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8章 魔道国
第425話 あの日あの時あの場所で
しおりを挟む日暮れ前までシャル達と遊びまわった俺は宿に戻って来た。
戻ってくる前にしっかりとお風呂を堪能してきたので非常にさっぱりした状態だが......皆もお風呂に入りたいよね?
後で聞いておこう。
そんなことを考えながら宿に入ると、食堂に皆が既に集まっているのが見えた。
「ただいま戻りました。」
「おかえりー。」
「ケイ、良く戻って来たのじゃ......。」
......なんかナレアさんがぐったりしている。
珍しい光景な気がするけど......リィリさんは物凄く上機嫌だな。
レギさんは......いつも通りだな。
「えっと......ナレアさん大丈夫ですか?」
「うむ......精神的に疲れたのじゃ......。」
......やはり、今日はナレアさん達について行かなくて正解だったみたいだ。
恐らくリィリさんから根掘り葉掘り聞かれたのだろう。
「お疲れ様です。」
「うぅ......。」
テーブルに突っ伏してしまったナレアさんの頭を軽く撫でる。
予想通り大変だったみたいだけど......見捨てて逃げてしまったようなものなのでこのくらいはしてもいいだろう......。
ただ......これを見ているリィリさんの目がまた輝き出したので、果たしてこの行為がナレアさんの為になったのかどうか......少し怪しくなって来た。
俺が撫でていると少しだけ顔を上げたナレアさんは......嬉しそうだったから良かったという事にしておこう。
「レギさんの方はどうでした?」
「あぁ、軽い仕事を一つやって来た。明日は依頼を二つ受けたからそれを片付けるつもりだ。」
「......やりすぎじゃないですか?」
「そうか?」
まぁ......物凄くレギさんらしいと言えばらしいのですが......。
「下水掃除はー?」
「......今日行って来た。」
満喫している......と言っていいのだろう......。
「そう言えば、今日の仕事の報告に行った時にギルド長に声を掛けられてな。」
「マルコスの奴に?」
ナレアさんが顔を上げたので頭を撫でるのをやめる。
手を離した瞬間、ナレアさんに不満そうな目で見られたけど......流石に気恥ずかしい。
「あぁ、何でも近々ダンジョンの攻略をするらしくてな。誘われたんだ。」
「なるほどのう。恐らくレギ殿は同類と思われておるのじゃろうな。」
「同類ってどういうことだ?」
「......ギルド長、下水好きなの?」
「ぶふっ!」
リィリさんの一言に思わず吹き出してしまった。
お陰でレギさんから冷たい視線を浴びせられる羽目に......。
「ダンジョンの話はどこに行ったんだよ!」
「あーそっかー。ダンジョンかー。」
リィリさんがてへへと笑いながら答えるが......分かっていて言っていますよね?
「......で、同類ってのは?」
「ほほ、レギ殿の話は魔道国にもしっかり伝わっておるようでの。」
ナレアさんがそう言った瞬間、レギさんが顔を顰める。
「あぁ、違うのじゃ。劇の話ではなく......元々の功績の話じゃ。」
「すまん、そっちだったか。」
劇の事で揶揄いまくられたせいか、条件反射で警戒したみたいだね。
「うむ、よいのじゃ。マルコスの奴はとにかくダンジョンで戦うのが好きな奴じゃ。恐らく、レギ殿はたった二人でダンジョンを攻略した戦闘狂とでも思われておるのじゃろう。」
「そういう事か......。」
レギさんが後ろ頭を掻きながら苦笑する。
もしかしたらこの前俺とナレアさんが行って話をした時、レギさんを勧誘しようと考えていたのかもな。
「妾もそのダンジョン攻略には少し興味があったのじゃが、行くかの?」
「そうだな......俺は構わないが......ダンジョンは森と聞いたが、かなり手強いと思うぞ?いいのか?」
「うむ。問題ないのじゃ。妾の目的は攻略では無いからの。」
「そうなのか?」
レギさんの問いに、ナレアさんは幻惑魔法を使い外に音が漏れないようにしてから答える。
「グラニダの話は覚えておるかの?アザル達が最初に頭角を現したのはダンジョン攻略での事だったじゃろ?」
「あぁ、そういえばそうだったな。そこからカザンの父親である領主に取り立てられたんだったか。」
「うむ......グラニダと違って国主導で攻略するわけでは無いとは言え、調べておいても損はないと思うのじゃ。」
「そういうことか。分かった、ギルド長に参加する旨を伝えておこう。」
「確か小規模ダンジョンだったはずじゃ。参加する者もそう多くは無い筈、ネズミ達の協力もあればすぐに全員調査出来るじゃろ。」
「えっと、ダンジョン攻略に行くのは良いのですが......リィリさんって大丈夫ですか?」
俺がそう言うと皆の注目が集まる。
「ん?私?なんで?」
「その......ダンジョンを攻略したら......また以前のように魔力がリィリさんに集まって......進化したりとか......。」
「あ、あー、そういう事かー。うん、大丈夫だよ。実は初めてケイ君のお母さんに会った時に相談していたんだ。」
「母さんにですか?」
母さんに相談......眷属とかそういう話じゃないよね......?
