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8章 魔道国
第454話 ちょっとした雑談
しおりを挟む「王都までの距離で考えれば、先に襲われたのは大河の上流のほうじゃな。」
お城からの帰り道、ナレアさんが幻惑魔法で周囲を覆った後口を開く。
ここに来るまでナレアさんは一言も喋らなかったので、少し気まずい感じだったのだが......無理もないよね。
「大丈夫なのでしょうか?」
「大河の上流......北の大河で最初に訪れた街があったじゃろ?あそこと似たような場所での、上流で水量を調整する役目を持っておる重要な街じゃ。当然備えも十全にしておる。寧ろコレルよりも心配せずともよいじゃろうな。シャルから聞いた話では、魔物の数は百かそこいらじゃ。ダンジョンのボスのような個体がそれだけ群れてきたら大ごとじゃが、普通に考えてそれはないじゃろう。」
百体もダンジョンボスが街に攻めてきたら......流石に大ごとどころでは済まないだろうけど......魔物の襲来自体は街だけで対処できるということか。
「問題は......わざわざそんな重要な場所を攻めてきたという事じゃな。あからさまな陽動じゃ。これでほぼ完全に自然発生した群れという考えは捨てることが出来る。しかし、相手の狙いが分からぬのう。」
「重要拠点に攻め込ませたという事は、南方に軍をおびき出そうとしているのではないですか?大河沿いの街やコレル、他にも攻めるぞって脅していると思うのですが。」
「だとするなら、狙う場所が悪すぎるのじゃ。コレルはともかく、大河の上流にある街は重要拠点じゃ。いくら魔物が強力だからと言っても百匹程度で落とせるはずがないのじゃ。防衛設備も満載の都市じゃぞ?現に城に来た伝令も、救援要請をしに来たわけではなかったじゃろ?」
確かに......シャルから聞いたのは魔物の群れに襲われたって話だけだ。
救援を求めているというよりもこんなことがありましたって言う報告だろう。
「軍をおびき出したいのであれば、防備の整っていない村や街を襲った方がよいのじゃ。その方が明らかに脅威を感じるからのう。それに魔物の数は有限じゃ。ダンジョンならともかく、野生の魔物百匹と言ったらかなり貴重な戦力じゃぞ?龍王国は国のあちこちで群れが動いて居ったが、精々十匹前後の群れが多数徘徊しておるといった感じだったじゃろ?」
「そう言えばそうでしたね......。」
「貴重な戦力を無駄に使い潰しておる。このままでは魔道国を混乱させることすら敵わぬのじゃ。」
「......人知れず村や街、街道を行きかう人が襲われているかもしれないですよ?」
「そうじゃな......その可能性は否めないのじゃ。じゃからこそ、ルル達は軍を編成して南に向かわせ、かつ要所にも伝令を送っておる。恐らく、それで事足りるのじゃ。」
常駐している部隊と、追加で送る軍。
後は普段よりも連絡を密に取りつつ警戒を強めておけば対処できるってことか。
「ですが、王都から軍を派遣するっていう事はその分王都が手薄になるのでは?」
「まぁ、多少は手薄になるが......王都から派遣される軍は、普段訓練の為に王都に居るだけじゃからな。王都を守護しておる軍とはまた別物じゃ。」
「訓練の為に王都にいる軍ですか?」
「うむ。常在戦場とは、頼もしい在り方ではあるが......人はそんなに長い間気を張ってはおれぬ。当然軍人もそうじゃ。魔道国は長らく戦争が起こってはおらぬが、それでも国境警備や治安維持、魔物の討伐に災害救助と軍の仕事は少なくない。当然任務にあたりながら日々訓練をしておるわけじゃが......先ほども言ったように張りつめ過ぎてはおれぬじゃろ?」
「それはそうですね。」
「じゃから一定期間毎に王都での訓練期間と言う名の纏まった休暇があるのじゃよ。まぁ、招集が掛かれば応じる必要があるし、身体をなまらせない程度に訓練をする必要はあるがの。」
「つまり今集められている人達は休暇中の人達ってことですか......士気とか大丈夫なのですか?」
休日出勤からの戦場送りってかなりハードな感じがするのだけど......。
