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8章 魔道国
第433話 マルコスの戦い方
しおりを挟む俺達が突入して続けざまに五匹の魔物を退治した所で、ボスである大蜘蛛が動き出した。
後続であるマルコスさんはまだ突入して来ておらず、レギさんがボスの初撃をいなしてそのまま相対する。
それと同時に、マルコスさんが雄叫びを上げながらボスに向かって駆けてくるのが見えた。
ボスはレギさんと後続のメンバーに任せて、俺は先程投げた槍を回収してクルストさんと共に次の魔物に向かって突撃する。
その後ろで怒号の様な笑い声の様な......とにかくケダモノと言っても差し支えない様な声がボスの方から聞こえてきた。
「俺が知っているギルド長で一番怖い人っス。」
「ギルド長は二人しか知りませんが......マルコスさんが怖いって言うのには同意します。」
俺とクルストさんは背後から聞こえてくる声に戦慄を覚えながら、目の前の魔物を処理していった。
レギさんもボスから離れ取り巻きの処理を始めたので、程なくしてボス以外の魔物は全て魔力の霧へと還った。
「とりあえず一段落だが......向こうはまだまだこれからって感じだな。邪魔をさせない様に周囲を警戒しつつ、万が一に備えてボスの方にも注意を怠るなよ。」
「了解です。」
俺達はマルコスさん達の邪魔をされない様に、ボスを中心に四方に散らばり周囲を警戒する。
森の中ではこの場にいない冒険者の方々が警戒しているので、ある程度安全は確保出来ているけど隙間なく守れているわけじゃないからね。
俺は警戒をおろそかにしない様に注意しつつ、マルコスさん達の様子を窺う。
正面に立ったマルコスさんは、メイスの様な鈍器と盾を使って戦っている。
盾は攻撃を受け止めるのではなく、相手の攻撃を擦らせるようにして逸らすために使っているようだ。
危なげなく捌いているように見えるけど、相手は象みたいな体躯の蜘蛛だ。
マルコスさんは正面に立っているため、相手は糸を使うことは出来ないみたいだけど......前足や噛みつきによる攻撃を盾で受け流すと擦過音と共に盾から火花がでる......。
あの蜘蛛の足や牙は金属なの......?
口からダラダラと体に悪そうな色の体液を垂らしている所を見ると毒があるのだろうけど......まぁ、あのサイズの蜘蛛に噛みつかれたら、毒があろうがなかろうが大変なことになるよね。
受け流しに失敗したら大変なことになるのは想像に難くない。
レギさんもやってくれるけど、あんな風に正面に立って攻撃を引き付けるような戦い方は俺には出来ないな......。
「いや、凄まじい動きっすねぇ。俺も盾を使うことはあるっスけど、あんな風に敵の攻撃を吸い込むように捌くのは無理っス。」
「荒々しいのに綺麗ですよねぇ。」
俺の傍で周囲を警戒しながら、同じく観戦しているクルストさんがマルコスさんの動きを称賛する。
俺はあまりナイフとショートソード以外の武器はうまく使えない。
辛うじてレギさんに教えてもらっている槍を何とか使える程度で、盾は使い方もあまりよく分かっていない。
「盾って敵の攻撃を受け止めるものじゃないのですか?」
「違うっスよ。盾は相手の攻撃を受け流すものっス。受け止めたりしたら動きが止まってあっという間にやられちゃうっスよ。それに......。」
俺達の視線の先で、マルコスさんに受け流された蜘蛛の一撃が地面に突き刺さり轟音を鳴らす。
「受け止められると思うっスか?」
「......まともに受けたら叩き潰されますね。」
強化魔法があれば受け止められるとは思うけど......最初にクルストさんが言ったように動きは止まるだろうな。
戦闘中は動きのリズムや流れが非常に大事だ。
もし相手の攻撃を受け止めることで動きが停止してしまえば、相手の流れに飲み込まれてしまう。
一度そうなってしまえば、そこから立て直すのはもう無理だ。
訓練や模擬戦ならともかく、実戦でそんなことになろうものなら......うん、盾は俺には向いて無さそうだ。
「ケイはナイフでの戦闘を主軸にしているなら、小型の盾を使ってもいいんじゃないっスか?」
「うーん......盾は無理じゃないですかねぇ......。」
俺は足を止めて戦う事はあまりないので、盾で受け流すよりも体全体で避ける方がやり易い。
マルコスさんの動きを見る限り、盾を構えどっしりと腰を落としながら、すり足で体勢を変えつつ攻撃を受け流しているようだ。
レギさんは同じことが出来そうだけど......小型の盾は使い方が違うのだろうか?
