414 / 528
8章 魔道国
第413話 魔道国の冒険者ギルドの長
しおりを挟む俺が五体満足でギルドから帰ることが出来るか戦々恐々としていると扉がノックされた。
「マルコスです。」
「よいぞ。」
扉の外から声が掛かりナレアさんが返事をすると、扉を開けてダンディなおじさんが入室してくる。
見た目はルーシエルさんよりも年上っぽいけど、お爺さんって程でもない。
魔族だとしたら結構な年齢っぽいけど......魔族の方々は見た目で年齢が全く分からないね。
「失礼します。ナレアリス様、御無沙汰しております。」
折り目正しくしっかりと頭を下げてナレアさんへ挨拶をするおじさん。
「うむ、久しぶりじゃな、マルコス。相変わらず堅苦しい奴じゃな。」
「申し訳ありません、性分ですので。」
そう言いながら頭を下げるマルコスさんはその場から微動だにしない。
「本当に堅苦しいやつじゃ。ほれ、そこでそうしていても話ができぬじゃろうが、こっちに来て座るのじゃ。」
「失礼します。」
ナレアさんから許可を貰って俺達の向かいのソファに腰を下ろすマルコスさん。
すっごい堅い人だけど......ナレアさんの立場を考えたらこの人の対応が普通なのかもしれない。
「何度も言っておるが、妾は既にお主等に偉そうに出来る立場ではないのじゃ。畏まる必要は無い。今の妾はただの冒険者、ナレアじゃ。」
「老骨故、中々頭の切り替えが出来ません。ご寛恕いただければ......。」
「別に気にしてはおらぬ、面倒くさい奴じゃと思っておるだけじゃ。構わぬからいつものようにやるのじゃ。」
そう言ってナレアさんが虫を払う様に手を振るとマルコスさんが口元に笑みを浮かべる。
そして一つ咳払いをすると姿勢を崩す。
「......それで、今日はどうした?」
自分の膝を肘置きにして前かがみになりながら話を始めたマルコスさん。
......先程まで完璧執事みたいな様子だったのに、急に職人親父みたいな雰囲気を出し始めたよ?
突然の変容に俺が驚いていると横に座っているナレアさんがため息をつく。
「本当に面倒くさい奴じゃな。ケイ、こやつはちょっと頭のおかしいここのギルド長じゃ。」
「ギルド長だったのですか......初めまして、下級冒険者のケイ=セレウスと申します。」
「下級冒険者......?」
何故かマルコスさんが下級冒険者と言う部分に引っかかったようだ。
「えっと......なにか?」
「いや、すまん。俺も先程の騒ぎは見ていたもんでな。どこぞの上級冒険者かと思っていたんだ。」
「上級......?いえ、僕はまだ冒険者になって一年程度の......普通の下級冒険者ですよ。」
「いや、それは嘘じゃろ。」
速攻でナレアさんから否定された、何故だろう......。
「まぁ、あれだけ圧倒的な戦闘技能を持ちながらただの下級冒険者はないな。」
......ちょっとイラっとしてやり過ぎただろうか?
「えっと......結構問題になります......か?」
暴れた直後にギルド長が出て来てやり過ぎてしまっただろうかとひやひやしていると、マルコスさんがあっけらかんとした表情で口を開く。
「いや?備品も別に壊したわけじゃないし......あいつらも大した怪我はないだろ?」
「えぇ、あまり怪我をさせない様に気を付けましたし......。」
「ふっ......確かにかなり実力差があったな。まぁ、お前は絡まれただけとも言えるし......特に咎めはしないが......問題は......。」
そう言ってナレアさんの方を見るマルコスさん。
「ほほ、モテる女は辛いのう。」
ナレアさんが笑いながら体をくねらせる。
俺とマルコスさんがその様子を半眼で眺めるがまったく気にした様子はない。
「まぁ、こやつなら大丈夫じゃ。」
俺達の視線を流したナレアさんが俺の二の腕をぽんぽんと叩きながら言う。
「あの戦闘能力ならギルド内の喧嘩程度なら問題ないだろうが......あまり騒ぎを起こされるのもな......。」
「ならこやつの情報を公表するかの?」
「ナレアさん......?」
俺の情報って......一体何を?
「ただの下級冒険者じゃなかったのか?」
「嘘じゃと言ったじゃろ。」
「いや、嘘じゃないですよ。」
俺が否定すると若干胡散臭そうな表情でマルコスさんが見てくる。
いや、ほんと嘘じゃないですよ。
「こやつは最近都市国家の方で上級冒険者になった者の相方でのう。」
「下級冒険者が上級冒険者の相方......?」
「うむ、まぁ、上級冒険者になる前はその者も下級冒険者じゃったからの。不自然では無かろう。」
「それはそうだが、だがその程度の事で......ん?最近都市国家で上級冒険者になった奴と言えば......。」
「ほほ、知っておったかの?」
「その功績はな。認定まで随分時間が掛かったみたいだが......なるほど。こいつが狂人の片割れか。」
そういってにやりと男臭い笑みを浮かべるマルコスさん。
「......狂人って。」
なんか都市国家のギルド長と話をした時に誰かが言っていたような......ナレアさんだったっけ?
