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8章 魔道国

第451話 急報

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『ケイ様。王都の方で動きがあったようです。』

渡し舟を下船し、街の外に向かって歩き出そうとしたところで、肩に掴まっていたシャルがマナスから聞いたであろう情報を教えてくれる。

「王都で......?何があったの?」

「どうしたのじゃ?」

俺の問いかけを聞いていたナレアさんが訝しげに聞いてくる。

「どうやら、王都で何かあったようです。今シャルが教えてくれました。」

『申し訳ありません、ケイ様。正確には王城の方に情報が入ったそうです。南の方で大規模な魔物の群れが街を襲ったとのことです。』

「それは......大丈夫なの?」

『早馬で情報が入ったばかりとのことで詳しくはまだ分かっていないようです。』

「ナレアさん。魔道国の南の方で大規模な魔物の群れが街を襲ったそうです。」

「なんじゃと!?」

「まだ早馬で第一報が届けられただけらしく、詳しい事は分かっていないみたいです。」

ナレアさんが真剣な表情で口元に手を当てた後シャルに向かって口を開く。

「どこの街かは分かるかの?」

『先日攻略したダンジョンよりもまだ南、南の大河近くにあるコレルと言う街です。』

「南の方のコレルという街だそうです。」

「コレルか......あの街なら外壁は高いし、街自体もかなり大きい。壁内に籠城したとしても物資が枯渇することはそうそうない筈じゃ。冒険者ギルドも相応の規模の物があるし......援軍が行くまで耐えることは難しくないじゃろう。」

そこまで言ったナレアさんは少しだけ表情を和らげて肩の力を抜いた。

「大丈夫そうなのですか?」

「うむ。魔物が現れたのがコレルだけであれば問題ないのじゃ。」

「その街だけではないと?」

「分からぬ。じゃが、これが人為的な物じゃとしたらコレルだけではないと思うのじゃ。あそこは大きな街ではあるが、何か重要な物があるというわけでもない。内地でもあるし......四方から援軍を送り込める場所じゃ。魔物の大群は脅威とは言え、駆逐するのは難しくないじゃろう。」

「なるほど......。」

その街を襲わせたところであまり意味はないと......人為的な物じゃなくって、ただの自然現象ならいいのだけど......。

「まぁ、ここで頭を悩ませていても仕方ないのじゃ。急ぎ王都に戻るとしよう。マナス、何とかしてレギ殿に冒険者ギルドで情報を集める様に頼んでくれんかの?出来ればマルコスに連絡を取って欲しいのじゃが......流石にそれを伝えるのは無理よの......?」

ナレアさんがマナスに頼むと、俺の肩にいるマナスが任せておけと言わんばかりに弾む。
伝えられるの......?
レギさんの方は魔物の襲撃すら知らない訳だから、念話の出来ないマナスじゃ難しいと思うけど......何か方法があるのだろうか?

「じゃぁ、街の外に急ぎましょう。街の外に出てしまえば一日もあれば王都まで戻れますし。」

「うむ。急いで戻るのじゃ。」

「あ、ファラはどうしますか?南の方に移動してもらった方がいい気がしますが。」

「......難しい所じゃ。今回の魔物の件だけであれば、南に赴いてもらった方が良いとは思うのじゃが......陽動だった場合、今度は北の方で事件が起こるやも知れぬ。」

「それは確かに......でも、南の方の情報も欲しいですよね?」

「うむ......とりあえず、ファラに相談してみるのじゃ。南の方は部下を使って情報網を広げてもらうとか出来るじゃろうし......北を部下に任せるというのもいいじゃろう。」

「そうですね......分かりました。ファラに連絡を入れておきます。」

俺は妖猫様の神域で別れた時に渡した通信用の魔道具を起動する。
残念ながらファラの念話をこちらに届けることは出来ないけど、俺の声を一方的に届けることは出来る。

「ファラ、聞こえるかな?」

俺が魔道具に話しかけると、魔道具の向こうからヂヂっとネズミの鳴き声が聞こえてくる。
ファラの鳴き声って初めて聞いたなぁと、どうでもいい考えがよぎったけど......急ぎ要件を伝える。
南の方で魔物の大量発生が起きた事、南の情報も知りたいけど、陽動だった可能性も考え北の方の情報網も構築して欲しい事、その上でファラがどう動くかを決めて欲しい事等。
ファラに考えさせるのもどうかと思うけど......情報網の構築に関してはファラの考えでやってもらう方が一番効率がいいはずだしね。
俺が一通り説明をすると、再び魔道具の向こうからヂヂっと聞こえてくる。
これで恐らく、近いうちにファラから方針の連絡が来るはずだ。
俺は一方的にファラに挨拶をして魔道具をしまう。
ファラに連絡している間に、足早に移動をしていた俺達はすぐに街の外へ出ることが出来た。

『ケイ様。レギが冒険者ギルドに向かい、情報収集をするそうです。』

幻惑魔法をしっかりと掛け、シャルの背に飛び乗ったところでシャルからレギさんの事を聞かされた。
マナス......伝えてくれたのか。

「ありがとう、シャル、マナス。ところでマナス、どうやってレギさんに伝えたの?」

俺が肩に乗っているマナスに尋ねるとマナスは体を変形させて何やらもにょもにょと動く。
なるほど......さっぱり分からないな。

「えっと......シャル、マナスはなんて言っているのかな?」

俺は王都に向かって走り出したシャルに問いかける。

『文字で伝えたそうです。』

「マナス文字書けるの!?」

俺が驚いて肩に乗るマナスを見ると、なんか胸を張るようにしながらマナスが軽く弾む。
いつの間に覚えたのだろう?

『グラニダのノーラに教えてもらっているそうです。』

「あー、なるほど。ノーラちゃんの所にいる、マナスの分体が文字を教えてもらっているのか。」

この場合、文字を覚えるマナスが凄いのか......スライムに文字を教えようとするノーラちゃんが凄いのか......。
まぁ、相変わらず仲良くしてくれているようで何よりだけど。
俺達は移動を開始しながら会話を続ける。

「ほう、ノーラがのう......そういえば、ノーラで思い出したのじゃが、そろそろアースがグラニダに到着しそうじゃぞ。」

「あ、そうなのですね。随分時間がかかりましたね......。」

「かなりフラフラしておったからのう。まぁ、グラニダ領内にもうすぐ入るといったところじゃから、領都に着くのはまだ先じゃろうな。寧ろグラニダ領内の安定ぶりを一通り楽しんでから領都に向かいそうじゃな。」

「あー、確かに東方を色々回っていたのならグラニダ領内は珍しいどころじゃないでしょうしね......空気からして全然違いますし。」

「領都に着くまで一年くらいかかるかも知れぬのう。」

「物凄くありそうですね......。」

そもそも数百年......もしくは千年単位で遺跡に引きこもっていた人だからなぁ。
カザン君が領主をやっている間に領都にちゃんと辿り着いてくれればいいけど......。

「まぁ、流石にそれは大丈夫じゃと思うがのう。最悪その内尻を叩きに行かねばならぬかもしれぬが......。」

「それまでには接続でグラニダに行ける様にしておきたいですね。」

「ほほ、期待しておるのじゃ。」

ナレアさんに期待されると......こう、こっそり練習して驚かしたくなるな......がんばろう。
俺は空間魔法の練習をいっそう頑張ることを決意しながら口を開く。

「ところで、王都に戻ってからどんな風に動くのですか?」

「ふむ......そうじゃな。何にせよ情報が必要じゃからな。冒険者ギルドはレギ殿が行ってくれておるし、まずはルルの所じゃな。」

「ルーシエルさんですか......個人的に話がしたいと言われていましたけど......流石にこの状況では無理ですね。」

「まぁ、そうじゃな。のんびりと個人的な話をしておる場合ではないじゃろう。妾も会えるかどうか微妙な所じゃしな。」

「そうですよねぇ。」

「まぁ、ケイも連れて行くがの?」

「う......それってお城ですよねぇ?」

「ルルの家と職場はあそこじゃからのう。何、案ずることはないのじゃ。どうせ話す相手はルルくらいじゃろうしな。」

いや......ルーシエルさんがトップですから......顔見知りではあるけど......そう考えると、まだマシなのだろうか?
まぁでも、俺が話せるような内容じゃないし、以前と同じくナレアさんに着いて行くだけだよね。
ナレアさんの様子を見るに......どうやら登城は避けられない様だし。
俺はニコニコとしているナレアさんに力なく笑い返した。

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