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8章 魔道国

第413話 魔道国の冒険者ギルドの長

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俺が五体満足でギルドから帰ることが出来るか戦々恐々としていると扉がノックされた。

「マルコスです。」

「よいぞ。」

扉の外から声が掛かりナレアさんが返事をすると、扉を開けてダンディなおじさんが入室してくる。
見た目はルーシエルさんよりも年上っぽいけど、お爺さんって程でもない。
魔族だとしたら結構な年齢っぽいけど......魔族の方々は見た目で年齢が全く分からないね。

「失礼します。ナレアリス様、御無沙汰しております。」

折り目正しくしっかりと頭を下げてナレアさんへ挨拶をするおじさん。

「うむ、久しぶりじゃな、マルコス。相変わらず堅苦しい奴じゃな。」

「申し訳ありません、性分ですので。」

そう言いながら頭を下げるマルコスさんはその場から微動だにしない。

「本当に堅苦しいやつじゃ。ほれ、そこでそうしていても話ができぬじゃろうが、こっちに来て座るのじゃ。」

「失礼します。」

ナレアさんから許可を貰って俺達の向かいのソファに腰を下ろすマルコスさん。
すっごい堅い人だけど......ナレアさんの立場を考えたらこの人の対応が普通なのかもしれない。

「何度も言っておるが、妾は既にお主等に偉そうに出来る立場ではないのじゃ。畏まる必要は無い。今の妾はただの冒険者、ナレアじゃ。」

「老骨故、中々頭の切り替えが出来ません。ご寛恕いただければ......。」

「別に気にしてはおらぬ、面倒くさい奴じゃと思っておるだけじゃ。構わぬからいつものようにやるのじゃ。」

そう言ってナレアさんが虫を払う様に手を振るとマルコスさんが口元に笑みを浮かべる。
そして一つ咳払いをすると姿勢を崩す。

「......それで、今日はどうした?」

自分の膝を肘置きにして前かがみになりながら話を始めたマルコスさん。
......先程まで完璧執事みたいな様子だったのに、急に職人親父みたいな雰囲気を出し始めたよ?
突然の変容に俺が驚いていると横に座っているナレアさんがため息をつく。

「本当に面倒くさい奴じゃな。ケイ、こやつはちょっと頭のおかしいここのギルド長じゃ。」

「ギルド長だったのですか......初めまして、下級冒険者のケイ=セレウスと申します。」

「下級冒険者......?」

何故かマルコスさんが下級冒険者と言う部分に引っかかったようだ。

「えっと......なにか?」

「いや、すまん。俺も先程の騒ぎは見ていたもんでな。どこぞの上級冒険者かと思っていたんだ。」

「上級......?いえ、僕はまだ冒険者になって一年程度の......普通の下級冒険者ですよ。」

「いや、それは嘘じゃろ。」

速攻でナレアさんから否定された、何故だろう......。

「まぁ、あれだけ圧倒的な戦闘技能を持ちながらただの下級冒険者はないな。」

......ちょっとイラっとしてやり過ぎただろうか?

「えっと......結構問題になります......か?」

暴れた直後にギルド長が出て来てやり過ぎてしまっただろうかとひやひやしていると、マルコスさんがあっけらかんとした表情で口を開く。

「いや?備品も別に壊したわけじゃないし......あいつらも大した怪我はないだろ?」

「えぇ、あまり怪我をさせない様に気を付けましたし......。」

「ふっ......確かにかなり実力差があったな。まぁ、お前は絡まれただけとも言えるし......特に咎めはしないが......問題は......。」

そう言ってナレアさんの方を見るマルコスさん。

「ほほ、モテる女は辛いのう。」

ナレアさんが笑いながら体をくねらせる。
俺とマルコスさんがその様子を半眼で眺めるがまったく気にした様子はない。

「まぁ、こやつなら大丈夫じゃ。」

俺達の視線を流したナレアさんが俺の二の腕をぽんぽんと叩きながら言う。

「あの戦闘能力ならギルド内の喧嘩程度なら問題ないだろうが......あまり騒ぎを起こされるのもな......。」

「ならこやつの情報を公表するかの?」

「ナレアさん......?」

俺の情報って......一体何を?

「ただの下級冒険者じゃなかったのか?」

「嘘じゃと言ったじゃろ。」

「いや、嘘じゃないですよ。」

俺が否定すると若干胡散臭そうな表情でマルコスさんが見てくる。
いや、ほんと嘘じゃないですよ。

「こやつは最近都市国家の方で上級冒険者になった者の相方でのう。」

「下級冒険者が上級冒険者の相方......?」

「うむ、まぁ、上級冒険者になる前はその者も下級冒険者じゃったからの。不自然では無かろう。」

「それはそうだが、だがその程度の事で......ん?最近都市国家で上級冒険者になった奴と言えば......。」

「ほほ、知っておったかの?」

「その功績はな。認定まで随分時間が掛かったみたいだが......なるほど。こいつが狂人の片割れか。」

そういってにやりと男臭い笑みを浮かべるマルコスさん。

「......狂人って。」

なんか都市国家のギルド長と話をした時に誰かが言っていたような......ナレアさんだったっけ?

