狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片

文字の大きさ
上 下
462 / 528
8章 魔道国

第461話 その先は

しおりを挟む


夜の王都を駆け抜ける事しばし、俺達はシャルの案内に従いクルストさんの拠点とやらに到着した。

「クルストさんは宿を使っているって聞いていましたが。」

『偶にこの建物を使っているようです。報告ではまだこの建物から外に出た者はいないとのことで......また、リィリを連れて地下室に入ったそうです。』

「他に人は......?」

『リィリとクルスト以外にこの建物に出入りしている人間はいないとのことです。また地下室は完全に密閉されているらしく、ファラの部下も侵入できていません。』

「分かったありがとう。レギさん、ナレアさん。この建物ですが......。」

俺は今シャルから教えてもらった情報を二人と共有する。
レギさんは焦りを見せた表情で、ナレアさんは表情を完全に殺した状態で聞いている。

「完全に密閉された部屋か......クルスト本人が入っていったなら空気は問題なさそうだが......。」

「とりあえず、この家屋の中にリィリ達以外が居ないのなら、とっととその地下室まで行くのじゃ。罠なんかはネズミ達が見つけておるじゃろ?」

『罠等は問題ありません。地下室までの道のりは掃除が終わっています。』

「罠は大丈夫だそうです。地下室に直行でいいですよね?」

「家屋内の調査はネズミ達に任せるのじゃ。妾達は急いで地下室を制圧するのじゃ。」

「よし、いくぞ!分かっていると思うが、冷静に、落ち着いていくぞ。」

「了解です。」

レギさんがいつもと同じように冷静に動けと言う。
内心、一番焦っているのはレギさんだと思うけど......リィリさん、無事でいて下さい!
俺は逸る心臓を抑え込むように大きく息を吸い、家屋に向けて足を進める。
廃墟って感じではないけど......生活感は全く感じられないな。
シャルの先導に従い、すぐに階段に辿り着いた俺達はシャル、そしてレギさんを先頭にゆっくりと階段を降りていく。
階段を降り切ると、短い廊下があり、その先には重厚な扉が鎮座している。
家屋の一階とは明らかに雰囲気の違う扉......防火扉の様な感じだ。

『......扉の向こうに人の気配は感じられません。』

「......え?」

人がいない......?
リィリさんもクルストさんも?

「どうしたのじゃ?ケイ。」

「今シャルが......扉の向こうに誰もいないと。」

「......。」

レギさんが扉に耳を当て......かぶりを振る。
そして立ち上がったレギさんが扉を開けようとして......。

「ち......やはり、鍵がかかってやがる。」

悔し気にそう吐き捨てるレギさん。

「シャル......部屋の広さとかって分かる?」

『あまり広くはありません、ケイ様が使われている宿の部屋くらいでしょうか?』

「......人の気配は全くない、間違いないよね?」

『間違いありません。』

「分かった、ありがとう......レギさん、先頭代わって下さい。」

「あぁ、どうするんだ?」

俺はドアを調べているレギさんに代わり、ドアの前に立つ。
蝶番はこちら側から見えないので内開きのドアだね。
それだけ確認した俺は思いっきり強化魔法で身体強化を掛けた後、ドアノブの近くに思いっきり掌底を叩き込んだ!

「ふっ!」

俺の息張った声と、ドアがへこみ物凄い勢いで開いた音が同時に聞こえる。
どうやら小さめの閂の様な鍵が付いていたみたいだけど、留め具と一緒に吹き飛んでしまっている。

「よし。部屋を調べましょう!」

「おい、ケイ!その部屋はまだ罠とか調べて無いだろ!?迂闊に入るな!」

勢い込んで部屋に足を踏み入れようとした瞬間、後ろにいたレギさんに怒られる。

「す、すみません!」

焦っていながらもレギさんはちゃんとレギさんだ。
誰よりもリィリさんを心配していながらも己を見失っていない。
緊急時だからこそ、己をしっかり保って最善を尽くしているんだ......焦ってもロクなことにならないと。

「シャル、調べて貰える?」

『すぐに終わらせます。』

俺が頼んだ次の瞬間、何十匹ものネズミ君達が一気に部屋の中になだれ込む。
若干ぞっとしてしまったけど、俺達の為に頑張ってくれているネズミ君達に失礼だったな。
後でしっかりお礼を言わないと......リィリさんも色々とこの子達に料理を振舞いそうだね。
全てのネズミ君達に奢ったら、流石にリィリさんは破産するかもしれないから、ここは皆で出し合おう。
まぁ、それはさておき......俺は部屋の中に視線を向ける。
今は所狭しとネズミ君達が室内を調べてくれているけれど......リィリさんとクルストさんは一体何処に行ったのだろうか?
この部屋に入るところまでは監視をしていたネズミ君が確認しているのだから、そこは間違いないだろう。
となると......この部屋に入った後に何かがあった......若しくはこの部屋に入ったこと自体がフェイク......例えば、幻惑魔法の魔道具を使われていたとか?
もっと単純にどこかに隠し通路があると言う可能性もあるけど......完全に密閉された空間とネズミ君達が断言するくらいだからな......。

『ケイ様、室内の調査、および罠の解除が終わりました。』

シャルの報告に先んじて、室内にいたネズミ君達が一斉に部屋から出て行った。

「ありがとう、シャル。ネズミ君達にもお礼を言っておいて。レギさん、ナレアさん、部屋に入っても大丈夫だそうです。罠もすべて解除してくれたみたいです。」

「そりゃ助かるな。」

罠は解除したと聞いても、一応警戒しながらレギさんが部屋の中に足を進めていく。

『ケイ様、隠し扉のようなものは発見出来ませんでした。しかし、この部屋は頻繁に使われているようで痕跡がいくつか残っていました。』

「リィリさんが居たような痕跡はあった?」

『申し訳ありません、そのような痕跡は見つけられませんでした。』

「そっか......まぁ、監視していた通り、無力化されて担がれていただけなら痕跡なんか残らないか......。」

二人分の体重がかかった足跡......とかなら分かるかも知れないけど......残念ながらここは石の床だしな。
埃も......見た感じ積もっていない。
まぁ、頻繁に使われているって話だしな。

「その様子では、リィリが居た痕跡も無ければ隠し扉等も無かったようじゃな。」

部屋には入らず俺の傍に居たナレアさんが、俺とシャルの話の内容を察したのかぽつりと呟く。

「はい。ナレアさんの言う通りです。」

「......ならば、やはりあれじゃろうな。」

「......そうですね。」

俺とナレアさん、そしてレギさんの視線の先には部屋の奥に置かれた大きな姿見がある。
全身を映すのにここまで大きな鏡は必要ないだろうと言うようなサイズだ。
明らかに俺の身長よりも大きい、恐らくレギさんよりも。
そして中心にある鏡面を飾るように縁にはきらびやかな装飾が施されていて、魔晶石が多く埋め込まれているようだ。
いくつかの魔晶石の中には魔術式が見えないけど......これは魔道具だろうね。
問題は何の魔法が込められているかだけど......強化魔法や天地魔法ではないだろう。

「幻惑魔法か空間魔法だと思います。」

「まぁ、そうじゃろうな。幻惑魔法だとしたら......姿を変えたり、消したりかの。空間魔法なら、歪曲か接続じゃな。」

「自分で言っておいてなんですが、幻惑魔法の可能性は低いかもしれませんね。姿を変えたり消したりしたとしても、ドアを開ければネズミ君が気付いたはずですし、この部屋の何かを隠したりしていたとしても僕やシャル、マナスが見た限りそのような魔力は確認できていません。歪曲で扉を隠しているか、接続で別の場所に移動出来るかのどちらか......鏡の大きさを考えると、恐らく接続じゃないかと思います。」

「鏡面の部分が別の空間に繋がっておるという事かの?」

「恐らく......対となる鏡がどこかに設置されていてそこと繋がるのではないかと。」

「......そうだとすると、厄介じゃな。対となる魔道具も起動させねばそこには行けない可能性があるのう。」

確かに......その場合追いかけるのは不可能に近い......。
いや、でもそうすると......。

「......その場合こちらに戻ってこられなくなるんじゃないですか?こっちには誰も控えていない訳ですし......。」

「確かにそうじゃな。よし、ここで悩んでいても仕方ないのじゃ。起動してみるのじゃ。前に進まぬ限り、リィリの所へはたどり着けぬ!」

そう言ってナレアさんは鏡の前に立つと魔力を流し込む。
止める間もなかった......いや、ナレアさんの言う通り悠長に検証なんてしている暇はない。
そうしている間に、ナレアさんの魔力により鏡の魔道具は起動する。
一見して変わりは無いように見えるけど......ナレアさんがそっと鏡面に触れると、その手が鏡の中に沈み込んでいく。

「......接続じゃな。」

「そのようですね。」

「では、行く......。」

「待った!俺が先頭を行く。安全を確認したら呼ぶからその後で来てくれ。」

ナレアさんが鏡の向こうに行こうとしたところ、レギさんが肩を掴んで止める。

「......分かったのじゃ。こちらで魔道具を起動し続けておるので、危険を感じたらすぐに戻ってくるのじゃ。」

「了解だ。」

「レギさん、お気をつけて。」

「あぁ!」

レギさんは武器を構えながらゆっくりと鏡の中に進んでいく。

「っ!?これは......。」

鏡の向こうからレギさんの声が聞こえてくる。
空間は繋がっているのに視界が通らないのは......魔道具の仕様なのだろうか?
普通に接続を使うと正面から見れば視界が通るのだけど。

「レギ殿、大丈夫かの?」

「あぁ、とりあえず、ここは大丈夫そうだ。来てくれるか?」

レギさんの招きに応じて俺とナレアさんは鏡の向こうへと足を踏み入れる。
......鏡を通り抜けた瞬間、重い空気に包まれる。
初めてくる場所で......薄暗いけど、分かる......ここは......。

「......ダンジョン。」

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜

あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。 その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!? チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双! ※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】異世界転移した私がドラゴンの魔女と呼ばれるまでの話

yuzuku
ファンタジー
ベランダから落ちて死んだ私は知らない森にいた。 知らない生物、知らない植物、知らない言語。 何もかもを失った私が唯一見つけた希望の光、それはドラゴンだった。 臆病で自信もないどこにでもいるような平凡な私は、そのドラゴンとの出会いで次第に変わっていく。 いや、変わらなければならない。 ほんの少しの勇気を持った女性と青いドラゴンが冒険する異世界ファンタジー。 彼女は後にこう呼ばれることになる。 「ドラゴンの魔女」と。 ※この物語はフィクションです。 実在の人物・団体とは一切関係ありません。

~クラス召喚~ 経験豊富な俺は1人で歩みます

無味無臭
ファンタジー
久しぶりに異世界転生を体験した。だけど周りはビギナーばかり。これでは俺が巻き込まれて死んでしまう。自称プロフェッショナルな俺はそれがイヤで他の奴と離れて生活を送る事にした。天使には魔王を討伐しろ言われたけど、それは面倒なので止めておきます。私はゆっくりのんびり異世界生活を送りたいのです。たまには自分の好きな人生をお願いします。

異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!  見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに 初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、 さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。 生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。 世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。 なのに世界が私を放っておいてくれない。 自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。 それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ! 己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。 ※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。 ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。  

処理中です...