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8章 魔道国
第418話 色々な研究
しおりを挟むナレアさんが録音用魔道具をヘッケラン所長とキオルさんに見せた後、キオルさんが退室していった。
キオルさんは残って話をしたそうにしていたけど、仕事があるとかで泣く泣く部屋を出て行った感じだった。
今ナレアさんはいくつかの魔道具をテーブルの上に広げながら、ヘッケラン所長と魔術や魔道具について色々と意見を言い合っているけど......正直話がさっぱり分からない。
しかし、ふとした拍子に話を振られることがあるので、二人の会話はちゃんと聞いている。
「......そういう訳じゃ。」
「......なるほどぉ、そのような斬り込み方がぁ。」
しかし専門的な用語を羅列された会話は、正直横で聞いているにはかなりきついものがある。
聞き流すだけならまだなんとかなるのだが、偶に話題が俺のアイディアによる魔道具の開発になったりするので一応理解しようと努力していると......頭がパンクしそうになる。
「ほほ、やはりヘッケランは魔術だけは立派なものじゃな。」
「ふひっ!えぇ、えぇ、私は魔術以外に存在価値はありませんからねぇ。」
......ナレアさんも酷い言い方をしているけど、それに対するヘッケラン所長の返しが酷すぎる。
物凄い自己評価だな......しかも嬉しそうなのはなんでだ......。
「でも、ナレア殿のように様々な研究課題に手を出すのも大事だと思うのですよぉ。研究員は一つの事に特化した方が良いと言ってきかないのですがぁ。」
「まぁ、やり方は人それぞれじゃからな。妾やヘッケランは色々な分野の魔術に手を出すことによる利点を理解しておる。じゃが、同時に一つの事について深く極めていくことの利点も分かっておる。」
「えぇ、えぇ。一つを極めることの大事さは十分理解しておりますよぅ。ですが、広く色々な系統の魔術を知ることで応用力が高まるのもまた事実ですよぉ。」
「そこを補うための研究機関じゃ。専門外の部分は相談できる専門家に任せることが出来る。そうやってどんどんと新しい班を作っていったのじゃからな。」
うん、こういう話なら俺でも理解できるな。
研究員の方々は狭く深く極めて行き、横の繋がりをもって新しい魔術の開発を手掛ける。
ナレアさんやヘッケラン所長は広くあさ......いや、この二人はきっと広く深くだな......様々な技術を知っているから一人で開発できるし技術の発展もさせやすいってことだろう。
まぁ、限られた一部の人にしか無理な方法だと思うけど......広く深くって。
「まぁ、そうなのですけどぉ。今の研究所内で私の考えに賛同してくれるのはキオル君くらいですよぉ。」
「ほぅ。あやつは様々な分野に手を出しておるのかの?」
「そうですよぉ。まぁ今は研究六班の班長なので専念していますがぁ、元々は色々な班に顔を出しては開発に参加していた変わり者ですよぉ。」
ヘッケラン所長に変わり者と言われるキオルさんは相当なのかもしれないな......。
「ほぉ、班長になるくらいじゃから優秀じゃと思っておったが、あの若さで相当なものの様じゃな。」
「若手では間違いなく一番優秀ですなぁ。古株を入れても遜色ないですがぁ。彼が魔族であったならぁ、この先百年はどんどん新しい技術が生まれたと思いますがぁ。」
「キオルは今六班という事は、広く手を出しておっても専門は身体系ということかの?」
「そうかもしれませんねぇ。」
「ふむ......お主の目から見て、面白そうなことをしておる奴はキオル以外にどんなのがおるかの?」
「ふひっ!私はみんな面白いと思っていますがぁ、研究九班はいつも楽しそうですねぇ。」
「研究九班......あぁ、魔道馬車を開発したところじゃな?」
「そうですよぉ。街中でも結構見る様になってきましたがぁ......本人たちは性能に満足していませんからねぇ。今の目標は早馬よりも速く長距離を移動することですよぉ。」
「ほほ、それは確かに面白そうじゃな。」
魔道馬車がパワーアップしたら時代が加速しそうだな。
流通や情報伝達の速度が、今までとは比べ物にならない程素早くできるようになるはずだ。
まぁ、交通ルールや道路整備何かの問題も出てくるだろうけど。
「後はぁ......そうそう、研究二班に少し進展がありましたなぁ。」
「ほう。魔物関係じゃな?何が出来たのじゃ?」
「実はぁ、スライムに簡単な命令を出すことに成功したのですよぉ。」
「ほぅ。スライムか。」
「命令を出す送信機とスライムに飲み込ませる受信機の二つを使った魔道具でしてなぁ。まぁ、前に進ませる、後ろに下がらせる、食事を少し我慢させるみたいなことが出来たくらいですがぁ。」