「まぁ、そういうことじゃ。たった二人でダンジョンを攻略した愚か者の片割れ。喧嘩を売るのは余程の命知らずと言う訳じゃ。」
「なるほどな。まぁ、先程の騒ぎもあるし、信憑性は十分だな。分かった。お前の選んだ男の情報はそのように流しておくとしよう。」
「ほほ......ん?」
マルコスさんの話を聞いて少し笑ったナレアさんがキョトンとする。
その表情を見て背筋を正すマルコスさん。
「まさか貴方が共にいるような男が現れるとは、本当に驚きました。昔の貴方を知っている者に言わせれば、二人でダンジョンを攻略するよりも困難だ。そう言ってもおかしくないでしょう。」
「おい......態度を変えてその言はどういうことじゃ?」
「いえ、他意はありません。ただ......。」
「ただなんじゃ?」
ナレアさんに睨まれているマルコスさんは再び座り方を崩すとため息を一つ。
「大変だろうなぁと思ってよ。」
「どういう意味じゃ!」
「おいおい......現に初めて来たギルドで囲まれて襲われてるだろうが。」
「......。」
マルコスさんにもっともなことを言われて黙り込むナレアさん。
まさにぐうの音も出ないって感じだ。
「時にマルコスよ、ここ最近見つかった遺跡なんかは無いかの?」
「もう少しうまく話しは変えろよ......まぁ、苦労するのはソイツだから別にいいが。」
いや、あまりよくありませんが......。
「最近は新しい遺跡は見つかってないな。もういい加減、大規模な工事や地割れでもない限り新しいものは見つからないんじゃないか?」
「なんじゃつまらんのぅ。」
「この辺りの遺跡を片っ端から発掘、調査していったのはお前だろうが。」
マルコスさんが不満そうにしながらナレアさんに言う。
なるほど......この辺りの遺跡はナレアさんのせいで全滅しているのか......。
「......魔道国を離れて結構経っておるし、いくつか見つかっておるかと期待しておったのじゃが......。」
「お前みたいにポンポン遺跡を見つけるような奴はいねぇよ。一つ見つけるだけで成功した冒険者と言われるような代物だぞ?」
そう言えば......遺跡ってそういう物だっけ。
最初の頃にレギさんに教えてもらったけど......ナレアさんと一緒にいると何か身近に沢山あるもののように感じるんだよね。
「......もっと頑張って欲しい物じゃ。それと......ダンジョンはどうじゃ?」
「最近発生した奴はないが......近々南の方の、森のダンジョンを攻略する予定だな。」
「もうそんな時期じゃったか。」
森のダンジョンか......洞窟とはまた違った感じで戦いにくそうだな。
俺はゴブリン......ヘヌエス君のいた森を思い出す。
完全に森の中での戦闘ってやったことが無いけど......頭上や足元......多くの死角......それに場所によっては武器が振りにくいだけじゃなく連携も取りづらい......うん、かなりきつそうだね。
「まぁ、俺も陣頭指揮を執る予定だ。」
物凄く獰猛な笑みを浮かべるマルコスさん。
この人って......完璧執事と今の姿どっちが本性なのだろうか?
「年寄りなんじゃから、あまりはしゃぎ過ぎぬようにの。」
ナレアさんが半眼になりながら言うと、お前に言われたくないと言わんばかりの笑みを返すマルコスさん。
「本当に失礼な奴じゃ......ところで、魔物に関して、何か変わった話はないのかの?」
「魔物に関して?いや、特にはないな?何かあったのか?」
「うむ。実は、ここに来る前に少しの......。」
そう言って船で襲撃されたことをマルコスさんに話していくナレアさん。
檻の話はしていないが、大規模な襲撃の話だけでも相当な問題だ。
難しい顔をしながらその話を聞くマルコスさんは、やがて前のめりになっていた体勢を変えて背もたれに寄りかかる。
「確かに、聞いたことが無い話だ。何かの前兆かもしれん。少し魔物関係の情報は集めておく。」
「うむ。恐らく正式に城の方からも要請があると思うが、頼むのじゃ。」
「おう。いい話......とは言えねぇが、大事な話が聞けた。助かったぜ。」
そう言って頭を下げるマルコスさんにナレアさんはいつも通り返事を返す。
冒険者ギルドの情報網に何か引っかかるようであれば、ファラにその辺りを重点的に調査してもらうことも出来る。
もし檻が絡んでいた場合、そこから何か分かるかも知れない。
後手を踏まないためにも素早く広い調査は大事だ。
情報収集の基本は人海戦術だよね。
2
お気に入りに追加
1,718
あなたにおすすめの小説
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
俺とシロ
マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました)
俺とシロの異世界物語
『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』
ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。
シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!
父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
その他、多数投稿しています!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界なんて救ってやらねぇ
千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部)
想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。
結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。
色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部)
期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。
平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。
果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。
その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部)
【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】
【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します
あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。
異世界パルメディアは、大魔法文明時代。
だが、その時代は崩壊寸前だった。
なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。
マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。
追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。
ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。
世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。
無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。
化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。
そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-
ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!!
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。
しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。
え、鑑定サーチてなに?
ストレージで収納防御て?
お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。
スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。
※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。
またカクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる