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8章 魔道国

第488話 そろそろ時間だ

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「ダンジョン......って何かありましたっけ?」

キオルの言葉を聞きクルストさんが頭を抱える。

「それでは銀髪の美しき方よ。この指輪を貴方に。」

そして名も無き男は先程と同じポーズで今度はナレアさんに指輪を差し出す。
いや、その指輪......キオルの言っていた魔道具だろ?
......しかし、指輪......指輪か......。
いや、あんな奴の行動をみてそれに気づくのもどうかと思うけどさ......指輪か......。
因みにナレアさんは、差し出された指輪を嫌そうな表情で摘まむように受け取っている。
後、その横に座っているリィリさんは俺の方を見てニヤニヤしている。
うん、完全にいつも通りな気がする。
リィリさんの表情は非常に引っかかるけど......俺はクルストさんの方へと視線を向ける。
頭を抱えてため息をついているけど......ダンジョンに何かあるのだろうか?

「クルストさん。神の魔力とダンジョンに何か関係があるのですか?」

ナレアさんは受け取った魔道具を拭くのに忙しそうなので俺がクルストさんに尋ねてみる。

「あぁ、そうっス。この馬鹿の実験で、さっきまでいたダンジョンのボスに神の魔力って奴を取り込ませたっスよ。」

......それは、ちょっと聞き捨てならないな。

「クルストさん。その話もう少し詳しく。」

「流石に実験の内容は詳しく分からないっスよ?たださっきまでいたダンジョンのボスに神の魔力を与えた結果、とんでもない強さのボスに進化しちまったって感じっス。」

「キオル、今クルストが話した内容はどういう事じゃ?」

魔道具から顔を上げたナレアさんが視線を鋭くしてキオルに問いかける。

「あー、はいはい、思い出しました。私の実験室があったダンジョンのボスに神の魔力の一部を吸わせたのですよ。小規模ダンジョンですしね、大したことのないアンデッド系のボスだったのですが......一気に姿形が変わりまして......驚きましたねぇ。」

全く驚きを感じさせない口調で言うキオル。
いや、当時は驚いたのかもしれないけど、クルストさんに言われるまで完全に忘れる程度だからな......。

「先ほどのダンジョンのボスという事じゃが、あのダンジョンはどこにあるのじゃ?帝国より東にあるダンジョンと言うのは本当かの?」

「あー、いえ。あれは出まかせです。あのダンジョンは魔道国の南方にある未発見のものですね。街道からも人里からも離れた位置にありますし、かなり気付きにくいでしょうね。」

「未確認のダンジョン......しかも魔道国内じゃと?」

「えぇ、丁度神の魔力を手に入れた頃に見つけたダンジョンですね。当初は手に入れた神の魔力に浮かれて色々実験してしまいましたからね......いやはや、アレは成功でしたが失敗でしたね。」

笑いながら朗らかに言うキオル。
成功だったが失敗......なにやらロクでもないことを言っているよね?

「実験自体は成功、結果は予想を上回り強すぎる魔物が生まれてしまったと言う所じゃな?」

「まさにその通りです。」

「流石にダンジョンは放置出来ぬからのう。軍でも送り込むかのう。」

「あーナレアさん。それはやめた方が良いっス。」

ナレアさんの考えにクルストさんが待ったをかける。

「どういうことじゃ?」

「あのダンジョンは小規模ダンジョンっス。ボスのいる部屋もあまり広くなく、あまり多くの人数で囲むのは無理っス。っていうか、本当にめちゃくちゃ強力なボスっス。並みの兵士じゃ多分相手にならない所か虐殺されるだけっス。因みに俺は古代の魔道具ありで手も足も出なかったっス。」

「それは本当にまずいのう......。」

魔道具を使ったクルストさんが手も足も出ない相手......しかも広さ的に人数を使って押しつぶすのも無理と......。

「というか貴様......随分と余計な事をしてくれたようじゃな?」

「不可抗力ですよ。多少......いや、そこそこ強くなるとは思っていましたが......まさかあれ程とは思いませんでしたね。」

うん......やはり母さんの魔力は取り戻しておいて正解だな。
なんかそういう風に使われていると思うと非常にイライラしてくる。

「今後、渡した魔晶石に関しては何に使ったか全て情報開示させるからの?妾も研究は好きじゃからな、多少の事は目を瞑るが、やりすぎと思ったら止めるし......いう事を聞かぬようなら潰すからの?」