「研究二班は古株じゃが、成果はあまり出しておらなかったからのぅ。魔術師というより魔物の生態調査部署と言われておったから......良かったのう。」
「後は他にもぉ......。」
そういって次々とヘッケラン所長は、今研究している事や上がった成果なんかをナレアさんに話していく。
でも、横で聞いている限り......今研究しているテーマを全部言っているような気がする。
まぁ、ヘッケラン所長からしたら、全部が全部面白い人材で面白い研究テーマなのだろう。
それを聞くナレアさんも実に楽しそうだしね。
「そういえば、研究七班はどうじゃ?」
「彼らは相変わらず苦戦していますねぇ。先日は鳥の羽の様な魔道具を使って両手で羽ばたいていましたがぁ......ピクリとも浮いていませんでしたなぁ。確か、六班と協力して身体強化方面で何とかしようとしているみたいですがぁ。」
「ふむ......空を飛ぶ研究......面白いと思うのじゃがのう......。」
「七班はちょっとまずいですねぇ......成果らしい成果が殆どないので班員も数を減らしていますしぃ。予算も無限と言う訳ではないのでぇ......個人的には応援したいのですがぁ、如何ともしがたくぅ。」
空を飛ぶ魔道具か......もし完成したら偉業だと思うけど......身体強化で飛ぶのは難しそうだな。
少なくとも強化魔法で空を飛ぶイメージは湧かない。
物凄く高くにジャンプとかなら出来るだろうけど......空を飛んでいるわけでは無い。
まぁ、天地魔法で空を飛べているのも......理屈は分からないけどね。
多分応龍様達が飛んでいる所を見ていなかったらイメージ出来ていなかったと思う。
俺がそんなことを考えていると、ナレアさんがこちらをちらりと見てくる。
何か意見はないかってことだろう......。
「あー、素人意見ですが......身体強化で空を飛ぶのは難しくないですかね?そもそも人に空を飛ぶ機能がありませんし。」
「そうですなぁ。でもだからこそぉ、鳥の翼のような魔道具を使って空を飛ぶ仕組みを追加しているのではないですかぁ。」
「うーん......その翼って両手に持って動かせるくらいの大きさですよね?」
「そうですぞぉ。」
「鳥や虫って空を飛びますけど......体がとても軽いですよね?だからあの大きさの翼で空を飛べるのではないでしょうか?人間の重さで考えると......とんでもない大きさの翼が必要なんじゃないですか?それこそ手にもてない様な大きさの。」
「確かにそうですなぁ。形や作りを真似てもそもそも浮かぶために必要な力が鳥とは桁外れに違うわけですからなぁ。」
俺の話にヘッケラン所長がだんだんと前のめりになってくる。
その内テーブルを飛び越えてきそうだ。
「逆に洗濯物を干していると、ちょっとした風でも洗濯物が飛ばされていったりしますよね?あれは重さに対して風を受け止める範囲が広いから飛んで行っちゃうのではないでしょうか?」
「なるほどなるほどぉ、風を受け止める......船の様な感じで空を飛ぶという事ですなぁ!となると......身体強化よりも寧ろ......むほほ!これは早速......いや七班の連中を呼びましょう!」
テンションが一気に上がったヘッケラン所長が立ち上がり、部屋を飛び出そうとしたところでナレアさんが待ったをかける。
「ヘッケラン落ち着くのじゃ。ケイが言っておるのはあくまで一般的な現象からの言葉じゃ。具体的な案がある訳ではない。ケイの意見を取り入れて研究をしてみるならそれは構わぬが、その着想はお主等の手柄じゃ。」
「しかし......今までの手法とは全く異なる着想ですしぃ。発案者のケイ殿にも是非参加してもらいたくぅ。」
「ケイ。研究に参加したいかの?」
「いえ、面白そうではありますけど......僕は魔術もロクに知りませんし、役に立たないと思います。先程のもただの思い付きですし、どうぞ気にせず皆さんで研究を進めて下さい。」
「むぅー、口惜しいですがぁ、お二人がそういうのなら我慢しますぅ。ですがぁ、もし形になった時は是非ともケイ殿も見に来て欲しいですなぁ!」
俺達の言葉を聞き、ソファに座り直したヘッケラン所長が鼻息を荒くして言う。
「えぇ、その時は喜んで。楽しみに待っておきます。」
俺がそう言うと、ふひっと笑ったヘッケラン所長の落ち着きが今まで以上に無くなった。
......恐らく、その七班ってところに行きたくて仕方ないのだろうな。
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