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8章 魔道国

第473話 ドライヤー

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「それじゃぁ、接続を始めるね。」

『申し訳ありません、ケイ様。よろしくお願いします。』

打ち合わせも終わりファラを送り出す準備が整ったので、俺は机の上に置かれていた魔道具を手に取りファラに話しかける。

「ファラ、それにマナス。よろしく頼むのじゃ。」

『畏まりました、ナレア様。必ずリィリ様を発見してきます。』

「任せきりになっちまって済まねぇ。だが頼む、ファラ、マナス。」

『問題ありません、レギ様。ですが、私にできることは発見するところまで。後の事はよろしくお願いしますね?レギ様。』

「あぁ!」

ファラを激励する二人の声を聞きながら、俺は集中を深めていく。
既に一度、対となる魔道具の場所は把握している。
先程よりも短い時間で俺は向こう側の空間を把握することに成功し、後は接続をすればいいという所まできた。

「ファラ、これから接続を発動するよ。ファラの目の前の空間と接続するからそのまま前に進んでくれれば向こう側に出る。」

『承知いたしました。』

俺は二つの空間をしっかりと把握しつつ......魔法を発動させていく。
ファラに声を掛けてから数分が経過しただろうか?
俺は無事接続を発動させることが出来たので、目を閉じたまま一度頷く。

「ファラ、今じゃ!」

ナレアさんが合図を出し、恐らくファラが俺の繋げた空間へと飛び込んで行ったと思う

「ケイ。もう良いのじゃ。ファラは無事向こう側に行った。」

ナレアさんの言葉を聞き、俺は大きく息を吐いて接続を解除する。
やっぱり......きついなぁ。
この疲労具合......接続する空間の大きさはあまり関係ないな。
ファラが通れるくらいの......直径二十センチ程の小さな接続だったにもかかわらず、先程と同等か、それ以上に疲れた気がする。

「ケイ、しっかり休んで欲しいのじゃ。最低でも後一、二回は接続をしてもらわないといけない筈じゃ。」

俺は肩で息をしつつ、椅子に座り項垂れる。

「ケイ、大丈夫か!?水はいるか?」

レギさんが慌てたように声を掛けてくれる。
しかし......まだ上手く返事が出来ません......。

「れ、レギ、さん......み、水、を......頭に、かけて......。」

俺がそう言うと水筒の水をレギさんが俺の頭に掛けてくれる。
しかし......やはり飲料用なので、少ない。

「ケイ、水をもっと出すかの?」

ナレアさんの言葉に俺は頷く。
次の瞬間、レギさんの掛けてくれた水よりも若干冷たい水が俺の頭に掛けられる。
俺は降り注いだ水で手を濡らし、少しだけ唇を湿らせつつ水を浴び続けた。
暫くシャワーの様に水を浴びていると呼吸が落ち着き始めたので、今度は顔を洗った後ナレアさんにお礼を言う。

「ありがとうございます。もう大丈夫です。」

「本当に大丈夫かの?ここまで疲労したケイを見るのは初めてなのじゃが。」

「はい、大丈夫です。まぁ......今すぐにファラから連絡があって接続をして欲しいと言われたら結構大変ですが......。」

「無理とは言わぬのじゃな?」

「それは勿論。多少疲れる程度で、やらなければならないことを放棄する理由にはなりませんから。」

びしょ濡れのまま顔を上げて言うと、ナレアさんがいつものように笑う。

「とりあえず、ケイ。風邪ひいちまうぞ?着替えは......流石にないよな?どうする?」

「あ、大丈夫です。グルフ達を乾かすのに使えるようになった魔法があるので。」

レギさんの言葉に俺はそう言った後、自身を渦巻く温風で包み込み、同時に全身を濡らしている水を操作して乾燥させていく。
あっという間に水気を飛ばした俺は魔法の効果を解除してレギさんに話しかける。