「まぁ、そういうことじゃ。たった二人でダンジョンを攻略した愚か者の片割れ。喧嘩を売るのは余程の命知らずと言う訳じゃ。」

「なるほどな。まぁ、先程の騒ぎもあるし、信憑性は十分だな。分かった。お前の選んだ男の情報はそのように流しておくとしよう。」

「ほほ......ん?」

マルコスさんの話を聞いて少し笑ったナレアさんがキョトンとする。
その表情を見て背筋を正すマルコスさん。

「まさか貴方が共にいるような男が現れるとは、本当に驚きました。昔の貴方を知っている者に言わせれば、二人でダンジョンを攻略するよりも困難だ。そう言ってもおかしくないでしょう。」

「おい......態度を変えてその言はどういうことじゃ?」

「いえ、他意はありません。ただ......。」

「ただなんじゃ?」

ナレアさんに睨まれているマルコスさんは再び座り方を崩すとため息を一つ。

「大変だろうなぁと思ってよ。」

「どういう意味じゃ!」

「おいおい......現に初めて来たギルドで囲まれて襲われてるだろうが。」

「......。」

マルコスさんにもっともなことを言われて黙り込むナレアさん。
まさにぐうの音も出ないって感じだ。

「時にマルコスよ、ここ最近見つかった遺跡なんかは無いかの?」

「もう少しうまく話しは変えろよ......まぁ、苦労するのはソイツだから別にいいが。」

いや、あまりよくありませんが......。

「最近は新しい遺跡は見つかってないな。もういい加減、大規模な工事や地割れでもない限り新しいものは見つからないんじゃないか?」

「なんじゃつまらんのぅ。」

「この辺りの遺跡を片っ端から発掘、調査していったのはお前だろうが。」

マルコスさんが不満そうにしながらナレアさんに言う。
なるほど......この辺りの遺跡はナレアさんのせいで全滅しているのか......。

「......魔道国を離れて結構経っておるし、いくつか見つかっておるかと期待しておったのじゃが......。」

「お前みたいにポンポン遺跡を見つけるような奴はいねぇよ。一つ見つけるだけで成功した冒険者と言われるような代物だぞ?」

そう言えば......遺跡ってそういう物だっけ。
最初の頃にレギさんに教えてもらったけど......ナレアさんと一緒にいると何か身近に沢山あるもののように感じるんだよね。

「......もっと頑張って欲しい物じゃ。それと......ダンジョンはどうじゃ?」

「最近発生した奴はないが......近々南の方の、森のダンジョンを攻略する予定だな。」

「もうそんな時期じゃったか。」

森のダンジョンか......洞窟とはまた違った感じで戦いにくそうだな。
俺はゴブリン......ヘヌエス君のいた森を思い出す。
完全に森の中での戦闘ってやったことが無いけど......頭上や足元......多くの死角......それに場所によっては武器が振りにくいだけじゃなく連携も取りづらい......うん、かなりきつそうだね。

「まぁ、俺も陣頭指揮を執る予定だ。」

物凄く獰猛な笑みを浮かべるマルコスさん。
この人って......完璧執事と今の姿どっちが本性なのだろうか?

「年寄りなんじゃから、あまりはしゃぎ過ぎぬようにの。」

ナレアさんが半眼になりながら言うと、お前に言われたくないと言わんばかりの笑みを返すマルコスさん。

「本当に失礼な奴じゃ......ところで、魔物に関して、何か変わった話はないのかの?」

「魔物に関して?いや、特にはないな?何かあったのか?」

「うむ。実は、ここに来る前に少しの......。」

そう言って船で襲撃されたことをマルコスさんに話していくナレアさん。
檻の話はしていないが、大規模な襲撃の話だけでも相当な問題だ。
難しい顔をしながらその話を聞くマルコスさんは、やがて前のめりになっていた体勢を変えて背もたれに寄りかかる。

「確かに、聞いたことが無い話だ。何かの前兆かもしれん。少し魔物関係の情報は集めておく。」

「うむ。恐らく正式に城の方からも要請があると思うが、頼むのじゃ。」

「おう。いい話......とは言えねぇが、大事な話が聞けた。助かったぜ。」

そう言って頭を下げるマルコスさんにナレアさんはいつも通り返事を返す。
冒険者ギルドの情報網に何か引っかかるようであれば、ファラにその辺りを重点的に調査してもらうことも出来る。
もし檻が絡んでいた場合、そこから何か分かるかも知れない。
後手を踏まないためにも素早く広い調査は大事だ。
情報収集の基本は人海戦術だよね。

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