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8章 魔道国

第452話 魔王の苦労

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かなりの速度で俺達は王都に戻って来た。
成長したグルフでも昔を彷彿とさせるような、今にも死にそうな様子を見せる速度だ。
お陰でお昼頃に王都に届いた急報の話を聞いたにも拘らず、まだ夕暮れ時はおろかおやつ時くらいの時間に王都に到着してしまった。
元々の予定では途中の街で一泊して、朝の内に王都に戻る予定だったのだけどね。
急げば今日中に帰ることが出来るとは思っていたけど、予想以上だったな。

「レギ殿達は......まだ戻っておらぬようじゃな。」

宿の部屋を訪ねてみたが、レギさんもリィリさんも留守にしている様だった。

「そうみたいですね。僕達はどうしますか?このまま城の方に行きますか?」

「そうじゃな......休む間も無く済まぬが、今から向かってもいいじゃろうか?」

「えぇ、勿論構いません。ですが......砂ぼこりにまみれているので、着替えだけしてもいいですか?」

「ほほ、そのくらいの余裕はあるべきじゃな。では着替えて宿の前に集合とするのじゃ。」

「了解です。」

俺達はレギさんの部屋の前で別れて城に行く準備を始める。
と言っても旅装を解いて綺麗な服に着替えるくらいのものだけど。
俺は自分の部屋に戻り荷物を下ろすと、クローゼットにしまっていた服を取り出す。
そういえば......接続が使える様になったら、荷物はどこか拠点に置いておいて必要に応じて取り寄せるとかでもいいな。
異空間収納ならぬ、実空間収納だな。
......いや、それって普通の事だな。
まぁ、何処に居ても取り寄せることが出来るって便利さはあるけど......欲しい物を確実に、瞬時にとはいかないか......工夫が必要だな。
そんなことを考えていると、窓際でファラの配下のネズミ君から報告を聞いているシャルが目に入った。
もしかしたら何か追加の情報があるかも知れないな。
俺が城に行く準備を進めながらシャルの様子を見ていると、情報を聞き終えたらしいシャルが窓際から離れて近づいて来た。

『ケイ様。現在城では南へ送る第一陣の編成が進められているようです。明日の早朝には援軍として南に派兵されるとのことです。』

軍の準備ってそんなすぐに出来る物なのだろうか?
いや、もともと怪しい状況だったし、何かしら準備をしていた可能性はあるか。

「なるほど......連絡が届いたのが昼だったからな......編成して、何とか今日中に出立したとしても夜間の行軍は厳しいか。軍の足だとどのくらいコレルって街に着くのにかかるのだろう?」

『二十日程度で城の方は考えているようです。』

「二十日?そんなにかかるんだ?そんなに時間が掛かって大丈夫なのかな?」

思っていたよりもコレルって街は遠いのか......この世界の人達の身体能力は魔力のお陰でかなり高いと思うけど......足並みをそろえて行軍となるとそのくらいは掛かっちゃうのだろうか?

『正確な位置は分かりませんが、私であれば二日も必要ないかと思います。』

「なるほど......とりあえず、軍が明日には南に向かいそうだって事だけはナレアさんに伝えておこう。ありがとうね、シャル。」

身支度を整えた俺の肩にシャルとマナスが登って来た。
俺は忘れ物がないかチェックした後部屋の外に出る。
ナレアさんは流石にまだ準備が終わっていない様だ。
先に宿の前に行って......辻馬車でも捕まえておくとするか。



「やはりお城に来るのは慣れないです。」

「ほほ、重苦しいからのう。まぁ、がんばって慣れておくことじゃ。ルルが話をしたいと言っておったのじゃろ?であれば妾抜きで......一人でここに来ることもあるじゃろうし、慣れておかねば苦労するのじゃ。」

現在俺とナレアさんは、以前お城に来た時にも通された部屋に案内されている......色々な意味で思い出深い部屋だ。

「僕みたいな一般人は、お城に来ることなんて慣れる事はないと思います。」

「ケイが一般人のう......この世界で一番一般人という言葉から遠い人物じゃと思うが......。」

......異世界の人間で、神獣の神子......まぁ、確かにこの世界の一般人とは呼べないかもしれないけど......。

「少なくとも、元居た場所ではまごう事無き一般人ですし......この場においても限りなく庶民だと思います。」

「庶民という言葉の意味を調べ直した方が良いのじゃ。」

「......感覚的には庶民ですよ。」

「働かずとも生きていける庶民はあまり居らぬのじゃ。」

「た、確かに......それはそうかもしれませんが......。」

お金に関しては......運よく手に入れてしまっただけと言いますか......。

「それにケイは一人で国を亡ぼすことが出来るじゃろ?そんな庶民が溢れかえっていたら、為政者はおちおち寝てもいられないのじゃ。」

「......。」

いや、待て待て。
論点がすり替わっているぞ?

「......僕が言っているのはあくまで心の在り方といいますか......。」

「妾が言っているのはケイの現状についてじゃ。そして庶民には庶民の、権力者には権力者の心の持ちようというものがあるのじゃ。ケイがどう言おうと、特殊な立場にあるのは紛れも無い事実じゃ。」

「そ、それはそうですが......。」

「であるなれば、このような場であっても心揺らがぬようにならねばの?そもそもケイが畏まる必要は何処にもないじゃろ?魔道国に住んでおるわけでもあるまい。」

「い、いや......そういう問題ですかね?」

「少なくとも、ケイが人の世の権威が通じる相手ではない事だけは確かじゃな。とりあえず、ルルの髭をむしり取っても問題なかろう?」

「いや、人として問題ありまくりだと思います。」

俺が肩を落としながら答えると同時に、扉がノックされる。

「良いのじゃ。」

「失礼します。」

ナレアさんが許可を出すと、厳しい表情をしたルーシエルさんが部屋に入って来た。
たった一言ずつではあるけど......ナレアさんの方が間違いなく偉そうだな。
現時点の権力と言う意味では間違いなくルーシエルさんのほうが上のはずだけど。
これも心の持ちようという事だろうか?

「随分と余裕のない顔をしておるのう。」

「......今日、この時に来たという事は......御存じなのですか?」

ナレアさんの言葉に、ある程度予想はしていたという雰囲気を滲ませながらも問いかけてくるルーシエルさん。

「まぁ、そうじゃな。ルルがその表情をしておる理由は知っておるのじゃ。」

「つい先ほど早馬にて知らせが来たばかりなのですが......どうやって知ったのですか?」

「ほほ、うちの情報収集担当は優秀じゃからな。まぁ今はそれは良かろう。それよりも南方の話じゃ。」

ナレアさんが雰囲気を変え、ルーシエルさんも背筋を伸ばす。

「現在、軍の編成が進められています。明日には南に向けて出立する予定ですが......コレルの件は南方の駐留軍だけでも処理は可能と考えています。」

「ふむ......コレルだけではないと考えておるのじゃな?」

「えぇ。上層部は母上から話を聞いていますし......龍王国での事件のこともあるので慎重に行動するべきだと話が出ております。」

「今回の件、人為的な物じゃと?」

「それを疑っております。以前母上の話を聞いてから念入りに情報は集めておりましたが、魔物が大量発生するような予兆はありませんでした。それにもかかわらず今回の事態です。疑うなと言う方が難しいですよ。」

ルーシエルさんは疲れたようにため息をつく。

「まぁ、その為に伝えたのじゃからな。のほほんとしておったら全員ぶっ飛ばすところじゃ。」

「いや、ぶっ飛ばされるのは流石に納得できませんが......。」

まぁ、可能性があるかもしれないって程度の情報だったし、国がそれに盲目的に従うわけにはいかないよね......。

「母上が復位してくだされば話が早いのですが。」

「嫌じゃ。」

身も蓋も無くスパッと意思を伝えるナレアさんに、ルーシエルさんの疲労が増す。

「......母上。」

「妾は十分に働いたのじゃ。いつまでも年寄りをこき使うのは次代を生きる者として、どうなのじゃ?妾はお主たちを信じて舵取りを任せたのじゃぞ?」

「......任せたというか押し付けられたと言いませんかね?」

咎めるような口調のナレアさんに対してぼそりと小声で言い返すルーシエルさん。
その様子を見て、怒られている小学生みたいな反応だなと思ったのは秘密だ。

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