418 / 528
8章 魔道国
第417話 やはり同類か
しおりを挟む「妾はナレアじゃ。」
「ケイ=セレウスと申します。」
爽やかな笑みを浮かべながら自己紹介をしたキオルさんに俺達は自己紹介を返す。
まぁ、俺はついでみたいなものだけど。
「ナレア様のお噂はかねがね。数々の新しい魔術を生み出し続けている才媛と。ナレア様のお陰で、多くの魔術師が新しい魔道具を生み出す切っ掛けを頂くことが出来まして本当に感謝しております。」
「ほほ、妾の魔術を基礎に発展させていったのは皆の力じゃ。切っ掛けを作る事が出来たのは嬉しく思うが、大したことはしていないのじゃ。」
基礎技術の構築は相当大したことある話だと思うけど......ナレアさんは手をひらひらさせて本当に何でもない事と言う様にしている。
ナレアさんは間違いなく天才タイプだ。
本人は発想力に乏しくて応用力には自信があるって言っていたけど、他の研究者の人達の基礎となる部分を作ったというのなら完全に謙遜だったみたいだね。
俺ナレアさんに勝てそうなことって......母さんの加護による魔法くらいしかないような......。
そもそも、発想力の乏しい人が幻惑魔法をあんなに使いこなせるわけがないよね......。
キオルさんも苦笑しているけど、俺と同じように色々と思う所があるような感じがする。
「それにしても、お主は随分と優秀な魔術師のようじゃな。人族じゃろ?その若さで班長とは大したものじゃ。研究六班と言うと......セッコルが班長をやっていた所じゃったか?奴は研究所を辞めたのかの?」
「いえ、セッコルさんは今副班長をやって下さっています。私も大変お世話になった方ですし班長を続けて欲しかったのですが、少し体調を崩されてしまいまして。」
「む?そうなのかの?」
ナレアさんが心配そうな表情になる。
「あ、すみません。体調を崩したと言っても深刻なものではなく......腰を悪くしまして......長時間座ったまま作業をするのが辛いとのことです。」
「ほほ......それは仕方ないのう。セッコルも年じゃしな。しかし、身体強化や治癒の魔道具を専門に研究しておる研究六班じゃというのに、仕方のない奴じゃ。」
容体を聞いて安心したように笑うナレアさん。
セッコルさんって言う人もナレアさんの昔馴染みのようだ。
それにしても強化と回復か......母さんの魔法みたいだな。
弱体もあれば完璧だけど......魔道具で弱体は難しそうだ......使ったら自分が弱くなっちゃうからな......。
......あ、でも、麻酔の代わりとかに使えそうだな......今度ナレアさんに話してみるか。
「あはは、現班長としては耳が痛いですね。ナレア様に何かいい案はありませんか?」
「ほほ、今回持ち込んだ魔道具はちと役に立ちそうにないのう。そもそも妾は腰痛とは無縁での、まずそれを知る所から学ばねばのう。六班にはいい実験台が居る事じゃし、研究を進めてはどうじゃ?」
「セッコルさんは喜びそうですが......現在は回復よりも強化の方に力を入れて研究しておりまして。」
キオルさんは少し顔を顰める様にして言う。
「それは残念じゃな。いい実験台が居るというのに。」
「全くですね。失敗しました。」
そう言ってナレアさんの中々の外道発現に、爽やかな笑みで同意するキオルさん。
......あれ?
爽やかに笑っているけど......キオルさんも結構マッドでは......そう言えばナレアさんが魔術研究所にはおかしい奴ばっかりって言っていたっけ。
一見まともそうに見えるキオルさんも......やはり......そうなのか......。
まぁ、腰痛で苦しんでいる人を実験台と言ってのけるナレアさんは筆頭だけど......。
俺が若干遠い目で二人を見ていると、物凄い勢いで呼吸する音が聞こえて来た。
どうやらヘッケラン所長が呼吸を思い出したようだね。
十分以上呼吸していなかったのではないだろうか......いや、多分全くしていなかったわけじゃないと思うけど。
というか、今は鼻息を荒くしていてこれはこれで危険な感じがする。
「な、ナレア殿ぉ。あ、ありがとうございましたぁ。お、お?キオル班長、いつの間にぃ?」
「所長が楽しんでいる間にですよ。ところで堪能したのなら是非私にも鑑賞させていただきたいのですが。」
「ふひっ、も、もちろん私は構わないけどねぇ。」
そう言ってヘッケラン所長はナレアさんの方を見る。
「ふむ、それは研究所で公式に発表する物じゃからな。妾は構わぬのじゃ。」
「ありがとうございます。ナレア様。」
そう言ってナレアさんの作った魔道具を手に取り眼鏡に手を添えたキオルさんが、真剣な表情で魔道具を見始める。
それを確認したヘッケラン所長が額に浮かんだ汗を拭きながらナレアさんに話かける。
「ぷふぅ、実に興味深い魔道ですなぁ。初めて見る術式で見ただけではどのような効果を持っている魔道具なのか分かりませんでしたぞぉ。」
「ほほ、流石のヘッケランでも読み取れなかったかの。」
「えぇ......初めて見る術式でしたぁ。それで、それでぇ、一体どのような魔道具なのですかぁ。」
「......これは......音に関する魔道具ではありませんか?」
ヘッケラン所長がナレアさんに問いかけると同時に、キオルさんが魔道具から顔を上げて確認するようにナレアさんに質問する。
「ほう。よく分かったのう。確かにその魔道具は音に関する魔道具じゃ。」
「やはりそうでしたか。今研究六班で研究している魔術が、音を大きくするといった物でして。使用用途は違うようですが、私達の研究成果と似た部分が見受けられました。」
音を大きくする魔道具......拡声器的な感じだろうか?
それともアンプ的な感じかな?
「なるほど。研究六班の研究成果を見せてもらうのも楽しみじゃな。妾の持ち込んだその魔道具は、音を保存することが出来るのじゃ。」
「音を保存ですとぉ!?」
目玉がこぼれんばかりに目を見開いたヘッケラン所長が、キオルさんの手に持っている魔道具を奪い取らんばかりに詰め寄る。
その様子に若干......いや、かなり引いたキオルさんが魔道具をヘッケラン所長に差し出す。
餌を投げ込まれた鯉のように魔道具に飛びついたヘッケラン所長が、自分の目の中に魔道具を突き刺すかの如く近づけて凝視している。
「相変わらず......酷い状態じゃ。」
「いつもこんな感じなのですか?」
「......まぁ、新しい研究成果を見せると大体こんな感じですが、今日はいつも以上ですね。」
ナレアさんとキオルさんにとってはよくあることのようだけど......正直かなりきも......怖い。
未だにむほーっと奇声を上げているヘッケラン所長を尻目に、ナレアさんとキオルさんは話を続ける。
「しかし......なるほど......音の保存......面白いですね。音を取り込む、魔道具から音を出すという部分が我々の開発している魔術に似ていたので、そうではないかと思ったのですが......音を保存......凄いです。聞いていた以上の魔術師のようですね。」
「ほほ、妾一人で開発したものではないのじゃ。共同研究者がおる。」
「ななな、なんですとぉ!?ナレア殿に共同研究者ぁ!?ま、まさかぁ......!?」
ナレアさんの発言に魔道具から目を離したヘッケラン所長が、俺の事を驚愕の眼差しで見つめてくる。
「......いや......僕ではありませんよ。僕は素人です。」
「むほっ。では一体どこにぃ......。」
「共同研究者はここには来ておらぬ。その魔術の開発者の名前は妾とそやつの名前、アース=ケルトンの名を乗せておいて欲しいのじゃ。」
「アース=ケルトン......初めて聞くなですなぁ......何処の国の研究機関の人ですかぁ?」
「無所属じゃ。旅をしている時に偶々知り合ってな。今は東方に居る。」
「むぅ......是非とも話をしてみたかったですなぁ。」
ヘッケラン所長が残念そうにしているけど......なんとなく、アースさんとヘッケラン所長は結構気が合いそうな気がするな。
「確かに、機会があれば私も是非お話を聞きたいですね。」
「うむ、機会があれば紹介するのじゃ。」
ナレアさんが軽く笑って肩をすくめる。
ヘッケラン所長とキオルさんは非常に残念そうだったけど、東方にいるとなっては簡単には会えないから諦めたようだ。
アースさんグラニダに向かってからもうかなり経っているけど......未だに到着してないみたいなんだよね......元気なのは偶に連絡をしているから分かっているけど......大丈夫かな?
2
お気に入りに追加
1,720
あなたにおすすめの小説
異世界の片隅で引き篭りたい少女。
月芝
ファンタジー
玄関開けたら一分で異世界!
見知らぬオッサンに雑に扱われただけでも腹立たしいのに
初っ端から詰んでいる状況下に放り出されて、
さすがにこれは無理じゃないかな? という出オチ感漂う能力で過ごす新生活。
生態系の最下層から成り上がらずに、こっそりと世界の片隅で心穏やかに過ごしたい。
世界が私を見捨てるのならば、私も世界を見捨ててやろうと森の奥に引き篭った少女。
なのに世界が私を放っておいてくれない。
自分にかまうな、近寄るな、勝手に幻想を押しつけるな。
それから私を聖女と呼ぶんじゃねぇ!
己の平穏のために、ふざけた能力でわりと真面目に頑張る少女の物語。
※本作主人公は極端に他者との関わりを避けます。あとトキメキLOVEもハーレムもありません。
ですので濃厚なヒューマンドラマとか、心の葛藤とか、胸の成長なんかは期待しないで下さい。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。
【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる