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8章 魔道国
第448話 おるとろす(狐猫)
しおりを挟む「空間魔法は難しいのう......何とか使えるが......戦闘中は難しいのじゃ。」
「そうですねぇ......戦闘中に使えたら便利だとは思いますけど......僕は辛うじて固定で相手の攻撃を防ぐことが出来るくらいですかね。」
俺とナレアさんは二日に渡って空間魔法の練習を妖猫様の神域で行っていた。
俺は固定、歪曲、接続を何とか一通り発動させることは出来たが......接続は特に難しく、まだ目の届く範囲内でしか接続できないし、発動に非常に時間が掛かる。
接続で一気にグラニダに行くって言うのはかなり難しそうだな。
因みにナレアさんは固定を何とか発動させることは出来たけど、歪曲は未だに成功していない。
『ケイ君はもう少しなれたら接続も上手いこと使えるようになると思うよ。ナレアちゃんはー、接続はちょっと無理かなぁ。歪曲を辛うじて使える様になるって感じだと思うよ。』
「無念じゃ。接続が便利そうなのにのう。」
『僕の眷属になったら少し相性が良くなるはずだから、接続も使えるようになると思うよ?』
「む......それは少し心が惹かれる提案ではあるが......止めておくのじゃ。」
『あはは、残念。』
全然残念じゃなさそうに妖猫様が笑いながら言う。
これでナレアさん神獣様全員に誘われてない?
あれ?
応龍様には誘われてないっけ?
「ところで、眷属になると加護の相性が変わったりするのかの?」
『うん。加護よりも眷属となる方が繋がりが深いからねぇ。まぁ、特定の神獣と繋がりが深くなったからと言っても、他の神獣の加護と相性が悪くなるってことはないよ。相性って言うのはあくまでその存在に対する相性だからね。他所とのつながりで関係が変わったりはしないってところかな?』
「存在に対する相性のう......確か眷属となると生物としての格が昇華すると聞いたが......存在そのものは変わらぬという事かの?」
『うん。生物としての格が上がったとしても、その人物そのものが変わるわけじゃないからね。相性って言うのは肉体的な物じゃなく、精神的な物だからね。』
例えスケルトンから体は進化しても、リィリさんの精神はずっとリィリさんってことだよね。
『とは言え、複数の加護を得るのは人間くらいのものだけどね。魔物だと加護の影響が強すぎて、複数の加護を得るとよく分からない体になっちゃったりするし......。』
なんか恐ろしい話が出てきたぞ?
「あの......妖猫様、それはどういうことですか?」
『ん?そのままだよ。動物や魔物が複数の加護を得ると......なんか不思議な生き物に進化しちゃうんだよ。僕と天狼の加護を得ると、猫と狼の中間......だったらまだいい方で、猫と狼の二つの首が生えるとか。』
......怖いな!?
狂気の世界みたいな感じに......。
ファラが仙狐様の加護とかもらったら最強なのでは......とか考えたことがあったけど......勧めなくて良かった......そんな恐ろしいことになっていたかもしれないのか。
いや、まぁ、仙狐様が止めてくれると思うけど。
「それは......昔やってしまったのですよね?」
でなかったらその結果を知っているはずないし......。
『まぁ、昔の......魔神との戦いの頃にねー。人や眷属以外に加護を与えるのは珍しかったから、気づかなかったんだよね......まぁ、本人はあまり気にしていなかったというか......その後で眷属にしたらごく普通の姿になったけどね。』
「それって......さらにとんでもないことになった可能性もあったのでは......?」
『首が三つにならなくて良かったよー。』
あっけらかんと妖猫様は言っているけど......当時はかなり躊躇ったのではないだろうか?
流石に実験的なノリでつき進めるような話ではないだろう。
『神子様、妖猫様の名誉の為に言わせていただきたいのですが......。』
「ん?」
妖猫様の傍で静かに控えていた青猫さんが俺に話しかけてくる。
『あー、そういうのは気にしなくてもいいんだけどなー。』
しかし、妖猫様が尻尾を振りながら青猫さんの言葉を止める様に言う。
どうやら理由があって複数加護を得た相手を眷族にしたみたいだけど......妖猫様は話したく無さそうだな。
『いえ、自分の事ですから、私が話したいのです。』
『まぁ......そう言われたら止める権利はないけどさー。』
今自分の事って言っていたけど......複数の加護をもらって変な進化しちゃったのは青猫さんってことか。
『ありがとうございます......神子様、お察しかもしれませんが、先程妖猫様の話に出てきた複数の加護を得て体が変化したのも、その後に眷属にしてもらい元の種族に近い体に変わったのも、全て私の事です。』
「そうだったのですね......。」
『あの当時......少しでも力が欲しかった私は妖猫様の加護と仙狐様の加護を授かりました......結果、首が二つに増え......まぁ、なんというか不思議な気分でした。私自身の思考が二つになるというか......常に思考が二重になるというか......。』
青猫さんはその時の感覚を思い出そうとしているのか、視線を空中に漂わせつつ言う。
『普段はそこまで問題はなかったのですが、戦闘中や咄嗟の判断の時に乱れるのですよね。それに、出来れば左右の頭で別の魔法を使う......みたいな風にしたかったのですが......どちらの頭も同じことを同じタイミングで考えるというか......役割分担は無理でした。』
頭が二つあったとしても思考出来るのは一人分だけだったということか......。
その癖微妙に思考が二重になって体をスムーズに動かせない......完全にデメリットだけの体だったってことか......。
『そのまま魔神の眷属と戦っていたのですが......やはり動きづらく、不覚を取ってしまいました。その時、偶々同じ場所で戦っていた妖猫様が眷属とすることで救ってくださいました。』
「眷属となった時の進化によって命を取り留めたということですか。」
『そんな感じだったっけー?懐かしいねー。』
妖猫様がゴロゴロしながら青猫さんに言う。
青猫さんはそんな妖猫様の事を優しい目で見ながら話を続ける。
『結果的に進化することで以前の姿に近い進化を遂げ、戦闘にも不自由することは無くなりました。空間魔法の適正も上がったのでいいことづくめでしたね。』
相当な苦労をしているというのに、そんな風に言えるのは凄いと思うけど......。
『そういう事ですので、妖猫様は死にゆく私を救うために眷属としたのであって、実験の為に複数の加護を得た者を眷属としたのではありません。』
「なるほど......僕も妖猫様が実験の為にそういうことをしたとは思っていませんでしたが、そう言った理由があったのですね。」
妖猫様らしいというか......神獣様達らしい理由な気がする。
そういえば......青猫さんが青くないのにそんな名前なのは元々の種族名なのかもしれないな。
『まぁ、青猫の話は置いておいてさー、魔法の練習はいいのかな?』
「そうですね、頑張って使いこなせるようにならないと。」
『ところで、ケイ君は天狼の所の召喚物の封印を解くつもりなんだよね?』
「あ、はい。そのつもりです。」
『だったらかなり頑張って練習しないとねー。僕の空間魔法を解くのは結構大変だよ?』
「......分かりました。あの、妖猫様......母さんの所にある封印について、後で相談させてもらいたいのですがいいでしょうか?」
『ん?勿論良いけど......封印の解き方のコツって言うのは特にないよ?』
「あ、はい。そちらは努力して解除出来るようになりたいと思います。そうではなく封印自体について聞きたいことがありまして。」
『ふーん?まぁ、特に隠さなきゃいけないことがあるわけじゃないし、何でも聞いてよ。』
「ありがとうございます。もう少し練習して感覚を掴めたら聞かせて下さい。」
『了解だよー。』
妖猫様は相変わらずゴロゴロしながら軽い様子で言ってくる。
なんというか......妖猫様は母さんを除けば、一番気楽な感じでやり取りが出来るなぁ。
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