上 下
407 / 528
8章 魔道国

第406話 あの日の答え

しおりを挟む


「あー、まぁ、嘘をついていたって言うのは確かに気まずいかもしれませんね。」

俺が思いついた様にして言うと、ナレアさんがかぶりを振りながら答える。

「いや、まぁ、それもそうじゃが......髭も散々言っておったが......相当な年齢じゃぞ?」

「えっと......そこは何も気になりませんが......。」

「む......そ、そうかの?」

「えぇ......僕が......僕が好きになったのは、今のナレアさんです。今のナレアさんは今まで生きて来た人生によって作られたわけですし、その過ごした年月を愛おしく思いこそすれ、忌避することは一つもないと思うのですが......。」

「......。」

若干恥ずかしさを覚えないでもないけど、それでも素直な思いをナレアさんに伝える。
ナレアさんは何も言わずに俯いてしまっているけど......。

「それに、年齢がどうであろうと......ナレアさんは凄く可愛いですし......いや、こういう言い方だと見た目の問題かって言われるかもしれませんが......でも、うん。可愛いから問題ないですね。」

「......ぅ......。」

「まぁ、嘘をついていたことに関しては......まぁ、そもそもナレアさんが十六歳とは思っていませんでしたし。」

「なんじゃそれは!?」

俯いていたナレアさんが顔を跳ね上げて食って掛かってくる。
ただ、その顔は真っ赤に染まっていたけど。

「いや......初めてお祭りで会った時は......もっと幼いのかと思っていましたし......その後一緒に居る様になってからは、貫禄というか立ち居振る舞いというか......そういうのがちょっと十六歳の女の子に出せるような感じでは無かったので。」

「......早熟なだけかもしれぬじゃろ。」

「いや、流石にそれは無理がありますよ......まぁ、偶に見た目相応ってこともありましたが。」

「それはどういう意味じゃ......?」

「......見た目通り中身も可愛いって話です。」

「......ケイ、誤魔化そうとしておらぬかの......?」

「本心です。」

でも誤魔化そうとしてないとは言いません。
そんな俺の考えに気付いたのか、ナレアさんが半眼になりながらこちらを見つめてくる。
俺は全力で他意はありませんという思いを込めて笑顔を浮かべる。
その想いが通じたのか分からないけど、ナレアさんは軽く嘆息すると俺から視線を逸らす。

「妾は三百年程生きておって五十年程前まで魔王の地位におった。魔王を退いてからは国政にはあまり関わる事はなく、精々相談役と言ったところじゃな。それよりも、自由気ままに遺跡の探索や魔術の研究なぞをして過ごしておった感じじゃ。」

なるほど......五十年も前の魔王なら寿命の長い魔族の方々ならともかく、他の国では殆ど気づかれない感じか。
あ、そう言えば龍王国であったオグレオさん......ナレアさんが顔を見せた時、物凄い反応だったのは先代魔王という事を知っていたからか。

「まぁ、考えておるとおりじゃ。まぁ、当時とは髪型も違うし魔道国内でもあまり気付かれないがの。なんせ退位して五十年じゃ、知り合いでもなければ気づかぬ。」

まぁ、映像記録とかがないこの世界じゃ大国の先代トップであっても普通の人達はわからないだろう。
それが五十年も前の話だしなぁ、確かに余程近しい人でも無かったら覚えてないだろうね。
そう言えば......オグレオさん以外にもナレアさんに明らかに丁寧な人達がいたな。

「龍王国の......ヘネイさんやワイアードさんは知っているのですね?」

「うむ。龍王国の王やヘネイ達上層部は妾の事を知っておる。まぁ、一個人としての付き合いと公言しておるがの。後は......カザン達も知っておる。」

「カザン君達が!?」

「まぁ、領主を名乗っておるとは言え、実質あそこは国であやつは王じゃ。流石に教えておかねば後々問題になる可能性が無いとも言い切れぬからのう。まぁ魔道国から何かしら要求したり、弱みに付け込んだりすることはないから安心せよとは言ってあるのじゃ。妾を出汁にそんなことをしたら、上層部全員叩き潰すと言っておるしの。」

何か頭の痛そうな顔をしているルーシエルさんや魔道国の上層部の人達が目に浮かぶようだ。
上層部の人達には会ったことが無いけど......まぁ、このままお会いせずにおきたい。

「まぁ、面倒な立場ではあるが、表向きは魔道国とは関係ない一般人として振舞っておる。」

......一般人として振舞って......いや、喋り方と偉い方々への対応以外は確かに一般人だな。

「......そ......それで、どうじゃろうか?妾は先代魔王であり、ケイよりも相当年上じゃ......それでも......その、あの......あの時の言葉は......。」

「変わりません。ナレアさんの年齢も立場も僕にはあまり関係ありませんし......いえ、立場は気にした方が良いのかもしれませんが......気にした方がいいですか?」