「お風呂上りもこうすれば一瞬で髪が......あ、いえ、身体を乾かせるんですよ。お風呂の後は若干水分は残しますがね。」

「それは良いが......なんで途中で言い直したんだ?」

レギさんが耳聡く反応する。

「え?あれ?そう......でしたか?すみません、まだちょっと疲れているみたいで......。」

「......いい度胸だ。後で覚えておけよ?」

俺の無駄なあがきは地獄を先延ばしにする効果しかなかったようだ。

「その辺にしておくのじゃ。とりあえずケイが休んでいる間に向こうがどんな感じか連絡が入っておるので、それを共有するのじゃ。」

「分かりました。お願いします。」

「とりあえず、向こうは研究施設の様で、こちらのようにダンジョンでは無いようじゃ。」

研究施設......人里離れた森の中に繋がっていて、移動用にだけ使われているとかよりはマシか?

「王都の魔術研究所とかではないですよね?」

「妾もそれを疑ったが、どうやら違うようじゃ。そこそこ広い施設らしくてな、ファラから十匹程配下を送って欲しいと言われおる。」

「あ、そうでしたか。じゃぁ、ファラの持って行った魔道具の方に接続しますか?」

「いや、まだじゃ。今ファラの配下のネズミ達を呼びに行っている所じゃからな。」

「な、なるほど。」

そう言えば、ネズミ君達の姿が見えなかった。
気が急いているようだな。

「後は、現時点でクルスト、キオル以外の人間が複数確認出来ておる。肝心の奴等はまだ見つけておらぬのじゃが......勿論、リィリもじゃ。」

「まぁ、流石にまだ向こうに行ったばかりですからね。」

少なくとも一時間程度はクルストさん達に余裕があったわけだし、その施設内に居ない可能性も十分ある。

「それにしても、何故研究施設があるのに、わざわざこっちにも研究をするための部屋があるのですかね?」

「......ん?」

俺がなんとなく疑問を口に出すとナレアさんが首を傾げる。

「確かにそうだな......まぁ、普通に考えて、その施設の奴らには隠しておきたい研究をここではしていたとかじゃないか?」

「あぁ、なるほど。それはそうかもしれませんね。」

「実際誘拐なんて真似をしているんだ。その施設が真っ当な場所であれば間違いなく隠すだろ?」

「でもその割にはリィリさんを向こうに連れて行っていますよね?」

「非常時だったから......とかか?もしくは俺達をかく乱するために偽の場所に連れて行ったと思わせたとか?」

「だとしたらかなりきついですね......でも、誘拐から僕達の突入までそんなに時間は無かったと思いますし......その可能性は低くないですか?」

「それもそうか。そこまで用意周到であれば......クルストが俺達に掴まるのがおかしい。姿を見られることに利がないからな。」

「となると、レギさんが言ったように......見られたくない研究をしていたけど、非常時だから仕方無しってのが正しい気がしますね。」

俺とレギさんが意見を言い合っている間、何故かナレアさんは難しい顔をしつつ頷いているだけだった。
何かおかしなことを俺達は言っているのだろうか?

「えっとナレアさん?何か気になる所がありましたか?」

「む?あーいや、そうではないのじゃ。そう言う考え方もあるのうと感心しておっただけじゃ。」

「えっと、ナレアさんは別の考えがあるってことですよね?」

「まぁ、考えというか......そもそも疑問に思わなかったという所じゃな。」

微妙に歯切れが悪い気がするけど、何かあったのだろうか?

「そうなのか?何か手がかりになるかと思ったんだが。」

「あーうむ、なんというか......そう言った研究所から部屋を与えられたとしても......研究を続けていく内に部屋が手狭になって拡張したり、別に部屋を用意したりすることは普通じゃったからな。疑問に思わなんだ。」

「......なるほど。研究とかに携わる側の感覚ですね。」

「う、うむ。どうしても研究資料や素材、機材あたりが嵩張るのでな。大型の機材も......出来れば自分の研究室にある方がすぐに使えて良いしのう。」

何故か明後日の方向を見ながらナレアさんが言う。
この様子を見るに......ナレアさんの使っていた研究室は相当ひどいことになっていそうだな。
そんな話をしつつ、俺達はマナスが教えてくれる向こうの状況を聞きつつ打ち合わせをしていった。

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