「うん。今後ダンジョンに行く機会がないとは言い切れなかったから......その時に進化しちゃって......また変な体になったら困るじゃん?」
「......そう、ですね。」
変な体と言われて若干返答に困る。
普段は忘れがちだけど、リィリさんはアンデッドだ。
しかも、以前はスケルトン......骨の体だった。
ダンジョンを攻略した際に、ボスと言う核を失ったダンジョンの魔力が、本来であれば霧散する筈だったのだが、無意識にリィリさんが吸収してしまい進化......結果肉体を取り戻す結果となった。
そして今回ダンジョンを攻略するにあたって、再び同じことが起こってしまったらどうなるか分からない......と思っていたのだが。
「あの時は無意識というか......ただ......頭の中で一つの事だけを願っていたというか......まぁ、そんな感じだったんだけど......ケイ君のお母さんに意識的に魔力を吸収することを抑える様にすれば大丈夫って教えてもらって......特訓もしたんだー。」
「そうだったのですか......。」
いつの間にそんなことを......。
「うん。ダンジョンの......魔神の魔力を吸い込まないようにするって感覚かな?結構難しかったけど、練習して......ケイ君のお母さんに合格って言われてるから大丈夫だよ。例え不意にダンジョンが攻略されても、私が霧散する魔力を吸収したりすることは絶対にないね。」
「なるほど、安心しました。」
母さんのお墨付きなら問題ないだろう。
「あはは、ありがとねー心配してくれて。」
「いえ、最近眷属の話で進化って言う単語を耳にする機会が多かったので、気になっただけですし。」
「ほほ、妾もリィリの訓練には付き合っておったから知っておったが、ケイは知らなかったのじゃな。」
「えぇ、最初に神域に帰った時ですよね......?何してたっけ......。」
特に何もせずに、のんびりと久しぶりの実家を満喫していた気がする......。
「レギさんは御存じでしたか?」
「......あー、いや......知らなかったな......。」
「......。」
リィリさんが物凄いジト目でレギさんの事を見ている。
恐らくだけど、ダンジョン攻略した際に起こるリィリさんの事情をすっかり忘れていたのだろう......。
これは怒られてもフォロー出来ない......。
「いや、す、すまん。あの時は......色々あって、動転していて......少し......いや、すまん。」
「......あの時......あ!あの時ね!?うん、まぁ、い、色々あったからね!?仕方ないかも!?」
レギさんが深く頭を下げると、リィリさんが慌てだす。
あの時......あー、ダンジョンを攻略した時の事か。
......そう言えば......あれからレギさんはリィリさんと何もないのだろうか?
リィリさんははっきりと好きだと口にしていたけど......レギさんは返事を最後までしていなかったような......。
「どうしたのじゃ?リィリ。急に慌てて。」
「な、なんでもないよ!?」
顔を赤くしながらナレアさんに向かって勢いよく否定するリィリさん。
ナレアさん以上にこういう様子のリィリさんは珍しいよね。
その様子にナレアさんは何かピンと来たのか、にんまりとした笑みを浮かべる。
「なんじゃぁ?リィリ、随分様子がおかしいのう?あまり詳しく聞いたことが無かったが......是非ともその時の話を聞きたいのう。」
「い、いやーなんでもないにょ?」
「リィリ......散々妾の事を揶揄っておって......逃げられると思わない事じゃ!」
俄かに勢いづいたナレアさんと、タジタジな様子のリィリさん。
いつもとは逆の構図だけど......レギさんが冷や汗を流しているのが印象的だった。
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