」

「あぁ、最初に襲撃の知らせがあった......コレルだったか?そこは王都からの援軍が到着する前に魔物が散り始めたらしくてな。街の冒険者が追撃を始めているらしい。」

「ナレアさんは問題ないとは言っていましたけど......僕が思っていたよりもかなり早いです。その情報がギルドにもう来ているという事は、数日前にはその状況に向こうではなったってことですよね?」

「そうだな。とは言え......考えようによっては今の状況の方が厄介だ。大規模な魔物の群れによる襲撃は確かに問題ではあるが......大きな街は街壁に守られているし、兵や冒険者の様な戦力が多数いる。しかし、群れがばらけることで、近隣の人里や街道を行きかう連中が襲われやすい状況になっている。」

「確かにそれはまずいですね......。」

普通の人達にとっては魔物の一匹一匹が生命を脅かすほどの脅威だ。
群れがバラけることで四方八方にその脅威が散るというのは......確かに村や街道を行く人にとっては危険極まりない話だ。

「まぁ、襲撃の話があった当初からギルドもそれを懸念して南の方に冒険者を送り込んでいるようだが......鎮静化まではもう少し時間がかかるだろうな。」

「......かなり大変な事態ですよね。」

「俺達のせいとまでは言わないが......関係ないとは言い切れないからな。」

俺達を王都から動かすために仕掛けられたことだからな......悪いのは完全にクルストさん達ではあるけど......それで誰かが不幸になると思うと......やはり関係ないとは言えないよね......。

「僕達も南に行った方が良さそうですね。」

「そうだな。リィリ達が戻ってきたら少し相談したほうがいいだろう。全く......あいつらは余計な事しかしていないな。」

「......いや、ほんとすまねぇっス。」

......こそこそと食堂の入り口から入って来たクルストさんが気まずそうに言う。

「お前......昨日の今日で良く顔を出せたな。」

「いや......俺もどうかと思ったんスけどね?でも伝えておく必要があったっスよ。」

「ほぉ?」

レギさんがテーブルに頬杖を突きながらクルストさんを冷ややかな目で見る。

「なんだ......早速ご飯ってわけじゃないのですね。」

「いや......俺の顔をよく見るっス。たかだか半日で治る様な感じじゃないっスよ?」

まぁ、レギさんと殴り合って顔がぼこぼこになり、その後俺達から強めの一撃......と言わずに数発叩き込まれているから原型を留めない程度にはぼっこぼこだ。

「......って、レギさんはもう腫れが引いたっスか?」

クルストさんがレギさんの方をマジマジと見ながら驚きの声を上げる。
まぁ、レギさんはこっちに戻ってきてから俺が回復魔法を掛けたからね......まさか昨日の今日でクルストさんと会うとは思わなかったし。

「傷の治癒は大事だからな。後は気合だ。」

「......化け物っス。人をやめてたっスね。」

「まぁ、レギさんですからね。」

とりあえず、レギさんのせいにしておこう。
クルストさんもそれで納得出来そうだし。

「......お前ら言いたいことはそれだけか?」

俺とクルストさんの顔を思いっきり掴みながらレギさんがにこやかに言う。
俺の頭蓋からミシリと聞こえてはいけない音が聞こえてくる。

「あ、違うっス。ケイが言ってたっス。あの禿げマジ化け物って。」

「おっそろしいこと言いますね。そんなこと考えていたのですか?僕にはとても思いつかないような発想ですが。」

レギさんの手で覆われていて何も見えないけど......俺の台詞が終わると同時に横から何かが聞こえてくる。

「あ、あ、あ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

どうやら正当な裁きが下されたようで、俺の顔を掴んでいたレギさんの手から力が抜け解放される。

「まぁ、それはさておき、クルストさんは何を言いに来たのですか?」

「......少しは心配して欲しいっス。今日という今日は流石に頭割れていると思うっス。」

「中身は出て無いから安心しろ。それで何の用だ?」

「あー、目の前がチカチカするっス......えっと、あー俺がここに来た理由っスね。丁度いい時に来たと言うか......さっき二人が話していた内容に関してっス。」

「......上で話すか?」

「ナレアさんから防諜用の魔道具を預かっているので大丈夫ですよ。」

俺は幻惑魔法を発動させながら言う。
まぁ、ナレアさんみたいに色々出来ないから声が他の人達に聞こえないようにするだけだけどね。

「便利っスねー。じゃぁ、さくっと話すっス。今回の件で、俺達が南方に仕掛けた魔物の群れっスけど......俺達の方でも後処理をやることにしたっス。」

「後処理?魔物をどうにか出来るのですか?」

「いや......申し訳ないっス。流石に一気に全部倒したりとかは無理っスね。俺と馬鹿の部下を使って群れから散っていった魔物を狩って行くっス。無責任な事を言うっスけど、流石に被害を完全になくするのは無理っスね。ただ出来る限り処理はするつもりっス。」

「まぁ、被害を出すなと言っても無理だろうからな。」

「何を今更と思うかもしれないっスけど、一応部下を多少は南方には配置してあって、群れからはぐれた魔物は順次狩るように指示は出していたっス。実験や作戦と言えば疑う事を知らない連中っスからしっかりやっているとは思うっス。」

「......なるほどな。」

檻の連中はグラニダの件を考えても結構手練れみたいだし、そこそこ被害は減らせるかもしれないな。

「とりあえず、コレルと大河を越えた南の方には極力多めに部下を配置してあるっス。」

「大河の上流も襲われていましたよね?そっちは誰も送っていないのですか?」

「あそこは元々街自体に過剰なくらい戦力があるっス。それに近くに大きな山があるっスから、はぐれた魔物はそっちを目指すはずっス。」

「配置されている部下はどのくらいの人数だ?」

「二十人弱って感じっスね。一人一人がそこらの兵士よりは強いっスからそれなりに役には立つっス。」

レギさんの問いにクルストさんは軽い様子で応えるけど......部下って檻の構成員だからな......。
あまり信用できないと言うか......。

「まぁ、お二人の懸念は理解しているっス。でもまぁ、あいつらは基本命令を疑うってことを知らないっスからね。しっかり仕事はしてくれるっス。」

「本当に厄介な組織だな。」

あっけらかんと言っているが......中々怖い事を言っている。
しかし、クルストさんの言う通り、しっかりと仕事はしてくれそうだ。

「まぁ、暫くは色々と利用させてもらうっスよ。どうせ、レギさん達はあの組織をほっとくつもりはないんスよね?」

「さぁな?俺は別に興味ないが......。」

「そうですね......まぁ、本来一介の冒険者が対処するような相手ではありませんし。」

俺達の言葉にキョトンとした表情を浮かべたクルストさんだったが、笑顔を浮かべると席を立つ。

「まぁ、それならそれで構わないっスけどね。じゃぁ、伝えることは伝えたんで俺も南に向かうっスよ。また今度っス。」

「......クルスト。」

手を振って立ち去ろうとしたクルストさんをレギさんが呼び止める。

「なんスか?」

「......慎重に、冷静に......情報収集は怠ることなく、異変を感じたらすぐに引け。」

クルストさんの方を見ることなく、レギさんはいつものように仕事をする上での心得をクルストさんに伝える。
その言葉を聞いて満面の笑みを浮かべたクルストさんは手を振って声を上げた。

「行ってくるっス!リィリさんとナレアさんにもよろしく言っておいて欲しいっス!」

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