「小型の盾はマルコスさんの戦い方とは違うのですか?」
「そうっすね、大型の盾は予め構えておいて力の強弱や体捌きで攻撃を受け流すっス。小型の盾は逆に相手の攻撃にこちらかぶつけていくっス。」
「相手の攻撃を受け流すより弾くって感じですか?」
「そうっスよ。後は直接相手を殴りつけたりも出来るっスね。」
「武器としても使えるってことですか......。」
確かにそういう感じであれば俺も使えるかもしれない。
「因みにクルストさんはどちらの盾を使うのですか?」
「俺は一応両方使えるっスよ。まぁ、自在に操るとは言わないっスけど。」
「クルストさんは凄く器用ですよね。剣と弓以外にも色々使えるのですか?」
「そうっすねー、槍と棍、ナイフと長弓も行けるっスね。」
本当に色々な武器が使えるな。
クルストさんは言わなかったけど、暗器とかも使えそうだな。
吹き矢とか......。
「レギさんみたいな大型の武器はどうですか?」
「あー、そっち系はちょっと苦手っスね。」
クルストさんは俺より少し大きいけど、体格的には大柄と言うほどではない。
レギさんが使っているような両手持ちの斧のような武器は、魔力による補助があったとしても扱いにくいのだろう。
「あ、交代みたいっスね。」
クルストさんの声に合わせる様に、今まで戦わずに控えていた三人が前に出てマルコスさん以外の四人と入れ替わる。
いや、正面を受け持って一番大変なマルコスさんは代わらないの?
まぁ、側面で攻撃していた四人も、怪我を負ったり消耗したりしているから交代するのだろうけど......マルコスさんは気にせず戦い続けているな。
「マルコスさんはそのまま戦うのですね。」
「あー、ギルド長が抜けるとちょっときついと思うっス。俺も聞いただけっスけど、普通ボスと戦う時はもっと大人数で戦うらしいっス。」
「へぇ......そうなのですね。」
「ケイが前攻略した時は......レギさんが正面で抑えていたっスか?」
「えぇ、正面はレギさんが抑えて攻撃は側面からって感じですね。」
側面から攻撃していたのは僕じゃなくってリィリさんですが。
「レギさんやマルコスさんみたいに、一人でボスの正面を受けもてる人はそうそう居ないっス。普通は数人が交代しながら正面を抑えるらしいっスよ。」
「レギさん達は一人で数人分の仕事が出来るってことですか......。」
「化け物っスねー。」
しみじみした口調でクルストさんが言う。
レギさんは強化魔法を使って正面を受け持っていたけど......マルコスさんは強化魔法無しだ。
代わりと言ってはなんだけど、魔道具は使っているのだろう......マルコスさんは魔族だから魔力量も多いのだろうし、レギさんと違って多くの魔道具を使えるのかもしれないね。
マルコスさんに抑え込まれて、蜘蛛の魔物は非常に動きづらそうにしているけど......あんな巨体相手に本当に凄い。
蜘蛛の魔物は苦し紛れなのかお尻から糸を出しているけど、背後に回り込んでいる人は一人もいないのであまり意味は無さそうだ。
そんな風にマルコスさん達の戦闘を見ているとレギさんが警戒している付近に魔物が一匹現れた。
すぐにレギさんが現れた魔物に接敵して戦闘を始める。
「レギさんの方に追加が来ないか見張っておきます。こちらの警戒はお願いします。」
「了解っス。」
レギさんが担当しているのはボスの左前方、俺達は右前方、リィリさんが左後方でナレアさんが右後方だ。
俺はこちら側の警戒をクルストさんに任せると、俺達が警戒していた地点から移動してレギさんの方へと近づいていく。
中間地点辺りで立ち止まった俺はレギさんが戦っている方面を警戒する。
追加で何も魔物が現れなければいいのだけど......そう俺が考えてしまったのがいけなかったのか、一匹の蜘蛛の魔物が姿を現した。
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