「いや......その......それには及ばぬ......というか、寧ろ気にしないでくれた方がよいのじゃが......。」

「では、何も問題は無いです。まぁ......気にした方が良いと言われても、あの時の言葉を撤回するつもりはないのですが。」

俺は真正面からナレアさんを見据えながらそう伝える。

「......う......く......。」

ナレアさんが顔を赤くしながら視線を逸らす。
......正直、勢いで突っ走っているのだが......そろそろ恥ずかしさが追い付いてきそうだ。
でもここで引くわけにはいかない......。

「ナレアさん。保留している件......答えを聞かせてくれませんか?」

「......。」

ナレアさんの顔が真っ赤になり目がぐるぐると回り出す。
......その姿を見ていると、倒れるのではないかと心配になってくる。
俺はそっとナレアさんの肩を掴み体を支えた。

「け、ケイ!?」

ナレアさんの体がびくりと跳ねる。

「ナレアさん。貴方と一緒にこの先の生を過ごしていきたい。僕の一番傍に居て欲しい。貴方が楽しい時は一緒に笑って、貴方が辛い時は僕が支えてあげたい......貴方に降りかかる全ての禍から貴方を守りたい。絶対に、貴方を一人にしません。」

ナレアさんの肩を掴みながら至近距離で想いを伝える。
先程まで泳ぎ回っていたナレアさんの目が、今は真正面からこちらを見ている。

「......ナレアさん、貴方の事を......愛しています。」

「......わ、妾は......妾も......ケイ、お主の事を愛おしく思っておる。」

ナレアさんがゆっくりと俺の腰に手を回してくる。
俺は肩に置いていた手をナレアさんの背中へと回して軽く抱きしめる。
......正直、心臓は破裂せんばかりに早鐘を打っているが......抱きしめたナレアさんも、緊張からか細かく震えているように感じる。
少しの時間......いや、結構長い時間、俺達は抱き合っていた。
ナレアさんは小柄なので俺の腕の中にすっぽりと納まっていたのだが、少し身じろぎをしたので俺はナレアさんを解放する。
しかしナレアさんは俺から離れずに俺の事を見上げてきて......ゆっくりと目を瞑る。
俺は吸い寄せられるように、目を閉じたナレアさんへと顔を寄せ......キスをした。

しおりを挟む
感想 60

あなたにおすすめの小説

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

俺とシロ

マネキネコ
ファンタジー
【完結済】(全面改稿いたしました) 俺とシロの異世界物語 『大好きなご主人様、最後まで守ってあげたかった』 ゲンが飼っていた犬のシロ。生涯を終えてからはゲンの守護霊の一位(いちい)として彼をずっと傍で見守っていた。そんなある日、ゲンは交通事故に遭い亡くなってしまう。そうして、悔いを残したまま役目を終えてしまったシロ。その無垢(むく)で穢(けが)れのない魂を異世界の女神はそっと見つめていた。『聖獣フェンリル』として申し分のない魂。ぜひ、スカウトしようとシロの魂を自分の世界へ呼び寄せた。そして、女神からフェンリルへと転生するようにお願いされたシロであったが。それならば、転生に応じる条件として元の飼い主であったゲンも一緒に転生させて欲しいと女神に願い出たのだった。この世界でなら、また会える、また共に生きていける。そして、『今度こそは、ぜったい最後まで守り抜くんだ!』 シロは決意を固めるのであった。  シロは大好きなご主人様と一緒に、異世界でどんな活躍をしていくのか?

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

異世界なんて救ってやらねぇ

千三屋きつね
ファンタジー
勇者として招喚されたおっさんが、折角強くなれたんだから思うまま自由に生きる第二の人生譚(第一部) 想定とは違う形だが、野望を実現しつつある元勇者イタミ・ヒデオ。 結構強くなったし、油断したつもりも無いのだが、ある日……。 色んな意味で変わって行く、元おっさんの異世界人生(第二部) 期せずして、世界を救った元勇者イタミ・ヒデオ。 平和な生活に戻ったものの、魔導士としての知的好奇心に終わりは無く、新たなる未踏の世界、高圧の海の底へと潜る事に。 果たして、そこには意外な存在が待ち受けていて……。 その後、運命の刻を迎えて本当に変わってしまう元おっさんの、ついに終わる異世界人生(第三部) 【小説家になろうへ投稿したものを、アルファポリスとカクヨムに転載。】 【第五巻第三章より、アルファポリスに投稿したものを、小説家になろうとカクヨムに転載。】

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき
ファンタジー
異世界召喚されたコトマエ・マナビ。 異世界パルメディアは、大魔法文明時代。 だが、その時代は崩壊寸前だった。 なのに人類同志は争いをやめず、異世界召喚した特殊能力を持つ人間同士を戦わせて覇を競っている。 マナビは魔力も闘気もゼロということで無能と断じられ、彼を召喚したハーフエルフ巫女のルミイとともに追放される。 追放先は、魔法文明人の娯楽にして公開処刑装置、滅びの塔。 ここで命運尽きるかと思われたが、マナビの能力、ヘルプ機能とチュートリアルシステムが発動する。 世界のすべてを事前に調べ、起こる出来事を予習する。 無理ゲーだって軽々くぐり抜け、デスゲームもヌルゲーに変わる。 化け物だって天変地異だって、事前の予習でサクサククリア。 そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。 当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。 ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

処理中です...