「少し面倒ですが、仕方ありませんね。まぁ、ナレア様への報告は私にも糧になりそうですし......真面目にやらせていただきますよ。感想とか頂けますよね?」

......キオルの事をナレアさんが管理できるのであれば変なことはしないだろうけど......どうもキオルの過去の所業は色々と許せない感じなんだよな。
とは言え、今更どうこう言うべきではないし......まぁ、リィリさんと一緒にぶっ飛ばすくらいにしておこう。
それはそうと、ダンジョンのボスに母さんの魔力を取り込ませたか......。

「ナレアさん、そのダンジョンですが......。」

俺がナレアさんに声を掛けると、ナレアさんは軽く笑みを浮かべながら頷く。

「まぁ、報告についてはそれでよかろう。ところで、そのダンジョンについてはどう始末をつけるつもりじゃ?まさかそのまま放置するとは言わぬよな?」

「「......。」」

ナレアさんの問いかけにキオルとクルストさんは黙り込む。

「美しき方よ。不甲斐ない彼らに代わり、私が貴方の憂いを取り除きたく存じます。」

そんな二人を他所に軽い様子でナレアさんに話しかける一名。
ナレアさんはそちらを一瞥した後でクルストさんに問いかける。
後他人事みたいに言ってるけど、思いっきり当事者だろ?

「このように言っておるが、可能かの?」

「不可能っス。運が良ければ一撃くらいは入れられるかもしれないっスけど、そこまでっスね。」

クルストさんにばっさりと言われた男は眉を顰めながらクルストさんへと向き直る。

「それほどまでに強大な相手だと?」

「お前は話を聞いていなかったのか?魔道具ありで手も足も出なかったと言っただろ?」

「......それは随分と恐ろしい相手の様ですね。」

どうやら本当に聞いていなかったらしい。
っていうかそのダンジョンでの実験は知らなかった感じなのか......そう言えば、グラニダに潜入していたし、その間の実験だったとかかな?

「ですが、銀髪の美しき方よ、貴方の為であるならこの命......。」

「待て馬鹿。少しでも可能性があるならともかく、ただの自殺を他人のせいにするな。」

「......申し訳ございません、美しき方よ。確かに、あの馬鹿の言う様に、貴方の心につまらない染みを残すところでした。私には件のダンジョンは荷が勝つようです。ですが、もし貴方が赴くというのであれば、矢面に立たせていただきたいと存じます。」

「......とりあえず、お主等ではどうすることも出来ないという事じゃな?」

「そうですね......檻を騙してダンジョンに突撃させたとしても......大した痛痒を与えることも出来ずに諦めるでしょう。檻としてはダンジョンを暴走させた方が目的に叶いますしね。」

「仕方あるまい......そのダンジョンは妾達の方で処理しておくのじゃ。」

「いいんスか?」

「ケイやレギ殿と戦って分かっておるじゃろ?妾達の戦力はお主等より数段上じゃ。少人数で挑まねばならぬのであれば妾達が適任。放置するという選択肢はないからのう。まぁ、これも貸しとするのじゃ。」

「......良ければ参加させてもらいたいっスけど......。」

「駄目じゃ。わざわざ手の内を晒すような真似はせぬ。以前とはもう異なるのじゃ。」

「......そうっスね。すまねぇっス。」

頭を下げたクルストさんは一歩後ろに下がる。
確かに......ナレアさんの言う様に、以前とはもう決定的に関係が異なってしまっている。
......その事を再確認させられ、胸の中に嫌な冷たさが広がる。

「話すことは以上じゃな?」

「えぇ。こちらはもう何も。定期連絡に関しては先程話した通りに。」

笑みを浮かべつつ言うキオルにナレアさんが頷く。

「うむ。では、そろそろ......オトシマエの時間じゃな。」

そう言ってナレアさんとリィリさんが立ち上がる。
ずっと黙っていたレギさんは肩をほぐす様に大きく回し......俺は指の骨を鳴らす。
そして、クルストさん達三人は......顔を青くしながらひきつらせた。

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