「まぁ、そこは国に俸禄を貰っておる軍人じゃからな。国民の血税で飯を食っている以上命令には逆らえぬのじゃ。それに、招集される時は余程の緊急事態だけじゃ。そんな時に我欲を通すものは軍人には向いておらぬ。」
「そういう物ですか......。」
「軍人とは損な役回りじゃからな。危険じゃし、理不尽な命令にも従わなければならぬ。冒険者と同じく危険と隣り合わせじゃが、冒険者と違い自由はない。その代わりに冒険者にはない保証がある。」
「なるほど......同じ危険であってもどちらを良しとするかは人それぞれですね。」
「うむ。どちらの職であろうと人のために危険を身を投じることになるからの。まぁ、冒険者はそれを選択する自由はあるがの......ところで何の話じゃったか......あぁ、派遣する軍と王都の守護についてじゃったな。先ほど言った理由からその辺は問題ないと考えるのじゃ。」
逸れていた話をナレアさんが元に戻す。
しかしそうなるとますます意味がない気がするな。
「魔道国を混乱させるほどの事態ではなく、現段階では地方だけでも対処可能......単純に魔道国の戦力を把握していない、とか?」
「流石にそれは行き当たりばったりが過ぎるというものじゃろ......。」
「......では南だけではなく北部や東部の方でも同じ規模で襲撃があるのでは?」
「少なくとも妾達が王都に到着して以降、監視を強化するように伝令が飛んでおるからな。南と同様に各地を守っておる軍だけで対処可能じゃろう。」
「......魔道国ってどうやったら混乱させられるのですか?」
ルーシエルさんは頭を抱えていたような気がするけど......話を聞く限り余裕で対処出来そうなのだけどな......。
「まぁ、ルルは嘯いておったが、上層部に何かあれば混乱はするのじゃ。」
「それは当然そうでしょうけど......。」
そう簡単に国の要人を害せるとは思えないのだけど......。
「檻には手練れもおったしのう。アザル程度の強さをもった者が複数おれば、ルルは無理でも上層部を数名くらいなら仕留められるじゃろ。」
「アザルですか......。」
グラニダに潜り込んでいた檻の構成員......あのくらいの強さの者がいれば、か。
「まぁ、おるのじゃろうな。そうでなければあっさりと使い捨てにはするまい。」
アザルは組織に捨てられ......最終的に口封じに部下もろとも殺されている。
アザルが最高戦力だったり、そこまでではなくても貴重な戦力であればあそこまであっさり切り捨てたりはしないと思う。
「ルーシエルさんをマナスに守ってもらいますか?」
「いや、大丈夫じゃろ。腐っても魔王じゃからな、そう簡単に暗殺されるようなことはないじゃろ。寧ろ他の人間の方が狙われやすいはずじゃ。」
なるほど......。
「それに、そこまでしてやる必要は無いのじゃ。奴らを守ることを仕事にしておる奴らがいるのじゃからな。それより、妾は魔術研究所の方が気になるのじゃ。」
「研究所ですか?」
「檻の狙いは分からぬが、あそこが目的の一つである可能性は低くないと思うのじゃ。王城の連中と違って暗殺はないと思うが、誘拐とかはありそうじゃな。研究者や研究成果も狙われると思うが......他国から来ておる研究者もおるし、何かあれば外交的な混乱は大きいのう。」
俺が思っていたよりも研究所を狙われた場合は問題が多いみたいだな。
「まぁ、明日顔は出つもりじゃが......ヘッケランには注意するように言っておいた方が良いじゃろうな。檻からすれば一番欲しい人材じゃろうし。」
「ヘッケラン所長ですか......面白い人ですよね。」
俺は若干間延びした喋り方をする、非常にふくよかな人を思い出す。
「ほほ、あやつは研究を邪魔されたくないから一番偉い所長になった男じゃ。」
「そんな理由で所長になったのですね......。」
国の重要機関で、大陸でも最先端の技術を研究している場所の所長......普通に考えればそれなりに権威のある地位だと思うけど......自分の欲望に忠実で、それを成す為だったらとんでもない力を発揮する......。
非常に魔族らしい方だと思う。
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