442 / 528
8章 魔道国
第441話 どっち?
しおりを挟む「そう言えば、大河はどうやって渡りますか?」
俺は飛んでいるナレアさんに話しかける。
今回はレギさん達もいないのだし、ナレアさんはグルフに乗ってもいいと思うのだけど、何故かいつもと同じように走るシャルのすぐ横を飛んでいるのだ。
因みにグルフは後ろを一生懸命ついて来ている。
荷物が少ないのでいつもよりも速いペースだけど、しっかりと着いて来ているグルフは確かに昔に比べて成長しているようだね。
「ふむ。飛んでもいいし、泳いでもいいと思うが......天地魔法と幻惑魔法があれば何とでも出来るじゃろ?」
「まぁ、そうですね。ところでシャルって川の上を走れたりする?」
『はい、可能ですよ。』
走れるのか......やっぱり沈む前に次の一歩を踏み出せばいいってやつだろうか?
『ケイ様も天地魔法を使わずとも水の上に立てると思います。』
「走るのではなく......立てるの?強化魔法で?」
『はい。水の上に立つように足を強化すれば可能です。』
......どういう強化をしたら水の上に立てるのだろうか?
「想像がつかないのだけど。」
『水上に立つ事の出来る生物は少なくありません。彼らのように自身を強化すればたやすい事かと。』
......なる、ほど?
いや......ん?
例えばアメンボとか?
アレは確か足の毛に油が付いてるとかで浮くんだっけ?
でもあれは体が軽いからだよね?
弱体魔法で体を軽くすればいいのかな?
なんか習ったような......水より比重が小さければ浮くとかなんとか......密度がどうとか......。
うん、分らん。
魔法はイメージが出来ないと発動させられない物だし......中途半端に知識がある俺はシャルみたいには出来ないと思う。
半端な知識が可能性に蓋をしてしまっているというか......逆に良く知らないからこそ、ふわっと発動させることが出来ている魔法も結構ある。
とりあえず難しい事は考えずにやってみるのもありか。
「分かった。今度試してみるよ。お風呂とかで。」
大河でやったら大変なことになるかも知れないしね。
『その時はお手伝いいたします。』
「よろしくね。」
俺がそう言うと一瞬だけ顔をこちらに向けたシャルが頷いた。
「......つまり、走って大河を渡るってことかの?」
「あーいや、なんとなく気になっただけです。シャルは水の上を走ることが出来るみたいですが、グルフにはまだ無理でしょうし......凍らせるか土の橋を作るかしますよ。」
「ふむ。では妾はそれを誤魔化す感じじゃな。しかしケイよ、大河を凍らせるのはあまりよくないかもしれぬぞ?夜間であってもそれなりに往来があるからのう。」
「確かにそうですね......ぶつかったら大変なことになりますし......。」
「夜間はそれほど速度は出さぬとは言え、動いておる事に違いはないからのう。流石に大型船を見逃すことはないじゃろうが......大河は広いからのう小型船を見落とさぬとも限らぬ。」
「......そう考えると水上を走るほうがいい気がしてきました。でもそうなるとグルフが......。」
「なに、問題ないのじゃ。妾とケイがグルフに乗ればよい。シャルは一人で水上を走る、グルフはケイが宙に飛ばし、妾が幻影魔法で隠すのじゃ。」
ナレアさんがそう言った瞬間、ちらりとナレアさんの方を見たシャルが無言で加速していく。
しかし、ナレアさんもそれを予想していたのか、ぴたりと横に張り付いているかのように加速している。
勿論、グルフは突然の加速についてくることが出来ず、一瞬遅れたのだが慌てて加速してなんとか離されずに済んでいる。
「えっと......シャル?グルフが付いてこられなくなりそうだから、あまり加速するのは良くないかな?」
シャルは俺を背中に乗せることを絶対に譲らないから......ナレアさんの提案を聞いてちょっとへそを曲げたのだろう。
「えっと......僕がシャルに乗ったまま、シャルとグルフを浮かせるので、ナレアさんは二人を覆う様に幻惑魔法を掛けるって言うのはどうでしょか?」
「ケイは妾と二人でグルフの背に乗って移動するのが嫌なのかの?」
「そういうわけではありませんが......。」
『ケイ様。私は先程ケイ様がおっしゃられた案が一番効率的だと思います。一刻も早く神域に向かう為にもここは効率的に動くべきです。』
シャルがさらに加速しながら意見を言う。
早く行くことは賛成だけど、そろそろグルフがやばそうだからこれ以上速度はあげない方が良いと思うよ?
しかし、シャルの有無を言わせぬ威圧感に俺はコクコクと頷くことしか出来ない。
グルフ......ごめん。
俺はグルフに心の中で謝りながら振り返る。
しかし俺の予想を裏切る形で、グルフはしっかりと後ろをついて来ていた。
おぉ......本当にグルフは成長しているんだなぁ。
初めて会った時は白目を剥きそうな感じでシャルの後ろを走っていたというのに......今はあの時と比べ物にならないくらいの速度で走っているにもかかわらず問題なく着いて来ている。
シャルは速度を上げたけど......このくらいの速度ならグルフが付いてこられると分かっていたのか。
俺が視線を前に戻と地平線の先がキラキラと光っているのが見えた。
まだ距離は結構あるみたいだけど、どうやら大河が見えてきたみたいだね。
大河ってことはアレは地平線じゃなくって水平線?
って......今大河に着くのはまずいでしょ!?
どうやって大河を越えるか決めてない......しかし、俺が確認出来たということは当然二人にも見えたようで......。
「ふむ、大河が見えてきたようじゃな。」
『ケイ様。どのように大河を渡りますか?』
二人がこちらを見てくる。
うん......どうしようか。
『ケイ様。このまま河の上を駆け抜けましょうか?グルフはナレアに任せておけば適当に上手くやるでしょう。』
「いや、それは流石に......。」
「ケイ。大河も見えてきた事じゃし、そろそろグルフの方に移らぬかの?」
「いや、それもちょっと......。」
何故こんな状況に......?
もういっそのこと大河を凍らせようかな......いやいや、こんな真昼間にそんなことをしたら大惨事になりかねない。
流石に二人の案のどちらかを選ぶのがしんどいからと災害......いや人災か......そんなものを起こすわけにはいかない。
どうする、どうする、どうする......?
俺が内心冷や汗をだらだら流している間にも刻一刻と大河が近づいてくる......答えを早く出さないと!
俺はちらりと後ろを振り向く。
グルフは問題ないという様にシャルの後ろにぴったりと着いて来ている。
......く......グルフがしんどそうだったら止まってもらおうと思っていたのに......いや、グルフの成長は嬉しいのだけどね?
時間稼ぎは出来そうにない......俺は心の中で大きくため息をつきつつ方針を固める。
......ため息を外に漏らそうものなら二人から怒られるだろうことは想像に難くないからね。
俺は覚悟を決めて口を開く。
「いっそのこと皆バラバラに飛んで行きます?」
「『はぁ?』」
「......と言うのは冗談でして。」
今ナレアさんはおろか、シャルからも威圧交じりの「はぁ?」が飛んできた気がする。
こういう状況でどっちつかずの返事は死を招くという噂は本当だったみたいだ......。
助けてレギさ......んは、こういう時は全く頼りにならない......カザンく......んは間違いなく俺を見捨てる。
......クルストさんだったら!
きっとなんか余計な一言みたいなのを言って怒りの矛先を逸らす......スケープゴートになってくれる気がする!
助けて、クルストさん!
問題の解決にはならないけど!
視界に広がって来た大河を前に、俺は現実逃避をするしかなかった。
3
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる