上 下
412 / 528
8章 魔道国

第411話 恋しく思う

しおりを挟む


ちょっとした甘味を購入して食べながら歩いていると、何やら当たりの様子が騒がしくなって来た。
恐らく周囲を歩いている人達の雰囲気が先程までと変わって来たせいだろう。
今までは近代化が進んできた街並みだったのだが、下町に入った感じと言うか......周りの人達もビジネスマンからガテン系になったと言うか......。
まぁ、簡単に言うと......冒険者と言った装いの人達が増えて来たのだ。
とは言え、今歩いている道もしっかりと舗装されているし、周囲の建物も他所の街に比べれば相当時代が進んでいる感じはある。

「冒険者ギルドが近いって感じがしますね。」

「うむ。他の街よりも分かりやすい感じがするのう。」

「魔道国は色々と洗練されている感じがしますけど......ここの雰囲気は他の国と似たような感じがあるので目立つのかと。」

魔道国でも巡回兵は何度か見かけたけど動きやすいようにか、見た感じ鎧を着けておらず軍服のような物を着ていた。
それに比べると要所要所に体を守る防具を身に着けている冒険者の方々の姿は無骨な感じがするね。

「ちなみに、ケイよ。ここまで連れてきておいてなんじゃが......ギルドに行くと高確率......いや、ほぼ確定で面倒なことになるからの。」

ここに来てとんでもないことをナレアさんが言いだした。

「......どういった類の厄介事ですか?」

「お偉方系と流血系じゃな。」

「両方ですか!?」

「まぁ、これも宿命じゃな。甘んじて受け入れるのじゃ。」

「待ってください。百歩譲ってお偉方系は仕方ないとしましょう。ナレアさんは上級冒険者ですし、それに以前の立場もありますから......まぁ、そういった立場の人が出てくるのも分かります。ですが、もう一つの流血系って言うのはどういうことでしょうか?」

「......宿命じゃ。甘んじて受け入れるのじゃ。」

「何かちょっとにやけているのが気になるのですが......。」

どうも流血系の方は何か含みがある感じがする......。

「まぁ、あれじゃ。流血系は確定ではないから安心するのじゃ。妾が何かしようと言う訳でもない。結果としてそうなるかも知れぬ、と言う程度じゃ。それにケイなら何も問題ない筈じゃ。」

「どういう意味でしょうか......。」

「ほれ、そんなことを話している内にギルドが見えてきたのじゃ。」

「......ナレアさん、やはりギルドに行くのはやめて魔術研究所ってところに行きませんか?」

「ふむ、折角ここまで来たのにやめるのかの?」

横にいるナレアさんが上目遣いでこちらを見てくる。
......くっ......可愛い......しかしこれは悪魔の相貌......!
何せこれから人を流血沙汰に引きずり込もうとしているのだ......断固拒否せねば!

「......まぁ、結局後回しにしても行くことに変わりはありませんし、このまま行きましょうか。」

......あれ!?
頭の中で考えていた対応と口から出た対応が違い過ぎる!?
俺の返事を聞き、ナレアさんはにっこりと邪気の無い......いや、若干邪な空気を醸し出しつつ笑みを浮かべる。
まぁ......致命的な事にはならないだろうし......ナレアさんに付き合うと決めたわけだから覚悟を決めて行くとしよう。
でも、ノーと言う事を出来るようにしておいた方がいい気がする......なんか、何でも許してしまいそうな......。
俺が今後について思案していると、肩に掴まっているシャルが何故かため息をついた。



「死ね!おらぁ!」

何故だろう......どうして俺は、冒険者ギルドに入ってモノの数秒で罵声を浴びせられながら殴りかかられているのか......。
しかも複数人から......。
思い返してみても......理由が全く分からない。
因みにナレアさんは傍には居ない。
ナレアさんはギルドに入ってすぐ、受付の方に話に行ったのだが、着いて行こうとしたら少しここで待っていて欲しいと言われたのだ。
そしてナレアさんと離れて十秒もしない内に......何故かこうなった。
レギさんやクルストさんがやっていた、新人への洗礼というかお試しみたいな奴と言うなら分かるけど......俺は今回登録しに来たわけじゃないし......そもそも、一応初級を卒業して下級にはなっているのに洗礼もなにもないだろう。
それとも魔道国のギルドのローカルルールだろうか?
俺はぶんぶんと振り回される腕や足を避けながら周りの様子を窺う。
誰も止める様子はない......というか、周りで見ている冒険者からも明確に敵意の様なものを感じる。
どう見ても殴りかかってきている人達を応援しているしね......。

「ちょこまかと逃げ回りやがって!大人しく死ね!」

「......いや、それはちょっと。」

「気取ってんじゃねぇぞ!このクソがぁ!」

えー、俺はなんでこんなに嫌われているのだろうか?
初めて来た場所でここまで......嫌われているというより憎しまれているっておかしいと思うのだけど......。
俺はお腹を狙って殴って来た人の背後に回るようにして攻撃を避けながら問いかける。

「あの、襲い掛かられる理由が分からないのですが、僕が何かしましたでしょうか?」

「てめぇは大罪を犯した!」

「死ぬか、死ぬか、死ぬ!どれを選ぶ!?」

「それ選ぶ必要ありませんよね!?」

せめて言い方変えて欲しいな......。
とりあえず、理由は分からないけど......原因は間違いなく......カウンターの前でにやにやしながらこちらを見ているナレアさんだろう。

「大罪って......僕が何をしたのでしょうか?」

「死んでくれ!頼むから死んでくれ!肉片の一欠けらも残さずになぁ!」

こんなに死んで欲しいと言われたのは生まれて初めてだ。
かなり辛い。
先程から多くの冒険者に攻撃されているけど......幸いというか何というか......皆素手ってことは本気ではないってことだろうか......それとも理性が残っていると言うべきだろうか?
俺は次々と繰り出される攻撃を避けながら途方に暮れる。
っていうか、そろそろギルドの職員さんとか、良識ある冒険者さんとかが止めてくれませんかね......?
あぁ、レギさんが恋しい......。
俺が一撃も喰らわないことで、ますますヒートアップしていく冒険者の皆さん。
これどうやって収集つけたら......いっそのこと全員倒す......?
今俺に殴りかかってきている人は三人......後外野に居ながらも俺に罵声を飛ばしたり睨んだりしている人が......多数。
......相手の数を数えていて気付いたけど、殴りかかってきているのも罵声を浴びせて来ている人も......睨んでいるだけの人も、全員男性だな。
女性の冒険者は寧ろそんな騒いでいる人達を冷ややかな目で見ているような......。
うーん、そういう人たちに事情を聞くことが出来ればいいのだけど......残念ながらかなり遠巻きに見ているのでこの状況では声を掛けられない。
っていうか色々知っていそうな人が身内にいるんですけどね!?
まぁ、その人は凄くいい笑顔でこちらを見ているだけで、助け舟の一つも寄越してくれない。
何故かルーシエルさんの言葉が頭の中をリフレインしている。
いいんです......そんな人なのは十分、分かっています。

「死ねやこら!ボケこら!カスこら!」

......いい加減イラっとしてきたな。
これだけ殴りかかられているのだから......そろそろ反撃してもいいよね?
っていうか反撃しないと終わりそうにないし。
よし決めた......とりあえず、全員大人しくなってもらおう。
反撃することに決めた俺は、右側から殴りかかって来た大柄な冒険者の側面に回り込み、顎先に一撃。
糸が切れた人形のように崩れ落ちる冒険者は放置して、背後から放たれたハイキックをしゃがんで躱しながら足払い。
俺が立ち上がると同時に最後の一人が横から突きを放ってきたので、バックステップで攻撃を避けると同時に足払いで倒れていた人の鳩尾を踏み抜いて悶絶させる。
横合いから突きを放ってきた冒険者が、悶絶している仲間を飛び越えて俺の方に飛び掛かって来たので着地を狙って足払い。
倒れた相手の顔面を目掛けて踵を振り下ろし......鼻先で止めた。
数秒にも満たない時間で三人を無力化した俺が周囲を見渡すと、ギルドの中は静まり返っていた。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...