上 下
487 / 528
8章 魔道国

第486話 では取引を始めよう

しおりを挟む


結構な時間が経過したと思う。
キオルの質問は多岐にわたり、好きな食べ物から戦闘方法、寝る時間なんかも聞かれていたっけ。
好きな食べ物の時が一番真剣な表情をしていたな......リィリさん。
色々な条件を調べていたみたいだけど、好きな食べ物って関係あるのだろうか?
栄養素とか?

「聞きたい事は一先ずこんなところですかね。」

満足したように笑みを浮かべながらキオルが頷く。

「......ふむ。ではそろそろぶっ飛ばすかの?」

「「......。」」

ナレアさんの言葉にクルストさんとキオルの表情が固まる。

「......まだ何か聞きたいことがあるだろ?」

「あー、えー、そうですね......。」

「そうだ。アイツを起こすって話はどうなった?起こすべきじゃないか?」

「確かにそうですね。それは必要な事です。すぐに起こしましょう。」

なんか二人して犠牲者を増やそうとしていない?
まぁ、ダメージが分散されると思えば......大事なことかもしれないね。

「そういえば、リィリさんが起きてからならって話していたっスよね?ちょっと馬鹿を一匹起こしてくるっス!」

若干縋るようにレギさんに言い放ったクルストさんは、いそいそと気絶した人達が集められている場所に向かっていく。
まぁ......それはいいとして......。

「ナレアさん。少し相談したいことがあるのですが、いいですか?」

「む?なんじゃ?」

俺は幻惑魔法を発動してナレアさんとの会話が外に聞こえないようにする。

「ナレアさん。彼らの言う神の魔力ですが......。」

「うむ。時期も一致しておるし、実行部隊はアザルじゃと聞いておるしな。ぶっ飛ばすのかの?」

「ぶっ飛ばすのは、まぁ後ほど。それよりも母さんの魔力を取り戻したいのですよね。」

「あぁ、そういえばそうじゃったな。御母堂はどうでもいいと言っておったが、ケイはそれも目標にして居ったな。」

「えぇ......。」

神域を襲った奴等......というか、檻に母さんの魔力を持たせていたくなかったのだが......どうやらキオルが秘匿していたらしいし......キオルから取り戻すだけでいいなら話は早い。

「そうじゃな......穏便に取り戻す必要は無いと思うが......話し合いで取り戻したいのかの?」

「えぇ、クルストさんの事情もありますし......全てを否定するつもりはありません。とは言え......母さんの魔力を返してもらうという事は......クルストさん達の戦力や研究の進み具合に影響するかなと......。」

「泥棒の事情に影響されすぎじゃな。まぁ、ケイらしいと言えばケイらしいのじゃが......ふむ。では妾に任せてもらえるかの?上手く誤魔化しつつ返還させるとするのじゃ。」

「それはとても助かるのですが......。」

「代替として、ケイの魔力を込めた魔晶石を渡そうと思うが、それでもいいかの?」

なるほど......神域産......というか、俺の魔力を込めた魔晶石か......まぁ、母さんの魔力を奪われた事が気に入らなかっただけだし、それでいいか。

「えぇ、それでお願いします。」

「本来それすら渡す必要はないのじゃがのう......。」

「......すみません。」

ナレアさんに謝ると同時に横をちらりと見ると、これでもかと言うばかりに不満そうなシャルがいた。

「えっと......シャル。魔晶石を渡すのは駄目かな?」

『いえ、ケイ様のなさることに否やはありません。』

......何か、このやり取りよくやるような気がするのだけど......基本的に全力で不満ですってオーラを醸し出してくるよね?

「あー、じゃぁ、ナレアさん代替に魔晶石を渡す方向でお願いします。」

シャルから無言でありながら非常に威圧感のある抗議を受けながらも、ナレアさんに交渉をお願いする。

「いや、まぁ......ケイがそれでいいのなら別にいいのじゃ。妾が文句を言えるようなことでもないしの。」

シャルだけではなく、ナレアさんも物凄く不満そうにしているけど......俺が笑いかけると、軽くお腹を殴られた。



「キオルよ。少し話がある。」

「なんでしょうか?」

ナレアさんが椅子に座りキオルに話しかける。

「今回の件と完全に別と言う訳では無いのじゃが......お主、いや、お主等に要求したいことが二つあるのじゃ。」

「我々に要求、ですか......お聞きしましょう。」

先程までとは違い、少し冷めた様子のキオルがナレアさんに応える。

「まず、一つ目じゃが、先程妾と話していた時に檻から抜けると言っておったな?」

「えぇ。リィリさんのお話を聞けたことで試したい事、調べたいことが山のように出来ましたからね。あの組織はダンジョンの研究については役に立ちましたが、この段階まで来た以上ダンジョンの研究はもう私には必要ありませんし......所属しておく必要性はありませんからね。」

「抜けたりしたら襲われたりするのではないかの?」

「まぁ、それはあるでしょうが、基本的に私達をどうにかするのは難しいでしょうね。遺跡にある古代の魔道具を使えるのは私達だけ......というか、魔道具であることすら把握出来ていませんしね。」

そう言って肩をすくめるキオル。

「古代の魔道具を使えるようになったのは、神の魔力のお陰じゃよな?」

「えぇ。ナレア様は違うのですか?」

「妾は自前の魔力で起動できるからの。しかし、丁度いい話になったのじゃ。一つ目の要求は、お主たちはこのまま檻に所属したままで居て欲しいという事じゃ。」

「ふむ......組織の情報を集めて流せということですか?」

「うむ。そして二つ目じゃが、神の魔力をこちらに渡してほしい。」

「......お断りいたします。一つ目に関しては私達にも益のある提案をしてくださるのでしょうが、二つ目に関しては、見合う代価が支払えるとは到底思えません。」

きっぱりと断ってくるキオル。
まぁ、そりゃそうだよね。
母さんの魔力に変わる様な代物は、今のこの世界ではけして手に入れられるものではないだろう。

「ほほ。まぁ、とりあえず話を聞くのじゃ。確かに突然渡せと言われても頷けるはずもないじゃろうが、勿論お主等にも益があるように考えておる。一つ目の対価じゃが、こちらも情報を渡すのじゃ。」

「情報と言うと......。」

「勿論、お主等の目的に必要であろう情報じゃ。今回リィリに色々と聞き取りを行ったが、これから実験を進めていく内に新たに聞きたいことも出来るはずじゃ。それと......リィリとは別の、相当長い時間を過ごしたスケルトンを知っておる。必要であれば紹介してやらんこともない。無論会話は可能じゃ。というかお主とは相当気が合うじゃろうな。」

「それは実に興味深いですね......いいでしょう。一つ目の要望......いえ、取引については受け入れさせて頂きます。」

「よし、では、定期的に連絡を取るようにするのじゃ。」

ナレアさんの話を受け入れるキオル。
リィリさんの情報とアースさんの紹介か。
檻の情報は確かに把握しておきたい所ではあるけど......正直アースさんとキオルは混ぜるな危険って感じが......いや、まぁナレアさんも似たようなものだけどさ。

「では、二つ目の対価じゃが......これに興味はないかの?」

若干失礼なことを考えているとナレアさんがテーブルの上に魔晶石をいくつか転がす。

「魔晶石ですね......おや?これは一体......。」

そう言いつつテーブルの上に置かれた魔晶石に手を伸ばそうとしたキオルだったが、それよりも早くナレアさんが魔晶石を回収してしまう。

「な、ナレア様!ちょ、ちょっとお待ちください!今の!今の魔晶石をもう一度見せて頂きたい!」

一気にテンションが上がりつつ物凄く慌てだしたキオルを尻目に、ナレアさんがニヤニヤしながら魔晶石を握りしめた手を見せびらかす様に軽く振る。

「今の魔晶石......込められた魔力は神の魔力ですね!?何故あなたがそれを!?まさかあなた方も神から奪ったのですか!?」

「奪う訳ないじゃろ。正式に譲り受けているものじゃよ。」

「譲り......!?ま、まさか神と対話を!?」

「......。」

ナレアさんはニヤニヤしたままそれ以上何も言わない。
キオルは先程ナレアさんの提案を即決で断った時とは異なり、何やら物凄く考え始めている。
これは......完全にナレアさんの掌の上と言った感じだろうか。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...